退院支援は「早期着手」+「情報の型」で迷いが減る
退院支援(入退院支援加算を含む)は、退院先を「最後に決める」のではなく、入院早期から “退院困難要因” を整理して、必要な支援(サービス・環境・家族支援)を前倒しで並べるほど成功率が上がります。PT の強みは、動作・転倒・介助量の見立てを、家族説明や地域連携で “伝わる言葉” に落とせる点です。
本記事では、退院支援計画を迷わず回すために、①情報整理テンプレ(何を集めるか)②家族説明テンプレ(どう伝えるか)③地域連携パス/連携サマリ(どう共有するか)の「型」を提示します。現場の詰まりどころ(よくあるズレ)もあわせて整理します。
退院支援加算・地域連携パスとは?まず全体像をそろえる
退院支援加算(入退院支援加算を含む)の実務は、入院中に “退院に必要な段取り” を整えるための仕組みです。ここで重要なのは、点数の名称や細かな区分よりも、支援の中身(退院困難要因の把握、早期の調整、関係職種での共有)が継続的に回ることです。
地域連携パスは、急性期・回復期・生活期でケアが切れないように、情報を標準化して共有するための “共通のフォーマット” と考えると理解しやすいです。PT は、機能・活動・参加の視点から、退院後の生活をイメージできる情報(介助量、移動能力、リスク、環境条件)を短文でまとめる役割が強いです。
PT が担う 3 つの役割:見立て・翻訳・合意形成
退院支援では、医療職の専門用語を並べても伝わりません。PT のアウトプットは、①見立て(転倒・介助量・活動の予測)②翻訳(家族や地域職が行動に移せる言葉)③合意形成(安全域とチャレンジ範囲の線引き)の 3 つに整理すると、チーム内で役割がブレにくくなります。
特に “退院困難” は、患者側の能力だけでなく、家族の介護力、住環境、サービス供給、本人の理解・意欲、通院手段などの組み合わせで決まります。PT は身体機能の評価に加えて、生活環境と動作の相互作用(段差、手すり、動線、夜間トイレ)を言語化できると強いです。
| 役割 | PT のアウトプット | 家族・地域に伝わる言葉 |
|---|---|---|
| 見立て | 介助量、転倒リスク、疲労、注意障害、夜間の危険場面 | 「 1 人介助が必要な場面」「夜間トイレが一番危ない」 |
| 翻訳 | 動作のコツ、禁止ではなく条件づけ(できる条件・できない条件) | 「手すりがあれば可能」「段差があると介助が増える」 |
| 合意形成 | 安全域とチャレンジ範囲の線引き、サービス導入の優先順位 | 「まずは転倒予防を優先」「試験外泊で確認して決める」 |
最短フロー:退院支援を “毎回同じ順番” で回す
退院支援は、個人差が大きいほど “順番” が大事です。おすすめは、①退院困難要因の棚卸し(早期)②退院先の選択肢を並べる(現実的な候補を複数)③必要支援を具体化(サービス・環境・家族支援)④試験外泊/家屋調査で検証⑤連携サマリで引き継ぎ、の流れです。
この順番を固定すると、途中で状態が変わっても “戻る場所” が明確になり、チーム内の認識ずれが減ります。情報収集が不足しているときは、いきなり退院先を決めずに、次の一手(誰が何をいつ確認するか)を先に決めます。
| ステップ | 目的 | 成果物(書くもの) |
|---|---|---|
| 1. 早期整理 | 退院困難要因を見える化 | 情報整理テンプレ(下のチェック) |
| 2. 選択肢化 | 退院先候補を複数並べる | 「自宅/施設/転院」候補と条件 |
| 3. 具体化 | 必要支援を優先順位づけ | サービス導入、福祉用具、住宅改修の ToDo |
| 4. 検証 | 机上の見立てを現場で確認 | 試験外泊・家屋調査の結果メモ |
| 5. 引き継ぎ | 地域に同じ粒度で共有 | 地域連携パス/連携サマリ( 300–400 字) |
テンプレ 1:情報整理(退院困難要因を 5 分でそろえる)
ここは “表の項目” を固定すると、経験差が出にくくなります。横スクロールでご覧ください。最低限、①介助量(どこで)②転倒(いつ)③認知・行動(何が起きる)④嚥下・栄養(何が制限)⑤住環境・介護力(誰が何をできる)をそろえると、退院先の議論が前に進みます。
| 領域 | 最低限の確認 | PT の書き方(短文) | 次の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 介助量 | 移乗/歩行/トイレ/更衣の介助 | 「移乗:見守り〜軽介助」「夜間トイレ:介助増」 | 夜間動線の確認、見守り体制の検討 |
| 転倒 | 転倒歴、ふらつき、危険場面 | 「立ち上がり初動でふらつく」「方向転換で不安定」 | 手すり位置、歩行補助具、段差対応 |
| 認知・行動 | 注意障害、見当識、夜間せん妄 | 「指示理解は可能」「疲労で注意低下」 | 声かけの統一、環境刺激の調整 |
| 嚥下・栄養 | 食形態、水分、服薬、体重変化 | 「むせは少ないが食事に時間」「体重減少あり」 | 栄養指導、食事環境、訪問栄養の相談 |
| 住環境・介護力 | 段差、手すり、トイレ・浴室、同居者 | 「玄関段差あり」「介護者は日中不在」 | 家屋調査、福祉用具、サービス調整 |
テンプレ 2:家族説明( 30 秒で “今日決めたいこと” を共有する)
家族説明は、情報を詰め込みすぎると合意が取れません。最初の 30 秒で結論(退院先の選択肢と今日決めたいこと)を伝え、その後に “リスク” と “必要支援” を順に置くと、説明が短くなります。以下は、現場でそのまま使える枠組みです。
| パート | 言うこと(型) | 例文(短く) |
|---|---|---|
| 結論( 30 秒) | 退院先候補+今日決めたいこと | 「自宅退院も可能性はありますが、夜間トイレの安全が課題です。まずは支援をそろえる方向で進めてよいか確認したいです」 |
| リスク | 危険場面を 1 つに絞る | 「一番危ないのは立ち上がり直後のふらつきです」 |
| 必要支援 | サービス・用具・環境を具体化 | 「手すり位置と歩行補助具、見守り体制で安全域が広がります」 |
| 次の一手 | 日程と担当を決める | 「家屋調査を来週、試験外泊を再来週に設定しましょう」 |
テンプレ 3:地域連携パス/連携サマリ( 300–400 字で “同じ粒度” にする)
引き継ぎで一番困るのは、情報が “長い” ことではなく “粒度がバラバラ” なことです。地域側が行動に移せるように、サマリは「現状(どこまでできる)」+「リスク(どこが危ない)」+「条件(何があれば安全)」+「依頼(何をお願いしたい)」の 4 点に固定します。
| 項目 | 書くこと | 例(短文) |
|---|---|---|
| 現状 | 移動・移乗・トイレの介助量と歩行補助具 | 「屋内歩行は T 字杖で見守り。移乗は軽介助」 |
| リスク | 転倒・疲労・注意低下のトリガー | 「方向転換と立ち上がり初動でふらつき」 |
| 条件 | 手すり・動線・見守りなどの安全条件 | 「トイレ動線に手すり必須。夜間は見守り必要」 |
| 依頼 | 訪問リハ等への具体的依頼 | 「屋内動線の再評価と手すり位置の提案を希望」 |
現場の詰まりどころ:退院が遅れる “ 3 つのズレ”
退院支援が停滞する原因は、能力が足りないからではなく、情報と合意の “順番” がズレていることが多いです。特に、①退院先を先に決めようとして揉める②家族説明が長くて合意が取れない③地域への引き継ぎが抽象で再評価がやり直しになる、の 3 つが頻発します。
修正はシンプルで、「順番を固定」し、「短文テンプレで粒度をそろえる」ことです。個人の説明力に依存せず、チームの仕組みとして回すと、忙しい病棟でも崩れにくくなります。
| ズレ | 起こりやすい場面 | 修正ポイント | 記録で残す一言 |
|---|---|---|---|
| 退院先を先に決める | 入院直後の家族面談 | 先に “退院困難要因” を整理して、候補を複数並べる | 「候補:自宅/施設/転院。条件を確認中」 |
| 説明が長い | 専門用語が多い説明 | 最初の 30 秒で “今日決めたいこと” を共有する | 「本日の合意:家屋調査と試験外泊の実施」 |
| 引き継ぎが抽象 | 連携サマリが人によって違う | 現状+リスク+条件+依頼の 4 点に固定 | 「夜間トイレが最大リスク。条件:手すり+見守り」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
退院支援はいつから始めるのが良いですか?
基本は “早いほど良い” です。入院早期に退院困難要因を棚卸ししておくと、退院先の議論が前に進み、必要支援(サービス・用具・環境)の手配が遅れにくくなります。まずはテンプレで情報をそろえ、次の一手(家屋調査や試験外泊など)を決めていくのが実務的です。
家族説明で揉めたとき、どこから立て直せばよいですか?
退院先の結論に戻る前に、「一番危ない場面(リスク)」と「安全にする条件(手すり、見守り、サービス)」に戻すと立て直しやすいです。説明は長くしない方が合意が取りやすいので、最初の 30 秒で “今日決めたいこと” を共有し、次の一手を日程に落とすと前に進みます。
地域連携パス/連携サマリで一番大事な情報は何ですか?
「現状(どこまでできる)」と「リスク(どこが危ない)」に加えて、「条件(何があれば安全)」を短文で書くことです。条件が書かれていると、地域側が評価と介入を同じ方向で始められ、やり直しが減ります。最後に “依頼(何をお願いしたいか)” を 1 文で置くと、連携がスムーズになります。
退院先が決まらず長引くとき、PT は何を優先すべきですか?
機能回復だけでなく、「退院後に危険が出る動作」と「それを安全にする条件」を優先して整理します。たとえば夜間トイレ、方向転換、段差、入浴動作などです。これらを家族・地域が理解できる言葉にして共有できると、サービスや環境調整が進みやすくなります。
おわりに
退院支援は、能力評価だけでなく「情報整理→家族説明→地域連携」の流れを “同じ順番” で回すと、チームの迷いが減ります。まずは退院困難要因をテンプレでそろえ、家屋調査や試験外泊で検証し、連携サマリで引き継ぐ――このリズムを標準化しましょう。面談準備チェックと職場評価シートで “支援体制の見える化” も進めたい方は こちら も参考になります。
参考文献
- 厚生労働省. 診療報酬改定(入退院支援・地域連携等に関する資料). 厚生労働省
- 厚生労働省. 地域医療構想・地域連携(連携・退院支援に関する情報). 厚生労働省
- 日本医師会. 地域連携・退院支援に関する解説資料(医療連携の枠組み). 日本医師会
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

