- 褥瘡予防 × 理学療法士|基本フローと“介入で変わる”ポイントを 1 ページで整理
- まず 5 分で回す:褥瘡予防の“PT 版”基本フロー
- 早見表:PT が押さえる“見る→言語化→変える”ポイント
- ① 皮膚観察:PT は“ずれの痕跡”を最初に拾う
- ② リスク評価:点数を“介入に翻訳”する
- ③ 除圧/体位変換:頻度より“ずれ(剪断)”対策で伸びる
- ④ 寝具:導入して終わりではなく“設定を所見で合わせる”
- ⑤ 離床・座位:PT が強い“坐骨の負担設計”
- ⑥ 栄養:PT は“気づきのトリガー”を持って連携に渡す
- 再評価と記録:申し送りが“次の介入”になる型
- 症例で追う:前滑りが主因だったケース
- よくある失敗:ここを直すと一気に回りやすい
- よくある質問(FAQ)
- 迷ったらここ:目的別の入口(子記事)
- 参考文献
- 著者情報
- おわりに
褥瘡予防 × 理学療法士|基本フローと“介入で変わる”ポイントを 1 ページで整理
結論:「褥瘡予防 理学療法士」で読まれる記事は、“皮膚観察やスケールの説明”よりも、PT が介入で変えられる「ずれ(剪断)」「体位変換が続く設計」「離床・座位の設計」「申し送り文の型」を前面に出すと強くなります。
本記事は、病棟/施設/在宅で共通する褥瘡予防の基本フロー(皮膚観察 → リスク評価 → 除圧/体位変換 → 寝具 → 栄養 → 再評価)を、PT の実務に寄せて再構成します。読むだけで「次に何を見て、何を変えるか」が決まる形にします。
まず 5 分で回す:褥瘡予防の“PT 版”基本フロー
褥瘡予防は「頑張る」より「同じ順番で回す」が効きます。PT が関与するときは、体圧だけでなくずれ(剪断)と離床・座位を同時に設計できるのが強みです。
- 皮膚観察:赤み・色調、熱感、硬さ、浸軟、痛み、ずれ痕を“毎回同じ順”で確認
- リスク評価:点数を「弱点の特定」に翻訳(湿潤/ずれ/活動性/栄養など)
- 除圧/体位変換:頻度より「ずれを減らす」「続く体位」を優先
- 寝具:底つき・蒸れ・体位保持・ケア動作のしやすさで見直す
- 栄養:摂取低下・体重減少・脱水兆候・嚥下問題を“連携トリガー”として共有
- 再評価:所見の推移で“強化/緩和”を決め、次回の見直し日まで決める
早見表:PT が押さえる“見る→言語化→変える”ポイント
褥瘡予防が伸びない原因は、所見が“点”で終わることです。下の表をテンプレとして使うと、観察が介入に直結します。
| 領域 | 見る(その場で) | 言語化(チームに渡す 1 行) | 変える(PT の介入) |
|---|---|---|---|
| 皮膚観察 | 色調、熱感、硬さ、浸軟、痛み、ずれ痕(仙骨・踵・坐骨・装具/チューブ部) | 「部位+所見+誘因(体位/前滑り/湿潤)」 | 疑わしい部位は“その場で負担を外す”+次の評価へ |
| リスク評価 | 活動性、感覚、湿潤、摩擦・ずれ、栄養、循環 | 「弱点は湿潤+ずれ」/「踵の底つきが主因」など | 弱点に直結する介入を“セット化”する(除圧+ずれ対策等) |
| 除圧/体位変換 | 背上げで前滑り、拘縮、疼痛、呼吸循環の耐容、機器類 | 「頻度より前滑り対策を優先」 | 引き上げで整える/背上げ角度と時間設計/体位パターン固定 |
| 寝具 | 底つき、沈み込み、体位保持、蒸れ、移乗のしやすさ | 「底つき疑い。設定見直し要」 | 寝具選定・設定の再評価(導入後も所見で調整) |
| 離床・座位 | 座位時間、前滑り、姿勢崩れ、クッション適合、休憩の入れ方 | 「坐骨の負担が長時間で集中」 | 座位時間設計+クッション/姿勢調整+休憩ルール |
| 栄養 | 摂取量低下、体重減少、脱水兆候、嚥下の問題、炎症 | 「摂取低下+体重減少。栄養連携を前倒し」 | スクリーニング共有+離床計画(負担と摂取の両立) |
| 再評価 | 所見の推移、介入の耐容、活動量の変化 | 「改善。介入を緩和」/「悪化。介入を強化」 | 次回見直し日まで含めて明文化 |
① 皮膚観察:PT は“ずれの痕跡”を最初に拾う
褥瘡予防の出発点は皮膚観察ですが、PT が強いのは体位・動作・介助に紐づく所見を見つけられる点です。赤みだけでなく、熱感、硬さ、浸軟、痛み、そして前滑りや引きずりで生まれる“ずれ痕”を探します。
- 背上げ後に仙骨が荒れる:前滑り(剪断)の可能性が高い
- 踵が赤い/熱い:底つき+踵接地の時間が長い可能性
- 坐骨が気になる:座位時間とクッション適合(前滑り、骨盤後傾)を疑う
- 装具/チューブ固定部:当たりの一点集中を疑う
② リスク評価:点数を“介入に翻訳”する
スケールは「高リスク」判定で終わらせず、どこが弱点かを 1 行で言語化します。たとえば「湿潤が主因」「ずれが主因」「活動性が落ちている」など、介入の焦点を絞るために使います。
リスク尺度の種類や使い分けは褥瘡のリスクアセスメントスケール総論にまとめています(選ぶ→翻訳する、までセットで使うのがコツです)。
③ 除圧/体位変換:頻度より“ずれ(剪断)”対策で伸びる
体位変換は回数を増やすより、ずれ(剪断)を減らす設計が先です。背上げで前滑りが起きると、仙骨部は“押される+引かれる”状態になりやすく、所見が改善しにくくなります。
前滑り(剪断)を減らす 3 点
- 背上げの前に引き上げ:体幹と骨盤を“上へ整える”
- 背上げ角度×時間:高角度を長時間にしない(目的に合わせて設計)
- 体位パターンを固定:「次に何の体位にするか」をチームで共有
介入を“止める/調整する”目安
- 体位変更で痛みが増強して戻らない
- 呼吸苦・血圧低下など耐容が悪い
- 体位を保てずすぐに崩れる/滑る(寝具や姿勢設計の見直しが先)
④ 寝具:導入して終わりではなく“設定を所見で合わせる”
寝具(マットレス等)は、体位変換を“続く仕組み”にします。現場では「導入したのに改善しない」が起こりやすいので、次の 4 点で見直します。
- 底つき:踵・仙骨で支持面が硬く感じる
- 体位保持:良い体位を保てず崩れる
- 蒸れ:浸軟が増える(湿潤が強い)
- ケア動作:更衣・移乗で引きずりが増える
⑤ 離床・座位:PT が強い“坐骨の負担設計”
ベッド上が整っても、離床・座位で坐骨に負担が集中すると所見が崩れます。PT は座位時間を「計画」にできるのが大きな価値です。
- 座位時間:連続時間を短くして“休憩を挟む設計”にする
- 前滑り:骨盤後傾・体幹崩れが出るなら姿勢とクッション適合を見直す
- 座面の当たり:坐骨の一点集中を疑い、調整ポイントを作る
⑥ 栄養:PT は“気づきのトリガー”を持って連携に渡す
栄養は「誰かが見る」ではなく、気づいた人が早く渡すほど効きます。PT は離床や運動量の調整を通じて、摂取とのバランスを組みやすい職種です。
- 摂取量が落ちた(残食が増えた)
- 体重が減ってきた
- 口渇・尿量低下など脱水を疑う所見がある
- 嚥下の問題が出てきた(食事形態が上がらない/むせが増えた)
再評価と記録:申し送りが“次の介入”になる型
褥瘡予防は、再評価が入るとチームが迷いにくくなります。記録は長文よりも、次の 3 点が揃うと十分です。
| 項目 | 書き方(例) | 目的 |
|---|---|---|
| 所見(推移) | 仙骨:赤み+熱感(昨日より軽減)/踵:変化なし | 改善/悪化の判断材料 |
| 介入(変更点) | 背上げ前に引き上げ実施、座位は 30 分で休憩 | 何を変えたかを共有 |
| 次回(見直し日) | 明朝の入浴前に再確認、悪化なら寝具設定を再検討 | 再評価を“予定”にする |
症例で追う:前滑りが主因だったケース
状況:背上げ 60° が長く、仙骨部の赤みが反復。体位変換は実施されているが改善しない。
見立て:体圧よりも前滑り(剪断)が主因。背上げのたびに骨盤が下がり、仙骨部にずれ痕が出ていた。
介入:背上げ前の引き上げを標準化し、高角度の継続時間を短縮。座位は連続時間を区切り、休憩を計画に入れた。
再評価:赤みと熱感が軽減。翌日以降は「背上げ前の整え」と「座位時間設計」を申し送りテンプレに固定して継続。
よくある失敗:ここを直すと一気に回りやすい
| 失敗パターン | 起きやすい場面 | 見えるサイン | 修正(PT の一手) |
|---|---|---|---|
| 体位変換はしているのに改善しない | 背上げが多い、夜間帯 | 仙骨のずれ痕、赤みの反復 | 前滑り対策(引き上げ/角度×時間)を先に入れる |
| 寝具を導入して終わる | エアマット導入直後 | 底つき、体位保持困難、浸軟が増える | 所見で設定・選定を見直す(導入後が本番) |
| 離床・座位で崩れる | 食事・リハ・デイルーム | 坐骨の違和感、前滑り、姿勢崩れ | 座位時間設計+クッション適合+休憩ルール |
| 湿潤が後手になる | 失禁・発汗が多い | 浸軟、皮膚がふやける | 弱点を「湿潤」と言語化し、対策を優先順位に入れる |
| 栄養が“誰か任せ”になる | 摂取低下、嚥下の問題 | 体重減少、疲れやすい | 気づきトリガーを共有し、早めに連携へ渡す |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 体位変換は「何時間おき」が正解ですか?
A. 一律の回数より、所見が改善する条件を作れるかが重要です。特に背上げが多い人は、体位変換の回数を増やすより「前滑り(剪断)を減らす」「高角度の継続時間を設計する」を先に入れると改善しやすくなります。
Q2. 背上げすると前滑りします。まず何から直す?
A. ①背上げ前の引き上げ(骨盤を整える)②角度×時間(高角度を長くしない)③体位パターンを固定、の順が効果的です。所見(ずれ痕)が出ているなら、寝具設定や滑りの要因もあわせて確認します。
Q3. 座位で坐骨が荒れそうです。どう設計しますか?
A. 連続座位時間を区切って休憩を計画に入れ、前滑り(骨盤後傾・体幹崩れ)が出るなら姿勢とクッション適合を見直します。「座位はできるだけ」ではなく、「何分で休憩」を決めると継続しやすくなります。
Q4. 寝具(マットレス)はどのタイミングで見直すべき?
A. 底つき、体位保持困難、浸軟が増える、ケア動作で引きずりが増える、のいずれかがあれば見直しポイントです。導入後も所見で設定を合わせると、改善が早くなります。
迷ったらここ:目的別の入口(子記事)
まずは目的に合う子記事へ。読んだ後に、このページへ戻って「使い分けの型」として運用してください。
- ブレーデンスケールの使い方(採点のコツ/カットオフ/運用)
- OH スケールの使い方(4 項目で段階化/マットレス判断)
- 厚生労働省 褥瘡危険因子評価票の見方(計画書につなぐ)
- 褥瘡予防ケアの優先順位【Braden スコア別】(スコア→介入に落とす)
- 車椅子クッションの選び方(坐骨の負担対策/シーティング)
参考文献
- European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel, Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. The International Guideline. Haesler E (Ed). EPUAP/NPIAP/PPPIA; 2019.
- 一般社団法人 日本褥瘡学会(編). 褥瘡予防・管理ガイドライン 第 5 版. 照林社; 2022(補訂あり).
- Langer G, Knerr A, Kuss O, Behrens J. Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2024;CD003216. doi: 10.1002/14651858.CD003216.pub3
- Hoogendoorn I, Reenalda J, Koopman BFJM, Rietman JS. The effect of pressure and shear on tissue viability of human skin in relation to the development of pressure ulcers: a systematic review. J Tissue Viability. 2017;26(3):157-171. doi: 10.1016/j.jtv.2017.04.003
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
褥瘡予防は「観察 → 評価 → 除圧(ずれ対策) → 寝具 → 栄養 → 再評価」を同じ順番で回すと、チームの再現性が上がります。PT は特に、前滑り(剪断)と離床・座位の設計で結果を変えやすいので、所見を“介入に翻訳”してテンプレで回してください。
現場の迷いが増えたときは、面談準備チェックと職場評価シートで働き方も整えておくと、学びと実践が続きやすいです(/mynavi-medical/#download)。

