半側空間無視( USN )ドリル( OT )|探索・ ADL を「条件固定」で回す
半側空間無視( unilateral spatial neglect: USN )の現場で一番つまずきやすいのは、介入内容ではなく条件(姿勢・視野・課題・環境)が毎回変わることです。条件が揃わないと「良くなったのか」「やり方を変えたからなのか」が判定できず、チームで共有できる手応えが残りません。
本記事は、OT が病棟や生活場面で回しやすいように、探索 → 体幹・視線 → 道具操作 → ADLを 1 本の流れにして、難易度調整( 1 要素だけ変える )と記録の最小セットまでまとめます。関連するドリル一覧は 高次脳機能障害ドリル OT ハブ に整理しています。
この記事でわかること
USN のドリルを「その場しのぎ」から、比較できる介入にするための手順がわかります。具体的には、①条件固定(姿勢・開始位置・探索範囲)、②難易度は 1 要素だけ変更、③記録は「見落とし・再探索・手がかり」を最小で残す、の 3 点です。
USN は注意・遂行と重なって “崩れ方” が変わるので、必要なら 注意障害ドリル( OT ) も併せて参照すると、評価と共有が速くなります。
図版(運用フロー)
以下の図版は、USN ドリルを「条件固定→比較→一般化」の順で回すための全体像です。現場の共有用にそのまま貼れます。

最初にそろえる条件(ここを固定するとブレません)
| 項目 | 固定のしかた | チェック |
|---|---|---|
| 姿勢 | 骨盤と体幹を正中位に近づけ、座面高と足底接地を揃える | 骨盤後傾、体幹回旋が強くない |
| 開始位置 | 課題は正面(正中)開始(開始点を毎回同じに) | 開始位置が毎回同じ |
| 課題条件 | 用紙サイズ、探索範囲、ターゲット数を固定 | 「何個探すか」が固定 |
| 環境 | 物品配置(テーブル位置、車いす角度)を固定 | 左側に物が隠れない |
難易度は 1 要素だけ動かす
USN のドリルは、複数を同時に変えると比較不能になります。調整は 1 要素だけに限定します。
| 要素 | 易しくする | 難しくする | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 探索範囲 | 狭い範囲(正中〜軽度左) | 広い範囲(左端まで) | 左端の見落とし |
| ターゲット | 少数・大きい・コントラスト高 | 多数・小さい・紛らわしい | 再探索の回数 |
| 手がかり | 左端マーカー/指差し誘導あり | 手がかりなし | 自己修正できるか |
| 二重課題 | 単一課題 | 会話/数えながら実施 | 注意低下での再燃 |
ドリルメニュー(探索 → 道具操作 → ADL)
1) 探索(紙面・机上)
| レベル | 課題 | 条件固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 初級 | ターゲット 10〜20 個を探す(正中開始) | 範囲とターゲット数を固定 | 左端見落とし、再探索回数 |
| 中級 | 紛らわしい中から指定だけ拾う | 紛らわしさ(類似)を固定 | 誤反応、自己修正 |
| 上級 | 探索しながら報告(数える/読み上げ) | 二重課題の種類を固定 | 注意低下での再燃 |
2) 体幹・視線の誘導(生活に寄せる)
| 課題 | やり方 | 固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 正中リセット | 開始前に「正面を見る → 左端マーカー確認」 | 毎回同じ手順で開始 | 開始時の正中ずれ |
| 体幹回旋 | 左側の目標へ体幹ごと向ける(首だけにしない) | 回旋角度と座位条件 | 左向き保持時間 |
| 視線走査 | 右→正中→左端の順で “なぞる” | 走査順序を固定 | 左端到達率 |
3) 道具操作(更衣・整容へ直結)
| 課題 | 例 | 固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 整容 | 顔の左側をチェック(鏡を使う) | 鏡の位置と手順 | 左側の見落とし |
| 更衣 | 左袖・左裾の確認 → 触って確認 | 確認順序を固定 | 最終確認の実施有無 |
| 食事 | 皿の左側から 1 口取るルール | 配置(皿/トレー)固定 | 左側残食 |
記録の最小セット(これだけ残せば次が決まる)
| 項目 | 書き方 | 次回の打ち手 |
|---|---|---|
| 条件 | 姿勢/開始位置/探索範囲/ターゲット数 | 条件が崩れたらまず修正 |
| 見落とし | 左端の取り残しの有無 | 範囲か手がかりを調整 |
| 再探索 | 再探索の回数( 0/1/2 回以上 ) | 走査順序の固定 |
| 手がかり | なし/提示で改善/提示しても不可 | 手がかりの量を 1 要素で調整 |
| 一般化 | 整容/更衣/食事での左側確認 | ADL へ橋渡しを追加 |
USN ドリルの PDF(実施・記録/課題シート)
USN のドリルは「実施ルールと記録の型」+「課題シート(刺激)」がそろうと、現場で回しやすくなります。以下の PDF を使うと、条件固定と比較がそのまま運用できます。
実施・記録シート(A4・2ページ)
プレビューを表示する
課題シート(刺激)(A4・4ページ)
プレビューを表示する
現場の詰まりどころ
詰まりどころは、USN を「視野の問題」だけで扱ってしまい、姿勢(正中)と環境(物品配置)が毎回変わることです。課題が合っていても、開始条件が変われば成否が揺れます。まずは「座位条件・開始位置・探索範囲」を固定して、比較できる状態を作ります。
よくある失敗
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 毎回メニューが違う | 比較できない | 同条件で 2 回は固定 | 固定した条件 |
| 手がかりを足しすぎる | 自立の評価ができない | 手がかりは 1 要素だけ調整 | 手がかりの有無 |
| 首だけ左に向ける | 生活に一般化しにくい | 体幹ごと正中化・回旋 | 姿勢の崩れ |
| ADL に橋渡ししない | 机上で終わる | 整容/更衣/食事の確認ルールへ | 左側残し |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. USN のドリルはどれくらいの頻度で回しますか?
短時間でも「同条件で反復」できる頻度が有利です。週 2〜3 回以上を目標にしつつ、疲労が強い場合は 10〜15 分に分割して回します。重要なのは、条件固定で比較できる形にすることです。
Q2. 机上はできるのに ADL で取り残します
一般化の不足が多いです。机上で「走査順序」を固定したら、整容(鏡)・更衣(左袖/左裾)・食事(皿左側から 1 口)など、生活の確認ルールへ橋渡ししてください。
Q3. 注意低下があるときはどうしますか?
二重課題で再燃しやすいので、まず単一課題で条件固定し、安定してから二重課題を 1 種類だけ追加します。必要なら 注意障害ドリル( OT ) の枠で記録を合わせると共有が速いです。
Q4. 左を見るように言っても改善しません
「指示」より先に、姿勢(正中)と環境(左に隠れない配置)を固定します。その上で、左端マーカーなど手がかりを 1 つだけ追加し、提示で改善するかを確認します。
次の一手
体制面の詰まりを点検する場合は、無料チェックシート で共有フローも整理しておくと定着が早くなります。
参考文献
- Bowen A, Lincoln NB. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2013;CD003586. DOI: 10.1002/14651858.CD003586.pub3 / PubMed: 23813503
- Luauté J, Halligan P, Rode G, Rossetti Y, Boisson D. Visuo-spatial neglect: A systematic review of current interventions and their effectiveness. Neurosci Biobehav Rev. 2006. DOI: 10.1016/j.neubiorev.2006.03.001
- Azouvi P, Jacquin-Courtois S, Luauté J. Rehabilitation of unilateral neglect: Evidence-based medicine. Ann Phys Rehabil Med. 2017. DOI: 10.1016/j.rehab.2016.10.006
- van Wyk A, Eksteen CA, Rheeder P. The effect of visual scanning exercises integrated into physiotherapy in patients with unilateral spatial neglect poststroke: a matched-pair randomized control trial. Neurorehabil Neural Repair. 2014;28(9):856-873. DOI: 10.1177/1545968314526306 / PubMed: 24633138
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


