Nine Hole Peg Test(NHPT)とPurdue Pegboardによる巧緻性評価ガイド

評価
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上肢巧緻性:NHPT & Purdue Pegboard を“最短で”実装

本記事は、作業療法で頻用される Nine Hole Peg Test(NHPT/9 ホールペグテスト)Purdue Pegboard Test(パーデューペグボード) を、準備物 → 手順 → 計測・採点 → 記録 → よくある失敗 → 代替案まで 1 ページで運用できるように整理しました。NHPT 評価と Purdue Pegboard による巧緻性のパフォーマンスを、訓練前後や左右差の把握にすぐ使える形に落とし込むことをねらいとしています。配布物(A4・印刷ボタン付き・自動集計)は文末の配布物セクションから入手できます。評価の位置づけや他検査との使い分けは 評価ハブ を参照してください。

作業療法の働き方ガイド|最短導線(#flow)

概要と適応

NHPT は 9 個のペグを挿入し、全て抜去するまでの所要時間(秒)で「どれだけ速く・正確に手指操作ができるか」という巧緻性のパフォーマンスを評価します。用具が簡便で、左右別の比較や訓練前後の変化把握に適します。Purdue Pegboard Test右手・左手(各 30 秒)両手(30 秒)アセンブリ(60 秒)の 4 パートで作業量(個・点)を記録し、両手協調や系列動作も含めた巧緻性評価が可能です。復職支援や作業選定では、実際の作業課題と組み合わせて解釈することが重要です。

準備物とセットアップ

事前チェックリスト(A=必須/B=推奨)
項目 NHPT Purdue 要点
用具 A:9 ホールボード+ペグ 9 本 A:ボード+ペグ、(アセンブリ用)コレット等 欠品・破損・穴径の差を確認(再現性の源泉)
姿勢/高さ A A 座位・前腕支持。肘角度約 90°、ボードは胸中央〜やや利き手側
教示スクリプト A A 後述スクリプトを施設標準に固定(測定者間再現性)
ストップウォッチ A B NHPT=秒計必須。Purdue はタイムアップ合図に使用
記録様式 A A 配布物を使用(HTML=印刷+自動計算、Excel=集計済)

NHPT:手順・計測・採点

  1. 練習(任意):1 試行、非計時で動作理解を確認。
  2. 右→左の順各 2–3 試行。休息は 30–60 秒。
  3. 開始合図:「用意、始め!」同時に計時。最後のペグ抜去で停止。
  4. 無効試行:大きな落下・離席・測定トラブルは「無効」にし、平均から除外。
  5. 記録:左右別に有効試行の平均(s)最良(最小)を残す。
NHPT 記入例(サンプル値)
試行1 試行2 試行3 有効平均 最良
21.3 20.9 (無効) 21.1 20.9
24.6 23.8 24.1 24.2 23.8

解釈メモ:値は小さいほど良好。経時変化(介入前後)・左右差・既往/罹患側の把握を重視します。Nine Hole Peg Test のカットオフや基準値は文献差があるため、施設内でのベースライン蓄積が有用です。

Purdue Pegboard:構成・手順・採点

  1. 片手(右・左):各 30 秒挿入できた個数を記録(落下は不計上)。
  2. 両手30 秒、左右同時操作の合計個数
  3. アセンブリ60 秒で指定順序の完成ユニット数
  4. 各パートは2–3 回実施し、合計/平均総得点(参考)を算出。
Purdue 記入例(サンプル値)
テスト 試行1 試行2 試行3 合計 平均
右手(30s) 14 15 14 43 14.3
左手(30s) 12 13 12 37 12.3
両手(30s) 13 14 13 40 13.3
アセンブリ(60s) 28 29 57 28.5

※ 総得点(参考)=右+左+両手+アセンブリの合計。

測定者用スクリプト(読み上げ例)

標準教示スクリプト(施設基準に合わせ最小限編集)
場面 文言
NHPT:教示 「合図で始めます。できるだけ速く、正確に行ってください。最後のペグを抜き終えたところで止めます。」
Purdue:片手/両手 「合図で開始し、30 秒間続けます。入った個数を数えます。落とした分は数えません。」
Purdue:アセンブリ 「60 秒間、見本の順序で組み立ててください。完成ユニット数を数えます。」

よくある失敗と対策

品質管理(NG/対策/記録ポイント)
NG 対策 記録ポイント
ボード位置が毎回違う 肘 90°・胸中央基準で固定、写真で再現 ボード位置・椅子高さ
合図前に開始/ストップ遅れ カウントダウン→「始め!」で統一/音つきタイマー 測定者・タイマー種別
落下多発で無効が曖昧 院内ルール化(例:完全落下=無効) 無効理由・再試行の有無
疲労・疼痛で後半低下 休息 30–60 秒、疼痛 4/10 超で中止検討 休息時間・疼痛 NRS

安全・中止基準(目安)

禁忌・中止の目安(成人・外来/病棟一般)
状況 基準例 対応
強い疼痛・しびれ出現 NRS ≥ 7 または新規悪化 即時中止・原因評価・主治医連絡
創部/装具トラブル 出血・縫合不全・装具逸脱 圧迫・固定の再評価、日程変更
循環動態不安定 収縮期 BP < 90 または HR > 130 リスク管理優先、医療者合議

代替案(在宅・訪問の簡易アセスメント)

  • NHPT 代替:穴径が近いボード+同径ペグを用意(非公式)。同一セットで経時比較に限定。
  • Purdue 代替:在庫が無ければ 両手 30 秒のピンセット作業数など、タスク同等性を担保して経時比較。
  • 復職支援:職務タスクに近い 模擬作業も補助評価として併用。

現場の詰まりどころ

現場でよく詰まるポイントと整理の視点
詰まりポイント 背景 整理の視点
「どのくらいの時間・個数なら良好か」が分からない 年齢・利き手・疾患で巧緻性が大きく違う 文献値+施設の蓄積データで「自施設リファレンス」をつくる
左右差の解釈が曖昧 利き手差と麻痺側・疼痛が混在しやすい 利き手・罹患側・疼痛の有無をセットで記録し、日常課題と照合する
疲労や注意低下で後半の成績がばらつく 試行数や休息時間が測定者ごとにばらつきやすい 試行数・順序・休息をプロトコル化し、詳しくは FAQ「左右の順序や休息は?」で補う
「結果をどうリハ目標に落とし込むか」が難しい 数値だけ見ても職業・生活課題との結び付きが弱い NHPT/Purdue の結果を「書字・ボタン掛け・職務タスク」など具体的 ADL/作業に翻訳して記録する

FAQ

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。

NHPT は練習試行を入れるべき?

初回は理解不足で成績がぶれやすいので、非計時の練習 1 回を推奨します。本試行の前に 1 回だけ練習を入れる手順を、施設の標準化文書に明記しておくと再現性が安定します。

左右の順序や休息は?

原則 右→左、各 2–3 試行、休息 30–60 秒など、施設で固定します。交互に行う場合は「左右差に影響する可能性あり」と記録に添えると解釈のブレを減らせます。

Purdue の総得点はどう使う?

右・左・両手・アセンブリの合計(参考)は全体傾向の把握に有用ですが、意思決定は各パートの内訳と併せて行うのが原則です。特に復職支援では、職務タスクに近いパートを重視して解釈します。

MDC(最小検出変化)はどう扱う?

文献値を参考にしつつ、施設データで同一セッティング同測定者を原則に複数回の再検を行い、ばらつきを把握します。その上で「これ以上の変化なら改善とみなす」という院内閾値を決めておくと便利です。

左右差の臨床解釈は?

利き手差・罹患側・疼痛の有無をセットで解釈し、書字・ボタン掛け・携帯操作・調理などの日常課題にどう現れているかを併記します。数値だけでなく、観察メモを残すことで「何に困っている巧緻性か」が共有しやすくなります。

配布物(記録用紙ダウンロード)

評価の記録・印刷に使えるフォームです。どれも A4・日本語表記で、HTML 版は印刷ボタン/自動集計付きです。

NHPT/Purdue Pegboard の配布物一覧(2025年版・A4)
名称 形式 主な機能 リンク
NHPT(Nine-Hole Peg Test)記録用紙 HTML(A4) 左右×3 試行、無効チェックで平均から除外、自動「平均/最良」算出、印刷ボタン NHPT 記録用紙(HTML)
Purdue Pegboard 記録用紙 HTML(A4) 片手/両手(30s)・アセンブリ(60s)、合計/平均の自動集計、印刷ボタン Purdue 記録用紙(HTML)
NHPT 記録用紙 Excel 左右×3 試行の入力枠(必要に応じて式追加で拡張可) NHPT 記録用紙(Excel)
Purdue Pegboard 記録用紙 Excel 右/左/両手の合計・平均、アセンブリ合計、総得点(参考)を自動算出 Purdue 記録用紙(Excel)

※ GTM でダウンロード計測をする場合は、クリックトリガを Click Element matches CSS selector [data-dl] に設定し、変数 Click Element - Attribute data-dlevent_label にマップしてください。

おわりに

NHPT 評価と Purdue Pegboard Test は、上肢巧緻性を「見た目の印象」から一歩進めて、時間・個数という客観指標で共有できるようにするツールです。臨床のリズムとしては、安全確認 → 標準化されたセッティング → Nine Hole Peg Test/Purdue の実施 → 日常課題・職務タスクへの翻訳 → 再評価という流れをチームで共通言語にしておくと、カンファレンスでも話し合いが進めやすくなります。

一方で、巧緻性の評価結果だけで介入内容やゴールが決まるわけではなく、既往歴・認知機能・視覚/感覚障害・環境要因などとの組み合わせが重要です。本記事のプロトコルや記録用紙をベースにしつつ、各施設・各領域の文脈に合わせて少しずつチューニングを重ねていくことで、「自分たちらしい巧緻性評価」が育っていきます。

参考文献

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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