徒手的呼吸介助のやり方|禁忌とコツ

臨床手技・プロトコル
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徒手的呼吸介助(用手的呼吸介助法)とは?

徒手介助は「圧の強さ」より「呼吸同調」で効果が決まります。 評価 → 介入 → 再評価の流れを復習する( PT キャリアガイド )

徒手的呼吸介助(用手的呼吸介助法)は、呼気に合わせて胸郭へ軽い圧を加え、吸気開始でスッと解放することで、換気の促通分泌物(痰)の中枢移送を後押しする手技です。ポイントは「強く押す」ではなく、呼吸のタイミングに正確に合わせること。疼痛や防御反応が出ない範囲で、体位・部位・回数を小さく調整しながら安全に積み上げます。

関連:呼吸手技を組み合わせる全体像は 呼吸理学療法(コンディショニング)のまとめ に整理しています(本文内の“文脈リンク”は本リンクのみ)。

クイック回答:徒手的呼吸介助とは?→ 呼気で軽圧、吸気で解放して気流と胸郭運動を整え、換気促通と分泌物移送を狙う手技。コツは?→ 同調 > 圧広い面で接触、呼気で圧・吸気で解放。1 セット 30–60 秒 × 2–4 を目安に、各セット後に SpO₂ / HR / 息切れ( Borg など )で再評価。

用語整理:呼吸介助/呼気介助/スクイージング

  • 徒手的呼吸(呼気)介助:呼気で胸郭へ軽い圧迫 → 吸気で解放。目的=換気促通・分泌物移送。強圧は不要。
  • スクイージング:体位ドレナージ等と併用し、貯留部位から中枢へ“絞る”イメージで介助する呼称。終末呼気でやや増圧する場合もありますが、基本は同調重視
  • 用語の揺れ(徒手的呼気介助など)は臨床でよく出るため、「同じ原理の手技」として押さえておくと迷いが減ります。

この手技で狙うこと(ゴール)

  • 換気促通:胸郭運動を出しやすくして、浅い呼吸・不均等換気を整える。
  • 分泌物移送の補助:呼気流速や胸郭運動を整え、末梢 → 中枢へ“動かしやすい状況”を作る。
  • 呼吸困難の軽減:不安・努力呼吸が強いときに、リズムを合わせて呼吸を整える(過介入は逆効果)。

実施前チェック(評価 → 準備)

  • 痰の状況:量・粘稠度・色、咳嗽力(自力で出せるか)、喀血の有無。
  • 呼吸パターン:呼吸数、呼気延長、努力呼吸(肩挙上・陥没呼吸)、胸郭の動きの左右差。
  • モニタ:ベースの SpO₂ / HR / RR 、息切れ( Borg など )。実施中は「変化が出たら止める」前提で短く刻む。

適応と非適応(禁忌・中止基準)

目標は「分泌物クリアランス」「換気促通」「呼吸困難の軽減」。圧迫を伴うため、胸壁・循環・出血リスクは必ず先に確認します。

徒手的呼吸介助:禁忌・慎重適応・中止基準(成人の目安)
区分 具体例 理由(起こりやすい問題) 代替・工夫
原則回避(禁忌相当) 肋骨骨折・胸壁外傷、術創やドレーン部への直接圧、喀血の疑い、著明な出血傾向、不安定循環(急性期で不安定)、強い気管支痙攣 など 疼痛・損傷増悪、出血、循環悪化、呼吸状態の急変 体位調整、呼吸調整(呼吸制御)、必要時は医師指示下で別手技へ
慎重(医師確認のうえ) 重度骨粗鬆症、抗凝固療法中、強い疼痛・拒否、急性増悪直後の高度 COPD、皮下出血が出やすい など 皮下出血・痛み・防御反応、過介入で息切れ増悪 圧を極小に、短いセットを複数回、休息を増やす
中止(その場で止める) SpO₂ がベースから 3–4 % 以上低下(または 90 % 未満)、強い息切れ・胸痛、 HR の異常、コントロール不能な咳嗽、疼痛や防御反応、皮下出血や創部痛の出現 など 低酸素化・循環負荷・疼痛増悪 中止 → 安静 → 体位調整/酸素化の確認 → 必要時に医師連絡

方法(基本手順:迷わない 6 ステップ)

  1. 姿勢選択:座位/半座位/側臥位/リクライニング。痰の貯留が明確なら体位調整を先に。
  2. 手掌ポジション:狙う部位(上・下・側胸郭/背側/横隔膜)を決め、骨突出・創部・ドレーンを避けて広い面で接触。
  3. 同調の練習:「吐くとき押します/吸うとき離します」と合図し、2–3 呼吸は“練習”で合わせる。
  4. 圧のかけ方:呼気相に合わせて軽圧 → 吸気開始で解放。圧は「胸郭がわずかに沈む程度」。
  5. セット設計:1 セット 30–60 秒。まず 2 セットから開始し、反応が良ければ 3–4 セットへ。
  6. 再評価:各セット後に SpO₂ / HR / 息切れ( Borg )、痰の動き(咳・ハフで出せるか)を確認し、体位・部位・回数を調整。

併用の基本は、ACBT(呼吸制御 → 深呼吸 → ハフ/咳)です。徒手介助で“動かし”、ハフで回収する流れを作ると、目的がブレにくくなります。

部位別のコツ(ランドマークと圧の方向)

骨突出部は避けて広い面で接触。圧の方向は「背側・内側」へ軽く、同調の正確さを最優先にします。

  • 上胸郭(前):胸骨体〜第 2–4 肋骨付近。胸骨両側へ手掌(手根部)を当て、背側+わずかに尾側へ。
  • 下胸郭(前):第 6–8 肋骨弓付近。肋骨弓をすぼめるように背側+内側へ。
  • 側胸郭:中腋窩線上の第 4–8 肋骨付近。両手で胸郭を把持し、内側+やや尾側へ。
  • 背側(肩甲下):肩甲骨下角〜第 6–9 肋骨付近。前後で胸郭を挟むイメージで前方+内側へ。
  • 横隔膜促通:剣状突起直下〜肋骨弓角付近。呼気で軽い抵抗、吸気開始で解放。

ケース別プロトコル(例)

  • COPD の閉塞傾向:半座位 → 側胸郭中心(内側+わずかに尾側) → 呼気延長に同調。セットを短く刻み、過換気を避けます。
  • 誤嚥性肺炎で痰が多い:患側上の側臥位 → 背側(肩甲下)中心 → 短いセットを複数回。休息を多めに挟みます。
  • 胸部術後で疼痛あり:創部をクッションで支持 → 上胸郭前面を極軽圧で同調練習 → 深呼吸は浅め、咳は 1–2 回に限定して疲労を抑えます。

よくあるミスと修正

徒手的呼吸介助:よくあるミスと修正(現場での見分け方つき)
ミス 兆候 修正ポイント
吸気で押してしまう 息苦しさ・防御反応・呼吸数増加 呼吸を声に出してカウントし、呼気開始で圧・吸気で解放を再練習(まず 2–3 呼吸は“練習”にする)
点圧・強圧 疼痛・皮膚発赤・皮下出血リスク 広い面で接触、圧は「胸郭がわずかに沈む程度」まで下げる。必要なら部位を変える
部位選択が合っていない 痰が動かない/効果が乏しい 聴診や胸郭の動きの左右差に合わせ、背側/側胸郭/下胸郭へ切替。体位を先に整える
休息・再評価不足 SpO₂ 低下・疲労増大・息切れ悪化 各セット後に SpO₂ / HR / 息切れ( Borg )を確認。セットを短く刻み、回数より安全を優先

ダウンロード(A4・印刷推奨)

印刷設定の目安: A4 、余白 10–12 mm、ヘッダー/フッター非表示。病棟掲示や家族指導にも使いやすい形です。

目的別の使い分け(比較表)

表は横スクロールできます。

徒手系・補助具・体位の使い分け(成人・一般病棟/在宅の目安)
介入 主目的 適応の例 長所 注意点
徒手的呼吸介助 換気促通/分泌物移送 自力咳嗽がある、痰が粘稠・うっ滞 器具不要・同調で負荷を微調整できる 骨粗鬆・術創・出血傾向では回避/慎重
ERCC(呼気時胸郭圧迫) 呼気流速 ↑・末梢 → 中枢移送 呼気延長が必要、気道閉鎖傾向 短時間で実施しやすい 強圧は逆効果。 SpO₂ 低下時は中止
胸郭振動・叩打法 粘液せんの剥離 粘稠痰・慢性期のうっ滞 広範囲に介入できる 骨粗鬆・皮下出血傾向で回避
体位ドレナージ 重力で排痰促進 区域・亜区域が特定できる病変 家族指導で継続しやすい 逆流・低酸素化に注意(短く刻む)
PEP(陽圧呼気) 末梢気道の開存維持 閉塞傾向、呼気終末で虚脱しやすい 在宅でも併用しやすい 適正圧の指導が必要
ACBT 分泌物移送・省力化 咳嗽が誘発されやすい症例 患者主導で継続できる 指導とモニタが前提。疲労時は短く

安全管理とモニタリング

  • 事前/途中/直後に SpO₂ / HR / RR / 息切れ( Borg など )、痰量・性状を確認します。
  • 低酸素化・強い息切れ・胸痛・意識変容などは速やかに中止し、安静・体位調整のうえ医師へ連絡します。
  • 骨突出部・創部・ドレーンは避けて広い面で接触。皮下出血リスクがある症例は特に慎重にします。

よくある質問(FAQ)

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圧の強さや回数の目安は?

不快・疼痛・防御反応が出ない範囲で、同調の正確さを最優先します。まずは 1 セット 30–60 秒 × 2 セットから。反応が良ければ 3–4 セットへ増やします。各セット後に SpO₂ / HR / 息切れ( Borg )を確認し、体位・部位・回数を調整します。

振動・叩打法と何が違いますか?

徒手的呼吸介助は呼吸同調で気流や胸郭運動を整えるのが主目的です。振動・叩打法は分泌物の剥離・移送が主目的で、骨粗鬆や皮下出血傾向では回避します。臨床では体位や ACBT、 PEP と併用して“回収まで”を設計します。

在宅や家族指導では何に注意しますか?

禁忌・中止基準を共有し、圧はやさしく・同調優先で実施します。 SpO₂ や息切れ、疲労を毎回確認し、異常があれば中止して休息・体位調整を行います。家族指導は「短く刻む」「無理をしない」を合言葉にすると安全です。

参考文献

  1. Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC Clinical Practice Guideline: Effectiveness of Nonpharmacologic Airway Clearance Therapies in Hospitalized Patients. Respir Care. 2013;58(12):2187–2193. PubMedPDF
  2. Polverino E, Goeminne PC, McDonnell MJ, et al. European Respiratory Society guidelines for the management of adult bronchiectasis. Eur Respir J. 2017;50(3):1700629. DOIPDF
  3. Hill AT, Sullivan AL, Chalmers JD, et al. British Thoracic Society Guideline for bronchiectasis in adults. Thorax. 2019;74(Suppl 1):1–69. DOIPDF
  4. Spinou A, Chalmers JD. Respiratory physiotherapy in the bronchiectasis guidelines: is there a loud voice we are yet to hear? Eur Respir J. 2019;54(3):1901610. DOIPDF
  5. 植木 純, 神津 玲, 大平 徹郎, ほか.呼吸リハビリテーションに関するステートメント.呼吸ケア・リハビリテーション. 2018;27(2):95–114. DOIJ-STAGE
  6. Tripathi AK, Sankari A. Postural Drainage and Vibration. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2024 Jun 8. NCBI Bookshelf

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

徒手的呼吸介助は、「安全の確保 → 同調で軽く介入 → 痰を回収 → 記録して再評価」のリズムを崩さないほど、現場で再現性が上がります。もし職場で呼吸手技の標準化や記録が詰まりやすい場合は、面談準備チェックと職場評価シートも使える マイナビコメディカルの無料ダウンロード を、整理のきっかけにしてみてください。

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