臨床参加型実習(クリニカルクラークシップ)とは
臨床参加型実習は、学生が見学中心から一歩進み、指導者の監督下で実際のケアに参加する実習形態です。本稿は学生向けではなく、受け入れ側(PT/OT/ST)の実務者が「安全に・学習効果高く」運用するための手順とツールをまとめました。大学サイトの定義よりも、現場で今すぐ使える内容に絞ります。
想定読者:受け入れ側の PT/OT/ST。
得られること:1日の流れ・EPA例・安全/同意・ミニCEX・記録の型+配布テンプレ4点。
ゴールは①患者安全の担保、②学生の段階的自立(EPA)、③指導負荷の軽減(型化)です。以降、1日の流れ→任せられる業務→安全管理→フィードバック→評価と記録の順に示します。
1日の標準フロー(病棟/外来の型)
朝の申し送り→患者同意確認→安全チェック→評価・治療参加→記録と振り返り、の5ステップに分けます。学生には各ステップで達成すべき行動目標(観察→部分遂行→全体遂行)を提示し、到達度を短時間で確認できる道具(後述のミニ CEX、日誌テンプレ)を併用します。
フローを固定化すると、担当替えや短期ローテでも学習効率が落ちません。新人指導にも転用可能です。
任せられる業務(EPA)の例
| 領域 | EPA例 | 備考 |
|---|---|---|
| PT | ベッドサイドでの安全確認、起居・立位の監督下介助、歩行時の見守り | 血圧・起立性低血圧の確認は必須(記録はSOAPで) |
| OT | 更衣や食事動作の準備・環境設定、作業活動の段取り | プライバシー配慮と危険物管理 |
| ST | 嚥下前の姿勢調整、声かけ・とろみ確認、間接訓練の実施 | 誤嚥リスクの即時共有 |
患者安全・倫理(同意と守秘)
学生が関与する前に、患者・家族への口頭説明と同意取得を行います。病院の様式に従い、NGの場面(創部観察、個人情報の写し出し等)は明示します。守秘は「持ち出さない・写さない・口外しない」の3原則を徹底。感染対策は標準予防策+施設ルールを事前にクイズ形式で確認すると定着します。
| 場面 | 必須確認 | 記録 |
|---|---|---|
| 同意 | 学生関与の目的・範囲・拒否権 | 同意欄の署名/電子承認 |
| 安全 | バイタル・OH・転倒リスク | SOAP S/Oに明記 |
| 感染 | 手指衛生・PPE・曝露時対応 | オリエン実施日を記録 |
指導とフィードバック(ミニCEX/One-minute Preceptor)
短時間で回せる型を使います。①学生に要点提示→②ポジティブを先に→③改善点は行動で具体→④次の課題を1つだけ。ミニ CEX は観察→評価→即時フィードバックを 5–10 分で完結。One-minute Preceptor は「コミットを引き出す→根拠を尋ねる→一般化→よかった点→改善点」で 1 セットです。詳しい導線はこちらのフローも参照。
記録と情報共有(SOAP/カンファ)
学生の記載は「S/Oの事実」と「A/Pの思考」を分けて添削します。特に安全イベント(起立性低血圧、疼痛増悪、誤嚥疑い等)は時系列と対処を簡潔に。日報は「学び・次回やること・質問」の3点固定で回すと、指導時間を圧縮できます。
評価と到達目標(簡易ルーブリック)
| 項目 | 基準(合格) | 観察ポイント |
|---|---|---|
| 安全確認 | OH・疼痛・転倒リスクを事前に口頭で報告できる | バイタル閾値、危険行動の予測 |
| 説明・同意 | 患者の理解度に応じた説明と同意の再確認ができる | 専門用語回避、要約・復唱 |
| 記録 | SOAPで事実と考察を分けて記載できる | 客観データ→判断→次回計画 |
配布テンプレ(ダウンロード)
※本テンプレ群は教育目的の一般的雛形です。施設の手順・様式を必ず優先し、必要に応じて改変してください。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
OSCEや見学実習との違いは?
OSCEは技能評価であり臨床参加は限定的です。クリニカルクラークシップは患者ケアへ段階的に参加し、EPAで任せられる範囲を広げていきます。
学生にどこまで任せてよい?
施設ルールと患者安全が最優先。EPAを用いて「観察→共同→監督下単独」の順で進めます。高リスク手技は常に直接監督下で。
同意が得られない場合の運用は?
患者の意思を最優先し、学生関与は中止。学習は観察症例へ切替。記録は同意未取得/撤回の事実のみ簡潔に残します。
写真・録音の取り扱いは?
原則禁止。施設手順で特別許可がある場合のみ、目的・保存先・廃棄時期を明記し、文書同意を取得します。


