人工呼吸器離脱( weaning )の理学療法|評価・早期離床の実務
人工呼吸器の離脱( weaning )は、指標( RSBI / SBT )だけで決まるものではなく、離床での負荷耐性と分泌物・咳嗽、鎮静・覚醒、共有の型がそろうほど成功率が上がります。本記事では ICU 〜一般病棟を対象に、理学療法士( PT )が「迷わず動ける」ように、評価→介入→記録→共有を運用の型として固定します。
まずは同ジャンルの親記事で「評価の土台」をそろえると、離脱の判断がブレにくくなります。
サブ導線:呼吸・運動耐容能評価ハブ / 代表的な子:IMS( ICU Mobility Scale )
PT の最短フロー:評価 → 介入 → 共有( 60 秒で掴む )
離脱に向けた PT の介入は、細かな検査を増やすほど回らなくなりがちです。まずは①安全(酸素化・循環・覚醒)→②喀出(咳嗽・分泌物)→③運動耐性(離床レベル)→④共有(数値×場面)の順で、最小セットを固定します。
| 順 | 評価(まず確認) | 介入(その場の打ち手) | 共有(残す 1 行) |
|---|---|---|---|
| 1 | 酸素化/循環/覚醒(鎮静・不穏) | 離床レベル決定(端坐位から開始) | 条件(体位/酸素流量/鎮静)を固定 |
| 2 | 咳嗽力/分泌物量/吸引頻度 | 体位・介助で喀出を引き出す | 痰の動き/吸引前後の変化 |
| 3 | 離床耐性(呼吸数・会話・疲労) | 少量頻回で漸増(同条件で比較) | 離床レベル/距離/所要時間 |
| 4 | SBT 中の反応(努力呼吸・頻呼吸) | 負荷を下げて「耐える形」へ調整 | 数値( RR / SpO2 )×場面 |
離脱( weaning )と PT の役割
離脱の意思決定は医師主導ですが、PT は「ベッドサイドで負荷をかけたときの反応」を再現性ある形で提供できます。重要なのは、単一の数値に寄せすぎず、場面(端坐位・立位・歩行)× 数値( RR / HR / SpO2 )で共有することです。
この 1 行が入るだけで、カンファレンスは動きます:「端坐位 10 分で RR 20/分・会話可、 SpO2 94%( O2 2 L )で安定」。
評価:PT が見る最小セット(抜けを作らない)
評価は「全部やる」ではなく、離脱の可否と安全管理に直結する最小セットを固定します。特に ICU では、覚醒(協力性)と喀出(痰)が抜けると、離床が進まず離脱も止まりやすくなります。
| 領域 | 見るポイント | 危険サイン(中断の判断材料) | 記録の型(短文) |
|---|---|---|---|
| 酸素化 | SpO2 / RR /努力呼吸 | 会話不可・努力呼吸増・ SpO2 低下が持続 | 体位+ O2 条件+ SpO2 / RR |
| 循環 | BP / HR /冷汗・顔色 | 低血圧・頻脈の進行・冷汗 | 離床前後の BP / HR |
| 喀出 | 咳嗽力/痰の性状/吸引 | 痰閉塞疑い・吸引依存が増える | 吸引前後の変化(量/音) |
| 運動耐性 | 端坐位・立位の保持/疲労 | 保持困難・過緊張・不穏増 | レベル( IMS )+時間 |
安全管理:開始条件と中断(中止)を 1 枚でそろえる
離床が止まる最大要因は「誰が見ても同じ判断にならない」ことです。ここは施設の中断基準(院内ルール)に合わせつつ、PT としての観察ポイントを「チェックで残せる形」にします。
| 項目 | OK(開始しやすい) | 注意(負荷を下げる) | 中断(中止)に寄る所見 |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 会話可/努力呼吸なし | 呼吸数上昇・肩呼吸が増える | 努力呼吸が明確/会話不能 |
| 酸素化 | SpO2 が安定 | 低下しても回復が速い | 低下が持続・回復しない |
| 循環 | BP / HR が大崩れしない | 立位でふらつき・冷汗 | 低血圧進行・頻脈進行 |
| 覚醒 | 指示理解・協力が得られる | 不穏・恐怖が強い | 危険行動(自己抜去リスク) |
| 気道 | 分泌物がコントロール可能 | 痰が多い・吸引が増える | 痰閉塞疑い(音・換気悪化) |
早期離床:フェーズ別の運用(目標/中断/記録)
離床は「頑張る」ではなく、同条件で漸増できるようにフェーズを区切ります。迷う場合は、離床レベルの共有に IMS( ICU Mobility Scale )を使うと、職種間のズレが減ります。
| フェーズ | 目標 | その場で見る中断サイン | 記録(最小) |
|---|---|---|---|
| 端坐位 | 呼吸・循環が破綻しない | 努力呼吸/冷汗/ SpO2 低下が持続 | 端坐位時間+ RR / SpO2 |
| 立位 | 起立耐性(血圧含む) | ふらつき/顔面蒼白/頻脈 | 立位時間+ BP / HR |
| 歩行 | 持久力を安全に積む | 努力呼吸増・会話不可 | 距離+所要時間+休憩回数 |
呼吸筋トレーニング( IMT )の位置づけ:誰に、いつ、どの負荷で
IMT は「入れれば良い」ではなく、安定期で協力が得られること、そして負荷設定と増負荷のルールが必要です。負荷が曖昧だと、効果判定ができず属人化しやすくなります。
負荷設定と記録のテンプレは IMT 運用プロトコル にまとめています(負荷・回数・増負荷の型)。
共有の型:報告テンプレ( SBAR 風に短く )
離脱( weaning )は「情報が揃うほど」進みます。ここでは、PT が 30 秒で共有できるテンプレに落とします。ポイントは「印象」ではなく、数値×場面で言い切ることです。
| 項目 | 例(そのまま読める形) |
|---|---|
| 離床レベル | 端坐位 10 分 → 立位 5 分( IMS : 3 → 4 ) |
| 応答(数値×場面) | 端坐位で RR 20/分、 SpO2 94%( O2 2 L )、会話可 |
| 分泌物 | 吸引 2 回/日、体位で湿性ラ音が減る |
| 次の一手 | 端坐位回数増 → 立位時間を同条件で漸増 |
現場の詰まりどころ/よくある失敗
詰まる原因は「症例が難しい」よりも、条件が揃わない(比較できない)ことが多いです。ここは、読ませるゾーンとしてボタンは置かず、迷いを減らす導線だけに絞ります。
よくある失敗( NG → OK )
| 場面 | ありがちな NG | 何が起きるか | OK(直し方) | 記録に残す 1 行 |
|---|---|---|---|---|
| 離床開始 | 「安定しない」ので延期し続ける | 耐性が育たず、離脱が遠のく | 小負荷(端坐位)で開始し、条件固定 | 端坐位 5–10 分を毎日(同条件) |
| 負荷調整 | 守りすぎて比較不能 | 改善が見えず、チームが動かない | 同条件で漸増(時間/回数/距離) | 増やすのは「 1 つだけ」 |
| 共有 | 印象(きつそう)だけで報告 | 意思決定に使えない | 数値×場面( RR / SpO2 )で言い切る | 端坐位で RR 20/分・会話可 |
| 分泌物 | 吸引依存を「仕方ない」で止める | 抜管後に詰まりやすい | 体位・介助で喀出を支援し変化を記録 | 吸引前後で音が変化 |
回避の手順(チェック)
- 離床前に「体位・酸素流量・鎮静」など条件を 1 行で固定する
- 中断サインが出たら、まず負荷を 1 段下げて耐える形に戻す
- 「離床レベル( IMS )」「所要時間」「 RR / SpO2 」の最小 3 点は必ず残す
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 人工呼吸器管理中の早期離床の開始条件は?
循環・酸素化・覚醒が破綻しない範囲で、端坐位など小負荷から開始します。迷うときは「条件(体位/酸素/鎮静)を固定し、短時間で反応を見る」ほうが、延期よりも安全に進めやすいです。
Q2. RSBI / SBT が微妙なとき、 PT は何を出せばいい?
数値の是非よりも、離床の場面で「努力呼吸が増えるか」「会話が保てるか」「 SpO2 が回復するか」を、数値( RR / SpO2 )×場面で共有します。意思決定に使えるのは「印象」ではなく「再現できる情報」です。
Q3. 抜管後( extubation )の注意点は?
呼吸パターン、 SpO2 、声(嗄声)と痰の性状を確認し、努力呼吸が出る場合は負荷を即下げます。分泌物が多い場合は、体位・介助で喀出を支援し、吸引前後の変化を記録します。
Q4. IMT はいつ入れるべき?
安定期で協力が得られるタイミングで、低〜中等度負荷から開始します。負荷と増負荷のルールを決めないと属人化しやすいので、施設内でテンプレを固定するのが現場向きです。
Q5. 離床が進まないとき、最初に見直すべきは?
結論は「基準の共有」と「記録の最小セット」です。条件固定(体位/酸素/鎮静)と、離床レベル( IMS )+所要時間+ RR / SpO2 の 3 点が揃うと、チームが同じ判断で動けます。
次の一手(続けて読む)
- 運用を整える:呼吸評価の実務ガイド(条件固定と記録)
- 共有の型を作る:IMS( ICU Mobility Scale )の付け方と記録
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。PT キャリアナビを読む
参考文献
- 日本集中治療医学会 早期リハビリテーション委員会.集中治療における早期リハビリテーション 〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜.(学会サイト)
- Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882. doi: 10.1016/S0140-6736(09)60658-9 / PubMed: 19446324
- Yang KL, Tobin MJ. A prospective study of indexes predicting the outcome of trials of weaning from mechanical ventilation. N Engl J Med. 1991;324(21):1445-1450. doi: 10.1056/NEJM199105233242101 / PubMed: 2023603
- American Thoracic Society/European Respiratory Society. ATS/ERS Statement on respiratory muscle testing. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(4):518-624. doi: 10.1164/rccm.166.4.518 / PubMed: 12186831
- Laveneziana P, Albuquerque A, Aliverti A, et al. ERS statement on respiratory muscle testing at rest and during exercise. Eur Respir J. 2019;53(6):1801214. doi: 10.1183/13993003.01214-2018
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


