結論: LSA は「生活範囲(外出の広がり)」、 FAI は「活動の頻度( IADL 実行)」を測ります
LSA (ライフスペースアセスメント)は「家の中〜遠方」までの生活範囲を、頻度と自立度(同伴・補助具)も含めて数値化します。一方、 FAI ( Frenchay Activities Index )は、家事・外出・余暇などの活動をどれくらい実行しているか(頻度)を捉える尺度です。
結論として、退院支援・在宅で「外出が減る理由」を整理したいなら LSA 、生活が回っているか(やれている行動)を具体で把握したいなら FAI が向きます。両者は競合ではなく、 LSA =外側(生活圏)/ FAI =内側(活動の中身)として併用すると、介入の優先順位が決まりやすくなります。
LSA と FAI の違い(比較表)
| 比較ポイント | LSA | FAI | 臨床での読み替え |
|---|---|---|---|
| 主目的 | 生活範囲(どこまで行く) | 活動頻度(何をどれくらいする) | 外出の“広がり”か、生活の“中身”か |
| アウトカムの性格 | 到達範囲 × 頻度 × 自立度 | 活動項目ごとの頻度 | 移動+支援の影響が強いか、行動の実行が見えるか |
| 介入への繋がり | 移動手段・同伴・環境調整に直結 | できていない活動の原因分解に強い | LSA は“行ける仕組み”、 FAI は“やれる行動”を作る |
| 代表的な使いどころ | 退院後の外出低下、社会参加の減少 | 家事・買い物・余暇の再開状況 | 外出の入口= LSA / 生活の再構築= FAI |
| 注意点 | 地域特性(交通・地形)で差が出る | 採点法が複数(施設内で統一が必要) | 縦断評価は「同じ条件」で比べる |
使い分けのコツ:迷ったら「外出の壁」か「生活の中身」かで決めます
どちらを先に選ぶかは、詰まりが移動・外出にあるのか、IADL の実行にあるのかで決めるのが早いです。病棟で自立していても、退院後に外出が減るケースは“身体”より“仕組み(同伴・交通・不安)”が落ちていることが多く、まず LSA が効きます。
一方、外出はできるのに「家事が回らない」「買い物はできるが料理が戻らない」など、生活のタスクが噛み合わない場合は FAI で“何がどれくらいできていないか”を並べると、原因(移動・段差・疲労・認知・支援)を分解しやすくなります。
臨床での使い方:併用すると介入の優先順位が決まります
おすすめは、① LSA で生活範囲(どこまで)を押さえる → ② FAI で活動の中身(何を)を確認 → ③「支援で解ける問題」と「訓練で狙う問題」に分ける、の順番です。これで「歩行は良いのに外出が少ない」「家事はできそうなのに実行されない」といったズレを、チームで共有しやすい形にできます。
LSA の実施と読み方は、まずこちらで全体像を押さえると早いです: LSA(ライフスペースアセスメント)の評価方法。
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
| 失敗パターン | 起きること | 原因 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 「行ける/行けない」だけで終える | 退院後の外出頻度が読めない | 頻度・自立度・同伴を拾えていない | LSA は“場所+頻度+自立度(同伴・補助具)”をセットで記録する |
| FAI の採点法が混在する | 点数が比較できない | 記録用紙・スコア範囲が統一されていない | 施設・チームで採点法を固定し、縦断は同一様式で行う |
| 点数の上下だけを追う | 介入が具体化しない | 落ちた項目の“理由”を掘っていない | 「身体/環境/支援/心理」で理由を分類し、次の一手を決める |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 退院前に 1 つだけ選ぶなら、 LSA と FAI のどちらが無難ですか?
迷う場合は LSA が無難です。退院後に起きやすい「外出が減る」「社会参加が戻らない」という問題は、移動手段・同伴・不安・環境で一気に落ちやすく、生活範囲を押さえると支援調整まで繋げやすいからです。
Q2. LSA は上がったのに、生活はあまり変わりません。なぜですか?
生活範囲(行ける場所)が広がっても、活動の中身(何をするか)が増えていないと、生活の実感は変わりにくいです。この場合は、活動項目の頻度を点検し、できていない行動の“理由”を分解すると次の介入が見えます。
Q3. 併用するなら、どちらを先に取ればいいですか?
実務では、外出の壁があるかを先に見たいので LSA → FAI がおすすめです。まず“行ける仕組み”を整え、その上で“やれる行動”を増やす方が、患者さんの成功体験が作りやすくなります。
おわりに
LSA と FAI は、目的(生活範囲か活動頻度か)→ 聴取 → 記録 → 小さな介入 → 再評価のリズムで回すと、退院後の変化が「行動」と「数字」でつながります。外出と生活の両方を整えるために、 LSA を“外側”、 FAI を“内側”として使い分けるのが実務では近道です。
参考文献
- Baker PS, Bodner EV, Allman RM. Measuring life-space mobility in community-dwelling older adults. J Am Geriatr Soc. 2003;51(11):1610-1614. doi: 10.1046/j.1532-5415.2003.51512.x. PubMed: 14687391
- Holbrook M, Skilbeck CE. An activities index for use with stroke patients. Age Ageing. 1983;12(2):166-170. doi: 10.1093/ageing/12.2.166. PubMed: 6869117
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


