ポジショニングとは?基本 8 ポイントと実務フロー【褥瘡・呼吸・嚥下】

臨床手技・プロトコル
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ポジショニングとは?(結論と読者メリット)

ポジショニングは、褥瘡予防・呼吸循環の安定・嚥下安全性・疼痛軽減・拘縮予防 を同時にねらう「土台づくり」の介入です。本記事では、単なる「体位変換のルール集」ではなく、基本 8 ポイント準備→実施→観察・記録 のフロー、禁忌・中止基準物品選びのコツ を 1 本の流れとして整理します。

ポジショニングが整理されると、誤嚥性肺炎予防バンドル Braden 運用 がまわりやすくなり、病棟全体の「予防ケアの抜け漏れ」が減ります。

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目的と役割(300字・二段版)

ポジショニングの主な目的は、圧とずれの管理・呼吸循環の安定・嚥下の安全性・疼痛と不快感の軽減・可動域と筋緊張の正常化 です。ベッド上で過ごす時間が長い高齢者では、ここが崩れると褥瘡・誤嚥性肺炎・廃用が一気に進行します。単に「楽そうな姿勢」にするだけでなく、合併症を 一次予防 する医療行為として位置づけることが大切です。

またポジショニングは、静的ではなく動的な介入 です。観察から仮説を立て、体位を設計し、効果を確認しながら再配置を繰り返します。観察項目や体位の組み立て方は、評価ハブ体位ドレナージ の内容と組み合わせて運用すると整理しやすくなります。

基本 8 ポイント(要点)

  1. 捻れや過度な側屈を避け、可能な範囲で 正中位 を目標にする
  2. 頭部 → 胸郭 → 骨盤 → 下肢 の順にアライメントを整える
  3. 点ではなく面 で支え、支持基底面を広げて安定性を確保する
  4. 枕・フォームなどの物品は 入れ過ぎ・浅過ぎ を避け、目的と役割を明確にして入れる
  5. 体位変換後は必ず 背抜き を行い、摩擦とずれ力を解放する
  6. 重力を味方につける 体位(過緊張を抜きやすい方向)を選ぶ
  7. 関節拘縮予防のため、体位調整時に 関節を少し動かす機会 を組み込む
  8. 呼吸・嚥下 に応じて頭頸部・体幹角度を微調整する(高すぎるファウラー位に注意)

実務フロー(準備 → 実施 → 観察・記録)

準備(観察と仮説)

  • 皮膚:骨突出部の発赤・硬結・湿潤、デバイス圧の有無
  • 呼吸循環: SpO₂ ・呼吸数・努力呼吸・下肢浮腫・起座呼吸の有無
  • 嚥下:咳や湿性嗄声、経口摂取状況、経管栄養の管理状況
  • 筋緊張 / 拘縮:痙縮の強い関節、疼痛トリガーになる方向
  • 仮説:目的(例:仙骨部の圧軽減+呼吸パターン改善)と体位案(例: 30° 側臥位+ファウラー 30〜45° など)

実施(手順のコツ)

  1. まず 頭頸部 → 胸郭 → 骨盤 → 下肢 の順でアライメントを整える
  2. クッションはできるだけ 面接触 となるよう配置し、局所圧の集中を避ける
  3. 体位変換後に 背抜き を行い、ずれ力とシワを解除する
  4. 嚥下・呼吸が目的の場合は、頸部軽度前屈・体幹角度・骨盤後傾のバランスを微調整する
  5. 最後に「皮膚(発赤)・呼吸(努力呼吸)・安楽(表情 / 訴え)」の 3 点を再確認する

観察・記録(ミニテンプレ)

  • 体位名 / 角度(例: 30° 側臥位+ファウラー 30°)
  • 支持物の種類・数・位置・役割(例:骨盤前方支持・踵浮かせなど)
  • 皮膚所見(発赤・硬結・湿潤・デバイス圧)、体位前後の変化
  • 呼吸 / 嚥下の変化、疼痛や安楽の主観的評価
  • 再配置の予定(いつ・どの体位へ・どの指標を見て判断するか)

現場の詰まりどころ(判断が止まりやすい場面)

  • 褥瘡と呼吸の優先度:仰臥位で SpO₂ が安定するが仙骨部が危険、側臥位で呼吸が苦しそう ―― どちらを優先するか迷う場面が多いです。
    → まずは呼吸・循環の安定を優先しつつ、支持物と体位バリエーションで仙骨圧を分散する方針を共有しておくと判断しやすくなります。
  • 痙縮と安楽の両立:過伸展位を避けたいが、患者本人がその姿勢を「楽」と訴えるケース。
    → すぐに矯正し過ぎず、少しずつ 重力を利用した脱力位 に近づけるステップ設計が有効です。
  • 体位変換の頻度:「 2 時間ごと」に縛られてしまい、状態変化や日内リズムに応じた調整ができないこと。
    → 皮膚所見・覚醒レベル・呼吸状態を組み合わせて「その人の 1 日のリズム」に合わせた再配置計画を立てる視点が重要です。

禁忌・中止基準(早見表)

禁忌・中止基準の例(成人・ 2025 年版)
場面 注意 / 禁忌 中止・医師連絡の目安
呼吸 強い呼吸困難、 SpO₂ 低下傾向、痰喀出困難で気道分泌が貯留している SpO₂ ≦ 90% が持続、呼吸数 ≥ 30 / 分、チアノーゼ新規出現、会話困難
循環 著明な浮腫、心不全増悪が疑われる前負荷増大(過度な頭低位など) 胸痛・起坐呼吸・急激な血圧変動(収縮期血圧が 40mmHg 以上変動)
皮膚 新規発赤、デバイス圧迫、湿潤皮膚への長時間荷重 発赤が 30 分以上で消退しない、水疱・びらん・潰瘍の新規出現
神経筋 末梢神経の過牽引位、痙縮を明らかに誘発する肢位 疼痛やしびれの増悪、新たな運動麻痺・感覚障害の出現

物品選びの要点(ピロー / フォーム / マット)

  • クッションは 面圧分散位置再現性 を両立できる形状(くさび型・リング型など)を選び、役割別に使い分ける
  • マットレスは、体圧分散性能とケア体制に応じて選択し、詳細は OH スコア別マットレス選定 を参照する
  • 酸素チューブ・胃瘻・ドレーンなどのデバイス圧は、延長・保護パッド・経路変更 で局所圧を避ける
  • 枕は「頭頸部支持」「肩甲帯の沈み込み防止」「骨盤位置の保持」など、目的ごとに高さと硬さを検討する

よくある失敗と対策

  • 物品の入れ過ぎ / 浅過ぎ
    → 隙間という隙間にタオルを詰めてしまい、逆に緊張を高めたり、部位ごとの局所圧を強めてしまうケースです。役割のない物品は一度すべて抜き、「どのクッションが何を支えるか」を言語化しながら再配置します。
  • 背抜き省略によるずれ力残存
    → 体位変換後の背抜きが省略されると、シワとずれ力から皮膚損傷が起こりやすくなります。体位変換手順のチェックリストに「背抜き」を明示しておくと、チームで抜けにくくなります。
  • 目的不明の定時体位変換
    → 「 2 時間ごとに回す」こと自体が目的になり、呼吸・嚥下・疼痛などの評価と結び付かないパターンです。目的別の再配置計画 とリンクさせ、「何をねらって今の体位にしているか」を記録に残すようにします。

参考文献

  1. 日本褥瘡学会学術教育委員会 編. 褥瘡予防・管理ガイドライン 第 5 版. 照林社; 2022.
  2. EPUAP/NPIAP/PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019. link
  3. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会. 呼吸リハビリテーションに関するガイドライン. 2021.

おわりに

ポジショニングは「安全確認 → 体位設定 → 観察・記録 → 再配置 → 再評価」を何度も回していくことで、褥瘡・誤嚥性肺炎・廃用をまとめて抑え込むリズムづくりにつながります。忙しい病棟でも、まずは 1 日の中で「ここだけは必ず整える」という時間帯を決めておくと、チーム全体で介入の質がそろいやすくなります。

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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