mini-CEX( CEX )は「短時間の直接観察+即時フィードバック」で臨床力を伸ばす
mini-CEX( mini-Clinical Evaluation Exercise )は、患者対応を “短時間で直接観察” して、その場で具体的なフィードバックを返すための評価法です。臨床実習や新人指導で「見ているつもり/教えたつもり」になりやすい場面を、観察→記録→次の行動までつなげられます。
評価の全体設計(実習・教育の地図)は 臨床教育ハブ にまとめています。本記事はその中でも、mini-CEX を “明日から回せる形” に落とし込みます。
CEX と mini-CEX とは?
CEX( Clinical Evaluation Exercise )は、臨床現場での患者対応を観察し、評価と指導につなげる枠組みです。mini-CEX は CEX を短時間化し、複数回・複数症例で運用しやすくした実装に位置づけられます。
ポイントは「 1 回を完璧にする」より、短い観察を反復して “伸びる行動” を積み上げることです。実習でも新人でも、観察の機会と即時フィードバックを増やすほど学習効率が上がります。
どんな場面で使う?
mini-CEX は、次のような “観察しやすい単位” に切ると回しやすいです。
- 問診(主訴の深掘り、生活背景、リスク聴取)
- 身体診察(姿勢・歩行、ROM・筋力、神経所見など)
- 評価の統合(仮説、優先順位、問題点の言語化)
- 説明(患者・家族への説明、同意、セルフマネジメント指導)
- 記録(要点、再評価計画、申し送り)
PT の臨床なら、「評価→介入→再評価」を 1 回で全部見るより、評価の一部(例:歩行観察+安全確認+次の評価選定)など、見たい行動が明確な場面から始めるのが現実的です。
運用の手順( 5 分で回るフロー)
mini-CEX は “型” を固定すると、指導者側の負担が減り、学習者側も改善点を受け取りやすくなります。
Step 1:観察の目的を 30 秒で共有する
最初に「今日は何を見るか」を 1 つに絞ります。例:歩行時の安全確認とリスク説明、疼痛評価の聞き方、仮説の立て方など。観察テーマが増えるほど、フィードバックが散ります。
Step 2:短時間で直接観察する( 10〜 20 分)
見たい行動が出るところだけ観察します。時間が押すときは「観察を短くして、フィードバックを残す」方が教育効果が落ちにくいです。
Step 3:その場でフィードバック( 3〜 5 分)
おすすめは SBI( Situation / Behavior / Impact )で、行動を具体化します。
- Situation:どの場面で
- Behavior:どんな行動が
- Impact:何につながったか(安全・理解・効率・信頼など)
最後に、次回に向けて 1 つだけ “やること” を決めます(例:「次は ‘転倒リスクの説明’ を 1 分で言えるようにする」)。
Step 4:記録して次回につなげる( 1 分)
スコアだけで終わると改善が続きません。良かった行動 1 つ+次回の改善 1 つを短文で残すと、学習者が “伸びた実感” を持ちやすく、指導者も次の観察ポイントを決めやすくなります。
評価の観点(項目 “そのまま” は載せず、見るポイントを整理)
mini-CEX の評価は、どの職種でも共通しやすい “行動のまとまり” に落とすとブレにくいです。以下は臨床実習・新人指導で使える観点の例です(施設の様式に合わせて調整してください)。
| 観点 | 見たい行動(例) | 記録のコツ | 次回の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 情報収集 | 主訴・経過、危険徴候、生活背景を整理して聴取できる | “聞いた内容” ではなく “聞き方の工夫” を書く | 赤旗の聞き漏れを 3 つチェック |
| 診察・観察 | 安全確認、手順の説明、観察の優先順位が明確 | 安全の判断(中止基準・代替案)を残す | まず姿勢・歩行の 1 観察を固定 |
| 臨床推論 | 仮説→追加評価→介入の優先順位を言語化 | “なぜそう考えたか” を 1 行で | 鑑別を 2 つ挙げて根拠を言う |
| 説明・同意 | 患者の理解度に合わせて言い換え、確認できる | Teach-back(言い返し)を実施したか | 1 分説明→確認質問を 1 つ |
| プロ意識 | 敬意、個人情報、チーム連携、時間管理 | 良い行動を “具体例” で褒める | 申し送りの要点を 30 秒で |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と立て直し)
mini-CEX は “仕組み” なので、回らない理由もほぼ決まっています。ここを先に潰すと継続しやすいです。
| つまずき | 起きること | 対策 | 運用メモ |
|---|---|---|---|
| 観察テーマが多すぎる | フィードバックが散り、学習者が動けない | 今日見るのは 1 つに固定 | 次回に回す項目をメモに残す |
| 評価が “感想” になる | 改善点が曖昧で再現できない | SBI で行動を具体化 | 「何を言った/何をした」を 1 行 |
| 時間が取れない | 観察だけしてフィードバックが消える | 観察を短縮してもフィードバックは残す | 3 分でも “次回の一手” を決める |
| 評価が点数だけ | 成長の手触りがない | 短文で良い点 1 つ+次回 1 つ | コメントが主、点数は添える程度 |
| 指導者間で基準が違う | 学習者が混乱する | 観点を共有し、例をすり合わせる | 同じ症例を見て 5 分だけ擦り合わせ |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
mini-CEX は何回くらい必要ですか?
“ 1 回で評価を決める” ではなく、複数回の観察で傾向を見るのが前提です。教育文脈のレビューでも、信頼性の確保には一定の観察回数が必要だとされます。まずは 2 週間で 2 回など、小さく始めて回数を増やすと継続しやすいです。
厳密な採点より、コメントを重視して良いですか?
はい。mini-CEX は学習を促す形成的評価として使われることが多く、点数だけより、次に変えられる行動が明確なコメントが有効です。点数は “現在地の目安” として添える運用が無難です。
フィードバックがうまく言語化できません
SBI( Situation / Behavior / Impact )で、場面→行動→影響の順に話すと短時間でもまとまります。最後に「次回はこれをやる」を 1 つだけ合意すると、学習者が動きやすくなります。
指導者の評価がバラバラになってしまいます
観点の言葉をそろえ、具体例(良い例/改善例)を共有すると収束しやすいです。可能なら短時間の “すり合わせ” を入れ、同じ場面を見たときのコメントの型をそろえます。
参考文献
- Norcini JJ, Blank LL, Arnold GK, Kimball HR. The mini-CEX (clinical evaluation exercise): a preliminary investigation. Ann Intern Med. 1995;123(10):795-799. DOI: 10.7326/0003-4819-123-10-199511150-00008
- Norcini JJ, Blank LL, Duffy FD, Fortna GS. The mini-CEX: a method for assessing clinical skills. Ann Intern Med. 2003;138(6):476-481. DOI: 10.7326/0003-4819-138-6-200303180-00012
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- Cook DA, Dupras DM, Beckman TJ, Thomas KG, Pankratz VS. Effect of rater training on reliability and accuracy of mini-CEX scores: a randomized, controlled trial. J Gen Intern Med. 2009;24(1):74-79. DOI: 10.1007/s11606-008-0842-3
- Cook DA, Beckman TJ. Does scale length matter? A comparison of nine- versus five-point rating scales for the mini-CEX. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2009;14(5):655-664. DOI: 10.1007/s10459-008-9147-x
- Pelgrim EAM, Kramer AWM, Mokkink HGA, van den Elsen L, Grol RPTM, van der Vleuten CPM. In-training assessment using direct observation of single-patient encounters: a literature review. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2011;16(1):131-142. DOI: 10.1007/s10459-010-9235-6
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
mini-CEX は「目的共有→短時間観察→即時フィードバック→記録→次の観察」というリズムを作ると、実習でも新人でも “育つ行動” が積み上がります。あわせて、面談準備チェックと職場評価シートをまとめて確認できる /mynavi-medical/#download も、次のアクション整理に使いやすいです。

