肩関節不安定性テストまとめ|Apprehension・Relocation・Sulcus を“安全に”運用する
肩関節不安定性(特に前方不安定性)は、テストで恐怖感( apprehension )を誘発しやすく、やり方を間違えると評価そのものが患者さんの負担になります。そこで本記事では、① まず問診と安全確認→② Apprehension / Relocation の最小セット→③ Sulcus で下方の要素を補助という順番で、“安全に回せる運用”を固定します。
ポイントは「痛いかどうか」よりも、怖さ(外れそう)・防御反応・回避を言語化して記録することです。親記事(肩の整形外科テスト一覧)と合わせると、肩の評価が迷わなくなります。
同ジャンルで回遊して、判断を速くする:不安定性は「肩の全体像(親)→部位別ハブ→共有指標」で揃えるとブレが減ります。
- 部位別ハブ:整形外科的テスト一覧(部位別)
- 共有指標:QuickDASH の評価(計算・欠損ルール・解釈)
5 分で回す|不安定性疑いの最短フロー(安全優先)
不安定性は、テストより先に問診の情報でほぼ方向が決まります。まずは「外傷歴」「脱臼整復歴」「反復」「怖さが出る肢位」を押さえ、テストは最小セットで十分です。
テスト中に恐怖感が強い場合は無理に続けず、“怖さが出た角度・肢位”を記録して終了します。それだけで臨床的価値があります。
| 順序 | 見ること | 観察・記録の型(例) | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 1 | 問診 | 外傷歴 / 整復歴 / 反復 / “外れそう” が出る肢位 | 危険ならテストは増やさない |
| 2 | AROM と代償 | 回避・防御、外旋・外転で止まる | 怖さの閾値(角度)を取る |
| 3 | 最小セット | Apprehension →(必要なら) Relocation | “怖さ” が主反応なら十分 |
| 4 | 補助 | Sulcus sign(下方要素の補助) | 下方弛緩が絡むかを確認 |
| 5 | 介入→再評価 | 怖さの角度( 1 つ)+代表テスト( 1 個) | 同条件で変化を 1 行共有 |
核になる 2 つ|Apprehension と Relocation をどう使う?
前方不安定性では、 Apprehension と Relocation が核になります。評価の価値は「痛い」よりも、怖さ(外れそう)と防御反応を拾うことです。痛みだけで陽性にしないほうが、解釈がブレません。
Relocation は “安心する(怖さが減る)” 反応が重要で、これが得られると仮説が強くなります。
| 項目 | Apprehension | Relocation | Sulcus sign |
|---|---|---|---|
| 主に狙う | 前方不安定性(恐怖感) | 恐怖感の軽減で前方要素を補強 | 下方弛緩(多方向性の要素) |
| 陽性の見方 | “外れそう” / 防御 / 回避 | 支持で “怖さが減る” | 溝( sulcus )の出現と左右差 |
| 偽陽性が増える例 | 痛みだけを陽性にする | 押さえ込みで痛みを増やす | 筋緊張・体位差で差が出る |
| 記録の型(例) | “外転外旋で恐怖感、 70° で回避” | “支持で恐怖感↓(安心)” | “下方溝あり、左右差あり” |
最小セット( 2〜3 個)|不安定性は増やさない
不安定性は、テストを増やすほど不安・恐怖が強まり、評価が成立しにくくなります。初回は Apprehension +(必要なら) Relocation に絞り、下方要素が気になるときだけ Sulcus を追加します。
| 場面 | まずやる(最小) | 追加するなら | 目的 |
|---|---|---|---|
| 前方不安定性を疑う | Apprehension | Relocation | 恐怖感の再現と軽減を取る |
| 多方向性を疑う | Apprehension | Sulcus sign | 下方弛緩の要素を補助で確認 |
記録の型|“怖さ” を 1 行で共有するテンプレ
不安定性は、恐怖感の言語化が価値です。次の 3 点だけを 1 行にすれば、チーム共有が揃います。
| 要素 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 怖さが出る肢位 | 外転外旋など+角度 | 外転外旋 70° で恐怖感、回避あり |
| 代表テスト反応 | Apprehension の反応 | “外れそう” を訴え、防御で止まる |
| 支持での変化 | Relocation の反応(任意) | 支持で恐怖感↓(安心) |
現場の詰まりどころ|解決の三段(必須)
不安定性は「痛いだけで陽性にしてしまう」「怖さを言語化できない」「テストを増やして不安を強める」で詰まりやすい領域です。ここは読ませるゾーンなので、ボタンは置かずにページ内で詰まりを潰します。
- よくある失敗(不安を増やすパターン)へ
- 回避の手順・チェック(安全運用)へ
- 同ジャンルの内部リンク:腱板テストまとめ(筋別の最小セット)
よくある失敗|“痛い=陽性”にしない
不安定性は、痛みだけを陽性にすると解釈が崩れます。まずは “怖さ” と “防御” を拾い、テストを増やしすぎない運用にします。
| ありがち( NG ) | なぜ起きる | 回避( OK ) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 痛いだけで陽性にする | 疼痛性疾患でも痛みは出る | “怖さ / 防御” を陽性の主反応にする | 恐怖感・回避反応の有無 |
| テストを増やす | 不安が増えて評価が成立しない | 最小セット 2〜3 個に絞る | 実施数を残す( “本日は 2 個まで” ) |
| 押し切って恐怖を強める | 安全性と信頼が落ちる | 怖さが出た時点で止め、角度を記録 | 止めた角度(閾値) |
回避の手順・チェック|安全運用を固定する
不安定性は、評価の“安全”が最優先です。次の固定項目を揃えれば、再評価で比較でき、かつ負担を増やしにくくなります。
| 固定すること | 具体 | 理由 |
|---|---|---|
| 事前説明 | 怖さが出たらすぐ止めると伝える | 防御反応が減り評価が成立しやすい |
| 角度の上限 | 怖さが出た角度で止める | 無理に誘発しない |
| 追う所見 | 閾値角度+代表テスト 1 個 | 比較できる情報を優先 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Apprehension は “痛い” だけでも陽性ですか?
基本は “痛い” よりも、怖さ(外れそう)・防御・回避が主反応です。痛みだけだと、他の疼痛性疾患(腱板関連疼痛など)でも同様の反応が出るため、解釈がブレます。記録は “怖さが出た肢位と角度” を中心に残すと、再評価で比較できます。
Relocation は何を見ればいい?
支持で “安心する(怖さが減る)” 反応が価値です。痛みの増減だけで判断せず、恐怖感の変化を言語化して記録します。強い恐怖が出る場合は無理に続けず、閾値角度を取って終了しても十分に意味があります。
Sulcus sign はいつ使う?
下方弛緩や多方向性の要素が疑われるときの補助として使います。体位や筋緊張で所見が変わりやすいので、左右差と条件(体位)を揃えて記録すると再評価が安定します。
次の一手|運用を整える→共有の型→環境の詰まりも点検
不安定性は、恐怖感の扱いと安全運用が鍵で、個人のやり方に依存すると運用が揺れやすい領域です。まずは院内で「回す型」を整え、共有の言葉を揃えると、意思決定が速くなります。
- 運用を整える:肩のテスト選択を一覧で揃える → 肩関節の整形外科テスト一覧(親)
- 共有の型を作る:上肢の困りごとを 1 行で共有する → QuickDASH(計算・欠損ルール・解釈)
- 環境の詰まりも点検:教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Hegedus EJ, Goode A, Campbell S, et al. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Br J Sports Med. 2012;46(14):964-978. doi:10.1136/bjsports-2012-091066
- Olds M, Ellis R, Parmar P, Kersten P. A systematic review and meta-analysis of tests for shoulder instability. Phys Ther Sport. 2019. doi:10.1016/j.ptsp.2019.02.009
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


