- 歩行分析・歩行観察とは?(この記事の結論)
- 新人 PT が目指すゴール: 5〜10 分で「所見が言語化」できる
- まず固定する:観察条件(再現性が 8 割)
- 見る順番:全体 → 面別 → 相分け → 仮説(迷子にならないフロー)
- 見る順番①:全体像(まず 10 秒で「危険」と「当たり」を取る)
- 見る順番②:前額面(左右方向)の観察ポイント
- 見る順番③:矢状面(前後方向)の観察ポイント
- 見る順番④:後額面(後ろ姿)で見落としを潰す
- 相分けの使い分け:新人は「立脚/遊脚」の 2 分割で OK
- 異常所見 → 原因仮説: 3 本柱で迷わない
- その場でできる「検証」:介入ではなく仮説確認
- 書き方(カルテ・レポート): SOAP を 30 秒で書く型
- 動画・アプリは「補助」:新人は撮り方を固定すると伸びる
- 現場の詰まりどころ(新人がハマる 5 パターン)
- よくある質問( FAQ )
- おわりに
- 参考文献
- 著者情報
歩行分析・歩行観察とは?(この記事の結論)
歩行分析(歩行観察)は、観察 → 仮説 → その場で検証 → 再観察を短時間で回し、転倒リスクや ADL の介助量、練習メニューの優先順位を決めるための評価です。新人 PT が自信を持つコツは、「見る順番」と「書き方」を固定して、毎回同じ型で回すことです。
本記事では、前額面・矢状面・後額面の観察ポイント、相分け(立脚/遊脚)での整理、異常所見から原因を 3 本柱で立てる方法、そして SOAP 記録テンプレまでを 1 本の型にまとめます。
新人 PT が目指すゴール: 5〜10 分で「所見が言語化」できる
歩行観察のつまずきは「何となく崩れて見えるが、どこが問題か言えない」ことです。ここで目指すのは、難しい角度推定ではなく、崩れる相(立脚 or 遊脚)と、崩れの方向(左右 or 前後)を言葉にして、次の評価・介入へつなげることです。
観察は万能ではなく、精度は中等度に留まることも報告されています。そのため、観察の標準化(条件固定・手順固定)と、仮説の根拠を持った追加評価が重要です。
まず固定する:観察条件(再現性が 8 割)
歩行観察は条件が変わると所見がブレます。まずは「観察条件」を固定して、比較できる同じ場を作ります。
| 項目 | 固定する内容 | 記録の例( 1 行) |
|---|---|---|
| 速度 | 自由歩行/最速/課題歩行(デュアルタスク等) | 自由歩行で 10 m |
| 装具・靴 | AFO の有無、靴種、インソール | AFO あり/運動靴 |
| 歩行補助具 | T 字杖、四点杖、歩行器、手すり | T 字杖(右) |
| 介助量 | 見守り/軽介助/中等度介助、介助位置 | 見守り(右後方) |
| 環境 | 床材、廊下幅、方向転換、段差 | 廊下直線(床:リノリウム) |
見る順番:全体 → 面別 → 相分け → 仮説(迷子にならないフロー)
新人 PT は「全部見ようとして全部落とす」ことが多いです。次の順番に固定してください。
| ステップ | 見ること | アウトプット |
|---|---|---|
| ① 全体( 10 秒) | 速度、歩幅、左右差、ふらつき、上肢振り、体幹傾き | 「危険所見の有無」と「崩れる相の当たり」 |
| ② 面別 | 前額面(左右)→ 矢状面(前後)→ 後額面(後ろ) | 代償の名前(例:体幹側屈、骨盤下制) |
| ③ 相分け | 立脚/遊脚(慣れたら細分) | 「どの相で崩れるか」を 1 文で |
| ④ 仮説 | ROM/筋出力・タイミング/感覚・バランス・高次脳 | 候補を 2〜3 個に絞る |
| ⑤ その場で検証 | キュー、速度・歩幅調整、支持変更、目印 | 変化の有無 → 次の評価へ |
見る順番①:全体像(まず 10 秒で「危険」と「当たり」を取る)
最初の 10 秒は “森を見る” パートです。歩行速度、歩幅、左右差、ふらつき、上肢の振り、体幹の傾きなどをざっくり拾い、膝折れ、膝過伸展、つまずき、急な側方偏倚など、優先対応が必要な所見がないか確認します。
次に「崩れる相」を当てます。例:立脚で崩れる(荷重が怖い、支持が不安定)/遊脚で崩れる(足が振り出せない、足尖が落ちる)。ここまで決まると、面別観察が速くなります。
見る順番②:前額面(左右方向)の観察ポイント
前額面は “横揺れ” と “支持の取り方” を中心に見ます。骨盤の下制・引き上げ、体幹側屈、支持基底面の左右差、膝の内反・外反、足部の回内・回外(内がえし・外がえしの見え方)をチェックします。
ポイントは、代償を「名前」で言えることです。例:「右立脚中期で体幹右側屈」→ 右股関節外転筋の出力不足、疼痛回避、支持への恐怖などを候補にして、矢状面と相分けで追加の手がかりを集めます。
見る順番③:矢状面(前後方向)の観察ポイント
矢状面は “推進” と “衝撃吸収” を見ます。初期接地(踵接地か前足部接地か)、荷重応答での膝屈曲、立脚後期の股関節伸展と足関節底屈、遊脚期の膝屈曲と足尖クリアランスを追います。
新人が詰まりやすいのは「膝が伸びる/曲がる」を単独で解釈する点です。同じ膝過伸展でも、足関節背屈制限、底屈筋の過活動、股関節伸展不足、体幹の後方偏位など複数の道筋があります。相分けで “どの相で出るか” を押さえてから、仮説を立てます。
見る順番④:後額面(後ろ姿)で見落としを潰す
後ろからは、踵骨の外反・内反、アキレス腱の偏位、足部の内外転、骨盤回旋、肩甲帯の左右差が見やすいです。立脚中期の踵骨と骨盤の連動は、装具適合や足部戦略のヒントになります。
また、後方は “つまずき” の手がかりも拾えます。遊脚で骨盤が引ける、足尖が落ちる、外側に回すように振り出すなどが見えたら、遊脚の制限因子(足関節・膝・股関節・注意)を優先して絞ります。
相分けの使い分け:新人は「立脚/遊脚」の 2 分割で OK
相分けは暗記ではなく、所見の置き場所を作る道具です。新人 PT はまず 立脚期(荷重)/遊脚期(振り出し)の 2 分割で十分です。「どっちで崩れるか」が決まると、評価と介入の優先順位が立ちます。
慣れてきたら、立脚期を荷重応答/単脚支持/前遊脚、遊脚期を初期/中期/終期に細分して精度を上げます。細分は、必要になってから増やす方がミスが減ります。
異常所見 → 原因仮説: 3 本柱で迷わない
原因仮説は、次の 3 本柱で並べると抜けが減ります。
| 柱 | 代表例 | 次にやる追加評価 |
|---|---|---|
| ① ROM | 足関節背屈制限、股関節伸展制限、膝屈曲制限 | 関節可動域、筋緊張、疼痛誘発 |
| ② 筋出力・タイミング | 股外転筋の出力不足、前脛骨筋の活動低下、底屈筋の過活動 | MMT、随意運動、協調性、痙縮所見 |
| ③ 感覚・バランス・高次脳 | 感覚低下、注意低下、恐怖、 USN など | 感覚検査、バランス課題、注意・認知のスクリーニング |
例:遊脚で足尖が引っかかる → 背屈 ROM 制限、前脛骨筋の活動低下、膝屈曲不足、注意低下などを候補化し、候補を 2〜3 個に絞って検証へ進みます。
その場でできる「検証」:介入ではなく仮説確認
検証は「仮説が当たりそうか」を短時間で確かめる工程です。声かけ(踵から、足を上げる)、視線誘導、歩幅・速度の調整、支持物の変更、床の目印などで、所見が変わるか見ます。
コツは、変化を「どの相で」「何が」「どう変わったか」で言語化することです。変化が出れば仮説の確度が上がり、次の追加評価へ進めます。変化がなければ、別の原因候補に切り替えます。
書き方(カルテ・レポート): SOAP を 30 秒で書く型
歩行所見は長文より、再現できる短文が強いです。次の “型” を使うと、先輩への相談と再評価がスムーズになります。
| 区分 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| S | 本人訴え・ゴール・不安 | 「ふらつきが怖い」「長く歩くと疲れる」 |
| O | 条件固定+相分け+面別所見 | 屋内 10 m、 T 字杖(右)、見守り。右立脚中期で体幹右側屈+骨盤左下制。右遊脚で足尖クリアランス低下。 |
| A | 仮説( 3 本柱で 2〜3 個) | 右股外転筋出力低下/支持恐怖、右背屈筋活動低下を仮説。 |
| P | その場の検証+次の追加評価+練習方針 | 外側支持と歩幅調整、踵接地キューで変化確認。背屈 ROM と前脛骨筋、バランス課題を追加評価。 |
動画・アプリは「補助」:新人は撮り方を固定すると伸びる
動画やアプリは便利ですが、まずは観察の型(条件固定・順番固定)が土台です。撮影は、前額面(正面)、矢状面(側面)、後額面(背面)をそれぞれ短く撮り、距離と高さを固定すると比較ができます。
動画で気づけた所見は、次回は現場で拾えるように「見る順番」に戻して再現します。観察の精度は個人差が出やすいので、フォーム(チェック表)を使った標準化が有効です。
現場の詰まりどころ(新人がハマる 5 パターン)
| 詰まり | 原因 | 対処(型に戻す) |
|---|---|---|
| どこを見ればいいか迷子 | 観察の順番がない | 全体 10 秒 → 前額面 → 矢状面 → 後額面 → 相分けの順に固定 |
| 左右差は言えるが原因が言えない | 仮説の軸がない | ROM/筋出力・タイミング/感覚・バランス・高次脳の 3 本柱で候補化 |
| 動画だと分かるが現場で拾えない | 視点が散る | 「崩れる相」だけ先に当てて、面別観察を短く回す |
| 介助すると所見が消える | 支持が変わる | 介助位置・介助量を記録し、同条件で比較。検証は “変化” を言語化 |
| 評価が介入に直結しない | 検証がない | 声かけ・歩幅・速度・支持変更で「仮説確認 → 次の評価」へつなぐ |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
前額面と矢状面、どちらを優先しますか?
危険所見(膝折れ、つまずき、強いふらつき)が強い方を優先します。その後は、新人 PT は矢状面で推進・つまずきを拾い、前額面で代償(体幹側屈、骨盤下制など)を整理すると理解が速いです。
相分けは最初から細かく必要ですか?
不要です。まず立脚/遊脚の 2 分割で OK です。細分は “所見を置く場所” が増えるだけなので、慣れてから増やす方がミスが減ります。
「膝過伸展」を見たら、まず何を疑いますか?
どの相で出るかを確認し、足関節背屈制限、底屈筋の過活動、股関節伸展不足、体幹後方偏位などを 3 本柱で候補化します。声かけ・速度・歩幅・支持変更で変化が出るかを検証し、追加評価へつなげます。
観察だけで結論を出していいですか?
観察は意思決定の起点ですが、精度には限界があるため、仮説が立ったら ROM、筋出力・タイミング、感覚・バランス・高次脳の追加評価で裏取りするのが基本です。
おわりに
歩行観察は「条件固定 → 全体像 → 面別の順番 → 相分け → 3 本柱で仮説 → その場で検証 → 記録 → 再観察」の順に回すと、経験が浅くても “自信の根拠” が作れます。まずは 1 症例でこのループを 2 回回して、変化を言葉にするところから始めてください。
臨床の振り返りを仕組み化するなら、面談準備チェックと職場評価シートも使えるので、マイナビコメディカルのまとめ(ダウンロード)も合わせて確認しておくと、次の行動に迷いにくくなります。
参考文献
- Krebs DE, Edelstein JE, Fishman S. Reliability of observational kinematic gait analysis. Phys Ther. 1985;65(7):1027-1033. doi: 10.1093/ptj/65.7.1027
- Eastlack ME, Arvidson J, Snyder-Mackler L, Danoff JV, McGarvey CL. Interrater reliability of videotaped observational gait-analysis assessments. Phys Ther. 1991;71(6):465-472. doi: 10.1093/ptj/71.6.465
- Brunnekreef JJ, van Uden CJT, van Moorsel S, Kooloos JGM. Reliability of videotaped observational gait analysis in patients with orthopedic impairments. BMC Musculoskelet Disord. 2005;6:17. doi: 10.1186/1471-2474-6-17
- Matsuzaka D, et al. Reliability and Validity of Observational Gait Analysis by Physical Therapists: Possibility of Verifying Accuracy and Improving Technology in Visual Measurement of Joint Angles. Phys Ther Res. 2025;28(2):129-136. doi: 10.1298/ptr.E10342
- McGinley JL, Goldie PA, Greenwood KM, Olney SJ. Accuracy and reliability of observational gait analysis data: judgments of push-off in gait after stroke. Phys Ther. 2003;83(2):146-160. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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