褥瘡予防の基本| PT が迷わない判断フローとチェック表

臨床手技・プロトコル
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褥瘡予防の基本フロー|評価 → 除圧 → 再評価で回す

褥瘡予防は「知識」より、判断の順番が固定できるかで差が出ます。皮膚観察 → リスク評価 → 除圧・体位調整 → 記録共有 → 再評価を、同じ型で回せると迷いと手戻りが減ります。

本記事は、理学療法士が現場で迷いにくいように、各工程の判断基準優先順位を整理します。配置の細部(側臥位の作り方・崩れ修正・書類の埋め方)は子記事へ送り、このページでは「全体フローのハンドル」を握れる状態を目標にします。

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迷ったらここ|所見から「次に直す 1 手」を決める

全部を一度に完璧にしようとすると止まりやすいです。まずは いま見えている所見(赤い・前滑り・踵・座位崩れ)から 1 つだけ修正すると、改善が速くなります。

※スマホでは表が横スクロールできます。

所見別の入口:次に直す 1 手(褥瘡予防の実務)
いま困っている所見 まず疑う軸 次に読む(深掘り) 読むと決まること
仙骨部が赤い/背上げで悪化 ずれ(剪断)+前滑り ポジショニング(圧・ずれ・踵骨) ずれを減らす観察ポイントと、体位の狙い
何時間おき?が決められない 頻度より皮膚反応で個別化 Braden スコア別バンドル 評価後に「最優先 1 手」を決める型
踵がやられそう/接地が外れない 踵骨免荷(下腿支持)が不十分 ポジショニング(踵骨の外し方) 踵を「確実に浮かせる」チェック方法
低栄養が疑わしい/治りが悪い 回復力(栄養・水分)不足 褥瘡の栄養と除圧(実務) 低栄養が絡む時の失敗パターンと立て直し

① 皮膚観察|発赤の「消退」と「ずれ(剪断)」を見る

褥瘡予防の起点は皮膚観察です。ポイントは「赤いかどうか」ではなく、どの条件で赤くなり、どのくらいで消えるかです。消退が遅いほど、圧の集中やずれ(剪断)が残っているサインになります。

観察の質が上がると、体位変換の頻度や寝具の見直しが根拠つきで決まり、チームで共有しやすくなります。

皮膚観察で押さえるポイント(予防の判断材料)
見ること 示唆 次の一手 記録の一言例
発赤の消退が遅い 圧集中/ずれが残存 当たりを外す体位へ/ずれ対策を強化 仙骨部発赤、消退遅延。体位・支持を再調整
尾骨付近が擦れる 前滑り=剪断リスク 背抜き/摩擦低減/支持の再配置 背上げで前滑りあり。背抜き実施
踵の熱感・違和感 踵骨リスク上昇 下腿支持で踵免荷/毎回手で確認 踵骨免荷を実施、手で浮遊を確認
局所の硬さ・痛み 一点集中 接触面積を増やして分散 骨突出の圧痛あり。支持面を分散へ変更

② リスク評価|「何が足りないか」を先に特定する

同じ体位でも、リスクの中身が違えば打ち手が変わります。リスク評価は点数化で終わらせず、不足している要素を特定して介入に翻訳するのがコツです。

理学療法の視点では、動けない理由(筋力・疼痛・不穏・呼吸循環)と、ずれを作りやすい条件(前滑り・拘縮)をセットで見ると、予防策が安定します。

aSSKINg(SSKIN+2)で回す:褥瘡予防チェック 7 点(病棟版)
チェック項目(7 点) ここで見る/決めること(最小セット) 頻度の目安 記録の一言例(短く)
① Assess risk(リスク評価) リスクが「動けない」「ずれ(剪断)」「栄養」「湿潤」のどれ由来かを特定し、優先順位を決める 入院時+状態変化時+定期 主因:前滑り+自動体動なし。ずれ対策を優先
② Skin(皮膚・軟部組織) 発赤の消退、熱感、硬さ、痛み、骨突出部の当たり/ずれ所見を確認 毎シフト(最低でも毎日) 仙骨発赤、消退遅延。前滑り所見あり
③ Surface(支持面) 支持面で「分散できているか」「ずれが増えていないか」「保持できるか」を確認 毎日+介入後 支持面調整で当たり軽減。保持は可
④ Keep moving(体位変換・動く) 頻度より先に「当たりを外す」「ずれを減らす」。最小ループ(観察→ 1 修正→再評価)で回す 計画に沿って反復 背抜き+支持再配置。次回変換で再確認
⑤ Incontinence / Moisture(湿潤) 失禁・汗・浸軟の有無、皮膚保護、交換・スキンケアの抜けを確認 毎シフト 陰部湿潤あり。保護材+交換頻度を調整
⑥ Nutrition / Hydration(栄養・水分) 摂取不良/体重減少の兆候を拾い、早期に共有して並走 週単位+変化時 摂取低下あり。栄養面の確認を依頼
⑦ Give information(説明・共有) 患者・家族・スタッフ間で「優先事項/やらないこと/次に見ること」を同じ言葉で揃える 開始時+更新時 目標:仙骨のずれ対策。背上げ時は背抜きを統一

③ 除圧・体位変換|頻度より「当たり」と「ずれ」を先に直す

体位変換は回数が目的ではなく、皮膚負担を下げる条件を作るのが目的です。頻度を増やしても、当たり(圧集中)やずれ(剪断)が残っていれば発赤は繰り返します。

実務では、発赤の消退と前滑りを見て、体位設計と頻度をセットで更新すると安定します。

体位変換を個別化する判断基準(頻度の前に見ること)
状況 示唆 優先する調整 観察ポイント
発赤がすぐ消える 負担が管理できている 現状維持+再現性(共有・記録) 消退時間、ずれ所見の有無
発赤が残りやすい 当たり or ずれが残る 当たりを外す/ずれ対策を強化 仙骨・尾骨、前滑り、摩擦
疼痛で保持できない 安楽性が不足 段階調整(安楽性優先) NRS、耐えられる肢位

④ ポジショニング|圧・ずれ(剪断)・踵骨を外す

ポジショニングで外せないのは、①圧を分散する、②ずれ(剪断)を減らす、③踵骨などの高リスク部位を確実に浮かせる、の 3 点です。角度や型を追いすぎるより、当たりが消えたかで判断するほうが再現性が出ます。

配置の細部(側臥位の作り方・崩れ修正・チェック手順)は、各論にまとめています:褥瘡予防のポジショニング(圧・ずれ・踵骨)

体位の狙い(褥瘡予防):仰臥位・ 30° 側臥位・ 90° 側臥位
体位 狙い 守る骨突出(例) 注意点
仰臥位 全身の圧を分散 仙骨、踵骨、後頭部 頭側挙上でずれが増えやすい
30° 側臥位 大転子の圧集中を回避しやすい 大転子、腓骨頭、外果 当たりが残る場合は個別化が必要
90° 側臥位 目的がある時に選択 大転子 大転子の圧集中に注意

⑤ 支持面(寝具)|マットレスは「体位変換の味方」にする

支持面の調整は、体位変換を楽に回すための投資です。当たりを外しても発赤が残る、骨突出が強い、痛みで保持できない場合は、寝具の見直しが効きます。

選定は「柔らかい/硬い」の印象だけでなく、沈み込みとずれ(剪断)の出やすさ、体位保持のしやすさをセットで評価します。

支持面を見直すサイン(現場で起きやすいパターン)
サイン 示唆 見直す方向 記録の一言例
当たりを外しても発赤が残る 分散が不足 支持面の調整+接触面積を増やす 体位調整も発赤残存。支持面検討
痛みで保持できない 局所圧/安楽性不足 分散を強化し段階調整 疼痛で保持困難。安楽性優先で調整
背上げで前滑りが強い ずれ(剪断) 摩擦低減+背抜き+支持の再配置 前滑りあり。摩擦低減を追加

⑥ 離床・座位|坐骨と「姿勢崩れ」を早めに潰す

離床が進むほど、リスク部位は仙骨から坐骨へ移ります。座位では体幹の崩れや骨盤後傾があると、局所圧とずれ(剪断)が同時に増えやすくなります。

座位は「座っていられるか」だけでなく、崩れるまでの時間崩れた時のパターンを見て、早めに調整につなげます。

⑦ 栄養・水分|皮膚負担の「回復力」を底上げする

褥瘡予防は当たりを外すだけでなく、皮膚が回復できる条件を整えることも重要です。摂取不良や体重減少があれば、早めに共有して栄養面の介入と並走します。

理学療法では、活動量、疼痛、不穏など「摂れる条件」を阻害する要素を拾って共有すると支援が進みやすくなります。深掘りは 褥瘡の栄養と除圧(実務) へ。

⑧ 記録と共有|「体位名」だけで終わらせない

褥瘡予防は多職種で再現できて初めて効果が安定します。記録は「仰臥位/ 30° 側臥位」だけでなく、免荷・ずれ・皮膚反応まで残すのがコツです。

書類運用の型を整えるなら 褥瘡の診療計画書(最小セット) もあわせてどうぞ。

再現性が上がる記録テンプレ(最低限)
書く項目 なぜ必要か 例(短く)
体位 共有の土台 30° 側臥位(右)
免荷 踵骨などの確認 踵骨免荷、手で浮遊を確認
ずれ(剪断) 仙骨トラブルの核心 背抜き実施、前滑り軽減
皮膚反応 個別化の根拠 仙骨発赤、消退まで時間を要す
次回の調整点 再評価につながる 支持面を分散、挙上角度を調整

現場の詰まりどころ|よくある失敗と「回避の型」

褥瘡予防が止まる原因は「手技が下手」より、ずれ(剪断)と一点集中が見逃されることが多いです。まず「原因の当たり」をつけてから直すと早いです。

よくある失敗:OK / NG で潰す(原因 → 対策 → 記録)

同じ「体位名」でも、OK / NG の差は当たりずれ(剪断)、そして再評価の有無で決まります。

褥瘡予防の失敗を潰す: OK / NG 早見(実務)
場面 NG(止まりやすい) OK(回る) 記録ポイント
体位変換の頻度 回数だけ増やす(当たり・ずれは未修正) 当たりとずれを 1 つだけ修正 → 次回で消退を再確認 消退時間/前滑りの有無/次回の調整点
30° 側臥位 角度だけ守って当たりが残る 「当たりが消えたか」で支持を作り直す 当たり部位/支持の配置/保持の可否
背上げ時 前滑りが出ても放置 背抜き+摩擦低減+支持の再配置でずれを減らす 挙上角度/前滑り/背抜きの実施
踵骨 「たぶん浮いている」で運用 下腿支持で踵免荷し、手で浮遊を確認 踵骨免荷(手で確認)/崩れやすさ
共有 体位名だけ共有(再現性が落ちる) 体位+免荷+ずれ所見+皮膚反応を最小セットで統一 最小セットが揃っているか

回避の手順チェック| 5 分で回す「最短ループ」

迷ったら、次の順で 1 回だけ回してください。「頻度を増やす」より先に、当たりとずれを消すのが最優先です。

  1. 皮膚観察:発赤の消退(時間)と、ずれ(前滑り・擦れ)を確認
  2. 原因の切り分け:当たり(圧集中)か、ずれ(剪断)か、両方か
  3. 体位・支持を 1 つだけ修正(背抜き/下腿支持/支持の再配置 など)
  4. 記録:体位名+免荷+ずれ所見+皮膚反応(最小セット)
  5. 再評価:次の体位変換時に「消退が短くなったか」を確認

チェックが抜けやすい場合は、上の aSSKINg 7 点を「毎日(または毎シフト)同じ順」で回すだけでも安定します。

症例で確認| 5 分で回す「最短ループ」

例:背上げで仙骨発赤が悪化する

  1. 観察:背上げ後に前滑り、尾骨付近の擦れを確認
  2. 仮説:ずれ(剪断)が主因(頻度の問題ではない)
  3. 介入:背抜き+摩擦低減+支持の再配置(骨盤周囲の支持を見直し)
  4. 記録:背上げ角度、前滑りの有無、発赤の消退、次回の調整点
  5. 再評価:消退時間が短縮すれば「ずれ対策が効いている」

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q 1.体位変換は「 2 時間おき」が基本ですか?

A.ルールを固定するより、皮膚反応(発赤の消退)と、ずれ(剪断)・支持面の条件を見て個別化する方が実務で安定します。発赤が残る場合は、頻度より先に当たりとずれの見直しが優先です。

Q 2.30° 側臥位は必ず行うべきですか?

A.30° 側臥位は大転子の圧集中を避けやすい選択肢ですが、体型や拘縮、疼痛で当たりは変わります。角度の正確さより、骨突出を当てないこと、ずれ(剪断)を作らないこと、踵骨を浮かせることが重要です。

Q 3.頭側挙上が必要な時はどう考えればいいですか?

A.頭側挙上が大きいほど前滑りが増え、仙骨部のずれ(剪断)が起きやすくなります。嚥下・呼吸などで角度が必要な場合は、背抜き、摩擦低減、支持の再配置でずれを最小化しながら運用します。

Q 4.Braden スコアはどう使えば「打ち手」に変わりますか?

A.点数の高低だけで終わらせず、「どの項目が弱いか(動けない/湿潤/栄養など)」を拾って、優先順位を決めるのがコツです。スコア帯ごとの最優先 1 手は Braden スコア別バンドル にまとめています。

次の一手(深掘りと横展開)

教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

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参考文献

  1. European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel, Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019. Official site
  2. National Pressure Injury Advisory Panel (NPIAP). International guideline / resources. NPIAP
  3. 日本褥瘡学会. 公式サイト

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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