PASS とは?(目的と使いどころ)
PASS( Postural Assessment Scale for Stroke Patients )は、脳卒中後の臥位・座位・立位における姿勢コントロールを、姿勢を保つ(維持)と姿勢を変える(変換)の 2 観点で評価する 12 項目のパフォーマンス尺度です。各項目を 0〜3 点で採点し、合計 0〜36 点で示します。ベッドサイドで実施しやすく、寝返り・起き上がり・端座位など「土台の安定性」を経時で追いやすいのが強みです。
なお、整形外科領域などで使われるPASS( Patient Acceptable Symptom State )という別概念もありますが、本稿の PASS は脳卒中の姿勢評価スケールを指します。脳卒中リハ全体の評価の並べ方は 脳卒中ハブ を起点に整理すると迷いが減ります。あわせて、PASS から BBS / FGA へ「評価の主役」を切り替える順番は 脳卒中の姿勢・バランス評価の順番(使い分け) に 1 枚でまとめています。
PASS の 1 分要約(何がわかる?いつ使う?)
PASS は、歩行評価や ADL だけでは見えにくい「姿勢の準備段階」(臥位→端座位→立位)を数値化し、回復の“詰まり”を見つけるのが得意です。とくに急性期〜回復期の病棟で、「どこまで安全に姿勢変換できるか」「次に練習するべき課題は何か」をチームで共有する材料になります。
一方で、屋外歩行や二重課題など生活場面の動的バランスは PASS だけでは拾いきれません。フェーズが進んだら、BBS や Mini-BESTest、FGA などへ“評価の主役”を移していく前提で使うと、評価設計がブレません。
使う場面(向く/向かない)
PASS を「毎週やるか」より先に、どのフェーズで何を意思決定したいかを決めると運用が回ります。下の早見表を、院内の共通言語として使ってください。
| 観点 | PASS が向く | PASS だけでは不足 |
|---|---|---|
| フェーズ | 急性期〜回復期前半(ベッドサイド中心) | 回復期後半〜生活期(歩行・屋外・二重課題が主) |
| 意思決定 | 起き上がり/端座位/立ち上がりの安全性、介助量の目安 | 転倒リスクの精査、歩行の質、活動量・参加までの評価 |
| 得意な変化 | 「土台が整ってきた」の早期変化(点数+破綻パターン) | 高次のバランス戦略、環境変化への適応、二重課題 |
PASS のやり方(条件固定チェックリスト)
PASS の点数は、やり方より「条件が揃っているか」でブレます。まずは環境・声かけ・補助のルールを固定し、評価者が変わっても同じ条件で測れる状態を作ります。尺度(評価用紙)は配布元から入手し、原文の基準に沿って実施します。
評価用紙(原版)は配布元にリンクがあります(外部)。SRALab(PASS 概要と入手先) / PASS 原資料( PDF )
| 項目 | 固定する内容 | 記録ポイント |
|---|---|---|
| 環境 | ベッド高、足底接地、支持物の位置、見守り位置 | 「ベッド高」「足底接地可否」を短くメモ |
| 装具・杖・履物 | 原則 “いつも同じ条件” で実施 | 短下肢装具あり/なし、杖あり/なし、靴/素足 |
| 声かけ | 原文にできるだけ近い言い回しを統一 | 言い換えやコツ出しを最小化(再現性優先) |
| 補助 | 安全確保の見守りは可、姿勢保持の物理的補助はしない | 中止理由(疼痛・めまい等)を明記 |
採点のコツ(合計点より「どこが止まったか」)
合計点( 0〜36 点)は経時比較に便利ですが、臨床で価値が高いのは「どの姿勢変換で止まったか」です。たとえば、寝返りが伸びているのに端座位が停滞しているなら、体幹の支持・荷重の作り方・注意障害など、介入仮説が変わります。
運用のポイントは、①合計点に加えて、②停滞している項目を 1〜2 個だけ毎回メモすることです(例:「端座位保持で上肢支持が外せない」「立ち上がりで荷重移動が崩れる」)。点数だけを追うより、チーム内の意思決定が速くなります。
解釈(変化量・カットオフの考え方)
PASS の解釈は、①条件固定 → ②変化量 → ③カットオフ(目安)の順で見ると事故が減ります。装具・杖・履物が変わった日は、点数が動きやすいため、そのまま前回と比較せず「条件変更後のベースラインを取り直す」と考えるのが安全です。
変化量の目安として、サブアキュート期の脳卒中で PASS のMID が 3.0 点と報告されています。また、アンカー(患者・療法士)により3.5〜4.5 点が臨床的に意味のある変化として提案されています。したがって実務では、「 3 点以上=意味のある改善の可能性」を起点に、停滞項目と併せて解釈すると扱いやすくなります。
| 見る順 | チェック | 次の一手(例) |
|---|---|---|
| ① 条件 | 装具・杖・履物、ベッド高、足底接地が同じか | 条件が違えば「ベースライン取り直し」 |
| ② 変化量 | 前回から 3 点以上の変化があるか | 改善なら次課題へ、停滞なら仮説を更新 |
| ③ パターン | 停滞している項目が 1〜2 個に絞れるか | 介入を「停滞項目」へ一点集中 |
他スケールとの使い分け(早見表)
PASS は「準備段階」を拾える一方で、歩行や生活場面のバランスは別スケールが得意です。フェーズに合わせて評価の主役を切り替えると、回復の説明が一気にしやすくなります。
| スケール | 強み | 向く時期 | 併用のコツ |
|---|---|---|---|
| PASS | 臥位〜立位の準備段階を拾える | 急性期〜回復期前半 | 停滞項目を 1〜2 個メモして介入に直結 |
| SCP(プッシャー) | Body lateropulsion を定量化 | 急性期〜回復期 | PASS 停滞の理由が lateropulsion なら併用が有効 |
| BBS | 立位バランスを 14 項目で段階化 | 回復期〜生活期 | PASS が頭打ちになったら主役交代しやすい |
| Mini-BESTest / FGA | 動的バランス・歩行の質に強い | 回復期後半〜生活期 | 屋外・二重課題の課題設定に直結 |
よくあるミス(評価・記録のチェックポイント)
PASS は「できた/できない」を急いで判断すると、点数が評価者依存になりやすいです。ミスは条件のズレと介助の混入で起きます。チェック表でチーム内のズレを先に潰しましょう。
| NG(起こりがち) | なぜ問題? | 対策(運用ルール) | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 毎回、装具や杖の条件が違う | 点数の増減が「介入効果」か「条件差」か分からない | 基本は固定。変更時はベースラインを取り直す | 装具/杖/靴をチェック欄で固定化 |
| 声かけが評価者ごとに違う | “できるようにさせた” 影響が混ざる | 原文に近い声かけを短文化して共有 | 院内用に 1 行テンプレを作る |
| 安全確保のつもりで軽く支える | 物理的補助が入ると点数の意味が崩れる | 見守り位置を固定し、触れないルールを徹底 | 中止理由を必ず残す |
| 合計点だけ見て終わる | 介入仮説につながらない | 停滞項目を 1〜2 個だけ毎回メモ | 「止まった項目→次課題」を 1 行で残す |
現場の詰まりどころ(どこで運用が止まりやすいか)
PASS の運用が止まる原因は、「忙しくて測れない」より、測っても次に何をすればいいか決まらないことが多いです。詰まりを記録テンプレとカンファの言い方まで落としておくと、評価が“回り始めます”。
評価を回す体制づくり(教育・標準手順・チェックリスト整備)で悩む場合は、まず 面談前に整理できるチェックリスト のような“型”を使って、院内の合意形成を早めるのも 1 つです。
| 詰まり | 起きていること | 対策 | カンファの言い方(例) |
|---|---|---|---|
| 点数が上がらない | 合計だけ見て原因が絞れていない | 停滞項目を 1〜2 個に絞り、介入を一点集中 | 「停滞は端座位の支持。荷重と注意の両面で介入」 |
| 評価者で点数が違う | 声かけ/補助/条件が揃っていない | 条件固定表と“触れない” ルールを共有 | 「条件固定後の点数で再評価して比較します」 |
| 次の評価へ移れない | PASS に固執してフェーズが進んでいる | 立位・歩行が主なら BBS / Mini-BESTest / FGA へ主役交代 | 「準備段階は PASS、歩行フェーズは別尺度で追います」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. PASS は全員に毎週実施すべきでしょうか?
A. 週次固定よりも、「PASS で意思決定したい場面があるか」で決めるのが実務的です。ベッドサイド中心で、起き上がり・端座位・立ち上がりの安全性や介助量を追いたい時期は、週 1 回程度で十分に価値があります。歩行・生活場面が主になったら、BBS や Mini-BESTest、FGA などへ主役交代を検討します。
Q2. 装具・杖・履物が変わったとき、点数はどう扱いますか?
A. 装具・杖・履物の変更は姿勢安定性に強く影響します。変更があった日は、そのまま前回と比較せず「条件変更後のベースラインを取り直す」と考えて経過を見ます。評価用紙には「短下肢装具あり/なし」「杖あり/なし」「靴/素足」などを毎回記録すると、安全に比較できます。
Q3. 合計点以外に、何を記録すると伝わりやすいですか?
A. 合計点に加えて、「停滞している項目( 1〜2 個)」と「止まった理由の仮説( 1 行)」があると、介入とカンファが速くなります。例:「端座位保持で支持が外れない→体幹支持と注意の両面で介入」。
Q4. PASS と他のバランススケールはどう使い分ければよいですか?
A. PASS は臥位〜端座位〜立位といった「準備段階」を含めて評価するのが得意です。歩行や生活場面のバランスは BBS、Mini-BESTest、FGA などが得意なので、フェーズに応じて“評価の主役”を切り替えると全体像をつかみやすくなります。
次の一手
- PASS の位置づけ(順番・主役交代)に戻る:脳卒中の姿勢・バランス評価の順番(使い分け)
- 評価の全体設計(脳卒中)を俯瞰する:脳卒中ハブ
- 立位・歩行フェーズへ移行したら:BBS と TUG の使い分け
参考文献
- Benaim C, et al. Validation of the Postural Assessment Scale for Stroke Patients (PASS). Stroke. 1999;30:1862–1868. doi: 10.1161/01.STR.30.9.1862 / PubMed
- Lien HP, et al. The minimal important difference for the Postural Assessment Scale for Stroke Patients in the subacute stage. Braz J Phys Ther. 2024;28:100595. / PubMed / PMC
- Aka T, et al. Minimal Clinically Important Difference for Postural Assessment Scale for Stroke Patients (PASS) and Trunk Impairment Scale (TIS) in Persons With Stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2025. doi: 10.1016/j.apmr.2025.06.017 / PubMed
- Huang YC, et al. Postural Assessment Scale for Stroke Patients Scores as a predictor of stroke patient ambulation at discharge from the rehabilitation ward. J Rehabil Med. 2016;48(3):259–264. doi: 10.2340/16501977-2046 / PubMed
- Shirley Ryan AbilityLab. Postural Assessment Scale for Stroke(PASS). / Web / Instrument PDF
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


