脳卒中バランス評価の順番【PDF付き】

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脳卒中の姿勢・バランス評価は「順番」で決める

脳卒中の姿勢・バランス評価は、スケールを増やすほど精度が上がるわけではありません。大切なのは、患者さんのフェーズに合わせて 準備段階 → 立位・移動 → 生活場面 の順に主役を入れ替えることです。本記事では、PASS・BBS・TUG・Mini-BESTest / FGA を、どの時期に優先し、いつ切り替えるかを整理します。

このページで答えるのは、個別スケールの細かな採点方法ではなく、脳卒中患者の姿勢・バランス評価をどう並べ、どう使い分けるかです。採点手順や記録用紙は子記事に譲り、ここでは臨床で迷いやすい「主役交代」と「次の一手」だけに絞ります。

結論:PASS → BBS / TUG → Mini-BESTest / FGA の順に主役を替える

最初から歩行評価へ進むと、起き上がり・端座位・立ち上がりの土台が見えにくくなります。反対に、病棟で使いやすい評価に固執しすぎると、屋外歩行や生活場面での転倒リスクを拾いにくくなります。そこで、まず PASS で姿勢制御の準備段階を見て、立位・移動が主課題になったら BBS / TUG へ移し、生活場面の課題が目立つ時期に Mini-BESTest / FGA を追加します。

この順番で整理すると、次にどの課題へ進めるかが見えやすくなります。チーム内でも、評価名ではなく「今は準備段階」「次は立位・移動」「生活場面へ切り替える」と共有できるため、介入の方向性が揃いやすくなります。

脳卒中の姿勢・バランス評価をフェーズ別の主役交代で整理した図
図:脳卒中の姿勢・バランス評価は、フェーズごとに主役スケールを切り替えると運用しやすくなります。

フェーズ別:何を優先するかを早見表で決める

まずは、患者さんが今どのフェーズにいるかを決めます。カットオフ値だけで判断するよりも、今の評価で何を決めたいかを先に揃えると、評価が介入に直結しやすくなります。

同じ BBS や TUG でも、病棟での安全確認として使うのか、生活場面へ進む前の移動能力確認として使うのかで意味が変わります。表では、フェーズごとに「主目的」「主役スケール」「主役交代の条件」を整理します。

脳卒中の姿勢・バランス評価:フェーズ別の主役と目的
フェーズ 主目的(意思決定) 主役スケール例 次に進む条件(主役交代)
① 準備段階(病棟) 起き上がり・端座位・立ち上がりの安全性/介助量を決める PASS、必要なら SCP(プッシャー) 立位保持・移乗・歩行練習が主課題になったら ② へ
② 立位・移動(回復期) 立位バランスの段階化/基本移動の自立度を決める BBS、TUG 屋外・不整地・方向転換・二重課題が課題になったら ③ へ
③ 生活場面(回復期後半〜生活期) 転倒リスクの精査/歩行の質/環境適応を決める Mini-BESTest、FGA など 参加・外出・活動量の評価を追加していく

今日の主役を決める 5 分フロー

評価が増えて迷うときは、先に「今日の主役」を 1 つだけ決めます。主役を 1 つに絞ることで、評価条件・停滞項目・次の介入がつながり、記録も短くなります。

以下のフローは、初回評価や週次カンファレンス前に使いやすい形です。すべてを同じ日に実施するのではなく、フェーズに合う評価へ絞り込むための手順として使ってください。

A4 記録シート:脳卒中 姿勢・バランス評価 5 分フロー

PASS → BBS / TUG → Mini-BESTest / FGA の主役交代を、印刷して記録できる 1 枚シートにまとめています。

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脳卒中の姿勢・バランス評価:今日の主役を決める 5 分フロー
手順 確認すること 主役候補 記録に残す一言
1 起き上がり・端座位・立ち上がりで介助量が残るか PASS 「準備段階:端座位保持と立ち上がりを重点確認」
2 立位保持・移乗・病棟内歩行が主課題か BBS / TUG 「立位・移動:BBS / TUG で自立度を確認」
3 屋外・方向転換・不整地・二重課題で崩れるか Mini-BESTest / FGA 「生活場面:歩行課題と環境適応を追加評価」
4 側方へ押す、垂直がずれる、荷重が偏るか SCP など 「lateropulsion 疑い:垂直認知と荷重戦略を分けて確認」
5 点数ではなく、次の介入が 1 行で書けるか 主役 1 つに固定 「次回:停滞項目 1〜2 個へ介入を集中」

迷ったら症状別に追加評価を選ぶ

フェーズが同じでも、症状の出方によって追加する評価は変わります。合計点だけで判断すると、側方への偏り、荷重の偏り、注意・恐怖、二重課題などが埋もれやすくなります。

ここでは、現場でよく迷う分岐だけに絞ります。個別スケールの採点方法を増やす前に、「見えている問題」「背景」「介入へ落とす視点」を 1 セットで整理してください。

症状別の分岐:何を追加して見立てるか
見えている問題 よくある背景 追加の評価(例) 介入へ落とす視点
側方へ押す/立位が偏る lateropulsion(プッシャー)、垂直認知のずれ SCP など 垂直認知と荷重戦略を分けて整理する
端座位は安定するが立位で崩れる 下肢荷重・支持性、注意、恐怖 PASS 停滞項目の再確認 → BBS へ橋渡し できない理由を 1 つに絞って介入を集中する
病棟では歩けるが屋外で転びそう 環境適応、方向転換、二重課題、歩行の質 Mini-BESTest / FGA 不整地・方向転換・同時課題へ課題設定を広げる

現場の詰まりどころ:評価が介入に変わらない原因を潰す

評価が回らない原因は、「忙しくて測れない」だけではありません。むしろ多いのは、測ったあとに何をすればよいか決まらないことです。評価名を増やす前に、よくある失敗回避手順をそろえると、点数が次の介入へつながりやすくなります。

関連:評価運用の全体像は 評価スケール運用の基本 で先に揃えると、条件固定・再評価・記録のブレを減らしやすくなります。

よくある失敗

  • 評価条件(装具・杖・履物・声かけ)が毎回変わり、点数比較ができない
  • 合計点だけを見て、停滞項目や介入ターゲットが特定できない
  • 主役スケールが決まらず、評価だけ増えて介入がぼやける

回避手順(最短 3 ステップ)

  1. 今週の主役スケールを 1 つだけ決める
  2. 停滞項目を 1〜2 個に絞って記録する
  3. 「次の一手」を 1 行で残して翌日の介入へつなげる
評価運用が回らないときの処方箋(原因→対策→記録)
詰まり 原因 対策 記録テンプレ(例)
評価者で点数が違う 条件(装具・杖・履物・声かけ)が揃っていない 条件固定チェックを 1 行で統一する 「短下肢装具あり/T 字杖なし/靴あり/声かけ統一」
点数が上がらない 合計点だけ見て原因が絞れていない 停滞項目を 1〜2 個に絞って一点集中する 「停滞:端座位保持、立ち上がり初期 → 体幹支持と荷重へ介入」
スケールを増やしすぎる フェーズごとの主役が決まっていない PASS → BBS / TUG → Mini-BESTest / FGA の順で主役交代する 「今週の主役:PASS。立位練習が主課題になれば BBS へ移行」

評価・記録の型で毎回つまずくときは

手順を整えても同じところで詰まる場合は、個人の努力だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けていることもあります。評価・記録・報告の型をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。

PT キャリアガイドを見る

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. PASS と BBS はどちらを先に使えばいいですか?

A. 病棟で起き上がり・端座位・立ち上がりの安全性や介助量を決めたい時期は PASS が向きます。立位保持や移動練習が主課題になったら、BBS / TUG へ主役交代します。最初から BBS に固定するより、準備段階を PASS で確認してから移る方が運用しやすいです。

Q2. BBS と TUG は同じ日に両方取るべきですか?

A. 必ず毎回セットで取る必要はありません。BBS は立位バランスを段階化しやすく、TUG は起立・歩行・方向転換・着座を含む短い移動課題を見やすい評価です。立位バランスの段階を追いたい日は BBS、移動課題の変化を見たい日は TUG のように、目的で使い分けます。

Q3. 点数は上がったのに生活場面で不安定です。どう考えますか?

A. フェーズが次へ進んでいる可能性があります。病棟や平地歩行では改善していても、生活場面では不整地、方向転換、二重課題、外乱への反応が課題として残りやすいです。その場合は、BBS / TUG だけに固定せず、Mini-BESTest / FGA などで生活場面に近い課題を追加します。

Q4. 評価が多すぎてチームで統一できません。

A. まずは「今週の主役スケール」を 1 つだけ決めます。主役以外の評価は、症状別の分岐で必要なときだけ追加します。記録には合計点だけでなく、条件固定、停滞項目、次の一手を 1 行で残すと、チーム内で同じ方向を向きやすくなります。

次の一手


参考文献

  1. Benaim C, Pérennou DA, Villy J, Rousseaux M, Pelissier JY. Validation of a standardized assessment of postural control in stroke patients: the Postural Assessment Scale for Stroke Patients (PASS). Stroke. 1999;30(9):1862-1868. PubMed
  2. Berg KO, Wood-Dauphinee SL, Williams JI, Maki B. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992;83 Suppl 2:S7-S11. PubMed
  3. Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi:10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x DOI
  4. Franchignoni F, Horak F, Godi M, Nardone A, Giordano A. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the Mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42(4):323-331. doi:10.2340/16501977-0537 DOI
  5. Wrisley DM, Marchetti GF, Kuharsky DK, Whitney SL. Reliability, internal consistency, and validity of data obtained with the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2004;84(10):906-918. PubMed
  6. Dos Santos RB, Fiedler A, Badwal A, Legasto-Mulvale JM, Sibley KM, Olaleye OA, et al. Standardized tools for assessing balance and mobility in stroke clinical practice guidelines worldwide: a scoping review. Front Rehabil Sci. 2023;4:1084085. doi:10.3389/fresc.2023.1084085 DOI

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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