いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!
この記事は「GLIM 基準」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
医療における栄養管理の重要性は極めて高く、特にリハビリテーションに栄養管理はなくてはならないものとなります。
栄養障害の評価方法は現在までに複数のアセスメントおよびスクリーニングツールが開発されていますが、国際的な低栄養診断基準は定まっていないという背景があり、そのことは業界全体の課題となっていました。
そこで満を持して開発された指標が GLIM 基準になります。GLIM 基準は栄養状態の指標として、標準的なアセスメントになっていくと予想されるため、使い方を理解しておいて損はありません。
こちらの記事を読むことで GLIM 基準についての理解が深まり、臨床に欠かすことができない、リハビリ×栄養管理の一助へとなれば幸いです。是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
【理学療法士の転職はマイナビコメディカル】
理学療法士は 2013 年頃より毎年 10,000 人程度が国家試験に合格し続けています。これは医療系の専門職の中では看護師に次ぐ有資格者の増加率となっており、1966 年にはじめての理学療法士が誕生した歴史の浅さを考えれば異例の勢いと言えます。
人数が増えることは組織力の強化として良い要素もありますが、厚生労働省からは 2019 年の時点で理学療法士の供給数は需要数を上回っていると報告されており、2040 年度には理学療法士の供給数は需要数の約 1.5 倍になると推測されています。このような背景もあり、理学療法士の給与、年収は一般職と比較して恵まれているとはいえず、多くの理学療法士の深刻な悩みに繋がっています。
しかし、給与や年収などは職場や企業に大きく左右されるものです。今、働いている環境よりも恵まれた、自分が納得できる労働環境は高い確率で身近にあります。100 歳まで生きるのが当たり前といわれる時代を豊かに生きるためには、福利厚生や退職金制度なども考慮して就職先を決定するべきです。しかし、理学療法士が増え続けていくことを考慮すると恵まれた労働環境も次第に少なくなっていくことが予想されます。だからこそ、今のうちに自分が理学療法士として働く上で納得できるような就職先を探すべきではないでしょうか?
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マイナビコメディカルについては、他の記事で詳しくまとめています!《【マイナビコメディカルの評判と退会方法】理学療法士の転職おすすめ》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
GLIM基準とは
低栄養は、医療や福祉を必要とする患者や利用者を始めとして、世界中の様々な療養環境にいる人々に悪影響を与える病態になります。
低栄養状態では、治療効果が低下することや合併症リスクが増加します。リハビリテーションについても低栄養状態では最大限の効果を得ることができないことが判明しています。
このため、超高齢化社会を突き進む日本では当然のこと、世界中で低栄養への対応が重要な課題となっています。
低栄養の評価方法は現在までに複数のアセスメントおよびスクリーニングツールが開発されています。今回解説する GLIM 基準以外の指標についても、信頼性や妥当性が認められている指標もある一方、国際的な低栄養診断基準は定まっていないという背景があり、そのことは医療や福祉などの業界全体の課題となっていました。
このような中、満を持して開発された指標が GLIM 基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition)になります。
GLIM 基準は、2018 年に世界の主要な臨床栄養学会(欧州・米国・アジア・南米)が協力して開発した成人の低栄養診断基準になります。
GLIM 基準は、従来の食物摂取不足による低栄養に加え、医療施設における疾患関連性低栄養も考慮されており、低栄養の診断及び栄養治療における世界標準の基準になることが期待されています。
回復期リハビリテーション病棟入院料→GLIM基準の要件化
近年の診療報酬、介護報酬の改定は栄養に関連したトピックスが多く、診療報酬や介護報酬などの制度からも栄養の重要性が伝わってきます。
令和 6 年度の診療報酬改定でも介護報酬及び障害福祉サービス等報酬の 3 つが同時に改定される中、例年以上に多くの栄養関連項目の改定がなされています。
入院、外来、在宅と各セクションでさまざまな変化がある中、特に印象的であった改定の 1 つが、回復期リハビリテーション病棟の要件及び評価の見直しになります。
これは要するに「リハビリ-栄養管理-口腔管理」の質の向上のため、多職種及び同職種間での連携を推進し、包摂的社会実現に向けての GLIM 基準をはじめとした「標準的」な栄養管理の推進を目的とした改定になります。
具体的には、回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定する場合には、入退院時の栄養状態の評価に GLIM 基準を用いることが要件化されています。
また、回復期リハビリテーション病棟入院料 2 から 5 を算定する場合にも、GLIM 基準を用いることが望ましいとされています。
この改定によりリハビリテーション実施計画書の書式についても、回復期だけに関わらず全病期で変更されています。
「栄養状態の評価」という項目では 「GLIM 基準による評価」という内容が載っています。急性期や慢性期だから関係ない、回復期リハビリテーション病棟入院料 2 ~ 5 を算定しているからやらなくてもよい、という話ではなく GLIM 基準については、もはやリハビリテーション専門職として標準的に理解しておくべき内容と言えるでしょう。
GLIM基準 使い方
GLIM基準による低栄養診断は、「1. 栄養障害リスクの同定」「2. 栄養障害診断」「3. 栄養障害重症度評価」の 3 つのステップからなる 3 段階構成となっています。
各項目の評価方法および判定方法について詳しく説明していきます。
栄養障害リスクの同定
1 つめのステップとして、低栄養スクリーニングツールを活用して栄養障害のリスクを有する対象者の抽出から開始します。
GLIM 基準で推奨している「栄養障害リスクの同定」に使用するスクリーニングツールは「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」となります。
栄養障害リスクを有すると判断する基準は以下のとおりとなります。
- MUST ≧ 1 点
- NRS 2002 ≧ 3 点
- MNA®-SF ≦ 11 点
「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」の使用方法についてもわかりやすく解説していきます。
MUST
MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)とは英国静脈経腸栄養学会が作成した成人用の低栄養スクリーニングツールになります。
「BMI」「体重減少率」「急性疾患による栄養摂取への影響」の 3 項目をスコア化し、合計したスコアで低栄養リスクを判定します。
「BMI」は 3 段階で判定します。
- BMI > 20:スコア 0
- BMI 18.5 ~ 20:スコア 1
- BMI < 18.5:スコア 2
「体重減少率」は過去 3 ~ 6 ヶ月の推移により 3 段階で判定します。
- 体重減少率 < 5 %:スコア 0
- 体重減少率 5 ~ 10 %:スコア 1
- 体重減少率:> 10 %:スコア 2
「急性疾患による栄養摂取への影響」は急性疾患の影響により、5 日間以上の栄養接種が阻害されていないかどうかを「なし」か「あり」の 2 段階で判定します。
- なし:スコア 0
- あり:スコア 2
MUST の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。
GLIM 基準では MUST の合計点が 3 点以上の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。
NRS 2002
NRS 2002(Nutritional Risk Screening)は、2002 年に欧州臨床栄養代謝学会により開発された指標になります。
NRS 2002 は、初期スクリーニングと最終スクリーニングの 2 段階構成となっています。初期スクリーニングでいずれかの項目に該当した場合に、最終スクリーニングに進み、「栄養障害の重症度」「疾病または外傷の重症度」の 2 項目から合計スコアを出します。
NRS 2002 の評価用紙は以下の通りになります。
NRS 2002 の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。
GLIM 基準では NRS 2002 の合計点が 1 点以上の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。
NRS 2002 については、他の記事で詳しくまとめています!《【NRS2002:栄養スクリーニング】評価表無料ダウンロード可能》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)
MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)は 6 項目で構成されている低栄養のスクリーニングツールとなります。
各項目、設問に対して適切な選択肢を選択し、選択肢ごとに配点が設定されています。合計点は最低 0 点、最高 14 点となり、得点が高いほど栄養状態が良好、得点が低いほど低栄養のリスクが高いことがわかります。
評価表(評価用紙)は以下の通りになります。
GLIM 基準では MNA®-SF の合計点が 11 点以下の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。
MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)については、他の記事で詳しくまとめています!《【MNA®-SF:簡易栄養状態評価表】高齢者の栄養スクリーニング》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
栄養障害診断
GLIM 基準では「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」いずれかのスクリーニング検査で低栄養のリスクがあることが判明した場合、2 つめのステップとして栄養障害診断を行います。
栄養障害リスクを有すると判断する基準は以下になります。
- MUST ≧ 1 点
- NRS 2002 ≧ 3 点
- MNA®-SF ≦ 11 点
GLIM 基準における低栄養の診断は 3 項目からなる「表現型基準」と 2 項目からなる「病因基準」の両者から、それぞれ 1 つ以上の該当項目がある場合に、低栄養と診断します。
「表現型基準」と「病因基準」の判断基準について詳しく解説していきます。
表現型基準
表現型基準は「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目より構成されています。
【意図しない体重減少】
- > 5 % 体重減少(6 ヶ月以内)
- > 10 % 体重減少(6 ヶ月以上)
「意図しない体重減少」については上記 2 条件に該当するかどうかで判定します。
【低BMI】
- < 18.5(70 歳未満)
- < 20.0(70 歳以上)
「低BMI」については年齢により判定基準が変わることに注意して判定します。
【筋肉量減少】
生体電気インピーダンス法(BIA)、二重エネルギー X 線吸収測定法(DXA)、CT や MRI、超音波装置といった測定装置を使った方法とともに、下腿周囲長・上腕筋囲長など身体計測による筋肉量評価も代理指標として用いることを可能としています。
GLIM 基準ではユニバーサルな評価ツールの特性上、一律のカットオフ値を設定しておりません。筋肉量減少の評価には、人種、年齢、性別、疾患対象など、評価対象の特異性を考慮したカットオフ値を使用します。
日本人向けのカットオフ値は以下になります。
- DXA:< 7.0 kg/m2(男性)
- DXA:< 5.4 kg/m2(女性)
- BIA :< 7.0 kg/m2(男性)
- BIA :< 5.7 kg/m2(女性)
- 下腿周囲長:< 33 cm(男性)
- 下腿周囲長:< 32 cm(女性)
病因基準
病因基準は「食事摂取量減少 / 消化吸収能低下」「疾患による負荷 / 炎症反応」の 2 項目により構成されています。
【食事摂取量減少 / 消化吸収能低下】
- 1 週間以上、必要エネルギー量の 50 %以下の食事摂取量
- 2 週間以上、食事摂取量の減少が継続
- 消化吸収に悪影響を及ぼす慢性的な消化器症状(嚥下障害、嘔気、下痢、便秘 etc..)
【疾患による負荷 / 炎症反応】
- 急性疾患や外傷による炎症
- 慢性疾患による炎症
このように、表現型基準は「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目、病因基準は「食事摂取量減少 / 消化吸収能低下」「疾患による負荷 / 炎症反応」の 2 項目から構成されています。
表現型基準より 1 項目以上、病因基準より 1 項目以上の該当項目がある場合、栄養障害という判定に至り、3 つめのステップである栄養障害重症度評価に続いていきます。
栄養障害重症度評価
最後のステップとして栄養障害の重症度の評価を行います。重症度は 2 段階(中等度低栄養 or 重度低栄養)で判定します。
栄養障害重症度評価においても、2 つめのステップで使用した表現型基準「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目を活用します。
【意図しない体重減少】
- > 10 % 体重減少(6 ヶ月以内)
- > 20 % 体重減少(6 ヶ月以上)
いずれかに該当した場合、重度低栄養となります。
【低BMI】
- 「高度な減少」
※日本人の判定値(カットオフ値)はない
アジア人においては、「意図しない体重減少」のみ重度低栄養の基準値が示されています。したがって、「低BMI」と「筋肉量減少」の重度低栄養の基準値については、各施設の実情に応じ設定する必要があります。
それでも設定が難しいと感じたら、表現型基準のカットオフ値より 10 % 程度低い値をまずは「高度な減少」として設定し、施設で運用しながらその値を調整していくと良いのではないかと考えられます。
【筋肉量減少】
- 「高度な減少」
※日本人の判定値(カットオフ値)はない
「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目から「高度な減少」と判断できる項目が 1 項目でもあれば重度低栄養、「高度な減少」と判断できる項目がない場合には中等度低栄養となります。
GLIM基準 使用例
症例を通じて GLIM 基準の実際の活用方法をご紹介します。
【症例紹介】
年齢:75歳
性別:男性
主訴:食欲不振、倦怠感
病歴:以前よりアルコール肝障害を指摘されていたが、禁酒することなく飲酒を続けていた。1年前頃から食欲不振・倦怠感を認め、ここ最近は症状が進行していた。2ヶ月前より食事摂取量は4割以下に減少し、体重は2ヶ月間で6kg低下している。重度の肺炎を罹患したこともあり、在宅生活の継続困難となり入院となる。
【身体計測】
身長:175㎝、体重:50kg、BMI:16.3
下腿周囲長:右25cm、左24cm
【GLIM基準による栄養診断】
step1:栄養障害リスクの同定
NRS2002を活用
→栄養障害の重症度:スコア2
→疾病または外傷の重症度:スコア2
合計スコア4となり、栄養障害リスクが同定される
step2:栄養障害診断
NRS2002の結果から栄養障害診断を行う
意図しない体重減少:6%体重減少(2ヶ月以内)
低BMI:16.3
筋肉量減少:下腿周囲長:右25cm、左24cm
食事摂取量減少/消化吸収能低下:2ヶ月前より食事摂取量は4割以下に減少
疾患による負荷/炎症反応:重度肺炎による炎症
→表現型基準より1項目以上、病因基準より1項目以上該当するため、栄養障害と診断
step3:栄養障害重症度評価
栄養障害と認められたため、重症度を判定する
BMI:16.3という数値から重度低栄養と判定する
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「GLIM基準」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで GLIM 基準についての理解が深まり、臨床に欠かすことができないリハビリ×栄養管理の一助へとなれば幸いです。