ICU 早期離床の職種連携は「役割固定+合意項目+記録統一」で回ります
ICU の早期離床で詰まりやすいのは、可否判断そのものよりも「誰が何を確認し、どの時点で合意するか」が揃っていないことです。看護・リハ・医師で確認項目がズレると、実施直前の差戻しや中断が増え、患者にもチームにも負担が残ります。
本記事は職種連携の実装に絞って、① 役割分担( RACI )→② 当日運用(時系列チェック)→③ GO / STOP 合意項目→④ 申し送りと記録の順に、院内でそのまま使える「型」に落とし込みます。
現場の詰まりどころ(差戻し・中断を減らす最小セット)
- 詰まり 1:直前に「誰が最終判断か」が揺れる → RACI で A を固定
- 詰まり 2:実施前チェックが職種でバラつく → 時系列チェックで同じ順に確認
- 詰まり 3:中止理由が共有されず翌日また止まる → SBAR の型で記録を統一
迷ったときは「役割 → 時系列 → 合意( GO / STOP )→ 記録」の順で整えると、復旧が速くなります。
図表 1|職種別の役割分担( RACI )
「誰が最終判断するか」「誰が実務を担うか」を先に固定すると、実施直前の迷いが減ります。下図と下表を、ICU 早期離床の共通言語として使ってください。
| タスク | 医師 | 看護師 | PT / OT | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 禁忌・当日方針の確認 | R/A | C | C | 昇圧薬・鎮静方針・出血リスクを共有 |
| ライン・デバイス安全確認 | C | R/A | C | 固定、抜去リスク、介助者配置 |
| 実施レベル提案( L0〜L3 ) | C | C | R/A | 前回反応と当日状態から提案 |
| 実施中モニタと中止判断 | C | R | R | 該当時は即 STOP、医師へ報告 |
| 計画修正と翌日方針 | A | C | R | 頻度・姿勢・補助量を短文化 |
※ R = 実行責任、A = 最終責任、C = 相談・助言。
図表 2|当日運用チェック(朝カンファ → 実施前 → 実施中 → 実施後)
時系列で確認項目を固定すると、申し送りの抜けと重複が減ります。「何を見たか」より「どの時点で誰が確認したか」を残してください。
| タイミング | 確認項目 | 判定 | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 朝カンファ | 当日禁忌、鎮静・循環方針、離床目標 | GO / 保留 | レベル候補を L0〜L3 で共有 |
| 実施前 | バイタル、意識、ライン固定、介助者配置 | GO / 条件付きGO / STOP | 条件付きは負荷を 1 段階下げる |
| 実施中 | 症状、 SpO2、 BP / HR、デバイストラブル | 継続 / 中止 | 中止時は回復待機→原因評価 |
| 実施後 | 反応、到達レベル、中止理由、修正点 | 翌日計画に反映 | 申し送りと記録を同時に完了 |
図表 4|体制別の運用パターン早見(平日/休日(最少)/夜勤帯)
体制が薄いほど「チェックを減らす」より「負荷だけ下げる」ほうが安全です。平日と同じ順番で確認しつつ、到達レベルとエスカレーションだけを固定すると運用が止まりません。
GO / STOP 合意項目(カンファで最低限そろえる)
GO / STOP が割れる原因は、基準の違いより「中間選択肢」が無いことです。院内の共通語として、最低限の 3 区分を先に合意してください。
| 判定 | 意味(合意する中身) | 運用の約束 |
|---|---|---|
| GO | 循環・呼吸・意識が当日目標内、ライン管理体制が確保 | 予定レベルで実施。異常時は即 STOP → SBAR で報告 |
| 条件付き GO | 不安要素はあるが、リスクを下げれば実施できる | 負荷を 1 段階下げる/休息頻度を増やす/介助者を増やす |
| STOP | 症状悪化、持続する低酸素・循環不安定、重大トラブル | 中止は「安全管理の成功」。中止理由と次回修正を同形式で残す |
図表 3|30 秒申し送り( SBAR )テンプレ
口頭の質を上げる最短ルートは、様式を固定することです。SBAR の 4 行で必要情報を短く共有できます。
| 項目 | 書くこと(短文) | 記載例 |
|---|---|---|
| S(状況) | 本日の到達レベルと結果 | 「本日 L1 実施、端座位 5 分×2 で安定」 |
| B(背景) | 当日方針・注意点 | 「昇圧薬あり、増量なし。ライン 3 本」 |
| A(評価) | 反応と中止有無 | 「 SpO2 低下なし、立位はめまいで保留」 |
| R(提案) | 次回の実施条件 | 「次回は L1 継続、休息 2 回で L2 再判定」 |
記録の統一フォーマット(監査・引き継ぎ向け)
記録は長文より一貫性が重要です。最低限、開始根拠/実施レベル/反応/中止理由/次回修正の 5 点を固定してください。これだけでカンファ説明と翌日再現性が安定します。
| 固定する項目 | 書く中身(短文化) | メモ(再現性) |
|---|---|---|
| 開始根拠 | GO / 条件付き GO の理由 | 「何を見て GO にしたか」を 1 行で残す |
| 実施レベル | L0〜L3、介助量 | 同じ表現に揃える(職種で言い換えない) |
| 反応 | 症状、 SpO2、 BP / HR の要点 | “問題なし”より、判断に必要な最小値を残す |
| 中止理由 | トリガー(症状/数値/トラブル) | 中止は失敗ではなく安全管理。原因を特定できる粒度に |
| 次回修正 | 負荷 1 段階調整、休息、介助者 | 翌日「同じ中止」を繰り返さないための 1 行 |
よくある失敗(やりがち NG )
| 失敗(NG) | 起きる理由 | 回避策(型) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 役割が曖昧 | A(最終責任)が揺れて直前差戻しが増える | RACI の A を先に固定(まず 1 行だけ合意) | 朝カンファで「A と当日方針」を 1 行で残す |
| 実施前チェック不足 | ライン・介助体制の確認漏れで中断が発生 | 時系列チェックで「実施前」を固定(同じ順に確認) | 条件付き GO の理由と、下げた負荷をセットで残す |
| 中止記録が弱い | 「中止」だけで原因と修正が残らない | SBAR + 記録 5 点で同形式に統一 | 中止トリガーと、次回の 1 行修正を必ず残す |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 昇圧薬使用中の離床は誰が最終判断しますか?
最終判断( A )は医師、実施レベルの提案( R )は PT / OT、実施時の安全管理( R )は看護とリハの共同運用にすると、責任分界が明確になります。院内で RACI の A を先に合意してください。
Q2. 看護とリハで GO / STOP が割れた場合は?
中間選択肢として「条件付き GO(負荷を 1 段階下げる)」を置くと合意しやすくなります。合意できない場合は STOP とし、医師を含めて同日中に再判定します。
Q3. 実施中に中止となったとき、誰が何を記録しますか?
看護とリハで共通テンプレを使い、反応・中止理由・回復経過・次回修正を同じ形式で残します。職種別に様式が分かれると翌日の再現性が落ちます。
Q4. 休日の最少人数体制ではどう運用しますか?
実施レベルを L0〜L1 中心に限定し、チェック項目を減らさず負荷だけを下げる運用が安全です。平日に再評価して段階を上げる設計にしてください。
次の一手(運用をチームで固定する)
- 全体像:敗血症早期リハの判断フロー
- すぐ実装:呼吸評価(ベッドサイド所見)の運用
参考文献
- Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882. doi: 10.1016/S0140-6736(09)60658-9
- Conceição TMA, Gonzáles AI, Figueiredo FCXS, et al. Safety criteria to start early mobilization in intensive care units: Systematic review. Rev Bras Ter Intensiva. 2017;29(4):509-519. doi: 10.5935/0103-507X.20170076
- Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al. Clinical practice guidelines for the prevention and management of pain, agitation/sedation, delirium, immobility, and sleep disruption in adult patients in the ICU. Crit Care Med. 2018;46(9):e825-e873. doi: 10.1097/CCM.0000000000003299
- Pun BT, Balas MC, Barnes-Daly MA, et al. Caring for critically ill patients with the ABCDEF Bundle: Results of the ICU Liberation Collaborative in over 15,000 adults. Crit Care Med. 2019;47(1):3-14. doi: 10.1097/CCM.0000000000003482
- 日本集中治療医学会.「日本版敗血症診療ガイドライン 2024( J-SSCG 2024 )」正式版 公開のお知らせ( 2024 年 12 月 25 日 ).Web
- 日本版敗血症診療ガイドライン 2024( J-SSCG 2024 )本編.PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


