MSA-P と MSA-C の違い【比較】理学療法評価の優先順位と初回 5 分フロー
多系統萎縮症( MSA )は、同じ診断名でもパーキンソニズム優位( MSA-P )と小脳失調優位( MSA-C )で、初回に拾うべきリスクと評価の順番が変わります。結論は、 MSA-P は動作破綻(転倒の起点)を先に、 MSA-C は安全域( OH ・嚥下を含む)を先に固めることです。
本記事は「症状の説明」ではなく、初回 5 分で迷わない比較に絞って整理します。全体設計(病期別の再評価、スケール配置)から確認したい場合は、多系統萎縮症の理学療法評価(全体設計)を先に参照してください。
MSA-P と MSA-C の違いは「症状名」より「評価の優先順位」に出ます
MSA-P は、歩行開始・方向転換・狭所で動作が詰まりやすく、転倒が起きる“場面”を先に特定する必要があります。 MSA-C は失調性のふらつきに加え、自律神経症状( OH )や疲労、嚥下が重なりやすく、離床・歩行練習の設計で安全域の見立てが重要になります。
臨床で有効なのは、型をラベル化することよりも、いまの主訴とリスクを最短で拾う順番を固定することです。次の初回 5 分フローをテンプレ化すると、評価の漏れと手戻りを減らせます。
初回 5 分フロー: MSA-P / MSA-C 共通の最短手順
最初の 5 分は「精密」より「安全と方向づけ」を優先します。数値を増やすより、同一条件で再評価できる固定化(姿位・補助具・靴・時間帯)を先に整える方が、後の解釈が安定します。
- 赤旗チェック( 30 秒 ):前失神/失神、急な呼吸苦、湿性嗄声・むせ増悪、強いふらつきの急変
- 起立・歩行の安全域( 90 秒 ):起立時の気分不良、ふらつきの質、破綻点(開始/方向転換/狭所/停止)
- 型のあたり( 60 秒 ):パーキンソニズム優位(すくみ・小刻み・固縮)か、失調優位(測定過大・制御困難)か
- 自律神経・嚥下( 60 秒 ): OH の有無、むせ・湿性嗄声、食後や会話後の疲労で崩れるか
- 条件固定( 60 秒 ):姿位、補助具、靴・装具、評価時刻(内服後など)を記録
早見: MSA-P と MSA-C の評価優先順位【比較表】
スマホでは横にスクロールしてご覧ください。
| 観点 | MSA-P (パーキンソニズム優位) | MSA-C (小脳失調優位) | 初回の優先 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|---|
| 転倒リスク | 狭所・方向転換・開始で破綻しやすい | ふらつき+測定過大で予測が難しい | MSA-P :破綻点同定 / MSA-C :安全域同定 | 同一課題(起立→ 3 m →方向転換→着座)で反復 |
| 歩行の質 | すくみ/小刻み/すり足/姿勢反射低下 | 失調性歩行(揺れ・リズム不整) | MSA-P :開始と方向転換 / MSA-C :直進と視線変化・二重課題 | 補助具・靴・装具・速度条件を固定 |
| 上肢機能 | 動作緩慢・固縮で ADL 低下が目立つ | 測定過大・協調性低下が目立つ | 主訴に直結する課題(更衣・食事・筆記)を 1 つ固定 | 可否ではなく破綻理由を短文で残す |
| 自律神経( OH ) | 合併あり。強いと離床が止まる | 離床・歩行練習の制約になりやすい | MSA-C で特に優先(起立後の気分不良・前失神) | 姿位変換手順と症状出現タイミングをセット記録 |
| 嚥下 | むせ・湿性嗄声で負荷設計が変わる | 疲労と姿勢不安定が絡みやすい | 赤旗(むせ増悪・湿性嗄声・食形態低下)は型を問わず最優先 | 日内変動を 1 行で残す |
| 経時変化 | 動作の硬さ・すくみで活動量が落ちる | 失調と安全管理で活動範囲が狭くなる | できる課題を増やすより、できる条件を広げる | 同一条件での再評価を最優先 |
現場の詰まりどころ
実務で止まりやすいのは、「型判定」そのものより、混在症状のどれを先に扱うかが曖昧なときです。先に読む場所を固定しておくと、初回判断が速くなります。
- よくある失敗(混在症状の見落とし)を先に確認する
- 条件固定チェックで再評価のブレを減らす
- 関連:MSA 評価の全体設計(総論)で病期ごとの配置を確認する
スケールは「診断」ではなく「経時変化の共有」に使う
MSA は運動・失調・自律神経など多面的で、 1 つの点数だけで全体を説明しきれません。だからこそ、スケールは診断の代替ではなく、チームで経時変化を共有する共通言語として使うのが実務的です。
- UMSARS :重症度・進行を多面的に追う軸(同一条件での反復が前提)
- SARA :失調の経時比較に有用で、 MSA-C 優位の変化整理に向く
よくある失敗: MSA-P / MSA-C で“混ざり”を見落とす
失敗は「型の違い」より「混在の見落とし」で起きます。同一患者でも、パーキンソニズム・失調・自律神経が日によって前面化すると、評価が毎回ずれて見えます。
- ① すくみ vs 失調の見誤り:開始の破綻が「足が出ない」のか「出るが制御できない」のかを同一課題で観察
- ② OH の取りこぼし:「ふらつきが強い日」は起立時前失神が主因のことがあるため、症状の有無を毎回 1 行記録
- ③ 疲労と嚥下の連鎖:食事・会話後の姿勢保持低下を拾うと負荷設計が変わる
再評価でブレない「条件固定」チェックリスト
MSA は症状の揺れが出やすいため、評価は条件固定が最優先です。数値の増減より、同じ条件で測れているかを最初に確認してください。
- 評価時刻(内服後/食後/リハ前後)
- 姿位(座位/立位)、補助具、靴・装具
- 介助量の定義(手添え/体幹支持/見守り)
- 歩行課題(直線/方向転換/二重課題)の固定
- 症状メモ(前失神・むせ・呼吸違和感)を 1 行で残す
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
UMSARS と SARA はどちらを先に取るべきですか?
目的で決めます。 MSA 全体の経時変化共有を優先するなら UMSARS 、失調の変化追跡を優先するなら SARA を先に使います。いずれも前提は、同一条件で再評価できるように条件固定を先に整えることです。
MSA-P と PD(パーキンソン病)は理学療法評価で見分けられますか?
理学療法評価の主目的は診断確定ではなく、リスク同定と介入の方向づけです。鑑別を意識した情報共有は有用ですが、診断判断は主治医・チーム方針を優先します。
MSA-C と SCD は、リハ実務では何を分けて見ればよいですか?
失調の見え方は似ることがありますが、 MSA では自律神経症状や嚥下が絡みやすく、安全域の設計が治療計画に直結します。失調の重症度だけでなく安全管理要素を同時に確認するのが要点です。
次の一手
- 運用を整える:多系統萎縮症( MSA )の理学療法評価まとめ(全体像)
- 共有の型を作る:脊髄小脳変性症( SCD )の評価まとめ(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Wenning GK, et al. The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy. Mov Disord. 2022. doi: 10.1002/mds.29005(PubMed).
- Wenning GK, et al. Development and validation of the Unified Multiple System Atrophy Rating Scale (UMSARS). Mov Disord. 2004;19(12):1391-1402. doi: 10.1002/mds.20255(PubMed).
- Schmitz-Hübsch T, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia ( SARA ). Neurology. 2006. PubMed.
- 日本神経学会. 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン 2018. 南江堂. PDF.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


