基本動作評価ハブ(離床・起居・移乗・歩行):BMS/ABMS-2 の選び方と運用
基本動作(寝返り・起き上がり・立ち上がり・移乗・歩行など)は、 ADL が崩れる“ひとつ手前”で詰まりが出やすい領域です。このハブでは、代表的な基本動作スケールである BMS と ABMS-2 を軸に、「どれを選ぶ?」「どう条件をそろえる?」「結果をどう次アクションへ落とす?」を 1 ページで整理します。
評価スケール全体の一覧に戻りたい場合は 評価ハブもあわせて確認してください(他の歩行評価・ ADL 評価とのつながりが整理しやすくなります)。
なぜ“基本動作評価”を先に押さえるのか( ADL の前処理 )
ADL 低下の原因は「筋力」や「疼痛」だけでなく、起居・移乗の“手順”と“介助量”が合っていないことでも起こります。基本動作をスケールで共有すると、どの動作がボトルネックかが言語化され、チームで同じ方向に介入をそろえやすくなります。
特に BMS は、寝返り・起き上がり・端座位保持・立ち上がり・立位保持・着座・乗り移り・足の踏み返し・歩行の 9 項目を、上肢使用の有無と遂行の安定性(毎回できるか)で 5〜 1 点の段階評定として整理できるのが特徴です(一定環境での Capacity として捉える考え方も重要です)。
結論:急性期は ABMS-2 、回復期〜在宅準備は BMS が迷いにくい
急性期は「いま、どこまで安全に動けるか」を短時間で共有するニーズが強く、 ABMS-2 がはまりやすいです。一方、回復期〜退院前は「詰まりの場所(寝返り/起き上がり/移乗など)」を分解して介入につなげたい場面が増え、 BMS が役立ちます。
まずは病棟で“主戦場”を 1 つ決め、同じ条件・同じ尺度で追える記録にするのが最短です。評価が増えすぎて比較できない状態を止めるだけで、再評価の質が上がります。
5 分で回す:安全 → 条件統一 → スケール記録 → 次アクション
基本動作は“やり方”が変わると点数が動きます。最初に 安全(血圧・疼痛・ライン・転倒リスク)を確認し、次に 条件(高さ・手すり・介助位置・靴など)を固定してからスケールで記録します。
最後に、低い項目(=詰まり)を 1 つだけ選び、介入 → 24〜 72 時間で再評価までを 1 セットにします。点数の上下よりも「どの条件なら毎回できるか」を残すのが現場で効きます。
基本動作評価スケールの選び方早見(病期・目的別)
各行の「推奨スケール」から詳細記事へ移動できます。まずは自施設の運用に近い行を起点に、条件統一と記録テンプレを決めるのがおすすめです。
| 場面・対象 | まず知りたいこと | 推奨スケール(第一選択) | 見るポイント(判定軸) | 次アクション(記録・介入) |
|---|---|---|---|---|
| 急性期(離床開始〜) | 「いま可能な基本動作」と介助量の目安を短時間で共有 | ABMS-2 | 端座位・立位・移乗など“段階”の到達度と介助量 | 離床プロトコル(段階)とセットで目標を 1 つ決め、翌日再評価 |
| 回復期(起居・移乗を底上げ) | 詰まりが「寝返り/起き上がり/立ち上がり/移乗」のどこか | BMS | 合計点よりも“低い項目=ボトルネック”の特定 | 詰まり動作を 1 つ選び、条件統一(高さ・手すり・介助位置)→反復→再評価 |
| 退院前〜在宅(再現性・安全重視) | 家で“同じ介助量”で再現できるか(環境差を含む) | BMS | 点数の上下より「家の条件でできるか/危険場面はどこか」 | 家族へ介助手順(立ち位置・声かけ・禁忌動作)を文章化し、再現テスト |
| ICU/重症(ライン多い・疲労大) | “できた/できない”を段階で安全に積み上げたい | FSS-ICU(候補) | 起居・端座位・立位・歩行の前段階を段階的に追えるか | 日次で到達目標(端座位保持→立位…)を 1 つ設定し、疲労・循環反応も併記 |
| 迷ったとき(まず 1 本化) | チームで物差しを統一して“比較できる記録”にしたい | 病棟の主戦場で決める(急性期= ABMS-2 /回復期〜在宅= BMS ) | 評価が乱立しているなら「同じ条件・同じ尺度」を最優先 | 採用スケールを病棟ルール化+記録テンプレ(体位・介助量・環境)を固定 |
| 線引きで迷うとき(共通) | 4 ↔ 5 、 2 ↔ 3 など“境界”の判定がブレる | BMS(運用ルールを作る) | 介助量の定義/安全余裕度/代償(手すり・勢い・反動)を先に決める | 「境界ルール(例:最小介助=○○)」を共有し、迷ったら同席評価で校正 |
現場の詰まりどころ:点数が動く原因は“条件”と“線引き”
基本動作スケールは、本人の能力変化だけでなく、ベッド高さ、手すり、靴、介助位置、声かけで点数が動きます。まずは「この病棟の標準条件」を決め、記録にも条件を残すと再評価の精度が上がります。
特に BMS は「上肢を使う」と「毎回できる」の解釈がブレやすいポイントです。境界で迷うときは、代償(手すり・床押し・反動)をどこまで許容するかを先にルール化し、必要なら動画や同席で校正すると“評価の言語”が揃います。
結果の読み方:合計点より“ボトルネック 1 つ”で次の一手を決める
基本動作は、合計点が同じでも“詰まりの場所”が違えば介入は変わります。最初は、低い項目を 1 つだけ選び、手順の簡略化/支持物の調整/介助位置の固定など「再現できる条件づくり」に落とすのが安全です。
ADL へ翻訳するときは「できる/できない」よりも、どの条件なら毎回できるかが効きます。たとえば移乗が不安定なら、移乗の点数だけでなく、立ち上がりの前半(荷重移動)や 着座の制動までセットで見直すと、転倒や介助量のブレを減らせます。
各スケール記事への入口(まずはこの 3 本)
「どっちを使う?」で迷ったら、まずは ABMS-2 と BMS の違い【比較・使い分け】を確認し、病期と目的(共有か/介入設計か)で 1 本化すると、条件統一と再評価が回しやすくなります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. まず ABMS-2 と BMS 、どちらか 1 つに統一するなら?
急性期で「離床レベルを短時間で共有」するのが主目的なら ABMS-2 が統一しやすいです。回復期〜退院前で「詰まりの場所を分解して介入へつなぐ」運用が中心なら BMS が噛み合います。迷うときは、病棟の標準記録(体位・高さ・介助量)を作りやすい方を採用し、まず“比較できるデータ”を増やすのが最短です。
Q2. 点数が上がったのに、 ADL があまり変わりません
基本動作の点数は「一定条件でのできる/できない( Capacity )」を反映しやすく、生活場面( Performance )とはズレることがあります。点数の上昇を ADL に移すには、家屋条件(床・手すり・段差)や介助者条件に合わせて“同じ手順で毎回できる”まで落とし込み、危険場面(方向転換・着座の制動など)を先に潰すと改善が出やすいです。
Q3. 「毎回できる」の判断がブレます
ブレやすいのは自然です。まずは「毎回できる= 3 回中 3 回」「毎回ではない= 3 回中 1〜 2 回」など、施設内の運用ルールを決めておくと再現性が上がります。あわせて、手すりや反動などの代償をどこまで許容するかも先に定義し、迷ったら同席評価で校正するのがおすすめです。
おわりに
基本動作は、安全の確保 → 条件統一 → スケール記録 → 詰まりを 1 つだけ潰す → 再評価のリズムで回すと、短い期間でも変化が追いやすくなります。評価の結果を“職場で再現できる記録”に落とし込む準備として、面談前のチェックと職場評価に使えるシートは こちらにまとめています。
参考文献
- Tanaka T, Hashimoto K, Kobayashi K, Abo M. Revised version of the Ability for Basic Movement Scale ( ABMS II ) as an early predictor of functioning related to activities of daily living in patients after stroke. J Rehabil Med. 2010. doi: 10.2340/16501977-0487
- Huang M, et al. Functional Status Score for the ICU: An International Clinimetric Analysis of Validity, Responsiveness, and Minimal Important Difference. Crit Care Med. 2016;44(12):e1155-e1164. doi: 10.1097/CCM.0000000000001949 / PubMed: 27488220
- BMS 使用マニュアル( Basic Movement Scale : BMS ). 配布 PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


