二重同時刺激(DSS)のやり方と判定|消去現象・記録PDF

評価
記事内に広告が含まれています。

二重同時刺激(DSS)のやり方と判定|消去現象を「単独→同時」で確認する

二重同時刺激(double simultaneous stimulation:DSS)は、片側ずつの刺激には反応できるのに、左右を同時に提示すると一側の刺激を報告できなくなる「消去(extinction)」を確認するためのベッドサイド評価です。本記事では、視覚刺激によるDSSを中心に、準備、実施、判定、記録までを整理します。

重要なのは、DSSで消去を認めても、それだけで半側空間無視(USN)全体を確定しないことです。まず「単独刺激への反応が成立しているか」と「両側同時提示で一側だけ報告が落ちるか」を分けて記録し、USNや視野障害との関係は他の評価と合わせて判断します。

USN評価全体の順番を確認する

半側空間無視(USN)評価の全体像を見る

DSSで分かること・分からないこと

DSSで直接確認するのは、単独刺激では検出できる一側の刺激が、両側同時提示という競合条件で報告されなくなるかです。消去はUSNと関連する所見ですが、両者を同じものとして扱わないことが重要です。

DSS所見から判断できる範囲
確認したこと 読み方 DSSだけでは決めないこと
左右の単独刺激には安定して反応できる 両側同時刺激を解釈するための前提が成立している USNの有無・重症度
両側同時で一側の報告が反復して落ちる 落ちた側の消去を示唆する USN全体の有無やADL上の危険度
単独刺激から一側への反応が不安定 消去として解釈する前に視覚・視野・注視・覚醒・理解などを確認する 半盲とUSNの鑑別

DSSはUSN評価の一部として利用できますが、探索行動や生活上の見落としまで同じ検査で評価するものではありません。DSSで得られた所見は、必要に応じて抹消課題、視野の確認、ADL観察などへつなげます。

準備:提示条件をそろえてから始める

DSSは刺激の位置や提示タイミング、反応方法などが変わると結果を比較しにくくなるため、まず視線・刺激位置・刺激方法・反応方法をそろえます。

  • 姿勢:安定した座位を基本とし、必要な体幹支持を行います。
  • 頭部・体幹:可能な範囲で正面を向けます。支持や介助が必要な場合は条件として記録します。
  • 視線:検者の鼻先など、正中の固定点を決めます。
  • 刺激:指の動きなど、左右で同じ刺激方法を用います。
  • 提示位置:正中から左右の対応する位置へ、同程度の距離・高さで提示します。
  • 反応方法:口頭、指差し、うなずきなど、対象者が安定して行える方法を先に決めます。
  • 記録:左単独・右単独・両側同時を分けて記録できるようにします。

DSSのやり方:単独刺激を確認してから両側同時刺激へ進む

基本の流れは、①単独刺激が成立するか確認する → ②両側同時刺激を提示する → ③単独と同時の反応を比較するです。両側同時刺激だけを行うのではなく、単独刺激を比較条件として残します。

ステップ1:左・右の単独刺激を確認する

正中を注視してもらい、まず左のみ、右のみの刺激を提示します。それぞれの刺激に安定して反応できるかを確認してください。

一側の単独刺激から反応が不安定な場合は、その時点で「消去あり」とは判断しません。視力、視野、眼球運動、覚醒、理解、注視の維持、反応方法などが結果へ影響していないかを確認します。

ステップ2:左右を同時に提示する

単独刺激への反応を確認したら、同じ位置へ左右の刺激を同時提示します。「どちら側に見えましたか」「両方なら両方と教えてください」など、対象者が理解できる短い教示にそろえます。

単独では左右とも検出できるのに、両側同時提示で一側の刺激だけ報告されない反応が繰り返される場合、その側の消去を疑います。

ステップ3:同じ条件で複数回確認する

1回の報告漏れだけで結論を出さず、できるだけ同じ刺激位置、教示、反応方法で反復して確認します。疲労や注意状態の変化がある場合は、その条件も記録してください。

本記事・記録PDFでの運用例

  • 左単独:5回
  • 右単独:5回
  • 両側同時:10回

この回数は、DSSに共通する標準的な陽性カットオフではありません。本記事と記録用紙で条件をそろえ、同じ方法で再評価しやすくするための運用例です。消去の判断では回数だけでなく、単独刺激との違い、報告が落ちた側、反応の再現性、実施条件を合わせて記録してください。

二重同時刺激(DSS)の判定フロー。単独刺激を確認してから両側同時刺激を提示し、反応を比較する流れ
図:DSSは単独刺激への反応を確認したうえで両側同時刺激を行い、反応の変化から消去を疑います。DSS所見だけでUSNを確定せず、他の評価と合わせて判断します。

DSSの判定:単独刺激と両側同時刺激の差を読む

DSSでは単純な正答数だけを見るのではなく、「単独刺激ではどうだったか」「両側同時にすると何が変わったか」を比較します。単独刺激への反応が成立していることが、同時提示で生じる消去を解釈するうえで重要です。

DSS所見の読み方
所見 読み方 次に確認すること
単独は左右とも安定、同時で一側が反復して落ちる 落ちた側の消去を示唆する 他のUSN評価、視野、生活場面での一側性の見落とし
単独刺激から一側が不安定 DSSによる消去としては解釈しにくい 視力・視野・眼球運動・注視・覚醒・理解
両側同時で左右とも不安定 一側性の消去だけでは説明しにくい 覚醒、注意の持続、疲労、教示理解、刺激条件
落ちる側が試行ごとに変わる 再現性が乏しく、そのまま一側の消去とまとめにくい 提示タイミング、視線、反応方法、疲労をそろえて再評価

「消去あり」という言葉だけで記録を終えず、どの刺激条件で、どちら側の報告が、何回落ちたかまで残すと再評価しやすくなります。

消去・USN・半盲は同じ所見ではない

消去はUSNと関連してみられることがありますが、消去があることとUSNがあることは同義ではありません。また、半盲などの視野障害とUSNが併存する場合もあるため、DSSだけで両者を完全に区別することはできません。

  • 消去:単独では検出できる刺激が、両側同時提示になると一側で報告されにくくなる現象
  • USN:一側空間への注意・定位・探索などに偏りを生じる症候群で、机上課題やADLなど複数場面から評価する
  • 半盲などの視野障害:視野そのものの障害を扱うため、必要に応じて視野の評価を行う

特に、単独刺激の段階から同じ側を検出できない場合は、「単独では反応できるのに、同時提示で初めて落ちる」という消去の条件が成立していません。DSSの結果だけで原因を決めず、視覚条件や他の高次脳機能評価と合わせて判断します。

DSSの記録は「条件・結果・解釈」の3行で残す

DSSは実施条件による影響を受けるため、結果だけでなく条件までセットで記録します。担当者が変わっても同じ条件で再評価しやすい形にしておくことが重要です。

  • 条件:姿勢、正中注視、刺激方法、提示位置、反応方法、介入の有無
  • 結果:左単独、右単独、両側同時の反応数と報告が落ちた側
  • 解釈:消去を示唆するか、判定困難か、追加で何を確認するか

記載例(3行)

条件:車椅子座位、正中注視あり。左右の対応する位置へ同一刺激を提示し、口頭で回答。
結果:単独L 5/5、R 5/5。両側同時10回中6回で左刺激の報告漏れ。
解釈:両側同時提示で左側の視覚性消去を示唆。USNの程度、視野、生活場面への影響は他評価と合わせて確認する。

DSSで結果がぶれる5つのポイント

DSSでは、提示タイミング、視線、刺激位置、反応方法などが変わると前回との比較が難しくなります。再評価では「同じ検者で行うこと」だけではなく、何を同じ条件にしたかを記録できることを重視します。

DSSで避けたい判断と修正方法
観点 避けたい状態 修正方法
提示の同時性 左右を出すタイミングが毎回ずれる 両手の動きと提示リズムをできるだけそろえる
視線 刺激を追視した状態で判定する 正中固定点を決め、視線条件を記録する
単独刺激 両側同時刺激だけで消去を判定する 左右の単独刺激への反応を先に確認する
試行回数 数回の結果や一定の割合だけで標準的な陽性・陰性と決める 本記事の回数は運用例として使い、反応パターンと条件を併記する
反応方法 口頭、指差し、うなずきを途中で変更して同じ条件として比較する 反応方法を記録し、変更した場合は別条件として扱う

二重同時刺激(DSS)記録シートPDF

印刷して使用できる「二重同時刺激(DSS)記録シート(A4縦・1ページ)」です。単独(L / R)と同時(LR)を分けて記録し、消去の有無、固定条件、合計、再評価メモまで1枚で整理できます。

本記録シートは、標準化されたDSSの診断尺度や正式なカットオフを示すものではありません。実施条件と反応パターンをそろえて記録し、経時比較しやすくするための記録用紙として使用してください。

二重同時刺激(DSS)記録シート(A4・1ページ)

PDFを開く(ダウンロード)

プレビュー(タップで開く)
プレビューが表示できない場合は、上の「PDFを開く(ダウンロード)」から開いてください。

二重同時刺激(DSS)のよくある質問

DSSの実施や判定で迷いやすいポイントを整理します。

Q1. DSSだけで半盲と消去を見分けられますか?

A. DSSだけでは十分ではありません。消去では「単独刺激には反応できるが、両側同時提示で一側が落ちる」ことが重要です。単独刺激から同じ側への反応が不安定であれば、視野、視力、眼球運動、注視などを確認します。半盲とUSNが併存する場合もあるため、1つの所見だけで区別しないことが重要です。

Q2. 左5回・右5回・同時10回は正式な判定基準ですか?

A. いいえ。本記事と記録シートで再評価条件をそろえるための運用例です。DSSに共通する正式な陽性カットオフとして扱わず、単独刺激との違い、報告が落ちる側、反応の再現性、刺激条件を合わせて記録してください。

Q3. 失語があり口頭で答えられない場合はどうしますか?

A. 指差し、うなずきなど、対象者が理解して安定して行える反応方法を検討します。ただし、どの方法で実施したかを必ず記録し、前回と異なる反応方法の結果を単純に同一条件として比較しないようにします。

Q4. 視覚だけでなく触覚や聴覚のDSSも必要ですか?

A. 毎回すべての感覚モダリティを行う必要はありません。本記事は視覚DSSを中心にしています。触覚や聴覚でも消去を確認する場合は、視覚の結果と一括りにせず、「視覚」「触覚」「聴覚」など実施したモダリティごとに所見を分けて記録します。

Q5. DSSで消去を認めたら次に何を評価しますか?

A. DSSだけでUSNの有無や生活上の危険度を決めず、目的に応じて追加評価します。机上で探索の偏りを確認したい場合は抹消課題など、生活場面への影響を確認したい場合はADL観察などへ進み、視野障害が疑われる場合は視覚・視野の評価を優先します。

次の一手

DSSで消去を確認したあと、机上で「どの位置を見落とすか」「どちら側から探索するか」を確認したい場合は、抹消課題へ進みます。


参考文献

  1. Zebhauser PT, Vernet M, Unterburger E, et al. Visuospatial Neglect – a Theory-Informed Overview of Current and Emerging Strategies and a Systematic Review on the Therapeutic Use of Non-invasive Brain Stimulation. Neuropsychol Rev. 2019;29:397-420. doi: 10.1007/s11065-019-09417-4
  2. Rorden C, Jelsone L, Simon-Dack S, Baylis LL, Baylis GC. Visual extinction: the effect of temporal and spatial bias. Neuropsychologia. 2009;47(2):321-329. doi: 10.1016/j.neuropsychologia.2008.09.004
  3. Terruzzi S, Albini F, Massetti G, et al. The Neuropsychological Assessment of Unilateral Spatial Neglect Through Computerized and Virtual Reality Tools: A Scoping Review. Neuropsychol Rev. 2024;34:363-401. doi: 10.1007/s11065-023-09586-3
  4. Chen P, Hreha K, Fortis P, Goedert KM, Barrett AM. Functional Assessment of Spatial Neglect: A Review of the Catherine Bergego Scale and an Introduction of the Kessler Foundation Neglect Assessment Process. Top Stroke Rehabil. 2012;19(5):423-435. doi: 10.1310/tsr1905-423
  5. Vallar G, Rusconi ML, Bignamini L, Geminiani G, Perani D. Anatomical correlates of visual and tactile extinction in humans: a clinical CT scan study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1994;57(4):464-470. doi: 10.1136/jnnp.57.4.464
  6. Bisiach E, Geminiani G, Berti A, Rusconi ML. Perceptual and premotor factors of unilateral neglect. Neurology. 1990;40(8):1278-1281.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)のアイコン

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

運営者プロフィール編集・引用ポリシーお問い合わせ