高次脳機能障害の作業療法評価プロトコル

評価
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高次脳機能障害の作業療法評価|この記事のゴール

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT キャリアガイド)

本記事は、「高次脳機能障害の評価がバラバラで、OT としての見立てを説明しにくい」と感じている方に向けた作業療法評価プロトコルです。特に、半側空間無視( USN )、注意障害、遂行機能障害といった“作業に直結する機能”を、どの順番で・どこまで評価すればよいかを整理することをねらいとしています。

個々の検査マニュアルではなく、「スクリーニング → 詳細評価 → 作業場面での確認」という流れでまとめているため、急性期〜回復期〜生活期のどこでも応用できます。カルテ様式が施設ごとに違っていても、「何を押さえておけば OT の見立てとして十分か」をイメージしやすくすることを目標とします。

高次脳機能障害と OT 評価の全体像

高次脳機能障害は、注意・記憶・遂行機能・空間認知・失語・失行など多岐にわたり、すべてを網羅的に評価しようとすると時間がいくらあっても足りません。作業療法士には、「生活上の困りごと」から逆算して、評価する領域と深さを取捨選択することが求められます。例えば「着替えに時間がかかる」「調理で火を消し忘れる」といった訴えから、注意・USN・遂行機能などのどこを優先的に見にいくかを判断します。

全体像としては、①意識レベル・せん妄の有無など“前提条件”の確認、②ベッドサイドでの簡便なスクリーニング(観察・簡単な検査)、③必要に応じた標準化検査、④実際の作業場面でのフォローアップ、という 4 層構造で考えると整理しやすくなります。急性期では ①② を軸に安全確保とリスク評価を、回復期・生活期では ③④ を通して生活目標と結びつけた評価を重視します。

USN・注意・遂行機能の関係性

USN、注意障害、遂行機能障害は、臨床では互いに重なり合いながら作業に影響します。例えば、「食事の左側を残す」という現象は USN だけでなく、注意の持続や選択的注意の問題によっても生じ得ます。また、遂行機能障害が強いと、手順が飛ぶ・確認をしない・危険な状況を回避できないなど、生活場面で重大なリスクを生みます。

評価では、「一定時間座っていられるか」「指示を最後まで聞けるか」といった注意の土台を確認したうえで、USN や遂行機能の検査に進むことが重要です。注意の前提が整っていない状態で複雑な課題を行っても、どの機能の問題なのか判別が難しくなります。さらに、検査室での結果だけでなく、病棟生活や ADL・IADL の場面でどのように現れているかをセットで記録しておくと、チーム内での共有がスムーズになります。

評価プロトコル:スクリーニングから作業場面への落とし込み

ここでは、USN・注意・遂行機能を中心にした評価プロトコルを、スクリーニング → 詳細評価 → 作業場面での確認の 3 段階で整理します。すべてを一度に行うのではなく、患者さんの状態や時間枠に応じて組み合わせることを前提にしてください。

まずスクリーニングとして、ベッドサイドの観察(視線の偏り、片側のぶつかりやすさ、食事・整容動作の左右差など)に加え、簡便な課題(時計描写・線分二等分・抹消課題・二重同時刺激など)を実施します。ここで明らかな偏りや持続困難があれば、USN や注意の問題を疑い、必要に応じて詳細な検査(行動無視評価や標準化された注意検査、遂行機能検査など)へ進みます。

最後に、退院後の生活を想定した作業場面(更衣・移動・トイレ・調理・金銭管理など)での観察を通して、検査結果と実生活のギャップを確認します。例えば、検査では改善していても、実際の食事では依然として左側を残す場合、「環境調整が不十分」「習慣化している」「家族の声かけが必要」など追加の視点が見えてきます。評価のゴールはスコアを出すことではなく、「どのような支援と練習環境を整えれば、その人らしい作業が安全に行えるか」を明らかにすることです。

現場の詰まりどころ(よくあるつまずきと対策)

高次脳機能の評価では、「検査の名前や手順は知っているが、どれをどの順番で使えばよいかわからない」「検査室での結果と病棟での様子が一致せず、どう解釈してよいか迷う」といった声が多く聞かれます。また、OT と PT/ST がそれぞれ別々に検査を行い、結果がカルテのあちこちに分散してしまうのもよくあるパターンです。

対策としては、まず部署内で「うちの病棟の高次脳評価セット」を仮決めしておくことが有効です(例:スクリーニングとして USN 3 種+注意の簡便検査、必要時に詳細検査を追加など)。さらに、検査結果は数値だけでなく、「どのような誤りが多かったか」「代償は見られたか」を短くコメントとして残し、実際の作業場面で同じパターンが出ていないかを OT が中心になって確認します。PT/ST の記録を読み込み、同じ現象を違う角度から説明している場合は、カンファレンスで整理しておくとチーム全体の理解が深まります。

よくある質問( FAQ )

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Q1.全部の高次脳機能検査をやる時間がありません。最低限どこまで見ればよいですか?

時間が限られている場合は、まず「安全に直結する部分」と「本人や家族が困っている作業に直結する部分」を優先します。具体的には、USN による転倒・誤食リスク、注意障害による火の消し忘れや徘徊リスクなどです。そのうえで、必要に応じて詳細検査を追加し、すべてを一度に行うのではなく数回のセッションに分散させます。

Q2.検査結果と日常場面の様子がかみ合わないとき、どう解釈すればよいですか?

検査室では落ち着いて取り組めるが、病棟では失敗が多いケースでは、環境刺激の多さや疲労、薬剤、感情面の要因などが影響していることがあります。逆に、検査ではスコアが振るわなくても、家族や慣れた環境ではうまくこなせることもあります。いずれの場合も、「どの条件だとパフォーマンスが上がるか/下がるか」に注目し、環境調整や声かけの方針に反映させることが大切です。

Q3.OT と PT/ST の評価が重なるとき、役割分担はどう考えればよいですか?

注意やUSN、遂行機能の評価は職種間で重なりやすい領域ですが、作業療法士は「具体的な作業場面でどう現れているか」を言語化する役割を担うと整理しやすくなります。PT の歩行評価や ST のコミュニケーション評価とリンクさせながら、「調理中の注意の飛びやすさ」「更衣中の片側の見落とし」など、生活場面を通した説明を意識すると、チーム内で OT の評価が伝わりやすくなります。

おわりに

高次脳機能障害の評価は、検査名やスコアに目を奪われがちですが、本質は「この人がどのような作業でつまずきやすいのか」「どの条件なら力を発揮できるのか」を理解することにあります。すべての検査を完璧に行う必要はなく、スクリーニングと作業場面の観察を軸に、必要な部分だけを深掘りしていく姿勢が現実的だといえます。

評価や目標設定の整理に悩むときは、見学や情報収集にも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を活用すると、自分の学び方や働き方を整えるうえでも役立ちます。詳しくはこちらのダウンロードページから確認してみてください。

参考文献

  • 日本高次脳機能障害学会 監修.高次脳機能障害ハンドブック.医学書院.
  • 半側空間無視に関する評価・リハビリテーションのガイドラインや各種レビュー論文(各施設で採用している資料を参照してください)。
  • Lezak M D, et al. Neuropsychological Assessment. 5th ed. Oxford University Press; 2012.
  • 山鳥重 他.高次脳機能障害の臨床[各版].医学書院.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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