SPPB と TUG の違いは「総合点」か「移動タスク」かです
SPPB と TUG はどちらも歩行や転倒場面でよく使う評価ですが、先に決めるべきは「何を知りたいか」です。SPPB は下肢パフォーマンスを 3 課題で分解して総合点化し、TUG は起立 → 歩行 → 方向転換 → 着座の移動タスク全体を 1 本で見ます。この違いを固定すると、評価の選択・解釈・再評価がぶれにくくなります。
この記事で答えるのは、SPPB と TUG のどちらを先に使うか、いつ併用するか、結果をどう読み分けるかです。各評価の細かな手順や採点基準を広げすぎず、比較記事として「選び方」と「記録の型」に絞って整理します。
同ジャンルの回遊(最短導線)
比較表:どちらを先に使うかは「何を決めたいか」で決まります
結論からいうと、全体像を分解して底上げしたいなら SPPB、生活場面の移動タスクでどこが詰まるかを見たいなら TUG が向きます。似た評価に見えても、拾っている情報は同じではありません。
※表は横にスクロールできます。
| 観点 | SPPB | TUG | 先に選ぶ場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 主にみるもの | 立位バランス・歩行速度・ 5 回立ち上がりを分けて評価し、合計 0–12 点で整理する | 起立 → 歩行 → 方向転換 → 着座を 1 本の移動タスクとしてみる | 「何が弱いか」を分解したいときは SPPB | どちらも “ 歩けるか ” の一言では片づきません |
| 強い場面 | フレイル、サルコペニア、退院前後、通所・外来の経過追跡 | 転倒不安、方向転換、停止、着座直前の不安定さの把握 | 生活場面の詰まりを見たいときは TUG | TUG は “ 速さ ” だけで読むと外れやすいです |
| 介入への落とし込み | 弱点がバランス・速度・筋パワーのどこかを分けやすい | どの局面で崩れるか(立ち上がり、歩き出し、旋回、着座)を拾いやすい | 底上げなら SPPB、局面改善なら TUG | 点数や秒数だけで介入を決めないことが重要です |
| 経時比較 | 同条件なら比較しやすく、説明しやすい | 不安、疲労、環境、声かけの影響を受けやすい | 定期評価の主役は SPPB が向きやすい | TUG は条件固定がより重要です |
| 迷ったとき | まず下肢機能の土台を把握したい | まず移動全体の成立条件を把握したい | 退院前・外来初回は併用が強い | 役割を分けて読むと競合しません |
使い分けの結論:選び方は 3 パターンで十分です
1)全体像を短時間でつかみたいなら SPPB
下肢機能を 3 課題で分けて見られるため、「どこがボトルネックか」を整理しやすいです。経時比較や介入前後の説明にも向きます。
2)転倒不安・方向転換・着座が気になるなら TUG
移動タスクの中で、どこで止まるか・遅れるか・ふらつくかを見やすい評価です。生活場面の詰まりを拾う入口として使いやすいです。
3)退院前や判断に迷う場面では併用がいちばん強い
SPPB で下肢機能の土台、TUG で移動タスクの成立条件を押さえると、支援量や再評価の焦点が決めやすくなります。
現場の詰まりどころ:ここで読み違えます
- TUG が遅い=筋力低下 と決めつける
- SPPB が高い=生活でも安全 と決めつける
- 条件が揃っていないまま比較する
解決の三段(読ませるゾーン)
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。
よくある失敗:TUG は時間だけ、SPPB は合計点だけで終わりやすいです
TUG は、同じ秒数でも中身が違うことが少なくありません。立ち上がりで手を使ったのか、方向転換で刻み足が増えたのか、着座直前でふらついたのか を 1 行で残すだけで、次の介入がかなり決めやすくなります。
SPPB は逆に、合計点だけで終えると「どこが伸びたか」が見えません。バランス・歩行速度・立ち上がりのどこが変わったかを分けて読むと、底上げの中身が説明しやすくなります。両者は競合ではなく、役割の違う評価 として使い分けるのが基本です。
標準化チェック:条件を固定すると解釈がラクになります
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| 固定したい項目 | 具体例 | なぜ重要か | 記録の一言(例) |
|---|---|---|---|
| 環境 | 床材、通路幅、障害物の有無 | 歩幅・速度・旋回のしやすさが変わる | 「院内廊下、障害物なし」 |
| 椅子条件 | 座面高、背もたれ、肘掛けの有無 | 立ち座り負荷が変わる | 「同一椅子、肘掛けなし」 |
| 補助具・装具 | T 字杖、歩行器、 AFO | 安全性と所要時間の両方に影響する | 「 T 字杖使用、 AFO 装着」 |
| 履物・声かけ | リハ靴で統一、普段どおり / 最大安全 | 摩擦と注意負荷が変わる | 「リハ靴、普段どおりで実施」 |
| 介助量 | 自立、見守り、接触介助 | 安全性と比較可能性に直結する | 「見守り、接触なし」 |
ズレの読み方:SPPB と TUG が一致しないときに何を見るか
現場で迷いやすいのは、SPPB と TUG の結果がきれいに一致しない場面です。ここで “ どちらが正しいか ” と考えるより、何を拾っている評価かを戻すと整理しやすくなります。
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| よくあるズレ | 考えやすい原因 | 次の一手 | カルテの一言(例) |
|---|---|---|---|
| SPPB は改善、TUG は横ばい | 下肢機能の底上げは進んだが、方向転換・停止・着座の局面で詰まっている | 旋回・停止・着座を分解して手順固定で練習する | 「 SPPB は改善。TUG は横ばい。方向転換で刻み足が残存」 |
| SPPB は高め、二重課題 TUG で悪化 | 注意配分、段取り、恐怖、周囲確認で余裕が落ちる | 低負荷の二重課題を短時間で段階付け、崩れる局面を狙って練習する | 「単独は可、二重課題で方向転換時に停止増加」 |
| TUG は大きく悪くないが SPPB は低め | 代償で移動タスクはこなせる一方、速度や立ち上がりの土台が弱い | 立ち上がり・歩行速度・バランスのどこが低いかを SPPB 下位項目で詰める | 「 TUG は成立するが、 SPPB で立ち上がり低下が目立つ」 |
数字を “ 勝ち負け ” で見るより、SPPB は土台、TUG は生活タスク と役割を戻すと、ズレはむしろ介入のヒントになります。
カルテ記載テンプレ:点数・時間より “ 条件 ” を残します
短文テンプレ
「 SPPB:下肢パフォーマンスは(バランス/歩行速度/立ち上がり)のうち( )が低下。TUG:時間は( )秒、(立ち上がり/方向転換/着座)で不安定。条件:同一椅子、同一靴、補助具( )、声かけ( )、介助量( )。次回は( )を優先して再評価。」
記載のコツ
SPPB は「どの下位項目が弱いか」、TUG は「どの局面で崩れたか」、両者共通で「同条件かどうか」を 1 行で残すと、担当替えや再評価で使える記録になります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.SPPB と TUG、どちらか 1 つだけ選ぶなら?
A.目的で決めます。全体像を分解して下肢機能の弱点を整理したいなら SPPB、生活場面の移動タスクでどこが詰まるかを見たいなら TUG が向きます。退院前や判断に迷う場面では併用が強いです。
Q2.TUG は秒数だけで判断して良いですか?
A.秒数だけでは不十分です。TUG は便利ですが、立ち上がり、方向転換、着座のどこで崩れたかを併記しないと次の一手が曖昧になります。条件が変わると解釈もずれやすいため、秒数と観察所見をセットで残します。
Q3.SPPB が良いのに生活では危なさが残るのはなぜですか?
A.SPPB は下肢機能の土台を捉えやすい一方で、生活場面の危なさは方向転換、停止、二重課題、恐怖、周囲環境の影響を強く受けます。TUG を “ 時間 ” だけでなく “ 崩れた局面 ” で読むと原因が絞りやすくなります。
Q4.経過追跡でいちばん大事なのは何ですか?
A.同条件で比べることです。椅子、環境、補助具、履物、声かけ、介助量を固定し、条件を 1 行で残してください。改善か条件差かが分かれるだけで、評価の価値が一段上がります。
次の一手:全体像を固める → 実施条件をそろえる
参考文献
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, Glynn RJ, Berkman LF, Blazer DG, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. PubMed
- Podsiadlo D, Richardson S. The Timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi:10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x. DOI
- Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, Boirie Y, Bruyère O, Cederholm T, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31. doi:10.1093/ageing/afy169. DOI
- Barry E, Galvin R, Keogh C, Horgan F, Fahey T. Is the Timed Up and Go test a useful predictor of risk of falls in community dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2014;14:14. doi:10.1186/1471-2318-14-14. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


