IPV(肺内パーカッション換気)とは?排痰補助を “手順” で回すコツ( PT 向け )
排痰は “技” より、準備 → 段階介入 → 回収 → 記録の順番固定が効きます。 評価 → 介入 → 再評価の流れを 3 分で復習する( #flow )
IPV( Intrapulmonary Percussive Ventilation :肺内パーカッション換気)は、気道内に “細かいパーカッション(振動)” を与えながら、換気とネブライザーを組み合わせて、痰の移動(末梢→中枢)と無気肺・換気不均等の改善を狙う排痰補助です。ALS や筋ジストロフィーなど神経筋疾患では、咳嗽力低下と疲労で “痰が動かせない/拾えない” が起きやすく、IPV は回収(吸引・喀出)まで含めた設計で使うほど安定します。
呼吸理学療法の全体像(評価 → 介入の選択)は 呼吸理学療法(コンディショニング)まとめ に統一しています(本文内インライン内部リンクは本項のみ)。
結論:IPV は「適応 → 段階介入 → 回収(吸引) → 記録」を 1 セットで固定する
IPV は “設定の正解探し” を始めると迷いやすいです。まずは、①適応(痰の停滞と回収困難)を確認し、②短いサイクルで段階的に介入し、③回収(口腔・気管吸引)をセットにして、最後に④再現のための記録を残す。この 4 点を固定すると、NIV 併用や意思疎通困難例でも “やり切れる” 形になります。
| 段階 | 目的 | 見る指標 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| ①適応確認 | 痰の停滞/無気肺/換気不均等の疑い | 呼吸音、SpO2、努力呼吸、痰性状 | 回収(吸引)までの段取りを先に完成 |
| ②準備 | 安全と再現性 | 体位、回路、加湿、口腔状態 | 中止基準と連絡先を共有 |
| ③段階介入 | 痰を “動かす” | 苦悶表情、RR、HR、同調、聴診 | 短いセット→休息→再開(やりっぱなしにしない) |
| ④回収 | 動いた痰を “拾う” | 痰量、湿性咳、呼吸音の変化 | 吸引→休息→再評価 |
| ⑤記録 | 次回の再現 | 体位・反応・回収量 | 効いた条件だけ残す(数値より条件) |
適応の目安:IPV が “刺さりやすい” 場面
IPV は「痰があるのに出せない」「無気肺っぽい」「換気が乗らない」がセットのときに使いやすいです。反対に、痰が少なく胸郭痛が強い場面では優先度が下がります。
| 所見 | IPV を考える理由 | 先に整えるもの | メモ |
|---|---|---|---|
| 湿性ラ音があるが、咳で出ない | 末梢→中枢の移動を作りやすい | 口腔ケア、加湿、吸引段取り | 回収が遅いと “苦しいだけ” になりやすい |
| 無気肺が疑わしい(聴診・画像) | 換気再配分の助けになる | 体位(上体挙上・側臥位) | 短いセットで反応を見る |
| NIV/人工呼吸器併用で痰停滞 | 自力咳が弱いほど “回収設計” が重要 | リーク、回路抵抗、加湿 | 意思疎通困難例は表情とバイタルで評価 |
中止基準:先に “やめどき” を決めておく
IPV は刺激が強く見えるため、開始前に “中止基準” を共有しておくと安全に回せます。施設プロトコルがある場合はそれを優先し、ない場合は下記をたたき台にします。
- SpO2 の持続低下、チアノーゼ、明らかな呼吸苦の増悪
- 著明な頻脈、不整脈の増悪、血圧変動が大きい
- 強い苦悶表情、強い咳き込みで回収できず疲弊が進む
- 回収不能な痰の詰まりが疑われる(吸引を優先)
準備:IPV の前に “回収の段取り” を完成させる
IPV の失敗の多くは、痰は動いたのに回収が遅れて、苦しさやアラームが増えるパターンです。開始前に、以下の段取りを “先に完成” させます。
| チェック | 目的 | OK の目安 | その場の修正 |
|---|---|---|---|
| 体位 | 換気と回収の再現 | 上体挙上で呼吸が安定 | 枕・タオルで頸部と胸郭を微調整 |
| 口腔 | 回収効率 | 乾燥が少ない | 口腔ケア/加湿の確認 |
| 吸引 | 回収の完結 | 準備済みで “すぐ拾える” | カテ・陰圧・人手を確保 |
| 回路 | 抵抗増大を避ける | 屈曲・水滴・フィルタ問題なし | 配置変更/乾燥/交換 |
実施手順:短いセットを積み重ねて “反応で調整” する
IPV は、長く連続してやるより、短いセットで反応を見て、休息と回収を挟みながら進めると安定します。意思疎通が難しいケースほど、表情(眉間・口元)と努力呼吸、SpO2/HR の推移をセットで評価します。
- 開始:短い 1 セットで反応を見る(苦悶が出ないか、呼吸が乱れないか)
- 休息:呼吸を整える時間を確保する
- 回収:痰が上がったタイミングで口腔吸引(必要なら複数回)
- 再開:同じ条件で 2〜3 セット繰り返し、呼吸音と SpO2 を再評価
ポイントは、「効かせる」より「やり切って回収まで完結」です。回収が追いつかない日は、無理にセット数を増やさず、先に口腔ケア・加湿・体位を整え直すほうが結果的に進みます。
現場の詰まりどころ:よくある失敗と対策
| 失敗 | 起きやすい原因 | 対策 | 記録に残す一言 |
|---|---|---|---|
| 苦しそうで中断 | 長くやり過ぎ、休息不足、体位不良 | 短いセット+休息、上体挙上で再開 | 「短いセットで安定」 |
| 痰は動くが回収できない | 吸引準備が遅い、乾燥・粘稠痰 | 吸引段取りを先に完成、口腔ケア・加湿確認 | 「回収のタイミング固定」 |
| 効かない(変化が薄い) | 適応が違う、痰が少ない、体位が合わない | 聴診と痰所見を再確認、体位を変えて反応を見る | 「どの体位で反応が出たか」 |
| 疲労が強い | セット数過多、回収に時間がかかる | セット数を減らし、回収優先へ切替 | 「疲労が出る前に回収」 |
記録テンプレ:次回の再現に必要な 8 点だけ
IPV は “条件” を残すほど次回がラクになります。数値を増やすより、再現できる情報を最小限で揃えます。
| 項目 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 体位 | 上体挙上 30°/右側臥位 | 換気と回収の再現 |
| 開始前の所見 | 右下肺に湿性ラ音、痰粘稠 | 適応の根拠 |
| セット構成 | 短いセット × 3、休息あり | 安全と再現性 |
| 反応 | 努力呼吸↓、SpO2 安定 | 効果判定 |
| 回収 | 口腔吸引 2 回、回収量:中 | 完結の記録 |
| 痰性状 | 白色・粘稠 | 加湿や介入の判断 |
| 中断の有無 | 苦悶で一時中断→休息後再開 | 安全管理 |
| 次回の工夫 | 吸引段取りを先に完成 | 改善サイクル |
よくある質問(FAQ)
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Q1. IPV と MI-E(排痰補助:咳介助)はどう使い分けますか?
ざっくり言うと、MI-E は “咳(呼気)で出す” を作るのが得意で、IPV は “痰を動かして集める” のが得意です。末梢に痰が残っていて回収が追いつかないときは、IPV を先に使って中枢へ寄せ、最後に回収(吸引・喀出)で完結させると進みやすいです。
Q2. 意思疎通が難しい人で、苦しさの判断は何を見ますか?
表情(眉間・口元)、努力呼吸、RR、HR、SpO2 の推移をセットで見ます。特に “眉間のしわ+呼吸の乱れ” が出たら、短いセットに戻すか、いったん休息と回収を優先します。
Q3. 「痰が動いたのに苦しそう」が起きます。
回収(吸引)が遅れると起きやすいです。開始前に吸引段取りを完成させ、短いセットごとに回収を挟むと安定します。粘稠痰が強い日は、口腔ケアと加湿の確認が効きます。
参考文献・資料
- Hassan A, et al. Clinical application of intrapulmonary percussive ventilation: A scoping review. Hong Kong Physiother J. 2024;44(1):39-56. doi: 10.1142/S1013702524500033. ( PubMed : PMID: 38577395 )
- Clini EM, et al. Intrapulmonary percussive ventilation in tracheostomized patients: a randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2006;32(12):1994-2001. doi: 10.1007/s00134-006-0427-8. ( PubMed : PMID: 17061020 )
- Reardon CC, et al. Intrapulmonary percussive ventilation vs incentive spirometry for children with neuromuscular disease. Arch Pediatr Adolesc Med. 2005;159(6):526-531. doi: 10.1001/archpedi.159.6.526. ( PubMed : PMID: 15939850 )
- Fraipont V, et al. Prospective randomised controlled study of use of intrapulmonary percussive ventilation with chest physiotherapy after cardiac surgery. Crit Care. 2004;8(Suppl 1):P15. doi: 10.1186/cc2482.
- Percussionaire. AN IPV® Operational Manual(PDF). PDF
- Percussionaire(日本). 肺内パーカッションベンチレーター(PDF). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
IPV は「中止基準の確認 → 準備(体位・吸引段取り) → 短いセットで段階介入 → 回収(吸引) → 観察記録 → 再評価」のリズムで回すほど、現場のブレが減ります。次の介入に備えて、面談準備チェックと職場評価シートを こちら からまとめて用意しておくと、判断と行動が一段ラクになります。

