高次脳機能障害の作業療法評価プロトコル|USN・注意・遂行機能を「順番」と「所見」で固定する
高次脳機能の評価は、検査が多いことよりも「何から見て、どこまで深掘りするか」がブレやすい領域です。本記事では、半側空間無視( USN )、注意障害、遂行機能障害を中心に、スクリーニング → 詳細評価 → 作業場面での確認の順で “最小セット” を固定し、OT の見立てをチームで共有できる形に整えます。
結論としては、①前提条件(覚醒・せん妄・疲労)→②主役の当たり( USN / 注意 / 遂行 )→③作業工程でズレを言語化→④同条件で再評価の 4 点を揃えるだけで、評価の迷いと記録の散らばりが大きく減ります。
同ジャンル回遊(三段):まず索引で地図を押さえ、次に総論で順番を固定し、代表各論で記録の型を揃えると迷いが減ります。
- サブ(総論/標準手順):作業療法( OT )評価の全体像|順番と最小セット
- サブ(代表子):USN の抹消課題(キャンセレーション)|判定と記録
高次脳機能障害の作業療法評価|この記事のゴール
本記事のゴールは、USN・注意・遂行機能の評価を「検査名」ではなく、運用(順番・深さ・所見化)で固定することです。評価結果を作業工程のどこでズレたかとして記録できれば、介入設計(環境調整・練習課題・安全対策)まで一直線につながります。
急性期〜回復期〜生活期のどこでも応用できるよう、まず 5 分で当たりを付け、必要なときだけ深掘りする設計にしています。
高次脳機能障害と OT 評価の全体像
高次脳機能障害は、注意・記憶・遂行機能・空間認知・失語・失行など多岐にわたり、すべてを網羅的に評価しようとすると時間がいくらあっても足りません。OT には「生活上の困りごと」から逆算して、評価する領域と深さを取捨選択することが求められます。
整理のコツは 4 層です。①意識レベル・せん妄など前提条件、②ベッドサイドの簡便スクリーニング(観察+短い課題)、③必要時の標準化検査、④作業場面でのフォローアップ。急性期は ①② を軸に安全とリスク、回復期・生活期は ③④ で生活目標と結びつけます。
USN・注意・遂行機能の関係性
USN、注意障害、遂行機能障害は互いに重なり合いながら作業に影響します。例えば「食事の左側を残す」は USN だけでなく、注意の持続・選択の問題でも起こり得ます。遂行機能が強く崩れると、手順が飛ぶ・確認しない・危険回避ができないなど、生活場面で重大なリスクになります。
評価では、まず注意の土台(一定時間座れるか、指示を最後まで聞けるか)を確認したうえで、USN や遂行に進むと判別がラクになります。加えて、検査室の結果だけでなく、病棟生活や ADL・IADL での現れ方をセットで記録すると共有がスムーズです。
評価プロトコル|スクリーニング→詳細評価→作業場面の確認
ここでは USN・注意・遂行機能を中心に、評価を 3 段階で整理します。すべてを一度に行うのではなく、患者さんの状態や時間枠に応じて組み合わせる前提で運用してください。
①スクリーニング(ベッドサイド)
観察(視線の偏り、片側へのぶつかり、食事・整容の左右差など)に加え、短い課題(抹消課題・線分二等分・時計描写・二重同時刺激など)で “主役の当たり” を取ります。ここで明らかな偏りや持続困難があれば、USN/注意の問題を疑い、必要時に詳細へ進みます。
②詳細評価(必要なときだけ追加)
詳細評価は「何を確かめたいか」で選びます。たとえば、USN の重症度や誤りパターンの説明が必要なら行動評価系、注意の揺れが強いなら注意課題、工程飛ばしが強いなら遂行機能の観察と課題を追加します。目的が曖昧なまま検査を増やすと、記録が散らばって共有が崩れます。
③作業場面での確認(検査と生活のギャップを埋める)
更衣・移動・トイレ・調理・金銭管理などで観察し、検査結果と実生活のギャップを確認します。評価のゴールはスコアではなく、「どの支援と練習環境を整えれば、その人らしい作業が安全に行えるか」を明らかにすることです。
ケースで固定する|机上 OK でも ADL で崩れる 2 パターン
ここが “決定版” の核です。症例を増やすより、よく起きる 2 パターンを深くして、再現手順と記録テンプレまで固定します。
ケース 1|机上は軽いのに ADL で出る USN(条件差で再現する)
机上では目立たないのに、病棟や ADL で “左を落とす” タイプがあります。ここでは「どの条件で悪化し、何を足すと改善するか」まで書ける形にします。
| 条件差 | 起きやすいこと | 観察ポイント | 所見(短文例) |
|---|---|---|---|
| 刺激量が多い | 探索が散る/見落とし増 | 病棟・食堂・雑音で変化 | 「刺激量増で左低下」 |
| 二重課題 | 会話で抜ける/偏り増 | 会話・移動・物品操作の同時 | 「会話で左残し増」 |
| 疲労・時間帯 | 午後に増悪 | 午前/午後で差 | 「午後に顕著」 |
| 配置・見え方 | 物品の置き方で差 | 皿・トレー・整容物品の配置 | 「配置変更で改善」 |
最小プロトコル( 10 分 ):①静環境で 1 課題 → ②刺激量を増やす → ③二重課題を足す → ④配置を変えて改善するかを見る、の順で “条件差” を作り、再現性を押さえます。
記録テンプレ( 3 行 )
・作業:食事(左残し)/整容(左の見落とし)など
・条件:静環境では軽いが、刺激量増・会話で悪化(午後に増悪)
・対応:配置調整+声かけルール(開始側の誘導)で改善
ケース 2|工程が飛ぶ:遂行機能を “工程” で所見化する
遂行機能は点数で説明するより、工程のズレ方で共有すると介入に落ちます。更衣・調理・金銭管理など、工程が見える作業で観察します。
| 工程 | よくあるズレ | 見る点 | 所見(短文例) |
|---|---|---|---|
| 開始 | 促し待ち | 開始の自発性 | 「開始に促し要」 |
| 段取り | 工程飛ばし/順序崩れ | 手順の保持 | 「工程 2→4」 |
| 切り替え | 固執/次へ移れない | 切替の負荷 | 「切替に介助要」 |
| 確認 | 自己修正が乏しい | 誤り検出と修正 | 「自己修正なし」 |
| ヒント | 反応 | 示唆 | 書き方(短文例) |
|---|---|---|---|
| 指摘(誤りの指摘) | 直る | 自己修正は残る | 「指摘で修正可」 |
| ヒント(次の手順の示唆) | 直る | 段取りが弱い | 「ヒントで工程再開」 |
| 手順提示(具体指示) | 直る | 外部手がかりが必要 | 「 1 段階指示で可」 |
| 提示しても直らない | 継続して崩れる | 安全配慮が優先 | 「安全監視が必要」 |
最小プロトコル( 10 分 ):①工程を書き出す → ②どこで飛ぶかを特定 → ③指摘/ヒント/ 1 段階指示の順で支援量を変える → ④安全(火・刃物・移動・金銭)に直結する抜けを拾う、で固定します。
記録テンプレ( 3 行 )
・作業:更衣(工程飛ばし)/調理(火の確認なし)など
・工程:開始は促し要、段取りで工程飛ばし、確認で自己修正なし
・対応:手順カード+ 1 段階指示で再開、危険工程は監視
現場の詰まりどころ(よくあるつまずきと対策)
ここは “読ませるゾーン” です。まずページ内で迷子になりやすい 2 点(失敗/回避手順)に戻れる導線を置き、最後に同ジャンルの関連 1 本だけつなげます。
よくある失敗:混ぜる/机上だけ/条件ズレ
| NG | 起きること | OK(対策) |
|---|---|---|
| 検査名で整理する | 所見が作業につながらない | 工程(どこでズレたか)で整理する |
| 机上検査だけで結論 | ADL のリスクを見逃す | 作業場面で “条件差” を押さえる |
| 条件が毎回違う | 経時変化が追えない | 時間・環境・声かけを固定する |
回避の手順:再評価の再現性を上げるチェック 5 点
| チェック | 見る点 | 記録の型(短文) |
|---|---|---|
| 前提条件 | 覚醒・せん妄・疲労・感覚 | 「眠気あり」「変動あり」 |
| 主役の当たり | USN / 注意 / 遂行の優先 | 「主:注意/副:USN」 |
| 工程のズレ | どの工程で崩れるか | 「更衣:開始→段取り→確認」 |
| 条件差 | 刺激量・二重課題・時間帯 | 「会話で悪化」「午後に増悪」 |
| 同条件再評価 | 時間・環境・声かけの固定 | 「午前・静環境・ 1 段階指示」 |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.全部の高次脳機能検査をやる時間がありません。最低限どこまで見ればよいですか?
時間が限られている場合は、まず「安全に直結する部分」と「本人や家族が困っている作業に直結する部分」を優先します。前提条件 → 主役の当たり → 作業工程のズレ、まで揃えば実務上は十分です。必要な領域だけを数回に分けて深掘りします。
Q2.検査結果と日常場面の様子がかみ合わないとき、どう解釈すればよいですか?
検査室では落ち着いて取り組めても、病棟では刺激量や疲労で崩れることがあります。逆に、検査の点数は低くても慣れた環境だと遂行できることもあります。「どの条件だと上がる/下がるか」を押さえ、環境調整と声かけ方針に反映させます。
Q3.OT と PT/ST の評価が重なるとき、役割分担はどう考えればよいですか?
重なりやすい領域ですが、OT は「具体的な作業工程でどう現れているか」を言語化して共有する役割を担うと整理しやすいです。歩行やコミュニケーション評価とリンクさせながら、生活場面(更衣・調理・金銭など)の説明に落とします。
次の一手
- 運用を整える:高次脳機能評価ハブ(索引)
- 共有の型を作る:作業療法( OT )評価の全体像(順番と最小セット)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- 日本高次脳機能障害学会 監修.高次脳機能障害ハンドブック.医学書院.
- Lezak MD, et al. Neuropsychological Assessment. 5th ed. Oxford University Press; 2012.
- 山鳥重 他.高次脳機能障害の臨床[各版].医学書院.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


