SARA(運動失調重症度評価)を現場で迷わず回す:評価手順・記録のコツ
SARA( Scale for the Assessment and Rating of Ataxia )は、運動失調の重症度を 8 項目・合計 0〜40 点で数値化し、初回評価とフォローを「同じ物差し」で回すための臨床スケールです。診断を付ける検査ではなく、介入前後や経時変化を短時間で整理するのに向きます。
本記事は、採点の丸暗記ではなく、取得条件の固定 → 観察 → 採点 → 根拠メモ → 再評価までを運用手順としてまとめます。運動失調の全体像(鑑別・併用すべき評価・介入設計)を先に押さえたい場合は、運動失調の評価とリハビリの進め方(PT 向け総論)から読むと迷いが減ります。
SARA は何を見ている?:スコアが示す意味
SARA は、歩行・姿勢(立位/座位)と、上肢・下肢の協調運動、構音をまとめて評価し、「失調が動作をどの程度崩しているか」を合計点で表します。点数が大きいほど重症で、フォローでは 合計点だけでなく「どの領域が増えたか」をセットで読むと、次の一手が決まりやすくなります。
現場では、合計点=病勢の目安、項目内訳=介入ターゲットとして使い分けるのがコツです。とくに歩行・立位は生活範囲と転倒関連イベントに直結しやすいので、採点根拠(例:介助量、補助具、歩行距離、床条件)を短文で残して再現性を担保します。
評価前に固定する 6 点セット(再評価の再現性を上げる)
スコアのブレの多くは「患者の変化」ではなく「条件の差」で起きます。再評価で迷わないよう、まず以下を固定して記録します。
- 内服・体調:オン/オフ、眠気、めまい、疲労感
- 補助具:杖/歩行器、装具、手すり、介助者の人数
- 環境:床材、靴、スペース(廊下/病室)
- 歩行条件:通常速度か、指示(「いつも通り」など)
- 休憩ルール:息切れ・ふらつきが出たら中断、座位休憩
- 記録の粒度:点数+根拠 1 行(次回の再現のため)
採点の流れ:観察 → 点数 → 根拠メモ
手順はシンプルに ①歩行・姿勢 → ②構音 → ③四肢協調の順にすると、場の流れが崩れにくくなります。最初に歩行・立位を見て、必要なら介助者を増やして以降の項目へ移ります。
採点では「できた/できない」よりも、介助量・ふらつきの質・動作の途切れを根拠として残します。合計点の比較だけに寄らず、項目内訳の増減から介入を更新します。
| 領域 | 配点(最大) | 観察の観点(要約) | 記録メモ例(短文) |
|---|---|---|---|
| 歩行 | 0〜8 | 直進の安定性、方向転換、介助・補助具の必要性 | 歩行器+見守り、方向転換でふらつき増 |
| 立位保持 | 0〜6 | 支持基底の調整、揺れ、支持物への依存 | 手すり軽接触で安定、足幅拡大 |
| 座位保持 | 0〜4 | 体幹の揺れ、手支持の必要性、姿勢保持時間 | 背もたれ離すと体幹揺れ、手支持あり |
| 構音 | 0〜6 | 聞き取りやすさ、発話の途切れ、明瞭度 | 短文は明瞭、長文で不明瞭化 |
| 上肢協調(追従) | 0〜4 | 目標への追従性、オーバー/アンダー、リズム | 終末で過大、修正動作が多い |
| 上肢協調(到達) | 0〜4 | 到達の正確性、振戦様の揺れ、終末制御 | 終末で揺れ増、修正 2〜3 回 |
| 上肢(反復動作) | 0〜4 | 反復の速度・持続、リズムの乱れ、途中で止まる | 序盤良好→後半でリズム崩れ |
| 下肢協調 | 0〜4 | 軌道のぶれ、滑らかさ、目標からの逸脱 | 軌道逸脱あり、修正で時間延長 |
解釈のコツ:合計点だけで判断しない
合計点は便利ですが、臨床で重要なのは「どの領域が増えたか」です。たとえば歩行・立位が増えたのか、四肢協調が増えたのかで、優先すべき介入(支持基底の調整、歩行課題、上肢課題、環境調整)が変わります。
変化量の目安として、近年の報告では SARA の MCID(臨床的に意味のある最小変化量)をおおむね 約 1.5 点と見積もる研究があります。個々の疾患や病期で反応性が異なるため、点数の増減は「条件固定」とセットで評価し、必要なら歩行距離や歩数などの補助指標を併記します。
現場の詰まりどころ:よくある失敗と修正パターン
失調は日内変動や疲労の影響を受けやすく、採点のブレが出やすい領域です。下の表の「原因→対策」をテンプレ化しておくと、チーム内で再現性が上がります。
| 詰まりポイント | 起きやすい原因 | 対策(次回に活かす) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 前回と点が合わない | 補助具・床条件・介助量が違う | 「6 点セット」を固定し、条件が違う回は比較しない | 補助具/介助者数/場所/靴を明記 |
| 歩行項目が怖くて取れない | ふらつきが強い、環境が狭い | 動線を確保し、介助者を増やして取得(危険なら中止) | 中止理由、代替(例:立位まで)を残す |
| 四肢協調が“速さ勝負”になる | 指示が曖昧で、患者が急ぎすぎる | 「正確さ優先」の指示に統一し、練習 1 回だけ許可 | 指示内容、練習の有無 |
| 構音の採点が主観的 | 評価者で聞き取り基準が違う | 短い定型文で確認し、聞き取り困難の根拠を短文化 | 聞き返し回数、長文での崩れ |
| 疲労で後半が崩れる | 休憩ルールがない、連続実施 | 休憩をルール化し、同じ順番・同じ間隔で実施 | 休憩回数、実施時間帯 |
再評価の頻度:どれくらいで回す?
外来や入退院の節目では、同条件での比較が最重要です。病期や施設体制によりますが、実務では 4〜8 週の再評価サイクルが扱いやすく、急に崩れた場合はイベント(感染、転倒、内服変更など)を先に確認してからスコアの解釈に入ります。
スコアだけで介入効果を断定しにくいケースでは、歩行距離・歩数・移動手段の変化(生活範囲)を「併記メモ」として残すと、チーム内の合意が作りやすくなります。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. SARA は何点から「重い」と考えますか?
A. 何点から重いかは疾患・病期・生活背景で変わるため、点数だけで線引きしません。実務では「歩行・立位が上がった」「移動手段が変わった」など、生活範囲の変化とセットで読むのがコツです。
Q2. 同じ患者なのに毎回点が違います。どうすれば?
A. まず条件差(補助具、床、介助者数、内服、疲労)を疑います。記事内の「固定する 6 点セット」をテンプレ化して、比較できる回だけを並べるとブレが減ります。
Q3. 変化量はどれくらいで意味がありますか?
A. 近年の報告で、SARA の MCID をおおむね 約 1.5 点と見積もる研究があります。ただし個人差が大きいので、点数の前後には「条件固定」と「根拠メモ」を必ず添えます。
Q4. ICARS や UMSARS とどう使い分けますか?
A. SARA は短時間で回しやすく、頻回フォロー向きです。網羅性を上げたい場面では ICARS、MSA の全体像(ADL・自律神経など)を縦断で追うなら UMSARS が噛み合います。目的(フォロー/精査/疾患全体像)で使い分けます。
おわりに
運動失調は、観察 → 取得条件の固定 → 採点 → 根拠メモ → 再評価のリズムを作ると、評価が「作業」から「次の一手を決める材料」に変わります。
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参考文献
- Schmitz-Hübsch T, et al. Scale for the assessment and rating of ataxia: Development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. DOI: 10.1212/01.WNL.0000219042.60538.92 / PubMed: PMID: 16769946
- Weyer A, et al. Reliability and validity of the scale for the assessment and rating of ataxia: a study in 64 ataxia patients. Mov Disord. 2007. DOI: 10.1002/mds.21544 / PubMed: PMID: 17516493
- Lawerman TF, et al. Construct Validity and Reliability of the SARA Gait and Posture Sub-scale in Early Onset Ataxia. Front Hum Neurosci. 2017;11:605. DOI: 10.3389/fnhum.2017.00605 / PubMed: PMID: 29326569
- Petit E, et al. SARA captures disparate progression and responsiveness in spinocerebellar ataxias. J Neurol. 2024;271(7):3743-3753. DOI: 10.1007/s00415-024-12475-1 / PubMed: PMID: 38822840
- Padilla G, et al. Minimal Clinically Important Difference of the Scale for the Assessment and Rating of Ataxia. Mov Disord Clin Pract. 2025. DOI: 10.1002/mdc3.70343 / PubMed: PMID: 40916838
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


