EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙の違い【比較・使い分け】

栄養・嚥下
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EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙:使い分け(結論)

臨床で迷わない評価 → 介入 → 再評価の型を見る( PT キャリアガイド )

結論からいうと、「経時変化も追いたい」なら EAT-10「まずは“疑いあり/なし”を手早く拾いたい」なら 聖隷式嚥下質問紙が使いやすいです。EAT-10 は 0–4 点の合計点で症状負荷を連続量として扱え、治療前後の比較にも向きます。EAT-10 の異常の目安(カットオフ)は 3 点以上が提案されています。 [oai_citation:0‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)

本記事は比較記事として、親記事( EAT-10 )に戻るリンクを固定しています。現場では「主観スクリーニング → 客観評価 → 記録 → 再評価」の順で迷いが減るので、その流れの中で “どちらを先に使うか” を整理します。

まずは 1 分で比較(目的・手間・判定)

2 つは同じ “質問紙” でも、得意な役割が違います。EAT-10 は PROM(患者報告アウトカム)として「困りごとの強さ」を点数化しやすい一方、聖隷式嚥下質問紙は 肺炎既往・体重変化・むせ・咽頭違和感・逆流・嗄声などを幅広く拾い、“疑いあり” を早く見つける用途に向きます。 [oai_citation:1‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/)

下表の「判定の出し方」を先に決めておくと、スタッフ間で運用がブレにくくなります。

EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙の比較(目的・対象・判定の考え方)
観点 EAT-10 聖隷式嚥下質問紙
主な目的 症状負荷の定量化(重症度・経時変化) 摂食・嚥下障害のスクリーニング(疑い拾い上げ)
設問形式 10 項目を 0–4 点で回答し合計(最大 40 点) [oai_citation:2‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/) 15 項目を A / B / C の 3 段階で回答 [oai_citation:3‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/)
カットオフの目安 合計 3 点以上を異常の目安 [oai_citation:4‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/) (例)スコア化:8 点以上を「疑いあり」など(運用ルールで統一) [oai_citation:5‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/24/3/24_240/_article/-char/ja/)
強み 介入前後の変化が追いやすい/短時間 拾える症状領域が広い/問診に組み込みやすい
注意点 点数は「診断」ではなくスクリーニングの補助 判定基準(A あり/スコア化/短縮版など)を最初に統一する

点数の見方とカットオフ(どこで引っかける?)

EAT-10 は 10 項目の合計点( 0–40 点 )でみます。健常群のデータから、合計 3 点以上が異常の目安として提案されています。 [oai_citation:6‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/) まずは「 3 点以上なら次の確認へ」という単純ルールにすると運用しやすいです。

聖隷式嚥下質問紙は、原著では 「いずれかの項目で A がある」を “嚥下障害あり” とみなして特異度・敏感度を検討しています。 [oai_citation:7‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/) 近年は、A / B / C を点数化(例:A = 4 点、B = 1 点、C = 0 点)して合計点で評価し、8 点以上を “疑いあり” とする運用例も提示されています。 [oai_citation:8‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/24/3/24_240/_article/-char/ja/)

判定ルールの代表例(現場で 1 つに統一して運用する)
質問紙 判定の出し方 目安
EAT-10 合計点( 0–40 点 ) 3 点以上で異常の目安 [oai_citation:9‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)
聖隷式(原著の考え方) A が 1 つでもあれば「あり」 特異度 90.1%・敏感度 92% の報告 [oai_citation:10‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/)
聖隷式(スコア化例) A = 4 / B = 1 / C = 0 で合計 8 点以上を「疑いあり」など [oai_citation:11‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/24/3/24_240/_article/-char/ja/)

現場での運用フロー(スクリーニング → 次の一手)

質問紙は “単発で終わり” にすると価値が落ちます。陽性(疑いあり)を拾ったら、次の評価につなげる前提で運用します。

おすすめは、①質問紙 → ②食形態・姿勢・薬剤/口腔状況などの要因整理 → ③ベッドサイド評価(例:嚥下観察、簡易テスト)→ ④必要に応じて専門評価( VE / VF など)の順です。質問紙の点数は「嚥下機能の推定」ではなく、優先度づけとして扱うと安全に回ります。

スクリーニング後の “次の一手” を迷わないための整理
状況 まず確認 次の評価・対応の例
疑いなし 最近の変化(体重・食事時間・むせ) 経過観察+再スクリーニングの時期を決める
疑いあり(軽度) 食形態・一口量・姿勢・口腔乾燥 食事場面の観察/口腔ケア・姿勢調整/再評価
疑いあり(中等度以上) 誤嚥リスクサイン(湿性嗄声、発熱、反復性肺炎など) ST 介入依頼/詳細評価( VE / VF )の検討/栄養ルート検討

現場の詰まりどころ/よくある失敗

質問紙は “入れれば回る” と思われがちですが、実際は運用設計で差が出ます。詰まりやすい点を先に潰しておくと、スクリーニングが継続しやすくなります。

特に多いのは、判定ルールがスタッフごとに違う陽性でも次の評価につながらない経時変化を追わないの 3 つです。

よくある失敗と対策(質問紙を “使えるデータ” にする)
よくある失敗 起きること 対策
判定ルールがバラバラ 同じ患者でも “疑いあり/なし” が日によって変わる EAT-10 は「 3 点以上」、聖隷式は「A あり」か「スコア 8 点以上」など、施設で 1 つに固定する [oai_citation:12‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)
陽性でも次の行動が決まっていない 記録だけ残って介入が遅れる 「陽性なら食事場面観察 → ST 相談」など、次の一手をテンプレ化する
点数を “診断” のように扱う 点数だけで判断して見落とし/過介入が起きる 質問紙は優先度づけ。症状の背景(食形態、姿勢、口腔、薬剤、認知)を必ず併記する
経時変化を追わない 改善/悪化が見えず、介入効果が共有できない EAT-10 を介入前後で再実施して “変化” を残す [oai_citation:13‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. まず最初に使うなら、EAT-10 と 聖隷式のどちら?

現場の目的で決めます。「疑いを拾う」なら聖隷式、「症状負荷を点数で追う」なら EAT-10 が合います。初回スクリーニングで拾って、フォローは EAT-10 に統一する運用も相性が良いです。 [oai_citation:14‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/)

Q2. 軽い “むせ” だけでも陽性になりますか?

なります。質問紙は “軽い症状” も拾う設計です。大事なのは、陽性=即リスク確定ではなく「食事場面で何が起きているか」を次に確認することです(食形態、一口量、姿勢、口腔乾燥など)。

Q3. 認知機能が低い方だと、どちらが向きますか?

自己記入が難しい場合は、介助者・スタッフの聞き取りで埋めやすい形式(聖隷式)から入りやすいです。スコア化や短縮版の考え方を使う場合は、施設内で採用ルールを統一しておくと混乱が減ります。 [oai_citation:15‡ニチイコ](https://www.nichiiko.co.jp/medicine/swallow/score.php)

Q4. “点数が高いほど重症” と考えていい?

EAT-10 は合計点が上がるほど症状負荷が大きい解釈が基本です。一方、聖隷式は原著では「A あり」を重視する設計で、スコア化する場合も点数の意味づけは運用ルールに依存します。必ず “次の評価で確かめる” 前提で使うのがコツです。 [oai_citation:16‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)

評価用紙・入手先(現場で迷わず辿る)

質問紙は配布元・掲載元が複数あります。院内の運用に合わせて「同じ版」を使うように揃えると、経時比較やチーム共有がスムーズです。

  • EAT-10:原著(抄録・書誌)= PubMed(下の参考文献 1 を参照) [oai_citation:17‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)
  • 聖隷式嚥下質問紙:配布例( PDF )= 聖隷式嚥下質問紙( PDF ) [oai_citation:18‡gcdental.co.jp](https://www.gcdental.co.jp/product/oralfunction/assets/files/score.pdf)
  • 聖隷式のスコア評価の説明例= 質問紙スコア評価式(解説) [oai_citation:19‡ニチイコ](https://www.nichiiko.co.jp/medicine/swallow/score.php)

参考文献

  1. Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. doi: 10.1177/000348940811701210. PubMed: 19140539. [oai_citation:20‡PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19140539/)
  2. 大熊 るり, 藤島 一郎, 小島 千枝子, 他. 摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2002;6(1):3-8. doi: 10.32136/jsdr.6.1_3. [oai_citation:21‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/1/6_3/_article/-char/ja/)
  3. 中野 雅徳, 藤島 一郎, 大熊 るり, 他. スコア化による聖隷式嚥下質問紙評価法の検討. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2020;24(3):240-246. doi: 10.32136/jsdr.24.3_240. [oai_citation:22‡J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/24/3/24_240/_article/-char/ja/)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

質問紙の運用は「目的の確認 → 質問紙で主観を拾う → 食事場面で客観確認 → 記録 → 再評価」のリズムで回すと、スクリーニングが “形だけ” になりにくいです。まずは判定ルールを 1 つに固定し、陽性時の次の一手までテンプレ化して、チームで迷いなく回していきましょう。

あわせて、面談準備チェックや職場の評価シートも作っておくと、学び直しや環境調整の相談が一気に進みます(記事内リンクは別途、院内ルールに合わせて追加してください)。

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