USN(半側空間無視)の所見を「退院先の条件」に翻訳する
半側空間無視( USN )の退院判断で難しいのは、「机上検査の点数」だけでは事故が予測しきれないことです。ぶつかる・転倒する・患側を置き去りにする、といった困りごとは ADL の “場面” で出ます。
結論はシンプルで、退院先の判断は ①事故が起きる場面(どこで)→ ②成立条件(何があれば)→ ③説明文(誰にどう伝える)の 3 つに分けて整理すると、チーム共有と家族説明が一気に楽になります。
同ジャンル回遊(まず親へ)
退院判断に使う 3 軸(事故場面・成立条件・説明文)
同じ USN でも、「どの場面で事故が起きるか」によって必要な支援が変わります。退院判断の材料は、点数よりも 事故の再現性 と 回避の再現性です。
おすすめは、USN の所見を “退院先の条件” に落とすときに、次の 3 軸でメモを固定することです。
- 事故場面:ぶつかる/転倒/置き去り/自己管理の抜けが出るのは「いつ・どこで」か
- 成立条件:環境(配置・導線)/介助(見守り・声かけ)/道具(マーキング等)で「何があれば回避できる」か
- 説明文:家族・ケアマネ・施設へ「注意点とやること」を 3 文で伝える
USN を “事故が起きる場面” に翻訳する(観察テンプレ)
机上課題は「ある/ない」を拾うのに向きますが、退院判断は “生活場面” の情報が主役です。観察の視点は、次の 4 つを押さえると取りこぼしが減ります。
- 移動:歩行・車椅子で左側の物体/人に接触する、曲がるときに巻き込みやすい
- 更衣・整容:左袖・左肩・左頬の手順抜け、鏡の左側を見落とす
- 食事:左側の食べ残し、配膳の左側に手が伸びない
- 自己管理:薬・予定・持ち物の “左側” が抜ける(机上は整って見えても起きる)
補足:左 USN(左半球損傷)で “見落とし” が小さく見えるときの注意点
右半球損傷の USN は、ぶつかり・置き去りなどが目立ちやすい一方、左半球損傷(左 USN )は「目立つ事故が少ない」ように見えることがあります。ですが、言語・注意の配分、動作の “手順化” の難しさが重なると、自己管理(服薬・予定・持ち物)や段取りにズレが出て、退院後に問題化しやすいです。
このタイプは、移動の接触だけで判断せず、“手順が崩れる場面(複数手順・二重課題・時間圧)”での抜けを拾い、成立条件(見守り頻度・声かけの型・配置)までセットで考えると安全です。
退院先の判断マトリクス(自宅/施設/転院の考え方)
退院先は「点数」ではなく、事故が起きる場面が残っているかと、回避が再現できるかで整理します。目安として、以下のマトリクスで “条件付き自宅” を作れるかを確認します。
| 観点 | 自宅復帰が見える状態 | 条件付き(要調整) | 施設/転院を検討 |
|---|---|---|---|
| 接触・転倒 | 危険場面が特定でき、回避行動が再現できる | 一部の場面で接触が残るが、環境調整で減る | 接触・転倒が多発し、回避が安定しない |
| 見守り | 見守りの “外しどき” が見える(時間帯・場面) | 見守り必須だが、家族/サービスで補える | 常時に近い見守りが必要で担保が難しい |
| 自己管理 | 服薬・持ち物などの抜けが手順化で減る | 抜けが残るが、チェック表・配置固定で補える | 抜けが大きく、独居や日中独居は危険 |
| 家屋条件 | 導線・段差・トイレ動線が安全に作れる | 環境調整(家具配置・マーキング)で改善余地 | 狭い導線・段差・夜間動線が高リスクで残る |
チーム共有が速くなる「翻訳テンプレ」(申し送り 3 文)
退院支援で強いのは、所見を “注意点” で終わらせず、事故が起きる場面 → 条件 → 依頼事項の形で書くことです。以下の型を、そのままカンファ/家族説明に使えます。
- 場面:「屋内移動で左側の障害物に接触しやすく、特に曲がる場面でリスクが上がります。」
- 条件:「左側に物を置かない配置固定と、曲がる前の声かけ(“左確認”)で接触は減ります。」
- 依頼:「退院後はトイレ動線と玄関周りの配置を優先して整え、日中は見守り頻度を固定してください。」
現場の詰まりどころ(読み飛ばし防止の 3 点セット)
ここは “読ませるゾーン” です。迷いやすいポイントだけ先に押さえ、必要な場所へ最短で飛べるようにします。
よくある失敗:机上で良い → 退院 OK と判断してしまう
USN は、机上検査で “できた” ように見えても、病棟では二重課題(会話しながら移動、急いでトイレ、夜間など)で崩れます。判断がズレるときは、次の 3 パターンが多いです。
- 場面が特定できていない:どこで事故が起きるかが曖昧なまま “注意” で終わる
- 条件が固定されていない:声かけ・配置・導線のどれで回避できたかが残っていない
- 説明が短文化されていない:家族・ケアマネに伝える “ 3 文 ” が作れていない
回避の手順/チェック:退院前に潰す 7 項目
- 事故が起きる場面を 2 つに絞る(例:曲がる、夜間トイレ)
- 回避の条件を 2 つに絞る(例:配置固定、声かけ固定)
- 見守りの “外しどき” を時間帯で決める(昼/夜で分ける)
- 家屋導線の危険ポイントを 3 つだけ言語化する(玄関、廊下、トイレ)
- 家族ができる介助を “行動” で書く(注意喚起ではなく手順)
- 退院後 1 週間の再転倒を想定し、連絡先と受診基準を決める
- 申し送り 3 文を作って多職種で一致させる
よくある質問(FAQ)
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USN の退院判断で「点数の目安」はありますか?
目安の “点数” を 1 つで決めるのはおすすめしません。退院判断は、点数よりも「事故が起きる場面が残っているか」と「回避が再現できるか」が主役です。点数は “所見の整理” と “経時変化” に使い、最終判断は場面と条件で言語化して共有するとズレが減ります。
自宅復帰にした場合、まず何を整えると事故が減りますか?
優先は 1 )導線(廊下〜トイレ) 2 )配置固定(左側に物を置かない等) 3 )声かけの型(曲がる前の合図)です。やることを増やすより、条件を 2〜3 個に絞って “毎回同じ” にする方が安定します。
家族説明で伝えるべきポイントは何ですか?
「場面(どこで危ない)」「条件(何があれば回避できる)」「依頼(家族にしてほしい行動)」の 3 点です。注意喚起だけだと伝わりにくいので、行動レベル(配置、見守り頻度、声かけ)まで落とすのがおすすめです。
次の一手(意思決定の 3 段+サブ導線)
- 運用を整える:評価とアウトカムの “院内統一” を進める(記録の型)
- 共有の型を作る:FIM / BI を退院支援の文章に落とす( 5 ステップ変換 )
- 環境の詰まりも点検:教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Tsujimoto K, Mizuno K, Kobayashi Y, et al. Right as well as left unilateral spatial neglect influences rehabilitation outcomes and its recovery is important for determining discharge destination in subacute stroke patients. Eur J Phys Rehabil Med. 2020;56(1):5-13. DOI: 10.23736/S1973-9087.19.05595-3 / PubMed: 31134787
- Chen P, Hreha K, Fortis P, Goedert KM, Barrett AM. Functional assessment of spatial neglect: a review of the Catherine Bergego scale and an introduction of the Kessler foundation neglect assessment process. Top Stroke Rehabil. 2012;19(5):423-435. DOI: 10.1310/tsr1905-423 / PubMed: 22982830
- Chen P, Chen CC, Hreha K, Goedert KM, Barrett AM. Kessler Foundation Neglect Assessment Process uniquely measures spatial neglect during activities of daily living. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(5):869-876.e1. DOI: 10.1016/j.apmr.2014.10.023 / PubMed: 25461827
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


