複合感覚の評価方法|二点識別覚・立体覚・数字書字覚の見方
複合感覚は、表在感覚・深部感覚などの基本的な入力を確認したうえで評価します。
複合感覚の評価では、二点識別覚・立体覚・数字書字覚をいきなり行うのではなく、まず触覚や位置覚などの基本感覚と、注意・理解・視覚遮蔽の条件を確認します。基本感覚が低下していると、複合感覚の成績低下を「皮質での統合障害」と単純には解釈できません。
本記事では、PTがベッドサイドで3つの検査をどう使い分け、どの条件をそろえ、結果をどう記録するかを整理します。異常所見を局在へ短絡せず、入力・注意・言語・運動の影響まで含めて判断するための見方と、A4記録シートPDFも掲載しています。
結論|基本感覚を確認してから目的別に3つの検査を選ぶ
複合感覚を評価するときは、前提条件の確認 → 調べたい機能に合った検査 → 左右差・反応様式の記録 → 基本感覚や他の神経所見との統合の順で進めます。3項目すべてを機械的に実施するのではなく、「何を確かめたいのか」で検査を選ぶことが重要です。

図のように、最初に「複合感覚検査を実施できる条件がそろっているか」を確認することが重要です。そのうえで、空間的な弁別を見たいなら二点識別覚、物品認知を見たいなら立体覚、皮膚上に描かれた形の認知を見たいなら数字書字覚というように、目的から検査を選びます。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 順番 | 確認すること | ポイント |
|---|---|---|
| ① | 前提条件 | 視覚遮蔽、基本感覚、注意・理解、回答方法を確認する。 |
| ② | 検査を選ぶ | 二点識別覚・立体覚・数字書字覚から、調べたい機能に合わせて選択する。 |
| ③ | 反応を記録する | 正誤だけでなく、左右差、迷い、反応遅延、探索方法などを残す。 |
| ④ | 統合して解釈する | 基本感覚、注意・言語・運動機能、他の神経学的所見と合わせて判断する。 |
二点識別覚・立体覚・数字書字覚は何が違う?
3つの検査は、すべて同じ能力を調べているわけではありません。二点識別覚は触覚情報の空間的な弁別、立体覚は触覚による物品認知、数字書字覚は皮膚上に描かれた形の認知を主に確認します。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 主に確認すること | 実施前に特に確認すること |
|---|---|---|
| 二点識別覚 | 近接した刺激を1点・2点として弁別できるか | 触覚、検査部位、器具、刺激条件 |
| 立体覚 | 視覚を使わず物品の形や特徴を統合して認識できるか | 触覚・深部感覚、手指の探索運動、物品の理解、言語 |
| 数字書字覚 | 皮膚上に描かれた数字の形を認識できるか | 触覚、数字の理解、注意、描記方向の共有 |
検査前に確認する条件|基本感覚・注意・理解を切り分ける
複合感覚の結果を解釈するには、検査そのものより先に「入力と回答が成立する条件」をそろえる必要があります。閉眼または遮蔽物で検査部位を見えないようにし、短い説明と練習によって課題を理解できているかを確認します。
- 検査部位の触覚が著しく低下していないか
- 立体覚では、物品を探索するための手指運動が可能か
- 指示を理解し、注意を検査へ向けられるか
- 失語などにより名称回答だけが難しくなっていないか
- 左右で体位・検査部位・刺激条件がそろっているか
回答方法を名称から選択式へ変更するなど、検査条件を調整した場合は、その条件自体を記録します。条件が異なれば、前回値や左右の結果を単純には比較できません。
二点識別覚|1点と2点を区別できる距離を見る
二点識別覚では、視覚を遮蔽し、二点識別用の器具などを用いて1点刺激と2点刺激を提示します。提示順が予測されないようにし、二点間の距離を変えながら、どの程度の間隔で2点として識別できるかを確認します。
測定では、刺激部位、器具、二点間距離、刺激方向、接触方法などの条件をできるだけ一定にします。二点を当てる際に皮膚上を滑らせたり、一方だけ強く押したりすると、距離以外の手掛かりで回答できる可能性があります。
記録で重要なのは、数値だけでなく測定条件を残すことです。二点識別距離は検査部位や測定方法の影響を受けるため、異なる条件で得た数値をそのまま比較せず、同じ条件での左右差や経時変化を確認します。
記録例:右示指末節指腹、二点識別○mm。左同部位○mm。使用器具・刺激方向・視覚遮蔽条件を統一。右で反応遅延あり。
立体覚|触った物品を視覚なしで認識できるかを見る
立体覚では、視覚を遮蔽した状態で、硬貨・鍵・消しゴムなど本人が知っている身近な物品を手に持ってもらい、何であるかを答えてもらいます。単に皮膚へ触れる検査ではなく、物品を手指で探索し、形・大きさ・質感などの情報を統合して認識する過程をみます。
正答・誤答だけでなく、探索に時間がかかる、持ち替えが極端に多い、一部の特徴までは分かるが物品名まで到達しない、といった反応も記録します。
ただし、触覚・位置覚の低下、手指運動の制限、注意障害、失語、物品そのものへの不慣れがあれば成績は低下し得ます。立体覚の低下だけを根拠に皮質性障害と断定せず、何が課題遂行を妨げたのかを切り分けます。
数字書字覚|手掌に描いた数字を認識できるかを見る
数字書字覚では、視覚を遮蔽した状態で、手掌などに数字を描き、何の数字か答えてもらいます。検査前に、数字の向きや回答方法を理解できていることを確認します。
再評価や左右比較では、描く部位、数字のおおよその大きさ、方向、刺激の強さなどをできるだけそろえます。提示する数字の順番は予測されにくいようにし、1回の誤答だけではなく、複数の反応から一貫性を確認します。
記録では、正誤に加えて、特定の数字で繰り返し迷う、回答まで時間がかかる、左右で成績が異なるなどの所見を残します。ただし、数字の理解や注意、基本的な皮膚感覚が不十分な場合には、その影響を分けて考える必要があります。
解釈の境界|複合感覚の低下だけで病巣を断定しない
複合感覚検査で重要なのは、異常の有無だけでなく、「なぜその課題ができなかったのか」を整理することです。二点識別覚・立体覚・数字書字覚の低下は識別性感覚の障害を考える手掛かりになりますが、単一検査だけで病巣や情報処理段階を確定することはできません。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 所見 | まず考えること | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 基本感覚も低下している | 複合感覚へ入る前の感覚入力が不十分な可能性がある。 | 表在感覚・深部感覚の程度と分布を確認する。 |
| 結果が試行ごとに大きく変わる | 注意、理解、疲労、検査条件の影響を考える。 | 説明方法・体位・刺激条件を見直して再確認する。 |
| 立体覚だけ低下する | 触覚以外に、探索運動、言語、物品認知などの影響も考える。 | 基本感覚、手指運動、失語・認知機能と照合する。 |
| 一側で複数の識別性感覚が一貫して低下する | 中枢性の識別性感覚障害を含めて考える。 | 病変部位、他の神経所見、高次脳機能所見と統合する。 |
| 反対側も良くない | 「良い側=正常」と決めつけない。 | 既往、末梢神経障害、認知面、両側の測定条件を確認する。 |
特に脳卒中後では、病巣と反対側の感覚障害が中心であっても、成績の良い側を絶対的な正常対照として扱えない場合があります。左右差は有用な情報ですが、「良い側を正常と仮定する」のではなく、両側の検査条件や他の感覚所見も合わせて解釈します。
記録テンプレ|数値と反応様式を一緒に残す
複合感覚は「正常・低下」だけでは再評価しにくいため、検査条件と反応様式を残します。特に二点識別覚では測定部位・器具・距離、立体覚では使用物品と探索の様子、数字書字覚では提示条件と誤答傾向を記録しておくと比較しやすくなります。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 左 | 右 | 一緒に残す条件・所見 |
|---|---|---|---|
| 二点識別覚 | 識別距離:○mm | 識別距離:○mm | 部位、器具、刺激方向、反応の一貫性 |
| 立体覚 | 正答・誤認・判別困難 | 正答・誤認・判別困難 | 使用物品、探索時間、探索方法、回答形式 |
| 数字書字覚 | 正答・誤答傾向 | 正答・誤答傾向 | 描記部位、方向、反応時間、誤答の一貫性 |
複合感覚の記録シートPDF
二点識別覚・立体覚・数字書字覚を同じ用紙で記録できるA4記録シートです。検査結果だけでなく、左右差や反応様式も合わせて残す用途で使用できます。
よくあるミス|結果より先に検査条件をそろえる
複合感覚検査では、基本感覚や課題理解を確認しないまま結果を解釈することが誤判定につながります。特定の試行数や正答回数だけで正常・異常を決めず、検査条件をそろえ、反応の一貫性と他の感覚所見を合わせて判断します。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 場面 | OK | 避けたい方法 |
|---|---|---|
| 検査前 | 基本感覚・注意・理解を確認する。 | 複合感覚検査だけを単独で実施する。 |
| 刺激 | 視覚を遮蔽し、左右で条件をそろえる。 | 刺激の強さ・方向・器具を試行ごとに変える。 |
| 判定 | 複数の反応と他の感覚所見を合わせて解釈する。 | 1回の誤答だけで異常と判断する。 |
| 局在 | 基本感覚、認知、高次脳機能、画像所見などと統合する。 | 複合感覚低下だけで頭頂葉障害と断定する。 |
ADLへつなげる|検査所見と実際の活動を照合する
複合感覚の所見は、検査場面の正誤だけで終わらせず、本人が困っている活動と照合します。立体覚が低下している場合には、ポケットやバッグ内の物品探索、更衣、道具操作など、視覚に頼らず手から得た情報を利用する場面を確認します。
PTでは、手すりや歩行補助具などを操作する場面で違和感がみられる場合にも、感覚所見と実際の動作を照合できます。ただし、活動上の問題には筋力、協調性、注意、視覚なども関与するため、複合感覚の結果だけで原因を決めないことが重要です。
記録では「立体覚低下あり」で終わらず、「右手では物品探索に時間を要する」「視覚を外すと物品の識別が難しい」など、検査所見と活動の対応が分かる形まで残すと、多職種にも共有しやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。
触覚や深部感覚が低下していても複合感覚は評価できますか?
検査を行うこと自体はできますが、結果を複合感覚だけの障害として解釈することは難しくなります。基本感覚の入力が低下していれば、その影響で立体覚や数字書字覚などの成績も低下する可能性があるためです。基本感覚の結果と並べて記録し、入力の問題と情報統合の問題を分けて考えます。
複合感覚が低下していれば頭頂葉障害と考えてよいですか?
複合感覚の低下は中枢性の識別性感覚障害を考える手掛かりになりますが、それだけで頭頂葉障害と確定することはできません。基本感覚、病変部位、失語・半側空間無視などの高次脳機能、その他の神経学的所見と合わせて局在を考えます。
左右比較では健側を正常値として扱ってよいですか?
左右差は重要ですが、成績が良い側を必ず正常とみなせるわけではありません。脳卒中後などでは病巣と同側の感覚機能にも低下がみられる例があるため、左右差だけでなく、検査条件、既往、末梢神経障害の有無なども合わせて判断します。
次の一手
参考文献
- Dellon AL, Mackinnon SE, Crosby PM. Reliability of two-point discrimination measurements. J Hand Surg Am. 1987;12(5 Pt 1):693-696. DOI:10.1016/S0363-5023(87)80049-7 / PubMed
- Kim JS, Choi-Kwon S. Discriminative sensory dysfunction after unilateral stroke. Stroke. 1996;27(4):677-682. DOI:10.1161/01.STR.27.4.677 / PubMed
- Gaubert CS, Mockett SP. Inter-rater reliability of the Nottingham method of stereognosis assessment. Clin Rehabil. 2000;14(2):153-159. DOI:10.1191/026921500677422368 / PubMed
- Mørch CD, Andersen OK, Quevedo AS, Arendt-Nielsen L, Coghill RC. Exteroceptive aspects of nociception: insights from graphesthesia and two-point discrimination. Pain. 2010;151(1):45-52. DOI:10.1016/j.pain.2010.05.016 / PubMed
- Connell LA, Lincoln NB, Radford KA. Somatosensory impairment after stroke: frequency of different deficits and their recovery. Clin Rehabil. 2008;22(8):758-767. DOI:10.1177/0269215508090674 / PubMed
- Carey LM, Matyas TA. Frequency of discriminative sensory loss in the hand after stroke in a rehabilitation setting. J Rehabil Med. 2011;43(3):257-263. DOI:10.2340/16501977-0662 / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

