GLIM基準の使い方|診断フローと重症度

栄養・嚥下
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この記事でわかること(結論)

GLIM 基準は、表現型(体重減少・低 BMI・筋肉量低下)原因(摂取不足/吸収不良・炎症)の双方を確認し、表現型 ≥1 × 原因 ≥1で低栄養を診断、表現型のしきい値でStage 1/2の重症度を決める枠組みです。本記事は臨床の「使い方」にフォーカスし、診断手順・重症度の決め方・しきい値早見・測定法の実務までをワンページに集約します。

まずはスクリーニング → 表現型 → 原因 → 重症度の順に評価し、介入とモニタリング(体重・摂取量・炎症指標)を定期更新する流れを統一しましょう。

GLIM 基準とは?(目的と構成)

GLIM は栄養障害の国際コンセンサス診断基準で、スクリーニング陽性の患者に対し、表現型(体重減少・低 BMI・筋肉量低下)と原因(摂取不足/吸収不良・炎症)を組み合わせて診断・重症度を判定します。施設や地域の推奨カットオフ(例:AWGS など)に合わせて運用してください。評価の俯瞰は嚥下・栄養ハブで確認できます。

使い方の 6 行要約

  1. まず MNA-SF / MUST / NRS-2002 などで栄養リスクをスクリーニング
  2. 表現型:体重減少%・低 BMI・筋肉量低下のいずれか ≥1 を確認。
  3. 原因:摂取不足/吸収不良、または炎症(急性/慢性)のいずれか ≥1。
  4. 診断成立=表現型 ≥1 × 原因 ≥1。
  5. 重症度は表現型のしきい値で Stage 1/2 を決定。
  6. 介入・監視:必要量と摂取率、体重・炎症を定期フォロー。

GLIM基準 使い方

GLIM基準による低栄養診断は、「1. 栄養障害リスクの同定」「2. 栄養障害診断」「3. 栄養障害重症度評価」の 3 つのステップからなる 3 段階構成となっています。

各項目の評価方法および判定方法について詳しく説明していきます。

栄養障害リスクの同定

1 つめのステップとして、低栄養スクリーニングツールを活用して栄養障害のリスクを有する対象者の抽出から開始します。

GLIM 基準で推奨している「栄養障害リスクの同定」に使用するスクリーニングツールは「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」となります。

栄養障害リスクを有すると判断する基準は以下のとおりとなります。

  • MUST ≧ 1 点
  • NRS 2002 ≧ 3 点
  • MNA®-SF ≦ 11 点

「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」の使用方法についてもわかりやすく解説していきます。

MUST

MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)とは英国静脈経腸栄養学会が作成した成人用の低栄養スクリーニングツールになります。

「BMI」「体重減少率」「急性疾患による栄養摂取への影響」の 3 項目をスコア化し、合計したスコアで低栄養リスクを判定します。

「BMI」は 3 段階で判定します。

  • BMI > 20:スコア 0
  • BMI 18.5 ~ 20:スコア 1
  • BMI < 18.5:スコア 2

「体重減少率」は過去 3 ~ 6 ヶ月の推移により 3 段階で判定します。

  • 体重減少率 < 5 %:スコア 0
  • 体重減少率 5 ~ 10 %:スコア 1
  • 体重減少率:> 10 %:スコア 2

「急性疾患による栄養摂取への影響」は急性疾患の影響により、5 日間以上の栄養接種が阻害されていないかどうかを「なし」か「あり」の 2 段階で判定します。

  • なし:スコア 0
  • あり:スコア 2

MUST の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。

GLIM 基準では MUST の合計点が 3 点以上の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。

NRS 2002

NRS 2002(Nutritional Risk Screening)は、2002 年に欧州臨床栄養代謝学会により開発された指標になります。

NRS 2002 は、初期スクリーニングと最終スクリーニングの 2 段階構成となっています。初期スクリーニングでいずれかの項目に該当した場合に、最終スクリーニングに進み、「栄養障害の重症度」「疾病または外傷の重症度」の 2 項目から合計スコアを出します。

NRS 2002 の評価用紙は以下の通りになります。

NRS 2002 の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。

GLIM 基準では NRS 2002 の合計点が 1 点以上の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。

NRS 2002 については、他の記事で詳しくまとめています!《【NRS2002:栄養スクリーニング】評価表無料ダウンロード可能》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️

MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)

MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)は 6 項目で構成されている低栄養のスクリーニングツールとなります。

各項目、設問に対して適切な選択肢を選択し、選択肢ごとに配点が設定されています。合計点は最低 0 点、最高 14 点となり、得点が高いほど栄養状態が良好、得点が低いほど低栄養のリスクが高いことがわかります。

評価表(評価用紙)は以下の通りになります。

GLIM 基準では MNA®-SF の合計点が 11 点以下の場合に栄養障害リスクありという判定に至り、2 つめのステップである栄養障害診断に続いていきます。

MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)については、他の記事で詳しくまとめています!《【MNA®-SF:簡易栄養状態評価表】高齢者の栄養スクリーニング》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️

栄養障害診断

GLIM 基準では「MUST」「NRS 2002」「MNA®-SF」いずれかのスクリーニング検査で低栄養のリスクがあることが判明した場合、2 つめのステップとして栄養障害診断を行います。

栄養障害リスクを有すると判断する基準は以下になります。

  • MUST ≧ 1 点
  • NRS 2002 ≧ 3 点
  • MNA®-SF ≦ 11 点

GLIM 基準における低栄養の診断は 3 項目からなる「表現型基準」と 2 項目からなる「病因基準」の両者から、それぞれ 1 つ以上の該当項目がある場合に、低栄養と診断します。

「表現型基準」と「病因基準」の判断基準について詳しく解説していきます。

表現型基準

表現型基準は「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目より構成されています。

【意図しない体重減少】

  • > 5 % 体重減少(6 ヶ月以内)
  • > 10 % 体重減少(6 ヶ月以上)

「意図しない体重減少」については上記 2 条件に該当するかどうかで判定します。

【低BMI】

  • < 18.5(70 歳未満)
  • < 20.0(70 歳以上)

「低BMI」については年齢により判定基準が変わることに注意して判定します。

【筋肉量減少】

生体電気インピーダンス法(BIA)、二重エネルギー X 線吸収測定法(DXA)、CT や MRI、超音波装置といった測定装置を使った方法とともに、下腿周囲長・上腕筋囲長など身体計測による筋肉量評価も代理指標として用いることを可能としています。

GLIM 基準ではユニバーサルな評価ツールの特性上、一律のカットオフ値を設定しておりません。筋肉量減少の評価には、人種、年齢、性別、疾患対象など、評価対象の特異性を考慮したカットオフ値を使用します。

日本人向けのカットオフ値は以下になります。

  • DXA:< 7.0 kg/m2(男性)
  • DXA:< 5.4 kg/m2(女性)
  • BIA :< 7.0 kg/m2(男性)
  • BIA :< 5.7 kg/m2(女性)
  • 下腿周囲長:< 33 cm(男性)
  • 下腿周囲長:< 32 cm(女性)

病因基準

病因基準は「食事摂取量減少 / 消化吸収能低下」「疾患による負荷 / 炎症反応」の 2 項目により構成されています。

【食事摂取量減少 / 消化吸収能低下】

  • 1 週間以上、必要エネルギー量の 50 %以下の食事摂取量
  • 2 週間以上、食事摂取量の減少が継続
  • 消化吸収に悪影響を及ぼす慢性的な消化器症状(嚥下障害、嘔気、下痢、便秘 etc..)

【疾患による負荷 / 炎症反応】

  • 急性疾患や外傷による炎症
  • 慢性疾患による炎症

このように、表現型基準は「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目、病因基準は「食事摂取量減少 / 消化吸収能低下」「疾患による負荷 / 炎症反応」の 2 項目から構成されています。

表現型基準より 1 項目以上、病因基準より 1 項目以上の該当項目がある場合、栄養障害という判定に至り、3 つめのステップである栄養障害重症度評価に続いていきます。

栄養障害重症度評価

最後のステップとして栄養障害の重症度の評価を行います。重症度は 2 段階(中等度低栄養 or 重度低栄養)で判定します。

栄養障害重症度評価においても、2 つめのステップで使用した表現型基準「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目を活用します。

【意図しない体重減少】

  • > 10 % 体重減少(6 ヶ月以内)
  • > 20 % 体重減少(6 ヶ月以上)

いずれかに該当した場合、重度低栄養となります。

【低BMI】

  • 「高度な減少」

※日本人の判定値(カットオフ値)はない

アジア人においては、「意図しない体重減少」のみ重度低栄養の基準値が示されています。したがって、「低BMI」と「筋肉量減少」の重度低栄養の基準値については、各施設の実情に応じ設定する必要があります。

それでも設定が難しいと感じたら、表現型基準のカットオフ値より 10 % 程度低い値をまずは「高度な減少」として設定し、施設で運用しながらその値を調整していくと良いのではないかと考えられます。

【筋肉量減少】

  • 「高度な減少」

※日本人の判定値(カットオフ値)はない

「意図しない体重減少」「低BMI」「筋肉量減少」の 3 項目から「高度な減少」と判断できる項目が 1 項目でもあれば重度低栄養、「高度な減少」と判断できる項目がない場合には中等度低栄養となります。

表現型の基準(早見)

下表は“院内カットオフへ置換して使う”前提の要点早見です。正式値は各施設プロトコルに従ってください。

表現型(Phenotypic)チェック一覧
項目 判定の考え方 院内カットオフ(記入)
体重減少% 6 か月以内/6 か月超の減少率で評価(例:5%/10%/20% 等) 6 か月内:_____% / 6 か月超:_____%
低 BMI 年齢・地域推奨に応じて低値/著しく低値を設定 < ______(<70 歳)/ < ______(≥70 歳)
筋肉量低下 ASMI/BIA/DEXA/CC/握力など、採用法のカットオフで判定 ASMI:男______/女______ / CC:男______cm/女______cm

原因の基準(摂取不足/吸収不良・炎症)

原因(Etiologic)チェック一覧
項目 判定の考え方 院内カットオフ(記入)
摂取不足/吸収不良 必要量に対する摂取不足(%・日数)/消化吸収障害の所見 摂取率 ______ %(____ 日以上)
炎症(急性/慢性) 感染・手術・外傷、慢性炎症性疾患などの臨床根拠 CRP > _____ mg/dL など

重症度(Stage 1/2)の決め方

重症度は表現型のしきい値を用いて判定します。いずれか一つでも Stage 2 に該当すれば Stage 2。

重症度ステージの目安(表現型ベース)
表現型 Stage 1(中等度) Stage 2(重度) 院内基準(記入)
体重減少% 中等度の減少 著明な減少 6 か月内:S1=_____% / S2=_____%
6 か月超:S1=_____% / S2=_____%
低 BMI 低値 著しく低い値 S1:< ______ / S2:< ______
筋肉量低下 中等度低下 著明低下 ASMI/CC/握力の各 S1/S2 を記入

測定法の実務(BIA/DEXA/CC/握力の使い分け)

  • BIA:迅速・非侵襲。浮腫/発熱/水分変動の影響に注意。同一機種・同条件で追跡。
  • DEXA:高精度だが装置前提。研究/評価精緻化向き。
  • ASMI/握力:AWGS などの地域基準に合わせて解釈(可能なら同じ方法で縦断追跡)。
  • CC(下腿周囲):代替指標。測定部位の統一と体位・時間帯の再現性確保。

ダウンロード(A4・印刷可)

よくある質問(FAQ)

各項目をタップすると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

診断は「表現型 ≥1 × 原因 ≥1」で成立しますか?

はい。GLIM はスクリーニング陽性を前提に、表現型のいずれか原因のいずれかが同時に該当したとき低栄養と診断します。

重症度はどの指標で決めますか?

表現型のしきい値を使います。体重減少%・低 BMI・筋肉量のいずれかが Stage 2 に達すれば Stage 2 とします。

筋肉量の基準は何を採用すべき?

地域/施設の推奨(例:AWGS など)に従います。BIA/DEXA/ASMI/CC/握力のいずれを採用するかを院内で統一し、同一方法・同条件で追跡すると実務的です。

炎症の目安は?

感染・手術・外傷などの急性、慢性炎症性疾患の存在を臨床的に判断し、CRP 等を補助指標として用います(院内カットオフに従う)。

参考文献

  • Cederholm T, Jensen GL, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition: A consensus report. Clin Nutr. 2019;38(1):1–9. DOI:10.1016/j.clnu.2018.08.002 PubMed
  • Kondrup J, et al. Nutritional Risk Screening (NRS 2002): A new method based on an analysis of controlled clinical trials. Clin Nutr. 2003;22(3):321–336. DOI:10.1016/S0261-5614(02)00214-5 PubMed
  • Elia M. The ‘MUST’ report. BAPEN; 2003. BAPEN
  • AWSG(Asian Working Group for Sarcopenia)2019 update. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300–307. DOI:10.1016/j.jamda.2019.12.012 PubMed
  • Rubenstein LZ, et al. MNA-SF validation. J Nutr Health Aging. 2009;13(9):782–788. PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:栄養(リハ栄養)、嚥下、脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、シーティング

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