褥瘡スキンケアの目的と実践|保清・保湿・保護をリハビリにどう組み込むか

臨床手技・プロトコル
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褥瘡予防におけるスキンケアの位置づけ

褥瘡は「圧迫」「ずれ」「せん断」に、皮膚バリア機能の低下やマイクロクライメイト(皮膚直上の温度・湿度)の乱れが重なったときに発生しやすくなります。ガイドラインでは、日々のスキンケア(低刺激の洗浄・十分な乾燥・適切な保湿・必要時の皮膚保護・保清)が、体位変換や支援表面の選択と並ぶ褥瘡スキンケアの「目的」を果たす中核的介入として位置づけられています。特に失禁関連皮膚炎(IAD)は褥瘡と鑑別しつつ、専用のケア手順で早期に鎮静化させることが重要です。本稿では EPUAP/NPIAP/PPPIA などの国際推奨と日本褥瘡学会の要点を、現場で運用しやすい形に整理します。

ポイントは「こすらず短時間で洗う(保清)→押さえて乾燥→薄く均一に保湿→失禁後はバリアで保護→毎日観察して記録」という流れを、朝・排泄後・入浴後・就寝前といった1 日のタイミングに落とし込むことです。リハビリテーションに関わる理学療法士・作業療法士もこの“保清・保湿・保護”の基本を共有し、病棟・在宅の標準ルーチンとして定着させます。本文末から配布物をダウンロードして、そのまま院内・在宅でご活用いただけます。

褥瘡予防を含めたリハビリの進め方・キャリア形成のヒントは PT キャリアガイド にも整理しています。

1 日のスキンケア・ルーチン(洗浄→乾燥→保湿→バリア→観察)

朝:ぬるま湯+低刺激の洗浄剤で短時間に汚れを落とし、タオルで押さえるように乾燥します。関節や骨突出部も含めて薄く均一に保湿し、失禁リスクがあれば予防的にバリアを準備します。排泄後:毎回、やさしく洗浄→押さえ乾燥→バリアを適用(便失禁では高保護力カテゴリを選択)。入浴後:残留刺激を洗い流し、3 分以内を目安に保湿。就寝前:2 回目の保湿と、夜間の体位変換の計画を確認します。いずれも「こすらない・厚塗りしない」が基本です。

観察では「発赤・びらん・浸軟・疼痛・悪臭・摩擦痕・ずれが疑われる所見」を部位別にチェックし、変化を記録します。これらを「日々の保清・保湿・保護の評価」として記録紙と紐づけることで、褥瘡予防ケアの質を可視化しやすくなります。

IAD(失禁関連皮膚炎)の鑑別と対応アルゴリズム

IAD は「尿・便などの刺激によるびらん・発赤・浸軟」が主体で、圧迫を主因とする褥瘡とは病態が異なります。境界が不明瞭で広がりやすく、疼痛や悪臭を伴うこともあります。鑑別では「骨突出部の真上かどうか」「持続的な圧迫痕の有無」を必ず確認し、褥瘡との重なりにも注意します。軽症でも放置すれば急速に悪化し、褥瘡リスクを大きく押し上げます。

対応の骨子は、低刺激で短時間の洗浄 → 押さえ乾燥 → 保湿 → 排泄ごとのバリアを徹底したうえで、重症度に応じて高保護力バリアやフォーム保護材などを追加することです。便失禁では 2–4 時間ごとの確認スケジュール化が有効で、48–72 時間で所見が改善しない場合や感染兆候がある場合は WOC への早期連携を検討します。

保護材・保護カテゴリの使い分け

皮膚保護の目的は「摩擦・ずれ・湿潤刺激の低減」と「骨突出部の圧分散」です。個々の製品名ではなくカテゴリで整理すると、在庫や価格、患者さんの皮膚特性に応じて選択しやすくなります。貼付時は皮膚保護を優先し、剥離の際は皮膚側を引っ張らず、材を折り返すようにゆっくり除去します。

下表は、よく使用するカテゴリの比較です。部位や湿潤量、テープ耐性を踏まえて選択し、「貼りっぱなし」防止の確認フローも合わせて運用しましょう。

皮膚保護カテゴリの比較(例)
カテゴリ 主目的 向く状況 注意点
皮膚保護(バリア)クリーム/ペースト 失禁刺激の遮断 排泄後の保護、IAD 予防〜軽症 厚塗りは逆効果。薄く均一に塗布。
フィルムドレッシング 摩擦低減・観察性の確保 摩擦のかかりやすい部位、医療機器接触部の保護 滲出量が多い部位には不向き。
フォーム(ソフトシリコン含む) 圧分散・ずれ低減 仙骨・踵などの骨突出部 湿潤が多い場合は吸収能や交換頻度を確認。
テープ固定の最小化 皮膚牽引の回避 高齢皮膚・ステロイド皮膚・脆弱皮膚 固定方法を工夫し、剥離は皮膚保護を最優先。

マイクロクライメイト管理(温度・湿度・皮膚湿潤)

発汗や滲出によって皮膚が長時間湿潤環境にさらされると、角層が脆弱化し摩擦係数も上昇します。その結果、「わずかな圧やずれでも傷つきやすい皮膚」となり、褥瘡発生や IAD 増悪の土台になります。室温・寝具・衣類・ファンやエアマットの設定を見直し、速乾素材や吸湿性の高いリネンへの統一だけでも皮膚環境は安定しやすくなります。

褥瘡予防でなぜ保湿が重要か

「褥瘡予防 保湿 なぜ?」という問いに対しては、角層のバリア機能を保つことで外力に対する抵抗性を高める、という観点が重要です。乾燥しすぎた皮膚は微小な亀裂が入りやすく、逆に過湿潤ではふやけて摩擦に弱くなります。適切な保湿は、“乾燥しすぎず、湿りすぎない”ゾーンに皮膚を保つための調整弁として位置づけると、チーム内で説明しやすくなります。

配布物(ダウンロード)

以下の資料をそのまま印刷・配布して、病棟や在宅の標準ルーチンとしてご利用ください。内容は ZIP ファイルに一括収載しています。

ダウンロードセット
内容 用途 ファイル
スキンケア日次ルーチン(A4) 朝・排泄後・入浴後・就寝前の実施チェック ZIP をダウンロード
IAD 対応ミニアルゴ(A4) IAD の鑑別と重症度別ケアの分岐に ZIP をダウンロード
皮膚観察ログ(A4) 所見・介入・結果を部位別に記録 ZIP をダウンロード

現場の詰まりどころ(よくあるつまずきパターン)

褥瘡スキンケアの目的は理解できていても、実務では「誰が・いつ・どこまでやるか」で詰まりがちです。代表的なのは、①洗浄時にこすり洗いが残る、②保湿が“塗れば塗るほど良い”になってしまう、③バリアが排泄後の毎回でなく“気づいたときだけ”になる、④保清・保湿・保護と体圧管理が別々の担当になり、全体像が見えにくい、などです。

これらは、タイムライン(1 日の流れ)と役割分担(誰がどのタイミングを担当するか)を紙面化して共有することでかなり解消できます。作成したチェックシートを「褥瘡対策チームだけの資料」で終わらせず、スタッフルーム・病棟カンファ・家族説明の場で繰り返し使うことが、定着への近道です。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. どの程度まで洗浄すれば「保清」の目標は達成と考えてよいですか?

「においが完全になくなるまで」「皮膚がきしきしするまで」ではなく、見える汚れと明らかな付着物が除去できた時点を目安にします。低刺激洗浄剤+ぬるま湯で短時間に終え、拭き取りは押さえ乾燥とします。必要以上の洗浄はバリア機能を損ね、「褥瘡予防のスキンケア目的」に反する結果を招きます。

Q2. 保湿剤の種類はどう選べばよいですか?

「乾燥が強いか/浸軟が強いか」「どの部位か」「テープ固定が重なるか」で選びます。一般的には、下肢や四肢の極端な乾燥には油分のやや多い保湿、殿部や会陰周囲の IAD リスク部位には水分バランスのとりやすいローション〜クリーム系を用いることが多いです。いずれも厚塗りは避け、薄く均一に塗布します。

Q3. 褥瘡スキンケアにリハビリ専門職はどこまで関わるべきですか?

理学療法士・作業療法士は、体位変換やポジショニング、シーティングと一体で「スキンケアの目的や手順」を説明できると強みになります。具体的には、①骨突出部への荷重評価と除圧の提案、②動作訓練時のずれ・摩擦の観察とフィードバック、③在宅移行後の家族向けスキンケア教育などがリハ専門職の守備範囲と考えやすいポイントです。

Q4. IAD と褥瘡が重なっているケースでは、何から優先すべきですか?

まずは「持続的な圧」のコントロール(体位変換・支持面の見直し)と、「刺激源のコントロール(失禁ケアの見直し)」を同時に行うことが重要です。IAD 優位なびらん部は保護材とバリアで刺激を遮断しつつ、骨突出部への荷重を減らすことで、褥瘡も含めたリスク全体を下げていきます。

Q5. リハビリ中の座位・立位練習で皮膚ダメージを増やさないコツは?

「練習時間の延長」よりも、接触面と姿勢の質を優先します。例えばシーティングでは座面傾斜やクッションの選択、立位では荷重部位の確認と休憩時間の設定など、スキンケアと一体で褥瘡予防を考えることで、安全なリハビリにつながります。

おわりに

褥瘡予防におけるスキンケアは、「保清・保湿・保護」と「体圧管理・ポジショニング」をセットで回し、日々の観察記録で微調整していくケアのリズムが重要です。リハビリ専門職がこの流れを理解しておくと、離床訓練やシーティング、在宅移行支援のなかで、より説得力のある説明とチーム連携がしやすくなります。

あわせて、ご自身の働き方や職場環境を見直したいときは、褥瘡予防やケア体制に力を入れている職場を比較できる資料として マイナビコメディカル(チェックリスト付き資料) を参考にすると、面談準備や職場選びの観点整理にも役立ちます。

参考文献

  • EPUAP/NPIAP/PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019. 公式ページ(フル版/QRG への導線あり)。
  • Japanese Society of Pressure Ulcers. JSPU Guidelines for the Prevention and Management of Pressure Ulcers (3rd Ed.). PDF(皮膚評価・スキンケア・体位変換・支援表面等を網羅)。
  • Doughty D, et al. Incontinence-associated dermatitis: consensus statements… J Wound Ostomy Continence Nurs. 2012;39(3):303-15. PubMedDOI.
  • McNichol LL, et al. Incontinence-associated dermatitis: State of the Science. Adv Skin Wound Care. 2018. Link.
  • Yusuf S, et al. Microclimate and development of pressure ulcers. J Tissue Viability. 2013. PMC.
  • Clinical Excellence Commission (NSW). Incontinence-Associated Dermatitis (IAD) Best Practice Principles. 2021. PDF.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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