ALS のコミュニケーション評価| AAC 導入 “最初の 1 週間” の型

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ALS のコミュニケーション評価と AAC(この記事の結論)

臨床の引き出しを増やすなら、まず “全体像” を押さえるのが近道です。 臨床力を体系化するロードマップを見る 評価 → 記録 → 再評価 の型を作ると、 AAC も迷いにくくなります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)では、発話が保てる時期から “代替手段を並走” させると、意思決定と生活の質を守りやすいです。ポイントは、①現状のコミュニケーション能力を短時間で見える化し、②残存機能に合う AAC( Augmentative and Alternative Communication )を段階的に準備することです。

この記事では、5 〜 10 分でできる評価低テク〜ハイテク AAC の選び方視線入力・スイッチ操作の実装のコツを、リハ現場で使える形に整理します。

なぜ “早めの AAC ” が大事なのか

ALS では、疲労・呼吸負荷・構音の低下が重なると「話せるけれど伝わらない」状態が増えます。ここで発話だけに依存すると、医療・生活の意思決定家族とのやり取りが一気に難しくなります。

早めに AAC を併用しておくと、本人が慣れる時間環境調整(姿勢・照明・端末位置)を確保できます。関連として、ALS の評価全体の組み立ては ALS リハ評価の全体像 にまとめています(先に親記事を押さえると、記録と連携がブレにくいです)。

5 〜 10 分でできる “コミュニケーション” スクリーニング

まずは “できる/できない” を細かく測るより、どの経路なら確実に意思が伝わるかを短時間で確認します。聞く(理解)/表出(発話・文字)/操作(入力)の 3 点に分けると、次の一手が決まりやすいです。

下のチェックで、現状の主経路バックアップ経路(発話が難しい時の代替)を 1 つ決め、カルテに残します。

ALS コミュニケーション: 10 分スクリーニング(外来・病棟・訪問で共通)
観点 確認ポイント(例) 記録の型(短文で OK ) 次アクション
理解(聞く) 1 段階指示が通る/環境ノイズで崩れる/疲労で低下 理解:安定/疲労で低下(午前が良い) 時間帯調整、短文・選択肢提示
発話(話す) 聞き返しが増えた/声量が落ちる/話すと息が切れる 発話:短文は可、長文で不明瞭 低テク AAC 併用、呼吸負荷の観察
書字(書く) ペン保持/上肢疲労/筆圧/視認性 書字:大字で可、 5 分で疲労 ホワイトボード、太字ペン、休憩設計
入力(操作) タップ可/スワイプ困難/スイッチ押下可/視線追従 操作:タップ可、誤タップ多い キー大型化、スイッチ・視線検討
バックアップ Yes/No の確実性(うなずき/瞬目/視線) Yes:うなずき、 No:首振り可 Yes/No ルールを家族と共有

AAC の全体像:低テク → 中テク → ハイテクの考え方

AAC は “高い機器を入れること” ではなく、本人が確実に意思を表せる経路を複線化することです。最初は低テク(指差し・文字盤)でも十分で、病状や疲労に合わせて中〜ハイテクへ移行します。

迷いやすいのは「どれを買うか」ですが、実際は入力方法(アクセス手段)が合うかどうかが最重要です。まずは “押せる/動かせる/見られる” を評価し、段階表で当てはめます。

ALS における AAC の段階づけ(目安):まずは “入力” を軸に選ぶ
段階 代表例 向いている状況 注意点 まず整えること
低テク Yes/No サイン、文字盤、トピックボード 短時間で導入したい/疲労が強い 相手の読み取り負担が増える Yes/No ルール、提示の仕方
中テク タブレット、スマホ(大きいキー、予測入力) タップが可能/学習が進む 誤タップ・姿勢崩れで一気に不安定 端末位置、キーサイズ、休憩
ハイテク スイッチ走査、頭部マウス、視線入力、 SGD 上肢が難しい/介助なしで会話したい 環境(照明・姿勢)に影響される アクセス評価、設定・練習の時間

アクセス手段の選び方:スイッチと視線入力の “詰まりどころ”

実装で詰まりやすいのは、①押せるけど疲れる(スイッチ)②見えているのに反応しない(視線)の 2 パターンです。前者は押下部位の選定押す回数の削減、後者は姿勢・眼鏡・照明の調整が効きます。

下の早見で「まず試す順番」を決めると、現場での試行錯誤が短くなります。

ALS のアクセス手段:選び方の早見( “残存機能” → “失敗の原因” まで一気に確認 )
候補 必要な残存機能 強み よくある失敗 まず試す調整
タップ(直接入力) 上肢の到達、保持、視線 直感的で学習が早い 誤タップ、手指疲労で離脱 キー大型化、ホルダー固定、短時間運用
スイッチ走査 “一定の動き” を 1 か所で再現 上肢が難しくても入力可能 押下回数が多く疲労、タイミングが合わない スキャン速度、 2 スイッチ化、文例登録
頭部マウス 頸部・体幹の保持、視線 早い入力になりやすい 頸部疲労、姿勢崩れで精度低下 座位・頭部支持、感度調整、休憩
視線入力 視線保持、眼瞼の開閉 四肢が難しくても自立性が高い 照明・反射・眼鏡で反応不良 照明位置、画面距離、キャリブレーション

ベッド・車いす・ NIV 併用でのセッティング要点

機器が合っていても、姿勢と環境が合わないと “使えない AAC ” になります。特に NIV 併用時は、マスクや呼吸努力で視線や頭部の安定が崩れやすいので、先に環境を整えるのが近道です。

現場では「端末が落ちる」「反射で見えない」「疲れて続かない」が頻発します。下の表の “ NG 例 → 対策” をそのまま使うと、再現性が上がります。

AAC セッティング:よくある NG と対策(ベッド/車いす/ NIV )
NG(詰まりどころ) 起きやすい場面 原因 対策 記録ポイント
反応が不安定 視線入力 照明の映り込み/眼鏡反射 照明を斜め後方へ、画面角度調整、遮光 照明条件(昼/夜)、眼鏡の有無
疲れて続かない スイッチ走査 押下回数が多い/速度が合わない 文例登録、スキャン速度調整、短時間×複数回 継続可能時間、休憩の間隔
姿勢が崩れて精度低下 頭部マウス/タップ 体幹支持不足/座面・背もたれ不適 骨盤の安定、上肢支持、端末位置固定 座位保持、頸部疲労の有無
端末が揺れる・落ちる ベッド周り ホルダー固定が弱い 固定点の追加、ケーブルの引っ張り対策 設置位置(左/右)、介助動線
NIV で会話が途切れる NIV 併用 呼吸努力で視線・頭部が不安定 短文運用、入力負荷を下げる、時間帯調整 NIV 使用時間と疲労

多職種連携と “記録” のコツ( PT/OT/ST の役割 )

AAC は 1 職種で完結しづらく、評価 → 試用 → 調整 → 定着をチームで回すと成功率が上がります。ポイントは、本人が使える条件(姿勢・時間帯・設定)を “再現できる言葉” で共有することです。

カルテには「何を使ったか」だけでなく、うまくいった条件(例:午前、座位、照明、キーサイズ)を書いておくと、次回の介入が速くなります。

AAC 導入の分担(例):評価とセッティングを “役割で固定” して迷いを減らす
職種 主な役割 見るポイント 共有したい記録(短文例)
ST 意思表出の評価、 AAC 選定、訓練設計 発話・理解、入力負荷、語彙・文例 視線入力:午前が安定、キー大で誤入力減
OT 操作(アクセス)評価、環境・道具の調整 スイッチ部位、姿勢、端末固定 スイッチ:右母指で押下可、 2 スイッチ化検討
PT 姿勢・呼吸負荷の調整、活動と疲労の管理 体幹・頸部保持、呼吸苦、耐久性 座位:骨盤後傾で精度低下、支持追加で改善
看護/介護 日常場面での運用、家族教育 使用場面、トラブル時対応 Yes/No ルールを家族と統一、夜間は低テクへ

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. いつから AAC を準備すると良いですか?

「話すと疲れる」「聞き返しが増えた」など、日常会話に “負担” が出た時点が目安です。発話が保てるうちに低テク(文字盤など)を並走し、必要に応じてスイッチや視線入力へ段階移行すると、定着しやすいです。

Q2. 家族が “読み取る” 方式でも大丈夫ですか?

短期的には有効ですが、介助者の負担が増えやすいです。低テクでも良いので “手順” を決める( Yes/No のルール、指差しの順番、確認方法)と、読み取りの揺れが減ります。

Q3. 視線入力がうまく反応しません。何から直しますか?

まずは照明(反射)画面距離・角度、次に姿勢(頸部・体幹の安定)を見直します。眼鏡の反射や乾燥も影響するため、環境を整えてからキャリブレーションをやり直すと改善しやすいです。

Q4. スイッチ走査が遅くてイライラします。

走査速度と “押す回数” がボトルネックになりがちです。文例登録 2 スイッチ化(選択/戻る など)で負荷を下げると、継続しやすくなります。

おわりに

ALS のコミュニケーションは、理解 → 表出 → 入力(アクセス)の順に分解して見える化すると、 AAC の導入がスムーズになります。安全の確保 → 環境調整 → 段階的に試用 → 記録 → 再評価の “リズム” を作ることが、定着の近道です。

あわせて、面談準備チェックと職場評価シートで “次の一手” を整えたい方は、こちらから確認できます:/mynavi-medical/#download

参考文献

  • Beukelman DR, Fager S, Ball L, Dietz A. AAC for adults with acquired neurological conditions: a review. Augment Altern Commun. 2007;23(3):230-242. doi: 10.1080/07434610701553668. PubMed: 17701742
  • Beukelman DR, Fager S, Nordness A. Communication Support for People with ALS. Neurol Res Int. 2011;2011:714693. doi: 10.1155/2011/714693. PubMed: 21603029
  • Linse K, Aust E, Joos M, Hermann A. Communication Matters—Pitfalls and Promise of Hightech Communication Devices in Palliative Care of Severely Physically Disabled Patients With Amyotrophic Lateral Sclerosis. Front Neurol. 2018;9:603. doi: 10.3389/fneur.2018.00603. PubMed: 30100896
  • Roman A, Baylor C, Johnson L, Barton M. Expanding Availability of Speech-Generating Device Evaluation and Treatment to People With Amyotrophic Lateral Sclerosis (pALS) Through Telepractice: Perspectives of pALS and Communication Partners. Am J Speech Lang Pathol. 2021;30(5):2098-2114. doi: 10.1044/2021_AJSLP-20-00334. PubMed: 34411491
  • Van Damme P, Al-Chalabi A, Andersen PM, et al. European Academy of Neurology (EAN) guideline on the management of amyotrophic lateral sclerosis in collaboration with European Reference Network for Neuromuscular Diseases (ERN EURO-NMD). Eur J Neurol. 2024;31(6):e16264. doi: 10.1111/ene.16264. PubMed: 38470068

著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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