脳卒中片麻痺の更衣・食事観察|OT の見方と 3 行記録

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脳卒中片麻痺の更衣・食事観察は「姿勢 → 手順 → 安全」で固定します

脳卒中片麻痺の更衣・食事観察でいちばん止まりやすいのは、「どこを見ればよいか」が担当者ごとにずれることです。結論としては、姿勢(環境)→ 手順(開始の一手と止まる場面)→ 安全の順で固定すると、忙しい日でも観察の抜け漏れが減り、記録が「自立 / 一部介助」で止まりにくくなります。

このページで答えるのは、更衣(上衣 / 下衣)・食事(箸 / スプーン / コップ)で何を観察し、どう 3 行で記録するかです。尺度の選び方や利き手交換の詳細は親記事・兄弟記事へ分け、このページでは OT の作業観察を再現できる型に絞って整理します。

同ジャンル回遊(最短導線):まず親記事で「何を測るか」をそろえ、次に本記事で「生活場面で何を見るか」を固定すると、チーム共有がブレにくくなります。

親:片麻痺上肢の OT 評価へ

5 分で回る観察ルーティン:姿勢 → 手順 → 安全 → 疲労を 1 周させます

時間がない日の観察は、細かく見ることよりも同じ順番で回すことが重要です。まずは 5 ステップを固定し、空欄が出たところを次回の観察テーマにすると、評価が増えすぎず再現性も保ちやすくなります。

脳卒中片麻痺の更衣・食事観察における全体像を整理した図版
図:更衣・食事観察の全体像。準備 → 最初の一手 → 止まる場面 → 安全と疲労の順でみると、観察の抜け漏れが減ります。

スマホでは表を横スクロールできます。

更衣・食事(上肢 ADL )の 5 分観察ルーティン:忙しい日でも抜けない最小手順
ステップ 見る場所 観察ポイント(最小) 記録に残す一言(例)
1 姿勢 / 環境 座位の安定、テーブル距離、支持物、道具配置 「端座位 20° 前傾、テーブル高 −2 cm、左に支持」
2 開始の一手 最初の動き(どの手で / どこから始めるか) 「非麻痺手で準備 → 麻痺側から袖」
3 ボトルネック 止まる場面(把持 / 到達 / 操作 / 両手協調 / 注意) 「右袖通しで停滞(把持保持が崩れる)」
4 安全 転倒(立位更衣)、ヒヤリ、むせ、ぶつける場面 「立位で片脚支持が長くなりふらつく」
5 疲労 / 効率 時間、休憩、後半のミス、過剰努力の増え方 「後半で疲労増、こぼし増加」

更衣は「座位 / 立位」「支持手 / 操作手」で観察が決まります

更衣で止まりやすいのは、手先そのものより姿勢制御・段取り・支持の作り方です。観察では、まずどの姿勢で行っているか、次にどの手順で衣類を操作しているかを押さえると、介入仮説が立ちやすくなります。

更衣でまず見る 6 点(共通)

  • 姿勢:骨盤の安定、体幹前傾の有無、足部位置、支持物
  • 開始:麻痺側から袖 / 脚を通せるか(段取りが崩れていないか)
  • 把持:衣類をつまんで保持できるか(滑る / 離す / 握り直しが多い)
  • 到達:背部 / 腰部へ届くか(肩甲帯の代償、体幹回旋で無理していないか)
  • 両手協調:固定手と操作手が役割分担できているか
  • 安全:立位でふらつく / 片脚支持が長い(あり / なし)

上衣:袖通しと背部操作で止まる場面を拾います

上衣は「袖を通す → 肩に上げる → 背部を整える」の途中で止まりやすい作業です。特に麻痺側から始められているか背部操作が安全な代償で回っているかを見ると、次の一手が決めやすくなります。

上衣更衣:止まりやすい場面と次の一手(例)
止まる場面 起きやすい理由(仮説) その場の工夫(例) 記録の一言(例)
麻痺側の袖通し 袖口把持が弱い / 注意が逸れる 袖口をまとめて保持し、袖位置を固定してから通す 「袖口まとめ保持で成功率 ↑ 」
肩まで上がらない 肩甲帯の動き不足 / 体幹代償 一旦停止して姿勢を整え、座位での操作へ切り替える 「立位だと代償増、座位で安定」
背部が整わない 到達不足 / 両手協調が難しい 前開きへ変更し、背部操作を片側ずつ段階化する 「背部操作で停滞 → 前開き検討」

下衣:立位時間を短くし、支持手と操作手を分けます

下衣は、衣類操作そのものよりも立位保持と支持がボトルネックになりやすい作業です。観察では、支持手(転倒予防)操作手(衣類操作)を分け、両手作業を急がない設計にすると安全が上がります。

  • 立位条件:支持物の有無、足幅、片脚支持時間、ふらつき
  • 手順:座位で膝上まで上げてから立位へ移れるか
  • 安全の合図:前屈で重心が流れる、焦って一気に操作する

食事は「座位」「配置」「こぼれる場面」で仮説が立ちます

食事で見誤りやすいのは、手の問題と姿勢・配置の問題が混ざることです。観察の最初は座位の安定トレー配置を押さえ、「届かないから前かがみ」なのか、「前傾が作れず口元が遠い」のかを分けます。

食事開始前に見る(姿勢 / 配置)

  • 座位:骨盤後傾、体幹前傾、肩挙上で代償していないか
  • 距離:テーブルが遠く、到達が過剰努力になっていないか
  • 配置:主菜 / 副菜 / 汁物 / 飲み物の位置で、伸ばしにくい方向が見える
  • 注意:視線が逸れる、取りこぼしが増える( USN / 注意低下の示唆)

箸・スプーン:こぼれる場面で「何が崩れているか」を分けます

  • こぼれる場所:すくう時 / 運ぶ時 / 口元(どこで増えるか)
  • 疲労のピーク:後半でミスが増えるなら休憩や道具変更が効きやすい
  • 代償:肩挙上・体幹側屈で届かせている場合は、手先より姿勢 / 距離が先

コップ:把持だけでなく、戻す動作まで見ます

コップでは、把持位置(上部 / 中央 / 下部)、握力の持続、リム位置の調整、飲み下し後の戻す動作まで観察します。飲んだ後に手が止まる / ぶつける場合は、手先だけでなく視線・注意・置き場所の影響も疑います。

観察所見は「原因仮説 → 次の一手」へ変換します

観察所見を「介入の仮説」に変換できると、記録が「できた / できない」で止まりにくくなります。まずは 環境 → 手順 → 道具 の順で、小さく変える 1 手を決めるのが現実的です。

更衣・食事(上肢 ADL )の対応表:観察所見から「次の一手」を 1 つ決める
観察で出るサイン 原因仮説(よくあるパターン) 次の一手(まず試す 1 つ) 記録の一言(例)
更衣:袖口をつかんでもすぐ離す 把持保持が弱い / 注意が逸れやすい 袖口をまとめて保持し、袖位置を固定してから通す 「まとめ保持で成功率 ↑ 」
更衣:背部操作で体幹が大きく崩れる 到達不足を代償で補っている 座位での操作へ切り替え、前開き衣類を検討する 「背部操作は座位で安定」
下衣:立位で片脚支持が長くふらつく 支持点不足 / 手順が一気になっている 座位で膝上まで → 立位は左右片側ずつ( 2 動作に限定) 「立位は 2 動作に限定」
食事:前かがみが強く、こぼれが増える 距離が遠い / 座位安定が弱い 距離・椅子高を調整し、配置を固定する 「距離短縮で運搬が安定」
食事:後半でこぼれ / むせが増える 疲労増・注意低下・ペース配分 休憩を固定し、道具を 1 つ変更する(箸 → スプーン等) 「後半で失敗増 → 休憩固定」
食事:コップを戻す時にぶつける 視線 / 注意、置き場所が不安定 置き場所を固定し、戻すルートを短くする 「置き場固定で接触減」

記録は「条件+止まる場面+次の一手」の 3 行で残します

観察の価値は、所見そのものよりも次に何を変えるかが読める形で残ることです。おすすめは、条件 → どこで止まるか → 何を変えると良くなるかを 3 行で固定するやり方です。

関連:尺度選定まで含めて整理したいときは 片麻痺上肢の OT 評価(選び方と最小セット) を先に押さえると噛み合います。

更衣・食事観察の 3 行記録テンプレ:申し送りと再評価で使いやすい最小形
何を書くか 記載例
1 条件(姿勢 / 環境 / 道具) 「端座位、テーブル近位、スプーン使用」
2 止まる場面(ボトルネック) 「口元前でこぼれ増、後半に肩挙上が強まる」
3 次の一手( 1 つだけ) 「距離短縮+休憩固定で再評価」

現場の詰まりどころ:観察が「自立 / 介助」で止まるのを防ぎます

上肢 ADL 観察の失敗で多いのは、「自立 / 一部介助」で終わり、手順・環境・安全が記録に残らないことです。まずはこのページ内の 2 箇所を固定で見返し、必要なら上肢評価の選定記事へ戻す運用にすると、方針が割れにくくなります。

ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。

学び方と環境の整え方も確認する

PT キャリアガイドを見る

よくある失敗:見ているつもりで抜けるポイントを先に潰します

観察がブレるときは、「何を見ていないか」を先にそろえる方が早いです。特に姿勢 / 距離開始の一手、そして立位更衣の安全は抜けやすいので、起きやすい順に固定しておくと再現しやすくなります。

上肢 ADL 観察のよくある失敗:原因と、その場の修正ポイント
よくある失敗 何が起きるか その場の一手 記録の一言
姿勢 / 距離を見ずに手先へ行く 過剰努力・代償が増え、観察がブレる テーブル距離 / 椅子高を先に調整する 「距離短縮で到達が安定」
手順を書かず「自立」で終了する 引き継ぎで再現できず、方針が割れる 開始の一手(どの手で / どこから)を書く 「麻痺側から開始、固定手=非麻痺側」
立位更衣の安全を軽視する 片脚支持が長くなり、転倒リスクが上がる 座位へ切り替え / 支持点追加を優先する 「立位はふらつき、座位で安定」
配置が毎回違い、苦手方向が見えない 観察が散り、介入仮説が立ちにくい 配置を統一し、伸ばしにくい方向を確認する 「左前方で到達が破綻」

回避の手順(チェック):観察 → 記録 → 次の一手を 1 セットで残します

観察の質を上げる最短ルートは、今日の目的を 1 つだけ決めることです。下の表を担当内の共通チェックにすると、忙しい日でも記録の粒度が崩れにくくなります。

上肢 ADL 観察の回避チェック:目的 → 観察 → 記録を 1 セットで固定
順番 確認すること 観察のコツ 最低限の記録
1 今日の目的を 1 つに絞る 「更衣の安全」など一点突破にする 目的( 1 行)
2 条件(姿勢 / 環境 / 道具)を固定する 距離・高さ・支持点を先にそろえる 条件(姿勢 / 配置)
3 開始の一手(どの手で / どこから)を確認する 成功条件が見えやすい 開始の一手
4 止まる場面(ボトルネック)を 1 つ特定する 「止まった瞬間」が介入の入口 止まる場面
5 次の一手を 1 つだけ書く 道具変更 / 配置変更 / 段階化など小さく決める 次の一手( 1 行)

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.時間がなくて細かく観察できません。最低限どこだけは見ておくべきですか?

まずは 姿勢(環境)→ 手順 → 安全 の 3 点に絞るのが現実的です。更衣なら「座位 / 立位」「麻痺側から開始できるか」「ふらつく場面」。食事なら「座位の安定」「配置」「こぼれ / むせが増える場面」。この 3 点だけでも、介入仮説と共有が作れます。

Q2.点数と ADL 観察の記録がバラバラになります。どうつなげればよいですか?

おすすめは、点数の直後に「生活場面の例」を 1 行だけ添える方法です。たとえば「把持は保てる → 袖口はまとめ保持で安定」のように、機能所見を更衣や食事の具体場面へ翻訳すると、カンファレンスや申し送りで伝わりやすくなります。

Q3.下衣は立位でやらせた方が早いですか?

早さより安全を優先します。支持が不安定な状態で両手作業を急ぐと転倒リスクが上がるため、まずは 座位で膝上まで → 立位は左右片側ずつ( 2 動作に限定) のように、立位時間を短くして成功条件を作る方が現実的です。

Q4.利き手交換は「全部入れ替える」べきですか?

最初から全部を交換すると詰まりやすいです。実務では「作業ごとの部分交換」「両手の役割分担」「環境調整」をセットで設計すると成功率が上がります。判断の型は 利き手交換の記事 にまとめています。

A4 ミニ記録シート:印刷してそのまま使えます( 1 枚版)

忙しい日の観察は、全部を書くより3 行だけ残す方が運用が崩れにくいです。更衣・食事のチェックと 3 行テンプレを 1 枚にまとめた A4 PDF を用意しました。

PDF を本文内でプレビューする

PDF を表示できない環境です。上の「PDF を開く(ダウンロード)」ボタンからご覧ください。

次の一手:観察を「共有」と「意思決定」につなげます


参考文献

  • Legg L, Drummond A, Leonardi-Bee J, et al. Occupational therapy for patients with problems in personal activities of daily living after stroke: systematic review of randomised trials. BMJ. 2007;335(7626):922-925. doi:10.1136/bmj.39343.466863.55
  • Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47(6):e98-e169. doi:10.1161/STR.0000000000000098
  • 斉藤良行, 小島伸枝, 木村憲仁. 回復期片麻痺患者の上衣更衣自立到達期間に影響を及ぼす因子. 作業療法. 2020;39(6):657-663. doi:10.32178/jotr.39.6_657
  • 濱田洋子, 補永薫, 奥野純子. 右上肢片麻痺患者における普通箸の実用的な使用に関与する要因. 作業療法. 2020;39(4):426-432. doi:10.32178/jotr.39.4_426

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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