在宅復帰前に LSA・NRADL をどう使うか

評価
記事内に広告が含まれています。

結論: LSA は「生活の広がり」、 NRADL は「息切れ込みの ADL 」を分けて使う

在宅復帰の見立てで迷うのは、「病棟では歩けるのに、退院後は外出が減る」「 ADL は保てても、息切れで家事が回らない」といった生活のズレです。このズレは、生活範囲(外出の広がり)呼吸負荷(息切れで崩れる ADL )を分けて評価すると、説明と支援設計が一気に具体化します。

本記事では、LSA( Life-Space Assessment )NRADL( Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire )を「退院支援の意思決定」に落とし、①使い分け②図解( 3 要素)③ 5 分フロー④記録の型⑤よくある失敗と回避までを 1 ページで固定します。

同ジャンル回遊(最短導線)

生活範囲(外出)と社会参加の評価は、ハブで全体像を固定してから読むと「どれを使うか」で迷いにくくなります。

生活範囲・社会参加の評価ハブへ

関連: ADL・IADL 評価ハブ(選び方・運用フロー)LSA の評価方法(各論)NRADL の評価方法(各論)

このページで答えること:退院後の「外出」と「家事が回るか」を 2 軸で見立てる

在宅復帰の評価は、歩行や筋力だけでは決まりません。実務では移動能力 × 環境 × 支援 × 疲労・息切れの掛け算で落ちます。ここを 1 つの尺度で無理にまとめると、退院後に「想定外」が増えがちです。

そこで本記事は、LSA=外出の広がり(どこまで/どの頻度で/どの支援で)と、NRADL=呼吸負荷で崩れる ADL(ペース・休憩・酸素条件)を分け、支援設計に必要な情報だけを最短で揃える構成にします。

図解:外出( LSA )は「呼吸負荷( NRADL )× 支援条件」で落ちやすい

LSA は「どこまで行けているか」を、到達レベル×頻度×自立度で捉えます。一方で、NRADL は「その生活を息切れ込みで回せるか」を、動作の負荷・ペース・休憩・酸素条件などの観点で整理できます。両者を並べると、退院後に外出が減る理由が「身体」だけでなく「環境・支援」も含めて見えやすくなります。

※表は横にスクロールできます。

外出が落ちる 3 要素(生活範囲 × 呼吸負荷 × 支援)の関係
要素 ここで見ること(最小セット) ズレが出る典型 対策の方向
生活範囲( LSA ) 「どこまで行くか」「週何回か」「同伴・補助具は必要か」 病棟は自立でも、退院後は外出頻度が急落 場所+頻度+支援(同伴・移動手段)で目標を固定
呼吸負荷( NRADL ) 息切れで落ちる工程(歩く・入浴・買い物など)と条件(ペース・休憩・酸素) 「できる」が「続かない」「途中休止が増える」 ペース/休憩/酸素条件を固定し、落ちる工程を先に潰す
支援(環境・資源) 交通・段差・距離・同伴者・サービス(訪問/通所) 環境が原因で外出が成立しない(体は動くのに) 移動手段・導線・サービス導入で “ 実行可能性 ” を上げる

※表は横にスクロールできます。

簡易マップ:退院後に “ 外出が落ちる ” パターンの読み分け
支援が十分(同伴・移動手段・環境が整う) 支援が不足(同伴なし・交通難・段差など)
NRADL が保てる(息切れで崩れにくい) LSA が伸びやすい:外出 “ 実行 ” を増やす設計へ LSA が伸びにくい:呼吸より “ 環境要因 ” が主因
NRADL が低い(息切れで崩れやすい) LSA は条件付き:休憩・ペース・酸素条件で成立させる LSA が落ちやすい:工程分解+支援セットを同時に組む

LSA と NRADL の違い(比較表)

まずは「見ているもの」をズラさずにそろえるのがポイントです。両者は競合ではなく、弱点を補完する関係です。

※表は横にスクロールできます。

LSA と NRADL の使い分け(退院支援・在宅復帰での実務)
観点 LSA(生活範囲) NRADL(呼吸器 ADL )
主に見るもの 外出の「広がり」+頻度+自立度(同伴・補助具) 息切れで崩れる ADL を「ペース・休憩・酸素条件」で整理
強い場面 退院後の外出・買い物・社会参加の見立て、生活目標の具体化 COPD など呼吸器疾患、労作時の息切れが強い人の ADL 設計
つまずきやすい点 地域特性(交通・地形)や支援資源で差が出る 「同じ動作」でも条件(酸素・ペース・休憩)で点が動きやすい
併用すると強い組み合わせ FAI / TMIG-IC / LSNS-6(頻度・機能・孤立リスク) 6MWT / mMRC / Borg / SpO₂(運動耐容能・自覚症状・安全)
本記事の結論 LSA で「どこへ・どの頻度で・どの支援で」を決め、NRADL で「息切れで崩れる工程」を潰して在宅運用に落とす

退院前に 5 分でそろえる:在宅復帰の見立てフロー

「尺度を回す」より先に、条件をそろえると再評価と申し送りが強くなります。退院前は、次の順に情報を集めると回りやすいです。

  1. 参照期間を固定(例:過去 4 週間)し、主観と実態のズレを減らす
  2. LSA:生活範囲(段階)+頻度+自立度(同伴/補助具)をセットで聴取
  3. NRADL:ペース・休憩・酸素条件を「同条件」で確認し、崩れる工程を特定
  4. 工程を言語化(例:買い物=移動 → 店内歩行 → 荷物保持 → 会計 → 帰宅)
  5. 支援設計を 3 点セットで決める(場所+頻度+必要支援)
  6. 再評価の予定を先に書く( 2~ 4 週後、同条件で LSA / NRADL を回す)

スコアで終わらせない:退院支援に効く「記録の型」

合計点だけだと、支援設計に必要な情報が抜けやすいです。退院支援で効くのは、条件介助が増える局面を 1 行で残すことです。

※表は横にスクロールできます。

LSA・NRADL を「退院後の運用」に変える記録テンプレ(最小セット)
区分 書くこと(例) コツ
条件 場所、補助具、同伴、時間帯、酸素流量、休憩の取り方 条件が変わると比較不能なので、まず固定して残す
結果 LSA:段階・頻度・自立度/ NRADL:息切れで落ちた工程 合計だけでなく「落ちた工程」をセットで残す
局面 荷物保持、階段、入浴、屋外歩行、屋内家事の「途中休止」 介助が増える“瞬間”を 1 行で書く
次の一手 代償(道具・サービス)/環境/教育を誰が担当するか 「誰が・どこで・どう補う」を具体化する
再評価 いつ、同条件で、同一指標を回すか 再評価まで書けると説明力が上がる

現場の詰まりどころ:よくある失敗 → 回避の手順(必須 3 段)

このゾーンは “ 読ませるゾーン ” です。まずは詰まりを最短で潰します。

よくある失敗(OK / NG 早見)

※表は横にスクロールできます。

LSA・NRADL を退院支援で使うときの詰まりどころ(OK / NG 早見)
場面 NG(起きがち) OK(こう直す) 記録ポイント
外出の見立て 「外出できるか」だけで判断する LSA で「場所+頻度+支援(同伴・補助具)」の 3 点セットにする 同伴の有無、移動手段、頻度(週何回)
息切れの解釈 NRADL を合計点だけで共有する 落ちた工程(例:買い物の店内歩行、入浴)を 1 行で添える 途中休止の局面、休憩の取り方、酸素条件
再評価 毎回条件が違い、前後差が読めない 酸素条件・ペース・補助具・同伴の有無を固定して再評価する 条件テンプレ( 1 行)をカルテに固定
支援設計 訓練だけで解決しようとする 代償(道具・サービス)/環境/教育を同時に組む 誰が何を担当するか(家族・訪問・地域資源)

回避の手順(チェック)

  • LSA:参照期間を固定し、「場所+頻度+支援」を必ずセットで聴取する
  • NRADL:ペース・休憩・酸素条件を固定し、「落ちた工程」を 1 行で残す
  • 工程分解:買い物・入浴・外来受診など、破綻しやすい活動を工程に分けて詰まりを特定する
  • 3 点セット:場所+頻度+必要支援(同伴・道具・サービス)で目標を書き、再評価を先に決める

症例:退院後に LSA は伸びたが、NRADL がボトルネックで “ 買い物 ” が詰まった例

※下記は理解用のモデルケースです(カットオフの提示ではありません)。見るべきは「点数」より、どの工程が詰まり、何を変えたら動いたかです。

※表は横にスクロールできます。

退院前→ 2 週→ 1 か月での変化( LSA / NRADL と支援設計)
時点 LSA(生活範囲) NRADL(呼吸器 ADL ) 詰まった工程 打ち手(支援設計)
退院前 院内中心。外出は家族同伴で月 1 回程度 速歩・荷物保持・連続歩行で息切れが増える 買い物:店内歩行 → 荷物保持 → 会計後の帰宅で途中休止 退院後 2 週は “ 外出を増やす ” より、工程の詰まりを特定して条件を固定
退院後 2 週 近所の外出が週 1 回へ(同伴あり) 同条件なら家事は回るが、買い物は途中休止が残る 荷物保持+帰宅(ペースが上がる局面) ペース指導(速くしない)、休憩ポイント固定、荷物は分割(宅配併用)
退院後 1 か月 受診・買い物が週 1~2 回(同伴は状況で選択) 連続歩行の余裕が改善し “ 詰まる工程 ” が減る 階段・段差(天候で悪化) 移動手段の選択肢を追加(天候不良は送迎等)、再評価条件を固定

この症例で重要なのは、LSA を “ 外出を増やす指標 ” として使いながら、NRADL で「どの工程が息切れで崩れるか」を特定し、ペース・休憩・荷物・移動手段をセットで変えた点です。点数は結果で、実務では「条件が再現できるか」と「詰まる工程が減ったか」を追うと、退院後のズレが減ります。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 退院前にまず 1 つだけ選ぶなら、 LSA と NRADL のどちらが優先ですか?

結論として、外出や受診、買い物まで見たいなら LSA息切れで ADL が崩れるなら NRADLを優先します。迷う場合は、退院後に破綻しやすい活動が「外出(範囲・頻度)」か「家の中の家事(呼吸負荷)」かを 1 つ決め、優先指標を選ぶとブレにくいです。

Q2. LSA が高くても、退院後に外出が減るのはなぜですか?

生活範囲は、移動能力だけでは決まりません。交通・段差・同伴者の都合・不安・疲労・息切れなど、環境と支援で落ちます。LSA は「どこまで行けるか」だけでなく「どの支援があれば行けるか」を同時に整理できるため、同伴の有無、移動手段、頻度をセットで聴取し、支援設計に落とすのがコツです。

Q3. NRADL はどう運用すると、退院支援で使いやすいですか?

NRADL は、条件(ペース・休憩・酸素設定)で読みが変わりやすい指標です。退院支援では、条件を固定したうえで「落ちた工程(例:入浴、買い物の店内歩行)」を 1 行で残すと、申し送りと指導が通りやすくなります。

Q4. 「できる」と「している」が混ざって、評価がぶれます

混ざりやすいので、意図的に分けるのが安全です。外出の “ 実行(頻度)” は LSA で、息切れで “ できなくなる工程 ” は NRADL で整理します。さらに工程分解(買い物=移動→店内→荷物→会計)を入れると、支援設計が具体になります。

Q5. 家族説明は、どの言い方だと伝わりますか?

おすすめは、場所+頻度+必要支援の 3 点セットです。例として「近所のスーパーは週 1 回、見守り同伴があれば可能」「入浴は途中で休憩が必要なので、手すりと動線調整を先に入れる」のように、生活行動に翻訳して共有すると合意形成が速くなります。

次の一手(記事末):意思決定の三段+サブ導線(必須)

教育体制・人員・記録文化など “ 環境要因 ” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

無料チェックシートで職場環境を見える化

チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、 PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。


参考文献

  • Baker PS, Bodner EV, Allman RM. Measuring Life-Space Mobility in Community-Dwelling Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2003;51:1610-1614. DOI: 10.1046/j.1532-5415.2003.51512.x
  • Peel C, Baker PS, Roth DL, et al. Assessing Mobility in Older Adults: The UAB Study of Aging Life-Space Assessment. Phys Ther. 2005;85(10):1008-1019. PubMed: 16180950
  • 松本友子 ほか. The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire:NRADL の反応性の検討. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2008;18(3):227-230. J-STAGE: PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)のアイコン rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました