脳卒中の姿勢・バランス評価|PASS・BBS・TUGなどの選び方

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脳卒中のバランス評価は「能力 × 知りたいこと」で選ぶ

脳卒中の姿勢・バランス評価は、急性期だからPASS、歩けるようになったらBBS、その後はMini-BESTestという順番で一律に決めるものではありません。まず「座位・立位・歩行のどこまで安全に評価できるか」を確認し、そのうえで「姿勢変換、体幹、立位バランス、歩行自立度、歩行速度、複雑歩行の何を知りたいか」から尺度を選びます。

たとえば、起居や座位を含めて姿勢制御を追うならPASS、体幹機能を詳しく見るならTIS、立位バランスならBBSやMini-BESTest、歩行自立度ならFAC、機能的移動ならTUG、歩行速度なら10mWT、複雑な歩行ならDGI/FGAが候補になります。本記事では、PT・OTが脳卒中患者を評価するときに「次に何を測るか」を決めるための判断境界に絞って整理します。

脳卒中評価を全体から整理したい方へ

脳卒中評価の全体像を見る

まず確認する|座位・立位・歩行のどこまで評価できるか

尺度を選ぶ前に確認したいのは病期だけではなく、現在どこまで安全に課題を実施できるかです。同じ回復期でも、端座位に介助が必要な人と屋外歩行まで自立している人では、必要な評価は大きく異なります。

実務では、まず「座位まで」「立位まで」「歩行可能」のどこにいるかを確認すると整理しやすくなります。

  1. 座位まで:起居・座位・姿勢変換や体幹機能を評価する
  2. 立位まで:立ち上がり・移乗・立位での姿勢制御を評価する
  3. 歩行可能:歩行自立度・速度・方向転換・環境適応など、知りたい要素ごとに評価を分ける

この考え方では、患者さんが改善したら機械的に尺度を「卒業」するわけではありません。歩行可能になったあとでも、起居動作を含む姿勢制御の変化を追いたければPASSを継続できます。反対に、発症からの期間が短くても、立位・歩行課題を安全に実施できるのであれば、目的に応じてBBSや歩行評価を選択できます。

脳卒中で使うバランス・移動評価の選び方【早見表】

脳卒中の評価では、尺度名より先に「今回の評価で何を判断したいか」を決めます。脳卒中後のバランス・移動評価に関する国際コンセンサスでも、座位、立位、歩行自立度、歩行速度、複雑歩行など、評価したい構成概念ごとに尺度が整理されています。

脳卒中の姿勢・バランス・移動評価:目的別の選び方
知りたいこと 主な評価候補 選ぶときのポイント
起居・姿勢保持・姿勢変換 PASS 臥位・座位・立位を含め、低い能力帯から姿勢制御を追いたい
座位・体幹機能 TIS 静的・動的座位バランスや体幹の協調性を詳しく確認したい
立位バランス BBS 立ち上がり・立位・移乗・リーチなどを含む機能的バランスを広く見たい
動的姿勢制御 Mini-BESTest 予測的・反応的姿勢制御、感覚条件、動的歩行などを含めて見たい
歩行自立度 FAC 歩行時にどの程度の人的介助・見守りが必要かを分類したい
基本的な機能的移動 TUG 起立・歩行・方向転換・着座を含む一連の移動能力を時間で追いたい
歩行速度 10mWT 歩行速度をm/sで定量化し、同じ条件で経時変化を追いたい
複雑な歩行 DGI / FGA 速度変更、頭部運動、方向転換、障害物など条件変化への適応を見たい
lateropulsion SCP / BLS / 4PPS 側方への偏倚や押す行動が通常のバランス評価だけでは説明しにくい
脳卒中の姿勢・バランス評価を評価可能な能力と目的から選ぶ図
図:脳卒中の姿勢・バランス評価は、固定的な順番ではなく「今どこまで評価できるか」と「何を知りたいか」から選びます。

重要なのは、これらを全例にセットで実施しないことです。「歩けるからTUGも10mWTもFGAも取る」のではなく、歩行自立度を知りたいのか、速度を追いたいのか、複雑な歩行での破綻を知りたいのかを分けて選びます。

起居・座位・姿勢変換が難しい場合|PASSとTISを分ける

座位や立ち上がりに介助が残る場合は、PASSとTISのどちらが上位かではなく、姿勢制御全体を見るのか、体幹機能を詳しく見るのかで選びます。

PASSとTISの違い
観点 PASS TIS
主な目的 脳卒中後の姿勢制御 脳卒中後の体幹機能
主な課題 姿勢保持と姿勢変換 静的・動的座位バランス、体幹の協調性
向いている問い 起居から立位まで含めて、姿勢制御がどこで止まっているか 座位は可能だが、体幹制御のどの要素に問題があるか

PASSは脳卒中後の姿勢制御を評価するために開発され、姿勢を保つ課題だけでなく姿勢を変える課題も含みます。そのため、起き上がり・座位・立ち上がりを含む段階から経過を追いたい場合に使いやすい尺度です。

一方、TIS(Trunk Impairment Scale)は体幹機能に焦点を当て、静的座位バランス、動的座位バランス、体幹の協調性を評価します。端座位の可否だけでは分からない体幹の選択的な動きまで確認したい場合に候補になります。なお、TISには異なる版があるため、研究値や経過を比較するときは使用した版を混同しないことが重要です。

立位バランスを見る場合|BBSとMini-BESTestは目的で選ぶ

立位課題を安全に実施できるようになったら、BBSやMini-BESTestが候補になります。ただし、「まずBBS、その次にMini-BESTest」と固定する必要はありません。評価したい内容と患者さんの能力から選択します。

BBSは、立ち上がり・移乗・立位保持・リーチなどを含む機能的バランスを広く把握しやすい尺度です。一方、Mini-BESTestは、予測的姿勢調整、反応的姿勢制御、感覚条件、動的歩行など、より動的な姿勢制御を複数の側面から確認します。

BBSとMini-BESTestを選ぶときの判断
臨床場面 候補 考え方
立ち上がり・移乗・立位を含めて広く見たい BBS 基本的な機能的バランスの全体像を整理する
立位・歩行能力が比較的高いが不安定さが残る Mini-BESTest より難しい動的姿勢制御で破綻する条件を探す
BBSが上限に近いのに生活では不安定 Mini-BESTestなどを検討 外乱への反応や複雑な動的課題が残っていないか確認する

脳卒中患者では、対象者の機能レベルによって尺度の床効果・天井効果が問題になることがあります。また、独立歩行、地域での歩行、転倒など、何を判別・予測したいかによってBBSとMini-BESTestの診断・予測精度は異なります。したがって、「どちらが常に優れているか」ではなく、何を知りたいかで選ぶことが重要です。

BBSとMini-BESTestの違いをさらに詳しく確認したい場合は、BBSとMini-BESTestの違い・使い分けで整理しています。

歩ける場合|FAC・TUG・10mWT・DGI/FGAを同じ目的で使わない

歩行が可能になると評価の選択肢は増えますが、ここでも「歩行評価」という一つの箱にまとめないことが重要です。FAC・TUG・10mWT・DGI/FGAは、それぞれ異なる問いに答えます。

FAC|歩行がどの程度自立しているか

FAC(Functional Ambulation Category)は、歩行距離や速度ではなく、歩行時に必要な人的介助・見守りの程度から歩行自立度を分類します。「歩けるか」だけでなく、人の手をどの程度必要としているかをチームで共有したいときに向いています。

脳卒中後のバランス・移動評価に関する国際コンセンサスでは、歩行自立度の評価としてFACが推奨されています。また、標準化された研究評価では、FACが3未満の場合に10mWT・6MWT・DGIなどの歩行課題を「not testable」と扱い、立位評価を追加する考え方が示されています。

ただし、これは個々の臨床でFAC 2なら一切歩行評価をしてはいけない、という意味ではありません。研究データを標準化するための取り扱いであり、臨床では安全性・介助量・評価目的を確認したうえで実施可否を判断します。実務上は、強い身体介助が必要な段階で複雑な歩行評価を無理に優先しないための判断材料になります。

TUG|起立から方向転換・着座までの機能的移動

TUG(Timed Up and Go Test)は、椅子から立ち上がり、歩き、方向転換して戻り、着座するまでを一連の課題として評価します。歩行可能な脳卒中患者では、基本的な機能的移動能力を短時間で捉える評価として利用されています。

一方、TUGは「バランスだけ」を測っているわけではありません。立ち上がり能力、歩行速度、方向転換、着座など複数の要素が所要時間に影響します。そのため、TUGが遅いという結果だけから「立位バランスが悪い」と決めず、一連の動作のどこで時間を要したのかを観察します。

10mWT|歩行速度を数値化したい

10mWT(10 Meter Walk Test)は、一定区間の歩行時間から歩行速度を算出します。知りたいことが「どの程度自立しているか」ではなく、どのくらいの速度で歩けるか、再評価で速度がどう変化したかであれば、FACやTUGとは別の役割があります。

再評価では、計測区間、至適歩行か最大歩行か、装具・補助具、介助条件などをそろえます。条件が異なる値をそのまま前回値と比較すると、機能改善なのか測定条件の違いなのか判断しにくくなります。

DGI / FGA|歩行中の条件変化で崩れる場合

平地では歩けても、速度変更、頭部運動、方向転換、障害物などで不安定になる場合はDGI(Dynamic Gait Index)やFGA(Functional Gait Assessment)が候補になります。

DGIとFGAはいずれも複雑な歩行課題を含みます。脳卒中患者を対象にした研究でも、歩行中の条件変化への適応を評価する尺度として妥当性・信頼性などが検討されています。FGAはDGIを発展させた尺度で、高い歩行能力を持つ患者でも課題を捉えやすい場合があります。

したがって、「生活期になったらFGA」という病期による切り替えではなく、単純歩行では見えにくい破綻条件を評価する必要があるかで判断します。なお、歩行持久力を知りたいのであれば、DGI/FGAではなく6MWTなど別の評価が問いに合います。

lateropulsionが目立つ場合|通常のバランス尺度だけで終わらせない

脳卒中では、BBSやPASSの点数だけでは整理しにくい姿勢偏倚がみられることがあります。特に、身体が一側へ傾く、非麻痺側上下肢で支持面を押す、正中方向へ修正すると抵抗するといった所見が目立つ場合は、lateropulsion/Pusher behaviorを別の評価軸として確認します。

lateropulsionが疑われる場合の主な評価候補
尺度 主な特徴 選びやすい場面
SCP 座位・立位でPusher behaviorの構成要素を確認する 自発姿勢、押す行動、受動修正への抵抗を分けて整理したい
BLS 寝返りから歩行まで複数の機能的場面を見る lateropulsionがどの動作で残っているか追いたい
4PPS 4段階でlateropulsionの重症度を簡潔に表す 短時間でlateropulsionの程度を把握したい

これらはBBSやPASSの代わりではなく、通常のバランス評価だけでは説明しにくい脳卒中特有の姿勢偏倚を補足する評価です。各尺度の違いは、SCP・BLS・4PPSの違いと使い分けで詳しく整理しています。

評価結果と生活場面が合わないときの次の一手

脳卒中のバランス評価で重要なのは、合計点を取ったあとです。尺度上は改善しているのに病棟や屋外では不安定という場合、同じ評価を繰り返すだけでは残存課題が見えないことがあります。

評価結果と実生活が合わない場合の考え方
現在の結果 残っている問題 次に考える評価
PASSは改善した 立位・移乗で不安定 BBSなどで立位バランスを詳しく確認する
BBSは高得点 外乱・方向転換・二重課題で崩れる Mini-BESTestやDGI/FGAを検討する
FACは改善した 歩行速度が遅い 10mWTで速度を定量化する
TUGは改善した 屋外や頭部運動時に不安定 DGI/FGAなど複雑歩行を確認する
通常のバランス評価だけでは説明しにくい 一側への偏倚・押す行動が残る SCP・BLS・4PPSなどを追加する

このように、評価を追加する基準は「点数が低いから」ではなく、現在使っている尺度では答えられない臨床上の問いが残ったかです。尺度を増やす前に、まず今の尺度で何が分かり、何が分からないのかを整理します。

カットオフだけで評価尺度を選ばない

脳卒中のバランス評価では、「BBSが何点なら歩行自立か」「Mini-BESTestが何点なら転倒リスクが高いか」といったカットオフが検索されます。しかし、1つの数値をすべての脳卒中患者へ共通して当てはめるのは避けます。

2026年に公表されたBBSとMini-BESTestの系統的レビュー・メタ解析では、独立歩行、地域での歩行、転倒など複数のアウトカムが検討されており、対象集団や判定したいアウトカムによって診断・予測精度が異なることが示されています。また、収載研究の多くではバイアスリスクも指摘されています。

そのため、カットオフを見るときは少なくとも次の4点をセットで確認します。

  • 対象が急性期・回復期・生活期のどこに近いか
  • 対象者の歩行能力・機能レベルが近いか
  • 何を判別するカットオフなのか(歩行自立、地域歩行、転倒など)
  • 装具・補助具・介助など測定条件が研究と大きく異ならないか

カットオフは評価結果を解釈する材料の1つです。最終的な移動可否や転倒リスクは、合計点だけではなく、実際の動作、認知・注意、疲労、環境、補助具、病棟での実績なども合わせて判断します。

迷ったときは3問で次の評価を決める

尺度が多くて迷う場合は、病期から考えるより次の3問で絞り込む方が実務的です。

  1. 今どこまで安全に評価できるか?
    座位まで、立位まで、歩行までのどこかを確認します。
  2. 今回、何を知りたいか?
    姿勢変換、体幹、立位バランス、歩行自立度、速度、機能的移動、複雑歩行などに分けます。
  3. 今の尺度で答えられない問いが残っているか?
    残っていなければ評価を増やさず、残っていればその問いに合う尺度を追加します。

臨床での基本形:
評価可能性を確認 → 知りたいことを1つ決める → 尺度を選ぶ → 合計点だけでなく失点・破綻した課題を見る → 生活場面と照合 → 必要なときだけ別尺度を追加する

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 脳卒中ではPASSとBBSのどちらを先に使いますか?

A. 一律にPASSを先にする必要はありません。起居・座位・姿勢変換を含めて低い能力帯から姿勢制御を追いたい場合はPASS、立位課題を実施でき、立ち上がり・移乗・立位バランスを広く確認したい場合はBBSが候補です。発症時期だけでなく、現在の評価可能性と目的で選びます。

Q2. BBSとTUGは両方実施した方がよいですか?

A. 必ずセットで実施する必要はありません。BBSは立位を中心とした機能的バランス、TUGは起立・歩行・方向転換・着座を含む機能的移動を評価します。何を知りたいかが異なるため、必要な問いに合わせて選びます。

Q3. BBSが高得点なのに歩行が不安定な場合はどうしますか?

A. BBSで捉えにくい動的姿勢制御や複雑歩行が残っている可能性を考えます。外乱への反応や感覚条件を詳しく見たい場合はMini-BESTest、速度変更・頭部運動・方向転換・障害物など歩行中の条件変化を見たい場合はDGI/FGAなどが候補になります。

Q4. FACが低い患者にもTUGや10mWTを実施しますか?

A. まず安全に課題を成立させられるかを確認します。強い身体介助が必要な段階では、歩行時間や複雑歩行を無理に数値化するより、PASS・TIS・BBSなど現在成立する姿勢・立位課題を優先した方が臨床上の問いに合う場合があります。FACの点数だけで機械的に可否を決めず、安全性と目的を合わせて判断します。

Q5. カットオフを超えていれば転倒リスクは低いと判断できますか?

A. カットオフだけでは判断しません。脳卒中では、対象集団や判定したいアウトカムによって報告される閾値が異なります。方向転換、二重課題、注意障害、疲労、補助具、生活環境、実際の転倒歴なども合わせて確認します。

まとめ|評価名ではなく「何を知りたいか」から選ぶ

脳卒中の姿勢・バランス評価では、PASS → BBS → Mini-BESTestという固定的な順番を作る必要はありません。最初に現在どこまで安全に評価できるかを確認し、そのうえで評価目的に合う尺度を選びます。

  • 起居・姿勢保持・姿勢変換:PASS
  • 座位・体幹機能:TIS
  • 立位バランス:BBS
  • 動的姿勢制御:Mini-BESTest
  • 歩行自立度:FAC
  • 基本的な機能的移動:TUG
  • 歩行速度:10mWT
  • 複雑歩行:DGI / FGA
  • lateropulsion:SCP / BLS / 4PPS

評価を増やすのは、現在の尺度では答えられない問いが残ったときです。合計点だけで完結させず、どの課題で崩れたか、生活場面の不安定さを説明できるか、次の介入や再評価へつながるかまで確認すると、評価を臨床へ生かしやすくなります。


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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関・介護福祉施設・訪問リハの現場経験をもとに、理学療法士をはじめとする医療従事者が臨床で判断しやすい評価・リハビリテーション情報を発信しています。

脳卒中や褥瘡・創傷ケアなどを中心に臨床経験を積み、講師登壇経験もあります。評価尺度の点数だけでなく、実施条件、結果の解釈、次の評価や介入へつなげる視点を重視して記事を編集しています。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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