高次脳機能障害のOT評価|USN・注意・遂行を5分フローで整理

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高次脳機能障害の OT 評価|USN・注意・遂行を 5 分フローで整理する

高次脳機能障害の OT 評価で迷いやすいのは、検査を増やすことよりも「何から見て、どこまで深掘りするか」です。まず前提条件 → 主な仮説 → 作業工程 → 条件差 → 同条件再評価の順で整理すると、必要な検査と生活場面で確認すべき点を絞りやすくなります。

本記事では、OT が初回評価で「何をどの順に見て、どう短文で残すか」に絞ります。失語・記憶・失行などの詳細や、各標準化検査の実施・採点方法は各論へ分け、ここでは USN・注意・遂行機能を作業場面へつなげる実践親記事として整理します。

重要:本記事の「5 分フロー」は、標準化された高次脳機能検査や診断基準ではありません。初回の観察で仮説と深掘り先を整理するための実務フローです。所見は単独で確定せず、病歴、神経学的所見、神経心理学的検査、ADL・IADL、他職種や家族からの情報を含めて総合的に判断します。

USN・注意・遂行をどう見分けるか|まず「主な仮説」を置く

USN・注意障害・遂行機能障害は併存し、同じ作業の失敗として見えることがあります。そのため、初回から 1 つに確定するのではなく、最初に目立つズレと作業での崩れ方から主な仮説を置き、条件を変えながら裏を取るのが基本です。

特に USN は、視野障害などでも似た見落としが生じます。片側の見落としだけで USN と決めず、視野・眼球運動・感覚などの前提条件も確認してください。

USN・注意・遂行を混ぜない最小の見分け方
仮説 最初に目立つズレ 作業での見え方 次に確かめること
USN 一側空間への探索・反応が偏る 食事・整容・移動などで一側を見落とす、物へ衝突する 視野などの前提条件と、刺激量・配置・二重課題による変化
注意 持続しない、刺激にそれる、割り込みで抜ける 会話や環境刺激が加わると中断・見落としが増える 覚醒、時間、疲労、雑音、同時課題による変化
遂行機能 開始・段取り・切替・確認が崩れる 更衣・調理・金銭管理など複数工程の作業で破綻する 指示理解や記憶などの影響と、手がかりによる変化

記録も「主:注意/副:USN」と確定的に書くより、初回は「仮説:注意障害優位/USN 併存疑い」のように、検証途中であることが伝わる表現にすると共有しやすくなります。

評価プロトコル|5 分で仮説を置く → 必要時だけ深掘り → 作業で確認する

5 分で行うのは高次脳機能障害の評価を完結させることではなく、何が作業を崩しているか仮説を置き、次に何を確かめるか決めることです。初回から検査を網羅するのではなく、同じ順番で入口をそろえ、必要な標準化検査や作業観察へ進みます。

高次脳機能障害のOT評価を前提条件、主な仮説、作業工程、条件差、同条件再評価の5段階で整理した図版
高次脳機能障害の OT 評価は、前提条件 → 主な仮説 → 作業工程 → 条件差 → 同条件再評価の 5 ステップで整理します。
高次脳機能障害の OT 評価|初回 5 分フロー
段階 何を見るか 観察ポイント 短文の残し方
1. 前提条件 覚醒、せん妄、疲労、指示理解、視力・視野、聴力、運動・感覚 眠気、日内変動、指示が入るか、感覚入力や視覚条件が課題へ影響しないか 「眠気あり」「指示理解に確認要」
2. 主な仮説 USN / 注意 / 遂行のどれを優先して確かめるか 一側への偏り、割り込みでの崩れ、開始・工程・確認の失敗 「仮説:注意優位/USN 併存疑い」
3. 作業工程 探索、開始、段取り、切替、確認 どこで止まるか、抜けるか、危険が生じるか 「更衣:段取りで工程飛ばし」
4. 条件差 環境刺激、二重課題、時間帯、物品配置、声かけ 何を変えると悪化・改善するか 「会話追加で見落とし増」
5. 同条件再評価 時間、環境、課題、声かけ、支援量をそろえる 前回と比較できる条件になっているか 「午前・静環境・1 段階指示」

① ベッドサイド|短い観察で仮説を置く

最初は、視線・探索の偏り、片側へのぶつかり、食事や整容の左右差、刺激での注意逸脱、開始遅延、工程飛ばしなどを観察します。必要に応じて抹消課題、線分二等分、時計描写、二重同時刺激などを加えますが、1 つの課題結果だけで USN・注意障害・遂行機能障害を確定しないことが重要です。

② 詳細評価|「何を確かめたいか」で検査を選ぶ

詳細評価は検査名から選ぶのではなく、初回観察で生じた仮説に合わせて追加します。各検査の実施方法・採点基準・利用条件は、公式マニュアルや正規版を確認してください。

仮説ごとに深掘りする評価の考え方
仮説 確かめたいこと 評価候補の例 作業場面で確認すること
USN 無視の有無・程度・現れ方 BIT、抹消課題、線分二等分など 食事、整容、移動などで一側への見落としが出る条件
注意 持続・選択・配分など、どこで注意が崩れるか CAT・CAS、D-CAT など 刺激量、時間、疲労、二重課題による変化
遂行機能 開始・計画・順序・切替・モニタリングのどこが崩れるか BADS、FAB、遂行機能を作業中にみる評価など IADL を含む複数工程の作業と、手がかりへの反応

③ 作業場面|検査結果を生活上の困りごとへ戻す

更衣、移動、トイレ、整容、食事、調理、金銭管理など、実際に問題となっている作業で確認します。机上成績と ADL・IADL が一致するとは限らないため、OT では「どの工程で何が起きたか」「どの条件で悪化したか」「どの支援で変化したか」まで記録すると、介入と多職種共有につなげやすくなります。

高次脳機能障害の OT 評価 5 分フロー記録シート|Excel・PDF

記事の 5 ステップを、A4 1 枚で記録できるシートです。前提条件 → 主な仮説 → 作業工程 → 条件差 → 同条件再評価の順で書き分けられるため、初回評価のメモ、申し送り、再評価時の条件確認に利用できます。

編集して使いたい場合は Excel 版、印刷して手書きしたい場合は PDF 版が便利です。どちらも同じ記録項目で作成しています。

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本シートは標準化検査や診断基準の代替ではありません。初回観察で仮説と深掘り先を整理し、再評価条件をそろえるための記録補助として使用してください。

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作業で裏を取る|机上検査だけでは判断しにくい 2 パターン

ここからは、検査結果を作業場面へつなげる考え方を 2 パターンで整理します。以下は特定患者の実測データや症例報告ではなく、観察と記録の組み立て方を示す仮想例です。

パターン 1|机上では目立ちにくいのに ADL で出る USN

USN は、短い机上課題だけでは生活場面での問題を十分に捉えられないことがあります。ある / ないだけで終わらず、どの条件で見落としが増え、条件調整でどう変化するかを確認します。

机上と ADL の差を確認する条件( USN )
条件差 確認する変化 観察ポイント 短文例
刺激量 探索や見落としが変わるか 静かな環境と病棟・食堂などを比較 「刺激量増で無視側見落とし増」
二重課題 会話などを加えると偏りが増えるか 移動・物品操作と会話の同時実施 「会話追加で無視側残し増」
疲労・時間帯 時間経過で変化するか 午前 / 午後、課題前後の差 「午後に見落とし増」
物品配置 配置変更で探索が変わるか 食器・トレー・整容物品などの位置 「配置変更後に探索範囲拡大」

確認の順番例:静かな条件で基準となる作業を確認 → 刺激量や二重課題を変える → 時間帯による差を見る → 物品配置や声かけを調整して反応を見る、の順にすると条件差を整理しやすくなります。

記録例
・作業:食事で無視側の食べ残しあり
・条件:静環境では少ないが、会話追加で見落とし増加
・対応:物品配置と探索への声かけで変化を確認

パターン 2|工程が飛ぶ:遂行機能を「工程」で所見化する

遂行機能は、「遂行機能低下あり」だけでは生活上の支援へつながりません。開始 → 段取り → 切替 → 確認のどこで崩れたかを記録し、外部からの手がかりにどう反応したかも併せて確認します。

遂行機能を工程でみる
工程 見られるズレ 見る点 短文例
開始 開始できず促しを待つ 自発的に作業へ移れるか 「開始に促し要」
段取り 工程を飛ばす、順番が崩れる 必要な手順を保持・実行できるか 「工程飛ばしあり」
切替 同じ行為を続ける、次へ移れない 状況に合わせて次の工程へ移れるか 「切替に声かけ要」
確認 誤りに気づかない、修正しない 結果を確認して修正できるか 「誤りへの気づき乏しい」
手がかりへの反応を支援量の検討材料にする
手がかり 反応 確認できること 短文例
誤りを指摘 修正できる 誤りを示された後に修正できるか 「指摘後に修正可」
次の手順を示唆 再開できる 手がかりがあれば段取りを再構成できるか 「ヒントで工程再開」
具体的な 1 段階指示 実行できる 外部から具体的な手順提示が必要か 「1 段階指示で実行可」
具体指示でも困難 作業が継続して崩れる 課題簡略化や介助、安全管理がさらに必要か 「具体指示後も介助要」

ただし、手がかりへの反応だけで遂行機能障害と決めることはできません。指示理解、失語、記憶、失行、運動機能などでも作業遂行は変化するため、前提条件と併せて解釈します。

記録例
・作業:更衣で工程飛ばしあり
・工程:開始に促し要、段取りで抜け、終了時の確認なし
・対応:次工程のヒントで再開。具体指示が必要な工程を継続評価

現場の詰まりどころ|評価がぶれる 3 つの原因

評価がまとまらないときは、検査を追加する前に「検査結果だけで整理していないか」「作業を見たか」「再評価条件がそろっているか」へ戻ります。

よくある失敗|検査結果だけ・机上だけ・条件が毎回違う

高次脳機能評価がぶれやすい 3 つの原因と対策
つまずき 起きること 対策
検査結果だけで整理する 生活上の困りごととつながりにくい 作業のどこでズレたかまで記録する
机上課題だけで判断する ADL・IADL で現れる問題を拾いにくい 実際の作業と条件差を確認する
評価条件が毎回違う 経時変化と条件による変化を区別しにくい 時間・環境・課題・声かけ・支援量を記録する

再評価の再現性を上げるチェック 5 点

同条件で再評価するための最小チェック
チェック 見る点 記録例
前提条件 覚醒・せん妄・疲労・指示理解・視覚・感覚 「眠気あり」「午後に変動」
主な仮説 USN / 注意 / 遂行の何を優先するか 「仮説:注意優位/USN 疑い」
工程のズレ どの工程で崩れるか 「更衣:段取りで工程飛ばし」
条件差 刺激量・二重課題・時間帯・配置 「会話追加で見落とし増」
再評価条件 時間・環境・課題・声かけ・支援量 「午前・静環境・1 段階指示」

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.全部の高次脳機能検査をやる時間がありません。最初はどこまで見ればよいですか?

初回の入口としては、前提条件 → 主な仮説 → 作業工程 → 条件差まで確認し、次に必要な評価を決めます。ただし、ここまでで高次脳機能障害の評価が完結するわけではありません。安全性や生活への影響を踏まえ、必要な神経心理学的検査、作業観察、他職種・家族からの情報を追加してください。

Q2.机上検査では軽いのに、病棟では崩れるのはなぜですか?

病棟では、刺激量、会話、移動との同時課題、疲労、時間帯、物品配置など、机上検査とは異なる条件が加わります。机上成績だけで結論を出さず、「どの条件で問題が増減したか」を記録すると生活上の支援へつながります。

Q3.USN と注意障害が混ざって見えるときは、どう整理しますか?

一側空間への偏りが中心か、刺激量や割り込みによる注意の崩れが中心かを確認します。ただし両者は併存することがあり、視野障害などでも似た所見が出ます。初回は仮説として記録し、机上課題・作業観察・前提条件を合わせて判断します。

Q4.OT と PT / ST の評価が重なるとき、OT は何を共有するとよいですか?

職種間で同じ認知機能を確認することはあります。OT では、更衣・整容・食事・調理などの作業で「どの工程が崩れたか」「どの条件で悪化したか」「どの支援で変化したか」を併せて共有すると、検査結果を生活上の支援へつなげやすくなります。

Q5.この 5 分フローだけで高次脳機能障害を判断できますか?

できません。本記事の 5 分フローは、初回観察で仮説と次の評価を整理するための実務フローです。診断や詳細な機能評価の代わりにはならず、病歴、神経学的所見、神経心理学的検査、生活場面の情報などを含めた総合評価が必要です。

次の一手


参考文献

  • 国立障害者リハビリテーションセンター.高次脳機能障害の評価.公式ページ
  • 一般社団法人日本作業療法士協会 学術部.高次脳機能障害のある人の生活・就労支援.2015.PDF
  • Menon A, Korner-Bitensky N. Evaluating unilateral spatial neglect post stroke: working your way through the maze of assessment choices. Top Stroke Rehabil. 2004;11(3):41-66. DOI: 10.1310/KQWL-3HQL-4KNM-5F4U / PubMed: 15480953
  • Azouvi P. The ecological assessment of unilateral neglect. Ann Phys Rehabil Med. 2017;60(3):186-190. DOI: 10.1016/j.rehab.2015.12.005 / PubMed: 26830087
  • Baum CM, Connor LT, Morrison T, Hahn M, Dromerick AW, Edwards DF. Reliability, validity, and clinical utility of the Executive Function Performance Test: a measure of executive function in a sample of people with stroke. Am J Occup Ther. 2008;62(4):446-455. DOI: 10.5014/ajot.62.4.446 / PubMed: 18712007
  • Nishida D, Mizuno K, Tahara M, et al. Behavioral Assessment of Unilateral Spatial Neglect with the Catherine Bergego Scale (CBS) Using the Kessler Foundation Neglect Assessment Process (KF-NAP) in Patients with Subacute Stroke during Rehabilitation in Japan. Behav Neurol. 2021;2021:8825192. DOI: 10.1155/2021/8825192 / PubMed: 33628337

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

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