JST 版活動能力指標(JST-IC)の評価方法と標準値

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JST-IC とは?(ねらい・位置づけ)

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JST-IC(JST 版活動能力指標)は、4 領域 × 16 項目で高次生活機能( IADL の上位概念 )を評価する指標です。老研式 IADL( TMIG-IC )で起こり得る天井効果を回避し、現代的な生活様式(情報機器・防犯意識・地域参加など)を反映する設計が特徴です。評価指標全体の位置づけは「評価ハブ」で整理しておくと、他のスケールとの使い分けがイメージしやすくなります。

本記事では 採点のやり方・標準値の読み方・TMIG-IC との違い を要点整理し、配布物(項目本文なしの安全版)を提供します。実施時は必ず公式マニュアル(第 2 版)に準拠し、質問文は原文どおりに読み上げてください。TMIG-IC の概要は、サイト内検索で「TMIG-IC」と入力して確認できます。

評価方法と採点(0 / 1、合計 0–16 点)

回答は各項目につき はい= 1、いいえ= 0。領域別に 0–4 点、合計 0–16 点で集計します。実施は静かな環境で、質問文は公式表現に忠実に読み上げます(改変は不可/別尺度扱い)。再評価では同条件(時間帯・説明方法)を揃え、合計と領域の両方で変化を確認します。

領域と項目番号の対応(本文は非掲載)
領域項目番号ねらい(概念)
領域 11–4情報機器の利用など「テクノロジー活用」
領域 25–8情報の入手・活用など「インフォメーション実践」
領域 39–12防犯・健康管理を含む「生活マネジメント」
領域 413–16地域活動・交流を含む「社会参加」

ダウンロード(項目本文なし・安全版)

※ 記録用フォームには項目本文を含めていません。実施時は必ず公式マニュアルを参照のうえ、原文どおりに読み上げてください。

標準値の読み方(年齢・男女別)

JST-IC は全国大規模データ(例:65–84 歳の標準値)に基づく分布が開示されています。年齢階層・男女別に平均と SD を確認し、個人の縦断変化と領域プロファイルで解釈します。一律のカットオフは設定されていません。詳細な数表は公式資料(下記参考文献)をご覧ください。

  • 具体例:70 代女性・合計が同年代平均値付近なら「年齢相応」。平均 −1SD より低いなら「同年代より低めの可能性」。介入の前後で合計点と領域別点がどれだけ変わったかも併せて評価します(※ 実数表は公式資料を参照)。

TMIG-IC との違い・使い分け

TMIG-IC は 13 項目で IADL を簡潔に把握できる一方で、活動性の高い層では天井効果が起きやすい指標です。JST-IC はテクノロジー活用や社会参加を含め、より高次の生活機能を測るため、地域在住で活動性が高い高齢者や、健康増進・介護予防文脈のモニタリングに向きます。基礎評価として TMIG-IC を用い、より上位機能の差を見たい場面で JST-IC を追加するのが実務的です。TMIG-IC の詳細は、サイト内検索で「TMIG-IC」と検索して確認してください。

各項目の解釈と採点の注意(本文なし・運用ガイド)

※ 原文の質問文は掲載しません。公式マニュアルの原文を読み上げたうえで、下記の「ねらい/判断境界/確認のコツ/やりがちミス」を参考に採点してください。

領域 1:テクノロジー活用(項目 1–4)

項目 1
  • ねらい:新しい機器やアプリを自力で立ち上げ・設定・操作できるか。
  • 判断境界:一部操作を家族が毎回代行→「いいえ」。口頭助言のみで自力実行→「はい」。
  • 確認のコツ:「最近インストールしたアプリ/設定変更」を具体例で確認。
  • やりがちミス:職員のデモ操作を「できた」にカウント。
項目 2
  • ねらい:複数ステップの操作(検索→選択→実行)の一連を完結できるか。
  • 判断境界:手順の一部が毎回不明で停止→「いいえ」。手順書を見ながら完結→「はい」。
  • 確認のコツ:普段使う端末で実演(入力・タップ・戻る)。
  • ミス:一度の偶然成功を恒常的能力と誤判定。
項目 3
  • ねらい:基本設定(通知・Wi-Fi・アカウント)を理解し管理できるか。
  • 判断境界:第三者が常時管理→「いいえ」。自己判断で調整→「はい」。
  • コツ:最近の設定変更例と理由を聞く。
項目 4
  • ねらい:セキュリティ意識(パスコード・更新・詐欺回避)。
  • 境界:危険なリンクを区別できない→「いいえ」。注意点を説明できる→「はい」。
  • コツ:最近の注意喚起や更新履歴を確認。

領域 2:情報の入手・活用(項目 5–8)

項目 5
  • ねらい:必要情報を自ら探し選ぶ力。
  • 境界:家族が常時選定→「いいえ」。自分で検索→比較→選択→「はい」。
  • コツ:直近の手続き・買い物・予約の事例を聞く。
項目 6
  • ねらい:複数情報源を突き合わせ判断できるか。
  • 境界: 1 つの情報のみ鵜呑み→「いいえ」。根拠や違いを述べられる→「はい」。
  • コツ:「選ばなかった理由」を言語化してもらう。
項目 7
  • ねらい:費用・手間・リスクを踏まえた意思決定。
  • 境界:第三者の指示待ちのみ→「いいえ」。自分の基準で選べる→「はい」。
  • コツ:見積比較や代替案の有無を確認。
項目 8
  • ねらい:入手情報の活用(設定・申請・購入)まで完了できるか。
  • 境界:実行を他者に委ねる→「いいえ」。自力で完遂→「はい」。

領域 3:生活マネジメント(項目 9–12)

項目 9
  • ねらい:防犯・安全管理の継続運用。
  • 境界:設定は他者任せで本人理解なし→「いいえ」。日常的に点検→「はい」。
項目 10
  • ねらい:ヘルスリテラシー(服薬・受診・セルフモニタリング)。
  • 境界:家族が常時管理→「いいえ」。自分で把握・記録→「はい」。
  • コツ:お薬手帳/計測ログの有無。
項目 11
  • ねらい:時間・金銭・予定の自己管理。
  • 境界:リマインダーや家族に全面依存→「いいえ」。ツール併用でも自律管理→「はい」。
項目 12
  • ねらい:緊急時の対応力(連絡経路・判断)。
  • 境界:手順が想起できない→「いいえ」。連絡先と手順を即答→「はい」。

領域 4:社会参加(項目 13–16)

項目 13
  • ねらい:地域活動への主体的参加。
  • 境界:送迎のみ・見学のみ→「いいえ」。自発参加と役割→「はい」。
  • コツ:直近 3 か月の参加頻度を確認。
項目 14
  • ねらい:対人交流の継続性。
  • 境界:偶発的一回のみ→「いいえ」。定期的に関わる→「はい」。
項目 15
  • ねらい:地域・家庭内での役割遂行。
  • 境界:名義のみで実働なし→「いいえ」。具体的な役割を担う→「はい」。
項目 16
  • ねらい:新規活動への参加・再開。
  • 境界:関心のみで行動なし→「いいえ」。準備・申込・初回参加→「はい」。

現場の詰まりどころ(よくある迷いと対応)

  • 「できる」か「している」かの判定が曖昧:能力としては可能でも、実際には行っていないケースがあります。JST-IC は「日常的に行っているか」を重視するため、最近 3 か月の行動に絞って確認するとブレが減ります。
  • 家族のサポート介入の扱い:家族が毎回設定・手続きまで代行している場合は「いいえ」とし、口頭の助言で自力完結できているかどうかを基準にそろえます。
  • 認知症・うつ症状との境界:JST-IC は高次生活機能の尺度であり、認知機能検査や抑うつ尺度の代用ではありません。疑いがあれば、別途 MMSE やうつ尺度などの併用を検討します。
  • 単一項目の「点数合わせ」:合計点だけを見て調整してしまうと、領域ごとのプロファイルが崩れます。まずは項目レベルの事実確認を徹底し、そのうえで領域別の偏りをもとに目標設定につなげる流れを習慣化しましょう。

よくある質問

※ 各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

カットオフはありますか?

現時点で一律のカットオフ値は設定されていません。標準値分布に対する位置づけ(年齢・性別別)と、縦断的な変化量を重視して解釈します。

どの対象に向いていますか?

地域在住で活動性が比較的高い高齢者のモニタリング、介護予防のターゲティング、健康づくり事業の評価などに適します。疾患横断で使えますが、脳卒中やパーキンソン病など疾患別の評価・リハビリテーションについては、別途疾患ごとのハブやガイドラインも併せて確認してください。

おわりに:JST-IC を「評価→目標→介入→再評価」のサイクルに組み込む

JST-IC は、単に合計点をつけるだけでなく、高次生活機能のどの領域が強みで、どこがボトルネックかを可視化できるスケールです。「スクリーニング → 領域別課題の整理 → 具体的な ICF ベースの目標設定 → 介入 → 再評価」という一連の流れの中で活用すると、フレイル予防や地域リハのカンファレンスでも説得力のある説明がしやすくなります。

一方で、評価結果を職場内でどう共有するか、どこまで多職種連携につなげるかは、施設ごとの文化や人間関係に左右される部分も大きいところです。評価の整理だけでなく、リハ職としてのキャリアや働き方も含めて見直したい方は、マイナビコメディカルの記事(面談準備チェックや職場選びのポイントをまとめた固定ページ)も参考にしてみてください。詳しくは マイナビコメディカル徹底活用ガイド からダウンロード資料をチェックできます。

参考文献

  1. Iwasa H, et al. Assessing competence at a higher level among older adults: development of the JST-IC. Geriatr Gerontol Int. 2018. PubMed
  2. Iwasa H, et al. Development of the Japan Science and Technology Agency Index of Competence (JST-IC). 2015. PMC
  3. JST-IC 情報ページ/マニュアル第 2 版(2017 年 8 月)。Google Sites
  4. JST RISTEX 資料(全国標準値の記載あり)。PDF
  5. (比較)老研式 IADL(TMIG-IC)の公式資料。日本老年医学会 PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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