結論・早見表(ポイントだけ先に)
臨床で迷わない「評価→記録→次の一手」を確認する(PT キャリアガイド)
IMS ( Intensive Care Unit Mobility Scale )は、重症患者(とくに ICU )の「その日の到達できた最高の離床・移動レベル」を 0–10 の順序尺度で簡潔に記録するためのツールです。多職種で「どこまで動けたか」を共通言語にできるため、早期離床の目標設定と日々の進捗共有が速くなります。
| 要点 | 結論 | 現場でのコツ |
|---|---|---|
| 何を測る? | その日の「最高到達レベル」 | 途中で下がっても、最高値を 1 つだけ記録します。 |
| いつ測る? | 離床介入の直後(または 1 日のまとめ) | 毎日同じタイミングにするとトレンドが読みやすくなります。 |
| 何が嬉しい? | 目標が具体化し、チーム共有が早い | 「次は 1 段上げる条件」を同時にメモすると強いです。 |
IMS とは?(目的・対象・臨床での位置づけ)
IMS は、重症患者の離床・移動の到達度を、ベッド上から歩行自立まで一貫したスケールで表すために開発されました。特徴は、①評価が短時間、②特別な機器が不要、③「介助量・歩行の自立度」まで含めて段階づけできる点です。日々のリハ介入の記録に向き、研究よりも「現場の運用(申し送り・目標設定・退院先の見立て)」で価値が出やすい尺度です。
基本動作の整理(寝返り・端座位・立位・歩行)と相性がよく、離床の段階を言語化するのに役立ちます。基本動作の全体像は 基本動作ハブ にまとめています(離床レベルの“言語”をそろえると、チーム運用が一気に楽になります)。
スコアリングの考え方(迷わないための 3 ルール)
スコアリングで迷いがちなポイントは「どの場面を採用するか」「介助の扱い」「安全上の中止」です。ここでは、実務でブレを減らすために 3 つのルールに絞って整理します。
| ルール | 結論 | よくあるブレ | 対策 |
|---|---|---|---|
| 最高到達で 1 点 | その日の最高到達レベルを採用 | 「最後にできた動作」で記録してしまう | “本日最高”を先に決め、メモ欄に条件(介助・デバイス・距離)を書きます。 |
| 介助は「人」と「デバイス」を分ける | 人介助の人数と、歩行補助具の有無を分けて考える | 歩行器や IV ポールの扱いが曖昧 | 「人の介助が必要か」「補助具が必要か」を別々に確認します。 |
| 安全中止は“評価不能”ではなく“到達レベル” | 中止した時点の到達に留める | 中止= 0 点に戻す | 中止は“今日の上限”です。上がれなかった理由を次回条件に変換します。 |
IMS のレベル早見表(現場向けの言い換え付き)
ここでは原文の丸写しは避け、臨床での判断に必要な範囲で「到達レベルのイメージ」を日本語で言い換えて整理します。点数は 0 → 10 で上がるほど、ベッド上から歩行自立へ近づきます。
| 点数 | 到達レベル(言い換え) | 観察・記録の要点 | 次の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 0 | ベッド上で安静/他動中心 | 鎮静深度、循環・呼吸の安定、関節可動域の維持が中心 | 覚醒・呼吸条件が整えば「自動運動」「端座位準備」へ |
| 1 | ベッド上で能動的な動きが出る | 上肢挙上・下肢運動など“自分で動ける”の確認 | 体位変換やベッドアップで耐久性をつくる |
| 2 | 介助で椅子へ移乗(受動的移乗を含む) | 移乗の方法(リフト等)とバイタル変化 | 端座位での姿勢保持・起立準備へ |
| 3 | 端座位(ベッド端で座れる) | 座位保持時間、体幹支持、起立前のめまい | 立位練習の前に“座位耐久+足底接地”を整える |
| 4 | 立位が成立する | 起立の介助量、立位での循環反応、荷重の左右差 | 立位保持→足踏みへ(段階的に) |
| 5 | ベッド⇄椅子の能動的移乗ができる | 移乗の安定性、立ち直り、ライン管理 | その場足踏み/歩行の準備へ |
| 6 | その場で足踏みができる | 足踏み回数、立位耐久、呼吸困難感 | 短距離歩行へ(介助量は安全優先) |
| 7 | 歩行(複数名の介助が必要) | 介助者数、歩行距離、休息の要否 | 介助者数を減らす/歩行距離を伸ばす |
| 8 | 歩行( 1 名介助) | 立位・方向転換、ライン管理の自立度 | 補助具使用の整理、見守りへ移行 |
| 9 | 歩行(補助具ありで自立) | 歩行器・杖などの選択、転倒リスク | 補助具の最適化、屋内動線へ |
| 10 | 歩行(補助具なしで自立) | 歩行の安全性、耐久性、退室レベル | 生活場面(トイレ・病棟内移動)に一般化 |
評価の流れ( 60 秒で終わる運用テンプレ)
IMS は「測って終わり」だと、次回の介入につながりません。おすすめは、到達点数+条件+次回条件を 1 セットで残す運用です。
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| IMS | 本日の最高到達 | IMS = 6 |
| 条件 | 介助者数/補助具/ライン状況 | 介助 1 名、歩行器なし、酸素 2 L |
| 反応 | バイタル・症状の変化 | 立位で HR 上昇、息切れ軽度、めまいなし |
| 次回条件 | “ 1 段上げる”ための条件 | 足踏み 30 回→休息後に短距離歩行を試す |
安全管理(中止・中断の判断をチームでそろえる)
早期離床は有益である一方、リスクも伴います。IMS の運用では、「上げる条件」だけでなく「止める条件」をチームで共有しておくと、介入の再現性が上がります(施設のプロトコルが最優先です)。
| カテゴリ | サイン | 現場の次アクション |
|---|---|---|
| 循環 | 血圧低下に伴う冷汗・失神前症状、胸痛、著明な不整脈など | 姿勢を戻す/報告/次回は段階(ベッドアップ→端座位)を細かくする |
| 呼吸 | 呼吸困難の急増、 SpO2 低下が改善しない、チアノーゼなど | 呼吸条件の見直し(酸素・休息)/リスクが高ければベッド上に戻す |
| 神経・意識 | 覚醒の低下、強い不穏、指示理解が保てない | 鎮静・せん妄・疼痛の要因整理/介助者増員で安全を確保 |
| ライン・創部 | 抜去リスク、出血、ドレーン異常など | 固定確認・配置変更/ライン管理役を決めて実施 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と回避策)
IMS は簡単なぶん「運用が雑になる」「記録の質が落ちる」ことで価値が下がりやすい尺度です。詰まりどころは、だいたい同じ場所に集まります。
| よくある失敗 | 起きる理由 | 回避策(実務) |
|---|---|---|
| 毎回の採点タイミングがバラバラ | 介入時間が日々変動する | 「介入直後」か「 1 日まとめ」を施設で統一します。 |
| “歩行できた”の定義が職種で違う | 距離・介助・補助具の解釈が曖昧 | 距離( m )と介助者数を最低限セットで書きます。 |
| 点数だけ残って次回につながらない | 評価が「記録」で止まる | 「次回条件( 1 行)」を必ず併記します。 |
| 中止時に 0 点へ戻す | 安全配慮=評価不能と思い込む | 中止した時点の到達を採用し、“止めた理由”を条件に変換します。 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. IMS は「リハの量」や「運動耐容能」を直接示しますか?
直接は示しません。IMS はあくまで「その日に到達できた移動レベル(順序尺度)」です。同じ点数でも、歩行距離・休息回数・息切れの強さは違い得ます。実務では、IMS に加えて「距離( m )」「介助者数」「症状(息切れ・めまい)」「バイタル反応」を 1 行添えると、介入量と耐容能の違いが伝わります。
Q2. 看護師と PT で点数がズレます。どう整えればいいですか?
ズレの多くは「最高到達の採用」「歩行の定義」「補助具と介助の切り分け」にあります。まずは、同一患者で 2 名が同時に採点し、ズレたケースだけを 10 分で振り返る“ミニ校正”を数回行うのが最短です。日本語版の信頼性研究でも、職種間の一致が検討されています。
Q3. 日本語版の入手先はどこですか?
日本離床学会のページから、日本語版 IMS の PDF が公開されています。運用時は、配布元の最新版を参照し、院内書式へ転記する場合も表記ゆれが出ないよう注意してください。
Q4. IMS が高いほど、退院先や予後が良いと見ていいですか?
一般には関連が示されていますが、「IMS 単独」で決め打ちはできません。IMS は身体機能の一側面であり、背景(手術・疾患重症度・鎮静・せん妄・栄養など)で同じ点数の意味が変わります。妥当性研究では、身体機能や転帰との関連(予測妥当性)が検討されていますが、臨床では“複数指標の一つ”として扱うのが安全です。
参考文献
- Hodgson CL, Needham D, Haines K, et al. Feasibility and inter-rater reliability of the ICU Mobility Scale. Heart & Lung. 2014;43:19–24. doi: 10.1016/j.hrtlng.2013.11.003 / PubMed: 24373338
- Yasumura D, Katsukawa H, Matsuo R, et al. Feasibility and Inter-rater Reliability of the Japanese Version of the Intensive Care Unit Mobility Scale. Cureus. 2024;16(4):e59135. doi: 10.7759/cureus.59135 / PubMed: 38803745
- Tanaka K, Nakanishi N, Watanabe S, et al. The Construct and Predictive Validity of the Japanese Version of the Intensive Care Unit Mobility Scale. J. Clin. Med. 2025;14(16):5843. doi: 10.3390/jcm14165843
- Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese clinical practice guidelines for rehabilitation in critically ill patients 2023 ( J-ReCIP 2023 ). J Intensive Care. 2023;11:47. doi: 10.1186/s40560-023-00697-w / PubMed: 37932849
- 日本離床学会:集中治療室活動度スケール(IMS)日本語版(配布ページ) https://www.rishou.org/ims_jp
おわりに
IMS は、安全確認 → 段階離床 → 到達レベル( IMS )の記録 → 次回条件の設定までを 1 サイクルにすると、チームの意思決定が速くなります。点数の上下に一喜一憂するより、「 1 段上げる条件」を言語化して積み上げる運用が、結果的に早期離床の質を引き上げます。


