人工呼吸器離脱に向けた理学療法|評価と早期離床の実務ガイド

臨床手技・プロトコル
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人工呼吸器の離脱に向けた理学療法士の役割と実務フロー

結論:人工呼吸器の離脱は「病態の安定化+呼吸筋・全身筋の回復+チーム連携」の総合戦略であり、理学療法士は早期離床と運動療法の専門職として離脱促進に大きく関わります。 本記事では、集中治療室( ICU )〜一般病棟を想定し、離脱プロセスの全体像と、理学療法士がどのフェーズで何を考え、どう動くかを整理します。

人工呼吸器管理下の患者では、 ICU-acquired weakness や長期臥床により、離脱準備が整っても「動けない・痰が出せない」ことがボトルネックになりやすいです。早期リハビリテーションのエビデンスや 呼吸評価のハブ も参照しつつ、評価指標( RSBI や SBT 所見など)と臨床場面を結び付けて解説します。

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人工呼吸器離脱の基本フローと理学療法の立ち位置

人工呼吸器離脱の典型的な流れは、①急性期治療(循環・呼吸の安定化)→ ②離脱準備性の評価(酸素化・血行動態・意識など)→ ③自発呼吸トライアル( SBT )→ ④抜管・再評価、というステップです。このうち理学療法士は、②〜④の場面で、起立・端坐位・立位歩行などを通じて呼吸循環応答を確認しつつ、離脱の「成功確率」を高める支援を行います。

医師・看護師は換気条件や薬剤調整のプロトコルを中心にマネジメントしますが、理学療法士は「動かす」「座らせる」「歩かせる」ことで呼吸筋・全身筋を賦活し、痰喀出や ADL の回復を後押しします。早期離床プロトコルのなかにリハビリを組み込むことで、離脱までの日数や ICU 滞在日数の短縮が期待されます。

離脱に向けた理学療法士のコア業務

人工呼吸器離脱に関わる理学療法士のコア業務は、①離床・運動の適応と禁忌の判定、②呼吸状態と循環動態を踏まえた運動処方、③筋力・ADL・座位耐久性などの継時的評価、④多職種カンファレンスへの情報提供です。単に「歩かせる」のではなく、離脱のタイミングとリスクを意識した介入が求められます。

具体的には、RASS やせん妄スクリーニングを確認したうえで覚醒レベルを評価し、鎮静が浅く体動が可能なタイミングで端坐位や立位を開始します。また、膝伸展筋力や端坐位時間の推移を記録しておくと、SBT の負荷に耐えられるかどうかの判断材料としてチームに共有しやすくなります。

離脱準備性の評価とフィジカル:何を見るか

離脱準備性の評価では、酸素化( PaO2/FiO2 比・ SpO2)、呼吸パターン(呼吸数・一回換気量・ RSBI など)、血行動態(心拍数・血圧・不整脈の有無)、意識レベル・咳嗽力・分泌物量が重要です。理学療法士は、これらの指標が「許容範囲か」を確認したうえで、離床負荷を段階づけていきます。

例えば、端坐位や立位中に呼吸数の急増、使用筋の著明な増加、SpO2 低下、頻脈・血圧変動などがみられた場合は、離脱準備が不十分か、負荷量が過大である可能性があります。また、 ICU-acquired weakness による四肢・呼吸筋の筋力低下が疑われる場合は、筋力評価や簡便な機能テストを通じて「離脱後の活動レベル」を予測しておくことも重要です。

早期離床・運動療法の実際:フェーズ別のねらい

早期離床の初期フェーズでは、ベッド上での姿勢変換・頭部挙上・端坐位保持を通じて、肺底部の換気改善や循環動態の耐性を確認します。点滴・ドレーン類が多い症例では、ライン整理や看護師とのタイミング調整が欠かせません。端坐位中は呼吸パターン・表情・発汗・血圧を観察し、必要に応じて即座に負荷を下げられる体制を整えます。

安定してきた中〜後期フェーズでは、立位・歩行練習や下肢レジスタンストレーニングを組み合わせ、全身持久力と ADL の再獲得を目指します。人工呼吸器装着中でも、歩行器やモバイルベンチレーターを活用すれば、歩行レベルまで到達できるケースも少なくありません。介入のたびに「歩行距離」「離床レベル」「介助量」を記録し、人工呼吸器装着日数や ICU 滞在日数との関連も意識しておくと良いでしょう。

呼吸筋トレーニング(IMT)導入のポイント

呼吸筋トレーニング( inspiratory muscle training: IMT )は、人工呼吸管理中または離脱後の呼吸筋弱化に対して有効とされる介入です。最大吸気圧( MIP )の向上や RSBI の改善に寄与することが報告されていますが、一方で「離脱成功率」そのものへの効果は研究によりばらつきがあり、施設のプロトコルに沿った慎重な運用が必要です。

実務上は、①原因疾患がコントロールされている、②血行動態が安定している、③患者の理解と協力が得られる、といった条件を確認したうえで、低〜中等度負荷から開始します。セッション中は呼吸困難感、呼吸数、SpO2、心拍数などをモニタリングし、「苦しさの悪化」やバイタルの破綻があれば直ちに中止します。IMT は単独の魔法のツールではなく、早期離床・全身筋トレーニングと組み合わせて総合的に用いることが重要です。

多職種連携とカンファレンス:情報の出し方を工夫する

人工呼吸器離脱は、医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士など多職種の意思決定です。理学療法士は「離床レベル」「歩行距離」「筋力」「疲労のしやすさ」など、運動耐容能に関する情報を、時間経過とセットで共有することで、抜管タイミングの判断をサポートできます。

カンファレンスでは、主観的な印象ではなく、「離床開始から 3 日で端坐位 10 分 → 立位保持 5 分 → 歩行 20 m まで拡大」「歩行後の呼吸数は 20 回/分前後で安定」など、数値と具体的場面をセットにして提示すると合意形成がスムーズになります。また、再挿管のリスクが高い症例では「抜管後の離床・呼吸理学療法計画」もあわせて提案しておくと、チームからの信頼が高まりやすいです。

現場の詰まりどころ:よくあるつまずきとリカバリー

よくあるつまずきとして、①「バイタルが安定しないから」と離床開始が遅れ、結果的に ICU-acquired weakness が進行してしまう、②安全側を意識するあまり負荷量が低すぎて、筋力・持久力の回復が頭打ちになる、③離床基準がチームで共有されておらず、日によって方針がぶれてしまう、などが挙げられます。

これらに対しては、施設として離床・運動の基準(開始条件・中止基準)を明文化し、プロトコルやチェックリストに落とし込むことが有効です。そのうえで、理学療法士が日々の評価結果をフィードバックし、実際の症例に合わせてプロトコルを微調整していくことで、「攻めすぎず・守りすぎず」のバランスを取りやすくなります。

よくある質問(FAQ)

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Q1.人工呼吸器管理中の早期離床は、いつから始めてよいですか?

一般的には、循環動態(血圧・心拍数)が安定し、FiO2・ PEEP が過大でなく、せん妄や強い鎮静で指示が全く入らない状態でないことが前提になります。呼吸数や SpO2、昇圧薬使用量なども確認し、施設ごとの離床基準に照らして「まずはベッドアップ・端坐位から」段階的に進めることが推奨されます。

理学療法士だけで判断するのではなく、医師・看護師とリアルタイムに相談しながら、小さな負荷から安全に始めることが重要です。

Q2.RSBI や SBT の結果がギリギリのとき、理学療法士はどう関わればよいですか?

RSBI( rapid shallow breathing index )はあくまで指標の 1 つであり、単独で抜管の可否を決めるべきではないとされています。理学療法士は、端坐位・立位・歩行の場面での呼吸パターンや疲労の出方、咳嗽力、分泌物の量や性状など、SBT だけでは見えにくい情報を提供することが役割です。

「端坐位 10 分で呼吸数 24 回/分前後・ SpO2 安定」「歩行後も会話可能で咳嗽力良好」など、具体的な状況を添えて報告することで、チームの判断材料を増やすことができます。

Q3.抜管後の理学療法で、特に注意すべきポイントは何ですか?

抜管直後は再挿管リスクが高く、呼吸状態の変化を見逃さないことが最優先です。積極的な歩行や階段練習よりも、まずは座位・立位での呼吸パターン、 SpO2、声の出しやすさ、痰喀出力を確認し、呼吸困難感が強ければ負荷量を即座に下げる必要があります。

また、抜管後は嚥下機能の評価や誤嚥リスクの把握も重要です。言語聴覚士や栄養サポートチームと連携し、「離脱後の運動量」と「摂食・嚥下」「栄養」のバランスをとることが、再悪化の予防につながります。

おわりに:離脱プロセスに「動き」を組み込む

人工呼吸器の離脱は、病態が落ち着いたからといって自動的に進むものではなく、「動ける身体」「呼吸筋・全身筋の回復」「チームの合意」がそろって初めて実現します。理学療法士は、早期から「離脱後の生活」を見据えた運動療法を展開し、離脱の成功と退院後の QOL 向上の両方を支えるポジションにあります。

日々の症例で、離床レベル・歩行距離・筋力・呼吸応答を丁寧に記録しながら、プロトコルの改善やチーム教育にも関わっていけると、ICU 〜病棟における理学療法の価値がより伝わりやすくなります。人工呼吸器離脱を軸に、呼吸リハ全体のスキルアップにもつなげていきましょう。

参考文献

  1. 日本集中治療医学会 早期リハビリテーション委員会.集中治療における早期リハビリテーション 〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜.日本集中治療医学会雑誌.2017.https://www.jsicm.org/pdf/soki_riha_1707.pdf
  2. 横山仁志ほか.人工呼吸器装着患者における早期離床トレーニングの有用性.理学療法学.2014.https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_0304/_article/-char/ja/
  3. 小川灯子.集中治療領域におけるリハビリテーションの役割 〜理学療法士の立場から〜.集中治療.2019;27(1):16-23.https://www.jstage.jst.go.jp/article/ccm/40/1/40_16/_pdf
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  5. Alonso-Pérez JL, et al. Inspiratory Muscle Training and Its Impact on Weaning from Mechanical Ventilation: A Systematic Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2025;10(2):111. doi: 10.3390/jfmk10020111
  6. Schweickert WD, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882. doi: 10.1016/S0140-6736(09)60658-9
  7. Yang KL, Tobin MJ. A prospective study of indexes predicting the outcome of trials of weaning from mechanical ventilation. N Engl J Med. 1991;324(21):1445-1450. doi: 10.1056/NEJM199105233242101

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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