転倒リスク評価の最小セット| TUG から始める 3 ステップ
評価の “順番” を固定すると、転倒リスクの見立てと再評価が一気に安定します。 評価 → 介入 → 再評価の型を 3 分で確認する(PT キャリアガイド) ※ 本記事は臨床の評価手順を整理する目的です。施設 SOP/主治医指示を優先してください。
転倒リスク評価は「何を足すか」よりも先に、最小セットを同じ順番で回すほうがブレません。本記事では TUG → 静的バランス → 椅子立ち上がりの 3 ステップを軸に、結果の読み方(どこで崩れたか)と、異常が出たときの追加評価までを 1 ページで整理します。
結論はシンプルで、①最小セットで “拾う” → ②区間で “原因を分ける” → ③記録で “再現する”です。現場で迷いが生まれやすい「速度条件」「椅子高さ」「開始・終了の取り方」も、よくある失敗として先に潰します。
まずは最小セット 3 ステップ(早見)
転倒リスクは “一発で確定” ではなく、最小セットでリスクを拾ってから、原因に合わせて追加するのが安全で効率的です。ここでは、病棟・外来・通所・訪問で共通して回しやすい 3 ステップを提示します。
リンク先には、各テストの詳しい手順(図解・判定・注意点)をまとめています。まずはこの表の「記録の型」だけでも固定すると、担当替えや多職種連携がスムーズになります。
| ステップ | 目的 | 実施ポイント | 記録(固定する) | 次アクション |
|---|---|---|---|---|
| ① TUG | 移動の総合力(立つ・歩く・旋回・座る) | 通常速度を基本。補助具・椅子高さ・開始/終了を統一 | 時間+崩れた区間(立ち上がり/旋回/着座など) | TUG の手順と解釈/比較:SPPB と TUG の違い(比較) |
| ② 静的バランス | ふらつきの “土台” と感覚依存の確認 | 足幅・視覚条件・支持の有無を段階化 | 足幅条件+保持可否+ふらつきの方向 | 静的バランスの評価 |
| ③ 椅子立ち上がり | 下肢機能(パワー・協調)と代償の把握 | 上肢支持の有無・反動・体幹前傾を観察 | 回数/時間+上肢支持+代償の有無 | 異常なら “筋力・痛み・可動域・耐久性” を追加評価 |
ステップ ① TUG:まず “総合力” を拾う
TUG は、立ち上がり・歩行・方向転換・着座を 1 本で見られるため、最初のスクリーニングに向きます。ここで重要なのは、時間だけで結論を出さず、どこで崩れたかを同時に取ることです。
測定条件は “施設内で固定” すると再評価が効きます。特に、速度条件(通常/最大安全)、椅子の高さ、補助具、開始/終了の取り方が揺れると、数字が臨床判断に使えません。
| 固定項目 | おすすめ | 揺れると起きること | メモ |
|---|---|---|---|
| 速度条件 | 通常速度(基本) | 最大安全速度だと “改善” に見えやすい | 目的が介入効果なら “同条件で再評価” を最優先 |
| 椅子高さ | 同じ椅子・同じ高さ | 立ち上がり負荷が変わってしまう | 背もたれ・肘掛けの有無も固定 |
| 補助具 | いつも使う補助具 | 安全性と時間の両方が変わる | 種類(杖/歩行器)も記載 |
| 開始/終了 | 「 Go 」で開始/着座で終了 | 0.5–1 秒程度の誤差が積み重なる | 計測者の手順も統一 |
結果の見方:カットオフは “対象と目的” で使い分ける
TUG のカットオフは 1 つに決め打ちできません。対象(健常高齢者/疾患あり)や、目的(転倒リスクのスクリーニング/重症度の把握/介入効果)で目安が変わります。
ここでは「よく使われる目安」を早見にしつつ、臨床では経時変化(同条件での変化)を最優先にする、という立て付けにします。
| 目的 | 目安の例 | 想定対象 | 読み方のコツ |
|---|---|---|---|
| 転倒リスクのスクリーニング | ≥ 12 秒 | 高齢者(地域・外来など) | “時間+崩れた区間” を併記して原因に当てる |
| 転倒者の識別(研究で用いられた例) | 約 13.5 秒 | 地域在住の高齢者など | 施設/対象が違うと当てはまらないことがある |
| 移動能力低下の示唆 | ≥ 20 秒 | フレイル・要介助など | まず安全管理(補助具・見守り)を見直す |
| 年齢 | 平均の例 | 臨床での使い方 |
|---|---|---|
| 60–69 歳 | 約 8 秒 | 同年代の “平均” と比べて、区間の崩れを先に見る |
| 70–79 歳 | 約 9 秒 | 安全管理(旋回・着座)で差が出やすい |
| 80–99 歳 | 約 11 秒 | 補助具・視覚依存・下肢パワーの影響が大きい |
ステップ ② 静的バランス:土台と “依存” を見る
静的バランスは、転倒の背景にある支持基底面の狭さ・感覚依存・姿勢制御の硬さを拾うのに向きます。TUG が速くても、静止で強い動揺があれば “危ない” ことがあります。
ポイントは、足幅と視覚条件を段階化して、どの条件で崩れるかを記録することです。ここで異常が出たら、感覚(足底)・前庭・視覚・頸部可動域などへ追加評価を分岐します。
ステップ ③ 椅子立ち上がり:下肢と代償を見抜く
立ち上がりは転倒の “入口” になりやすく、下肢パワー不足・疼痛・可動域制限・恐怖心が数字に出ます。TUG の遅さが “歩行” ではなく、実は “立ち上がり” に由来することも少なくありません。
ここでは、回数や時間だけでなく、上肢支持の有無・反動・体幹前傾といった代償を記録します。代償が強い場合は、筋力だけでなく疼痛や可動域、立位耐久などの評価を追加します。
時間だけで終わらせない:TUG を “区間化” して原因を分ける
同じ 12 秒でも、どこで崩れたかで介入が変わります。TUG は立つ・歩く・旋回・座るが含まれるので、区間化して観察すると原因が見えやすくなります。
計測者の主観が混ざりやすいので、区間ラベルを固定して言語化するのがコツです(例:「旋回で外側へ膨らむ」「着座前に歩幅が乱れる」)。
| 区間 | よくある崩れ | 示唆 | 次に足す評価(例) |
|---|---|---|---|
| 立ち上がり | 上肢支持が強い/反動が必要 | 下肢パワー不足・痛み・可動域 | 下肢筋力、疼痛、股/膝/足関節 ROM |
| 直進歩行 | 歩幅が小さい/左右差が増える | 筋力・協調・感覚 | 歩行観察、感覚、協調性、足底・足関節 |
| 旋回 | 外側へ膨らむ/足が交差する | 前庭・注意・方向転換能力 | 二重課題、視線・頭部運動、方向転換練習 |
| 着座 | “どすん” と座る/距離感がずれる | 視空間・注意・下肢制御 | 環境設定、注意、視空間、下肢制御 |
異常が出たときの追加評価:原因別に “足す”
最小セットは “拾う” ための入り口です。異常が出たら、闇雲に評価を増やすのではなく、崩れ方に合わせて追加すると短時間で原因に近づけます。
追加評価は「筋力」「感覚」「注意(二重課題)」「環境」の 4 方向に分けると整理しやすいです。特に注意低下が疑わしい場合は、二重課題(認知課題を同時に実施)でリスクが顕在化することがあります。
| 最小セットでの所見 | 疑う要因 | 追加評価(例) | まずの対応(例) |
|---|---|---|---|
| 旋回でふらつく | 前庭・注意・方向転換 | 二重課題、視線/頭部運動の影響 | 環境調整(障害物/照明)、旋回動作の段階練習 |
| 立ち上がりが遅い | 下肢パワー・疼痛・ROM | 筋力、疼痛評価、関節可動域 | 座面調整、反復練習、疼痛コントロール |
| 歩幅が極端に小さい | 感覚・恐怖・筋力 | 足底感覚、恐怖感、歩行観察 | 見守り範囲の明確化、補助具の最適化 |
| 経時変化を追いたい | 介入効果・再発予防 | 同条件で反復。必要なら MDC/MCID を参考 | 条件固定(速度/椅子/補助具/開始終了)を優先 |
現場の詰まりどころ:よくある失敗(OK/NG 早見)
転倒リスク評価で多い失敗は、「測り方がバラバラ」「数字だけ見てしまう」「記録が再現できない」の 3 つです。ここを先に潰すだけで、評価はかなり安定します。
特に TUG は “簡単そうに見えて条件差が出やすい” テストです。施設で 1 行ルールを作るつもりで、NG を潰していきましょう。
| 論点 | NG | OK | 理由 | 修正ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 速度条件 | 日によって通常/最大が混在 | 通常速度を基本に固定 | 数字が “改善” に見えても再現性が落ちる | 目的別(通常/最大)は別枠で記録 |
| 開始/終了 | 開始が曖昧/終了が立位 | 「 Go 」で開始/着座で終了 | 0.5–1 秒の誤差が積み重なる | 計測者の手順を統一(声かけ含む) |
| 椅子 | 椅子が毎回違う | 同じ椅子・同じ高さ | 立ち上がり負荷が変わる | 椅子の条件をカルテに書く |
| 観察 | 時間だけ記録 | 時間+崩れた区間を記録 | 原因推定と介入ができない | 区間ラベル(立/歩/旋/座)を固定 |
| 安全管理 | 介助/見守りが曖昧 | 見守り範囲と補助具を明記 | 転倒リスクが上がる | 中止基準(めまい/ふらつき増悪)を共有 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
TUG は “通常速度” と “最大安全速度” のどちらで測るべきですか?
基本は “通常速度” で固定し、同じ条件で経時変化を追うのがおすすめです。最大安全速度を使う場合も、目的(介入効果の確認など)を明確にし、同条件で再評価してください。施設内で速度条件が混在すると、数値が臨床判断に使いにくくなります。
椅子の高さや肘掛けは統一した方がいいですか?
統一する方が再現性が上がります。椅子の高さや肘掛けの有無で立ち上がり負荷が変わり、TUG の時間がぶれます。可能なら “同じ椅子” を使い、難しければ条件(椅子高さ・肘掛け)を必ず記録に残します。
補助具は外した方が “本当の能力” がわかりますか?
安全性が最優先です。普段使用している補助具で測るほうが、実生活に近いリスク評価になります。補助具を変えた場合は、その旨を記録し、次回も同条件で再評価します。
カットオフ(12 秒、13.5 秒、20 秒)はどれを採用すべきですか?
対象と目的で使い分けます。高齢者のスクリーニングでは 12 秒が参照されることがありますが、疾患や環境が違うと当てはまりません。臨床では “同条件での経時変化” と “崩れた区間” をセットで見て、介入につなげるのが現実的です。
時間が同じでも危ない人と大丈夫な人がいます。何を見ればいいですか?
TUG を区間化して、立ち上がり・旋回・着座など “崩れた場所” を見ます。たとえば旋回で大きく膨らむ場合は注意や前庭要因が絡むことがあり、立ち上がりで上肢支持が強い場合は下肢パワーや疼痛が関与しやすいです。時間だけで終わらせないのがコツです。
記録テンプレ(カルテにそのまま書ける)
評価は “書き方” が固定されると、担当替えや多職種連携が一気にラクになります。下のテンプレは、最低限の情報で再評価が再現できる形にしています。
ポイントは、時間+崩れた区間+条件(椅子/補助具/速度)を 1 行にまとめることです。
| 項目 | 記録例 | 補足 |
|---|---|---|
| TUG | 12.8 秒(通常速度)/椅子 45 cm/ T 字杖/旋回で外側へ膨らむ | 崩れた区間(立/歩/旋/座)を入れる |
| 静的バランス | 閉脚 10 秒可/継足 3 秒で動揺増大(右へ) | 足幅と視覚条件を固定 |
| 椅子立ち上がり | 5 回 16 秒/上肢支持あり/着地時に痛み訴え | 上肢支持・疼痛・代償を併記 |
参考文献
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. PMID:1991946
- Shumway-Cook A, Brauer S, Woollacott M. Predicting the probability for falls in community-dwelling older adults using the Timed Up & Go Test. Phys Ther. 2000;80(9):896-903. PMID:10960937
- Bohannon RW. Reference values for the timed up and go test: a descriptive meta-analysis. J Geriatr Phys Ther. 2006. PMID:16914068
- Chan PP, et al. Minimal clinically important difference and minimal detectable change of the Timed Up and Go Test in stroke survivors. Arch Phys Med Rehabil. 2017;98(11):2213-2220. doi:10.1016/j.apmr.2017.03.008. PMID:28392324
- CDC STEADI. Timed Up & Go (TUG) Test / materials. CDC STEADI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
転倒リスク評価は、最小セットで拾う → 区間化で原因を分ける → 条件を固定して記録 → 再評価の “リズム” を回すほど、現場の迷いが減ります。まずは今日から、TUG の条件(速度・椅子・補助具・開始/終了)を 1 行で固定して運用してみてください。
評価の整理とあわせて、面談準備チェックと職場評価シートで “働き方の見立て” も整えておくと安心です(マイナビコメディカルの面談準備チェックを確認する)。
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