この記事のねらい(EIH 非反応・逆反応の「分岐」専用)
本稿は「EIH が出にくい(非反応)/運動後に痛みが増える(逆反応)」症例で、どこを見て・どの順で・どう調整するかを、初回から在宅フォローまで “手順化” する臨床プロトコルです。EIH(運動誘発性疼痛抑制)そのものの定義・メカニズム・最小有効量は総論(親記事)に譲り、本稿では 分岐と運用に絞ります。
対象は運動器慢性疼痛の成人を想定します。抑制系(CPM 相当機能)の低下や心理要因(恐怖回避・カタストロフィ)の影響で EIH が減弱しやすいケースでも、部位・モード・強度・分割を組み替えて “成功する条件” を探せるように整理します。
初回スクリーニング(5 分)
介入前に「痛みの現状」「安全性」「反応が出やすい条件」の 3 点を簡潔に把握します。評価は 5 分程度で終える想定とし、特別な機器がなくても運用できる項目に絞ります。ここで当日の介入可否と、初期処方のおおよその当たりを付けます。
恐怖回避が強い・夜間痛が強い・神経学的徴候がある場合は、量を控えつつ教育と低強度有酸素から導入します。NRS は「安静」「誘発動作」の 2 点を必ず取得し、後の “その場判定” の基準にします。
| 領域 | 内容 | カットポイント目安 |
|---|---|---|
| 痛み | NRS(安静 / 誘発)、誘発・緩和要因、広がり | 安静 NRS ≤ 3 で開始目安 |
| 安全 | めまい・動悸・発熱、著明な腫脹 / 熱感 | 全身サインありは中止 → 医師再評価 |
| 心理 | 恐怖回避の簡易確認「動くのが怖い?」 0–10 | ≥ 6 は低強度・分割から導入 |
| 抑制系 | 簡便 CPM 指標(痛くない部位の軽い圧痛の変化) | 反応乏しければ非疼痛部位の運動から |
その場での反応判定(EIH の “見える化”)
介入前後で “同一指標” を比較し、EIH の手応えをその場で可視化します。測定は簡便かつ再現性の高いものに限定し、患者の成功体験につなげることが重要です。指標は NRS、恐怖動作の可遂時間 / 回数、歩行速度などから 1–2 個に固定します。
判定基準例は次の通りです。① NRS が − 1 以上、② 恐怖動作で「楽にできる感覚」が出現、③ 同じ強度で歩行速度または可遂回数が微増。いずれかを満たせば当日の処方を維持し、満たさなければ次章の調整に進みます。毎回の判定を「できた / いまいち」の二択で終わらせず、小さな変化を言語化して共有します。
初期 6 週の運用テンプレ(標準反応が出る場合)
まずは「非疼痛部位の有酸素運動」で反応を引き出し、その後に全身レジスタンスを追加していきます。強度は RPE を用い、「時間 → 強度 → 回数」の順で微調整するのが実務的です。週次の目標と評価項目を表に整理しておくと、患者説明とカンファレンスで共有しやすくなります。
6 週の到達目標は「有酸素 90–150 分 / 週 + 全身レジスタンス 2 回 / 週」です。痛み増悪や疲労が強い日は、5–8 分 × 2–3 回の分割で対応します。歩行耐容能や日内変動も合わせて確認し、「調子が良い条件」を言語化しておくとセルフマネジメントにつなげやすくなります。
| 週 | 内容 | 強度 / 量 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 1 | 非疼痛部位の有酸素(歩行 / 自転車) | RPE 12–13、10–15 分、隔日 | NRS、恐怖動作の可遂時間 / 回数 |
| 2–3 | 有酸素の延長 + 全身レジスタンス導入 | 15–20 分 + 30–50% 1RM × 2 セット | 週 1 回は前後比較(痛み・動作)を固定化 |
| 4–6 | 量の安定化とモード選好の確立 | 90–150 分 / 週 + レジスタンス週 2 回 | 自己効力感、恐怖回避の再評価 |
非反応 / 逆反応の分岐(ここが本題)
反応が乏しい、または運動後に痛みが増える場合は、まず “失敗” と決めつけず、反応が出る条件に寄せるために組み替えます。切り替えは、次の順で行うと現場で迷いにくくなります。
- ① 部位切替:痛部 → 非疼痛部位(まずは “痛くないところ” で成功を作る)
- ② モード変更:等尺 → 有酸素 / 動的(または逆に “刺激が強すぎる” 場合は等尺へ)
- ③ 強度調整:RPE 11–12 へ(または “弱すぎる” 場合は 1 段階だけ上げる)
- ④ 分割:5–8 分 × 2–3 回(“後半で崩れる” 症例に有効)
- ⑤ 嗜好優先:本人が “好き / 続けやすい” 様式に寄せる(継続がアウトカムに直結)
- ⑥ 教育併用:運動の安全性と痛みの理解を毎回 30 秒で固定化
| 状況 | よくある背景 | 最初の 1 手 | 次の 1 手 | その場判定(固定) |
|---|---|---|---|---|
| 非反応(変化が出ない) | 抑制系の効率低下、刺激が弱い / 条件が合っていない | 非疼痛部位の有酸素へ切替 | 時間を先に延長(10 → 15 分) | NRS / 恐怖動作の “前後差” を 1 指標で確認 |
| 逆反応(運動後痛が増える) | 強度過多、恐怖回避が強い、フレアの閾値が低い | RPE を 1 段階下げて分割 | 等尺(短時間)→ 有酸素へ段階化 | 30–60 分で元に戻るか(戻らなければ中止基準へ) |
| 怖さが強く動けない | 恐怖回避、過去の失敗経験、破局的思考 | 痛くない部位で “成功” を作る | 説明を “安全性+可逆性” に固定化 | 「楽にできる感覚」が 1 つ出たら成功 |
| その場は良いが翌日悪い | 総量過多、回復資源不足、睡眠 / 活動量の波 | 総量を 20–30% 減らす | 隔日 → 連日(低量)に組み替え | 翌日の NRS と “戻る時間” を記録 |
現場の詰まりどころ(失敗を減らす 4 点)
EIH を臨床に組み込もうとすると、次のようなポイントで詰まりやすくなります。事前に意識しておくと、導入のハードルを下げられます。
- ①「その場の比較」を省略してしまう:痛みスコアや恐怖動作の前後比較をしないと、EIH が出ていても双方が気づかず「効いていない」と判断されがちです。最初は 1 指標に絞っても良いので、必ずペアで記録します。
- ② 負荷設定が一律になりすぎる:RPE で 1〜2 段階の調整をしないと、「強すぎて逆反応」「弱すぎて変化が見えない」に振れやすくなります。特に恐怖回避が強い症例は、低強度・分割から段階的に上げていく設計が安全です。
- ③ 説明が不足して不安を残す:教育スクリプトを用意せずに開始すると、「後から痛みが悪化するのでは」という不安だけが強化されることがあります。30 秒スクリプトをテンプレ化し、毎回ほぼ同じメッセージで伝えると安心感が高まります。
- ④ フォローアップが場当たり的になる:自宅での記録形式を決めておかないと、「やったかどうか」だけの確認になりがちです。面談前に “準備チェック” を揃えておくと、聞き漏れが減ります(関連:面談準備のチェックリスト)。
詰まりどころの多くは、「指標を 1 つ決めて前後差を見る」「負荷の階段をあらかじめ決めておく」「説明文を固定化する」の 3 点で解消できます。
フォローと中止基準(在宅運用)
自宅では週 2–3 回の有酸素運動を基本とし、患者本人の「続けやすい様式」を選んでもらいます。毎回「開始前 NRS → 有酸素 10–15 分 → 終了直後 NRS」を記録し、成功回(NRS − 1 以上)に ◎ を付けるように伝えます。2 週間で ◎ が 4 回以上あれば処方を維持または微増します。
中止・医師連絡の目安は、鋭い痛み、神経症状の悪化、めまい・動悸・強い息切れ、著明な腫脹 / 熱感、夜間痛の増悪などです。迷う場合はその日の運動は見送り、翌日以降の再開とし、必要に応じて主治医と共有します。
患者説明ミニ・スクリプト(30 秒)
教育は専門用語を避け、行動の安全性と可逆性を強調します。下記はそのまま使える短文の一例です。必要に応じて患者さんの言葉に置き換えてください。
「今日は体の “痛みブレーキ” を働かせる軽い運動を試します。終わった直後に痛みや動きやすさをもう一度見ます。数分で下がれば成功です。痛みが強い日は時間を短く分けます。怖さが強い時は、痛くない部位の運動から行きましょう。」
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
EIH の変化がわずか(NRS − 1 程度)でも「効果あり」と見なして良いですか?
NRS − 1 でも、同じ条件で繰り返し再現できれば臨床的には意味のある変化と考えられます。特に慢性疼痛では「痛みが 0 にはならないが、少し下がる条件がある」と気づいてもらうこと自体が重要です。NRS の数値だけでなく、「動きやすさ」「怖さの変化」など主観的コメントも合わせて記録しておくと、成功体験につながりやすくなります。
運動後に一時的に痛みが増えた場合、どのタイミングで中止や再評価を考えるべきですか?
介入直後に一時的な痛み増悪があっても、30–60 分以内に元のレベルまで戻るようであれば、強度や分割を調整しながら継続可能なことが多いです。一方で、鋭い痛みや神経症状の悪化、夜間痛の持続などが見られる場合は中止・医師連絡の対象となります。毎回の記録で「どれくらいの時間で元に戻ったか」も確認しておくと、閾値の判断がしやすくなります。
心理的要因(恐怖回避・カタストロフィ)が強い患者さんには、どの程度まで EIH をねらってよいですか?
恐怖回避が強い場合は、EIH を前面に出しすぎると「効かなかった時の失望」が大きくなることがあります。はじめは「安全に体を動かす練習」として位置づけ、EIH は副次的な効果として説明するのが無難です。低強度・短時間・非疼痛部位から始め、「できた」という経験を積みながら、徐々に強度・部位を拡大していくと進めやすくなります。
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参考文献(主要)
- Wewege MA, Jones MD. Exercise-Induced Hypoalgesia in Healthy Individuals and People With Chronic Musculoskeletal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Pain. 2021;22(1):21–31. https://doi.org/10.1016/j.jpain.2020.04.003
- Vaegter HB, Jones MD. Exercise-induced hypoalgesia after acute and regular exercise: experimental and clinical manifestations and possible mechanisms. Pain Rep. 2020;5(5):e823. https://doi.org/10.1097/PR9.0000000000000823
- Tomschi F, et al. Hypoalgesia after aerobic exercise in healthy subjects: systematic review and meta-analysis. J Sports Sci. 2024;42(7):574–588. https://doi.org/10.1080/02640414.2024.2352682
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


