
いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!
この記事は「低栄養の分類」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
栄養管理の重要性は極めて高く、リハビリテーションに栄養管理はなくてはならないものとなります。低栄養および栄養障害は本邦の高齢者に認める頻度が高い症状の 1 つとなりますが、栄養障害は低栄養を認めるかどうか?という評価も重要になる一方、なぜ栄養障害が発生しているのか?という原因を究明することも重要になります。
こちらの記事を読むことで低栄養や栄養障害についての理解が深まり、臨床に欠かすことができない、リハビリ × 栄養管理の一助へとなれば幸いです。是非、最後までご覧になってください!

【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
PEM(たんぱく質・エネルギー欠乏症)

臨床でみられる栄養障害は、特定の栄養素だけの欠乏よりも、複数の栄養素が同時に不足することで発症する場合が多くあります。中でも重要なのが、たんぱく質とエネルギーが同時に不足する PEM(Protein Energy Malnutrition:たんぱく質・エネルギー欠乏症/低栄養状態)です。
PEM は、発症要因により以下の 2 つに分類されます。
- 原発性 PEM
食事摂取量の不足が主因で発症します。典型的にはマラスムス(全体的なカロリー不足)とクワシオルコル(たんぱく質不足による浮腫を伴う低栄養)があり、その混合型も存在します。ただし、これらは主に発展途上国の小児に多く、日本の高齢者や成人には当てはまりにくい場合が多いです。
- 二次性PEM
侵襲や慢性疾患に伴って発症します。侵襲とは手術・外傷・感染症などによる代謝亢進状態を指し、エネルギー消費が増加する一方で摂取が追いつかず低栄養になります。また、がんや慢性心不全、COPD などでみられる悪液質(cachexia)は、炎症性サイトカインやホルモン変化による筋蛋白分解促進が特徴で、単純な栄養補給だけでは改善が困難です。
日本の臨床現場では、高齢者や慢性疾患患者において二次性 PEM が多く、飢餓型(マラスムス型)と炎症型(悪液質型)を区別して対応することが重要です。栄養障害の背景を正しく理解することは、適切な栄養管理とリハビリテーション介入の基盤となります。
PEM の診断基準
2008 年に国際腎栄養代謝学会(ISRNM)が PEW の診断基準を提唱しており、以下の 4 つのカテゴリーのうち 3 つ以上に該当すると PEW と診断されます。
【生化学的検査】
- 血清アルブミン < 3.8 g/dL(BCG 法で測定)
- 血清プレアルブミン < 30 mg/dL(血液透析患者のみ)
- 総コレステロール < 100 mg/dL
【体格】
- BMI < 23 kg/m2(アジア人では低い)
- 意図しない体重減少:3 カ月で 5 % 以上、6 カ月で 10 % 以上
- 体脂肪率 < 10 %
【筋肉量】
- 筋肉量の減少:3 カ月で 5 % 以上、6 カ月で 10 % 以上
- 前腕筋周囲面積:基準値の 50 % 範囲以内で 10 % 以上の減少
- クレアチニン産生速度の低下
【食事摂取量】
- たんぱく質摂取量:意図的でなく、0.8 g/kg/day 未満(透析)または 0.6 g/kg/day 未満 (CKD ステージ 2 ~ 5)が少なくとも 2 カ月以上持続している
- エネルギー摂取量:意図的でなく、25 kcal/kg/day 未満が少なくとも 2 カ月以上持続する
臨床では、この基準を満たさなくても低栄養リスクが高い場合が多く、特に高齢透析患者では早期からの栄養スクリーニングが重要です。PEW は単なる摂取不足だけでなく、慢性炎症や代謝異常を伴うことが多いため、栄養療法と同時に炎症や原疾患のコントロールが求められます。
PEM の分類
原発性 PEM は、栄養摂取不足が主因となる低栄養状態で、以下の 3 型に分類されます。
【マラスムス】
- 長期間にわたる蛋白質とエネルギーの摂取量不足
- 骨格筋や貯蔵脂肪が崩壊し体重が減少する
- アルブミンなどの血清蛋白は比較的保たれる
- 浮腫、腹水は認めないことが多い
【クワシオルコル】
- エネルギーの摂取量は十分であるが、蛋白質の摂取量が不足している
- 骨格筋からのアミノ酸放出と脂肪組織からの遊離脂肪酸放出が抑制され、血清蛋白の低下から浮腫、腹水が出現する
- 脂肪肝を合併することが多い
- 骨格筋や脂肪組織は比較的保たれるため、体重は減少しても軽微であることが多い
- 内臓蛋白の著減が特徴になる
【混合型(マラスムス型クワシオルコル )】
- 混合型では、マラスムス、クワシオルコル両者の要素を認める
Jensenらによる成人低栄養の病因分類
分類 | 原因 | 主な背景疾患 | 特徴 |
飢餓 | 摂取不足 | 経口摂取制限、拒食症など | 炎症なし、栄養補給で改善しやすい |
悪液質 | 慢性炎症+代謝異常 | がん、慢性心不全、COPD、CKDなど | 栄養補給のみでは改善困難 |
侵襲 | 急性炎症+代謝亢進 | 手術、外傷、感染症、熱傷など | 急性期は分解亢進が主体 |
2009 年に Jensen らは成人低栄養を病因別に整理し 、炎症の有無と程度を基に以下の 3 つの概念で示すことを提唱しております。
- 飢餓(エネルギーと蛋白質の摂取量不足)
- 慢性疾患(がん、慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全など)
- 急性疾患・損傷(手術、急性感染症、多発外傷など)
原発性PEM・二次性PEMとの統合的理解
Jensenらの分類とPEMの分類を組み合わせると、栄養障害は次のように整理できます。
- 飢餓型(原発性 PEM)
- 悪液質型(慢性炎症を伴う疾患による二次性 PEM)
- 侵襲型(急性炎症・代謝亢進による二次性 PEM)
栄養障害のタイプを正確に見極めることは、適切な栄養介入・リハビリテーション方針決定の第一歩です。
栄養障害(飢餓・悪液質・侵襲)
それぞれのタイプの病態生理と臨床的特徴について解説します。
飢餓(Starvation)

飢餓とは、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を下回る状態が持続し、栄養不良に陥る状態を指します。
国際連合食糧農業機関(FAO)では、エネルギー摂取量が基礎エネルギー消費量(BEE)の 1.54 倍未満の状態を飢餓と定義しています。
基礎エネルギー消費量(BEE)の計算
基礎エネルギー消費量を算出する方法はいくつかありますが、最も有名なものが「Harris-Benedict」の公式を使用した算出方法になります。
基礎エネルギー消費量を算出する計算式は性別によって異なりますので注意が必要です。
男性:66.47 + (13.75 × 体重) + (5 × 身長) – (6.76 × 年齢)
女性:665.1 + (9.56 × 体重) + (1.85 × 身長) – (4.67 × 年齢)※ 体重:kg 身長:cm 年齢:歳【ハリス-ベネディクトの式とは】
病態生理
- 飢餓では糖質・脂質・タンパク質の外部供給が不足し、体内のエネルギー貯蔵を利用して生命を維持します。
- 短期(12 ~ 24 時間程度)では肝グリコーゲンの分解で対応しますが、その後は脂質分解(ケトン体産生)と筋タンパク質分解(糖新生)が主なエネルギー源となります。
- 筋タンパク質は主に骨格筋に存在するため、飢餓が進行すると筋量が急速に減少します。
- 除脂肪体重(LBM)の 30 ~ 40 %を失うと生命維持が困難となり、窒素死や餓死に至ります。
臨床上の注意点
- 飢餓状態では筋合成に必要なアミノ酸・脂質・エネルギーが全て不足しているため、レジスタンストレーニングは筋分解を助長します。
- 臨床例として、経口摂取や経管栄養中の患者が誤嚥性肺炎で禁食となり、末梢点滴のみで数日 ~ 1週間以上経過するケースが挙げられます。
- この場合、低栄養の進行を考慮し、運動負荷は制限すべきです。 回復期には栄養投与を優先し、その後に運動療法を再開することが望ましいです。
リハビリテーションと栄養については、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【リハ栄養についての記事はこちらから】
悪液質(Cachexia)
悪液質はがん・慢性心不全・慢性腎不全・自己免疫疾患などの慢性疾患を背景
に、骨格筋量の低下を特徴とする代謝異常症候群です。英語ではcachexiaと表記されます。
ヨーロッパ緩和ケア共同研究では、悪液質を以下のように定義しています。
「悪液質は多くの要因による症候群である。従来の栄養サポートでは十分な回復が難しい骨格筋減少の進行を認める。脂肪は喪失することもしないことも ある。食思不振や代謝異常の併発で蛋白とエネルギーのバランスが負になることが、病態生理の特徴である。」
出典:EPCRC(European Palliative Care Research Collaborative)
原因疾患
- 悪性腫瘍(がん)
- 慢性感染症(結核、AIDSなど)
- 膠原病(関節リウマチなど)
- 慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肝不全、炎症性腸疾患(IBD)など
これらの疾患を有する障害者や高齢者に低栄養を認める場合に悪液質の存在を疑う必要があります。
飢餓との違い
- 飢餓はエネルギー摂取不足が主因であり、栄養補給で改善可能な場合が多い。
- 悪液質は慢性炎症や代謝異常が主因で、十分なエネルギー投与を行っても筋量回復は困難なことが多い。
- 栄養介入だけでなく、基礎疾患の治療・炎症制御が不可欠。
侵襲
侵襲とは、生体の恒常性を破綻させる外的・内的刺激を指します。例として手術、外傷、骨折、感染症、熱傷などがあります。臨床では発熱や CRP 上昇が侵襲の指標になります。
代謝変化と経過
時期 | 特徴 | 栄養・リハビリ対応 |
傷害期 | 循環安定優先 | 栄養制限、安静 |
異化期 | 炎症最大・分解優位 | 栄養補給は必要だが筋分解抑制困難 |
同化期 | 炎症沈静化、合成優位 | 栄養+運動療法が有効 |
- 傷害期(Ebb phase)
- 発症直後から数時間においては代謝低下、循環血流の維持が優先される。
- 異化期(Flow phase)
- 強い炎症反応によりエネルギー消費量増加、筋タンパク質が分解される。
- 高度侵襲では 1 日 1 kg の筋量が減少することもある。
- 栄養投与で分解抑制は困難。運動療法は筋分解を助長するため禁忌となる
- 同化期(Anabolic phase)
- 炎症や代謝亢進が改善し、筋合成が可能になる。
- 適切な栄養投与と運動療法の併用が有効。
臨床上の注意点
- 異化期に過剰なエネルギー投与は、ノルエピネフリン分泌を促進し、逆に筋分解を助長する可能性がある。
- リハビリ開始の目安は、体温・CRP の正常化、全身状態の安定を確認した後になる。
- 同化期はリハビリの好機であり、運動による消費エネルギーを考慮した栄養設計が重要である。
低栄養スクリーニングツール
低栄養リスクを有する対象者を迅速に抽出することを目的に、信頼性と妥当性が検証されたスクリーニングツールを使用します。
低栄養を抽出するスクリーニングツールには以下のものが一例としてあげられます。
- NRS 2002(Nutritional Risk Screening)
- MNA®-SF(mini nutritional assessment short – form)
- MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)
- GNRI (Geriatric Nutritional Risk Index)
多くの研究の結果、信頼性と妥当性が認められたスクリーニングツールをいくつか紹介していきます。
MUST
MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)とは英国静脈経腸栄養学会が作成した成人用の低栄養スクリーニングツールになります。
「BMI」「体重減少率」「急性疾患による栄養摂取への影響」の 3 項目をスコア化し、合計したスコアで低栄養リスクを判定します。
「BMI」は 3 段階で判定します。
- BMI > 20:スコア 0
- BMI 18.5 ~ 20:スコア 1
- BMI < 18.5:スコア 2
「体重減少率」は過去 3 ~ 6 ヶ月の推移により 3 段階で判定します。
- 体重減少率 < 5 %:スコア 0
- 体重減少率 5 ~ 10 %:スコア 1
- 体重減少率:> 10 %:スコア 2
「急性疾患による栄養摂取への影響」は急性疾患の影響により、5 日間以上の栄養接種が阻害されていないかどうかを「なし」か「あり」の 2 段階で判定します。
- なし:スコア 0
- あり:スコア 2
MUST の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。
MUST については、他の記事で詳しくまとめています!《【MUSTを使用した栄養スクリーニングの方法】3項目で評価可能》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
NRS 2002
NRS 2002(Nutritional Risk Screening)は、2002 年に欧州臨床栄養代謝学会により開発された指標になります。
NRS 2002 は、初期スクリーニングと最終スクリーニングの 2 段階構成となっています。初期スクリーニングでいずれかの項目に該当した場合に、最終スクリーニングに進み、「栄養障害の重症度」「疾病または外傷の重症度」の 2 項目から合計スコアを出します。
NRS 2002 の評価用紙は以下の通りになります。

NRS 2002 の合計スコアは最低 0、最高 6 となります。スコアが低いほど低栄養リスクが低く、スコアが高いほど低栄養リスクが高いという指標になります。
NRS 2002 については、他の記事で詳しくまとめています!《【NRS2002:栄養スクリーニング】評価表無料ダウンロード可能》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)
MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)は 6 項目で構成されている低栄養のスクリーニングツールとなります。
各項目、設問に対して適切な選択肢を選択し、選択肢ごとに配点が設定されています。合計点は最低 0 点、最高 14 点となり、得点が高いほど栄養状態が良好、得点が低いほど低栄養のリスクが高いことがわかります。
評価表(評価用紙)は以下の通りになります。

MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)については、他の記事で詳しくまとめています!《【MNA®-SF:簡易栄養状態評価表】高齢者の栄養スクリーニング》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「低栄養の分類」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで 低栄養および栄養障害についての理解が深まり、臨床に欠かすことができないリハビリ×栄養管理の一助へとなれば幸いです。