間接熱量測定( IC )の読み方|この記事の結論
間接熱量測定( Indirect Calorimetry:IC )は、呼気中の 酸素消費量( VO₂ )と 二酸化炭素産生量( VCO₂ )から、安静時エネルギー消費量( REE )を推定する方法です。推定式だけでは読みきれない「いまの代謝」を反映しやすく、急性期・重症例・炎症が強い症例では、エネルギー投与の過不足を減らす判断材料になります。
この記事では、IC の機器操作そのものではなく、PT が測定結果をどう読み、チームにどう記録するかに絞って整理します。具体的には、IC を優先する場面、REE / RQ の読み方、測定条件のそろえ方、再測定のタイミング、よくある失敗、記録の型までを現場で使える形にまとめます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| このページで答えること | IC の REE / RQ をどう読み、測定条件・再測定・記録にどう落とすか。 |
| このページで深掘りしないこと | 機器別の詳細な校正手順、メーカー比較、栄養療法全体の総論、推定式そのものの計算解説。 |
間接熱量測定の記録シートをダウンロード
IC の結果は、REE や RQ の数値だけでなく、測定条件・解釈・次の 1 手まで残すことで再評価しやすくなります。印刷して使える A4 記録シートを用意しました。測定時の条件固定、RQ の解釈、再測定タイミングをチームで共有する際に活用してください。
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IC を優先する場面が決まる
IC を優先するかどうかは、病名だけでなく 代謝の変動が大きいかで判断します。人工呼吸管理、強い炎症、発熱、侵襲後、鎮静、体重や浮腫の影響で栄養評価が読みにくい場面では、推定式や係数法だけではエネルギー必要量がずれやすくなります。
一方で、回復期・生活期で全身状態が安定し、活動量や摂取量も大きく変わらない場合は、推定式や kcal/kg 法をレンジで使い、体重・摂取率・離床量の推移で調整する運用でも回せます。IC は「測れれば必ず使う」ではなく、測定コストに見合うほど判断が難しい場面で優先します。
IC を使うかどうかを早見で決める
IC の適応で迷うときは、病期、代謝の変動性、栄養判断の難しさを並べて考えると整理しやすくなります。下表では、現場で判断しやすいように「IC 優先度」と「まずの運用」を分けています。
| 病期・場面 | 代謝の変動性 | IC 優先度 | まずの運用 |
|---|---|---|---|
| 急性期・重症 | 高い。人工呼吸、強い炎症、発熱、侵襲重複などで日単位に変動しやすい。 | 高 | 条件固定で IC を優先。REE を起点にレンジを設定し、短い間隔で再評価する。 |
| 急性期から回復期への移行 | 中等度。全身状態は改善しているが、発熱・感染・投与量変更で揺れやすい。 | 中 | 推定式+レンジで開始し、乖離が大きい場合や判断に迷う場合に IC を追加する。 |
| 回復期・生活期 | 低い。全身状態と活動量が比較的安定している。 | 低 | 推定式や kcal/kg 法で運用し、同条件で体重・摂取率・離床量を追う。 |
| 栄養介入後の反応が読みにくい | 中〜高。浮腫、体重変動、摂取率、炎症が混在しやすい。 | 中〜高 | 条件を整えて IC を実施。数値だけでなく、測定条件と一言解釈を同時に残す。 |
REE と RQ の読み方が決まる
IC でまず見るのは REE( kcal/日 )です。REE は「現時点で測定された安静時エネルギー消費量」であり、栄養目標を考える起点になります。ただし、REE をそのまま目標エネルギーに固定するのではなく、病期、摂取率、合併症、リハ負荷、体重・浮腫の変化を合わせて レンジで使うのが実務的です。
もう 1 つの重要指標が RQ( respiratory quotient )です。RQ は VCO₂ / VO₂ で、基質利用や測定条件の崩れを疑う手がかりになります。臨床では、RQ を「糖質か脂質かの厳密な判定」に使いすぎるより、高すぎる/低すぎるときに条件不良や過不足を疑う警報として使うと読み違えが減ります。
| RQ の目安 | よくある解釈 | まず確認すること | 次の 1 手 |
|---|---|---|---|
| 0.70 前後 | 脂質利用寄り、または条件不良の可能性。 | 絶食、低栄養、リーク、不安定呼吸、測定時間の短さ。 | 条件を整えて再測定し、摂取状況と体重変化を確認する。 |
| 0.80〜0.90 前後 | 概ね妥当な範囲として扱いやすい。 | steady state が得られているか、体動や咳が少ないか。 | REE を栄養目標の起点にし、レンジで処方を検討する。 |
| 1.00 以上 | 糖質過多、過栄養、または測定条件不良の可能性。 | 過換気、不穏、体動、会話、投与速度、直前のケアや離床。 | 安静を確保し、条件を整えて再測定。投与量と糖質比率も確認する。 |
測定前にそろえる条件が決まる
IC の読み違いは、数値そのものよりも 測定条件のばらつきで起こります。最低限そろえたいのは、測定前の安静、姿勢、酸素投与や換気条件、測定中の体動・会話・咳、測定時間です。前回と条件が違うと、REE の変化が「本当に代謝が変わったのか」「測定条件が変わっただけなのか」が判断しにくくなります。
PT が関われる強みは、測定前後の呼吸パターン、努力性、疲労、直前の離床量、疼痛や不穏の有無を拾えることです。チーム共有では、数値だけでなく 測定条件+一言解釈を残すことで、次回の再測定と栄養調整が回しやすくなります。
| 条件 | 確認すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 安静 | 測定前に可能な範囲で 20〜30 分程度の安静を確保できたか。 | 「測定前安静 30 分」 |
| 姿勢 | 背臥位、半座位、座位など、前回と姿勢がそろっているか。 | 「30 度ギャッジアップ」 |
| 酸素・換気 | 酸素流量、FiO₂、換気設定、リークの有無が安定しているか。 | 「O₂ 2 L/分、変更なし」 |
| 体動・会話・咳 | 測定中に会話、咳、不穏、疼痛、吸引、体位変換がなかったか。 | 「測定中に咳嗽 2 回あり」 |
| 測定時間 | 短すぎず、値の変動が少ない区間を確保できたか。 | 「steady state 確認」 |
再測定のタイミングが決まる
再測定は、単に「何日後に測るか」ではなく、何が変わったから測り直すのかをそろえると運用しやすくなります。測定条件が崩れた疑いがある場合は同日内、全身状態や栄養投与量が変わった場合は翌日以降、安定している場合は数日〜 1 週間単位で見直すと、チーム内で説明しやすくなります。
| タイミング | 主なトリガー | 目的 | 実務メモ |
|---|---|---|---|
| 当日 | 体動、咳、不穏、過換気、リーク疑いで測定品質が低い。 | 値の信頼性を確認する。 | 安静を確保し、同姿勢・同酸素条件で再測定する。 |
| 翌日 | 発熱、鎮静、換気設定、投与量、感染イベントが変化した。 | 介入変更への代謝反応を確認する。 | できるだけ同時刻で比較し、条件差を併記する。 |
| 2〜4 日 | 臨床像は安定しているが、栄養処方の妥当性を再確認したい。 | レンジ設定を微調整する。 | 摂取率、体重・浮腫、離床量と合わせて評価する。 |
| 1 週間前後 | 大きなイベントがなく、経過観察フェーズに入っている。 | 中期トレンドを確認する。 | ルーチン化しても、同条件比較を最優先にする。 |
現場の詰まりどころが決まる
IC で最も多い詰まりどころは、測定値は出ているのに、次の判断が決まらないことです。体動・会話・咳・不穏・疼痛・リーク・酸素条件の変化があると、REE が高く出たり RQ が跳ねたりします。そのため、まずは「値が変わった」と判断する前に、条件不良を切り分けます。
次に多いのは、REE をそのまま目標エネルギーにしてしまうことです。IC は強い判断材料ですが、病期や摂取率、浮腫、離床量、創傷、炎症の変化を無視して単一点で固定すると、過栄養・低栄養のどちらにも振れます。実務では REE を起点にレンジを作り、経過で微調整するのが安全です。
| 失敗パターン | 起きやすい原因 | 対策 | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| RQ が 1.0 を超える | 体動、過換気、不穏、投与過多、条件不安定。 | 安静を確保し、投与量と測定条件を確認して再測定する。 | 「体動あり。安静後に再測予定」 |
| REE が前回より急に高い | 直前の離床、疼痛、発熱、ケア直後、測定時間帯の違い。 | 前回条件と比較し、安静時間・姿勢・酸素条件をそろえる。 | 「直前歩行あり。安静 30 分後に再測」 |
| 値がブレて結論が出ない | 姿勢、酸素条件、測定時間、体動の有無が毎回異なる。 | 同時刻・同姿勢・同酸素条件で再測定し、比較条件を固定する。 | 「姿勢/酸素/時間帯を固定して再評価」 |
| 数値はあるが次が決まらない | 一言解釈と次のアクションが記録に残っていない。 | REE / RQ に加えて、解釈と次の 1 手をセットで残す。 | 「REE 起点に 1,800〜2,000 kcal/日で検討」 |
同じところで毎回つまずく場合は、学び方と環境も点検しましょう
IC の読み方や記録の型を整えても、相談相手がいない、共通フォーマットがない、栄養評価を学ぶ機会が少ない環境では運用が定着しにくいことがあります。評価・記録・報告の型をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
記録の型が決まる
IC の記録は、REE と RQ だけでは不十分です。次回の再測定や栄養処方の見直しにつなげるには、測定条件、主要値、一言解釈、次の 1 手をセットで残します。これにより、数値の変化が「代謝変化」なのか「測定条件の違い」なのかを後から確認できます。
記録の目的は、完璧な文章を書くことではなく、多職種が同じ前提で判断できる状態を作ることです。特に PT は、直前の離床量、疲労、呼吸努力、姿勢、疼痛、不穏などを補足できるため、IC の値に臨床文脈を加える役割があります。
| 項目 | 書く内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 測定条件 | 姿勢、酸素/換気条件、安静時間、体動・咳・会話の有無。 | 「半座位 30 度、O₂ 2 L/分、測定前安静 30 分、咳嗽なし」 |
| 主要値 | REE、RQ、前回値との差。 | 「REE 1,650 kcal/日、RQ 0.86、前回比 +80 kcal」 |
| 一言解釈 | 妥当、条件不良疑い、過不足疑いなど。 | 「測定条件は概ね安定。REE は前回と大きな乖離なし」 |
| 次の 1 手 | 栄養レンジ、再測定タイミング、確認項目。 | 「1,700〜1,900 kcal/日を目安に摂取率・体重・離床量で再評価」 |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
IC の結果( REE )は、そのまま目標エネルギーにしてよいですか?
そのまま固定するのではなく、REE を起点にしてレンジで考えます。病期、摂取率、合併症、炎症、体重・浮腫、リハ負荷を合わせて調整する方が実務では安全です。特に急性期は代謝が変動しやすいため、数日単位で同条件の再評価を前提にします。
RQ が 1.0 以上のときは、まず何を疑いますか?
最初に測定条件の崩れを確認します。体動、過換気、不穏、会話、咳、吸引やケア直後、酸素・換気条件の変化があると RQ が高く出ることがあります。そのうえで、糖質寄りの投与や過栄養の可能性を確認します。
「同条件で再測定」とは、最低どこをそろえますか?
時間帯、姿勢、酸素投与または換気条件、測定前の安静、測定中の体動・会話・咳の有無をそろえます。これらが違うと、REE の変化が代謝の変化なのか、条件差なのか判断しにくくなります。
人工呼吸管理中の IC では、どこが落とし穴ですか?
リーク、FiO₂ や換気設定の変化、吸引・体位変換・ケア直後、不穏や咳嗽が落とし穴になります。測定中のイベントを残しておくと、値が高い・低いときに条件不良を切り分けやすくなります。
IC がない施設では、PT は何を見ればよいですか?
推定式や kcal/kg 法をレンジで使い、摂取率、体重・浮腫、離床量、疲労、創傷、発熱、炎症の変化を同条件で追います。IC がない場合でも、条件をそろえて再評価し、記録の型を統一するだけで栄養判断のブレは減らせます。
次の一手
- 全体像を確認する:栄養・嚥下ハブ
- 推定式との使い分けを確認する:エネルギー必要量の計算式
- 経過の読み方を補強する:体重変化の解釈
参考文献
- Weir JB de V. New methods for calculating metabolic rate with special reference to protein metabolism. J Physiol. 1949;109(1-2):1-9. doi: 10.1113/jphysiol.1949.sp004363
- Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al. ESPEN practical and partially revised guideline: clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2023;42(9):1671-1689. doi: 10.1016/j.clnu.2023.07.011
- Delsoglio M, Dupertuis YM, Oshima T, van der Plas M, Pichard C. Indirect Calorimetry in Clinical Practice. J Clin Med. 2019;8(9):1387. doi: 10.3390/jcm8091387
- Oshima T, Berger MM, De Waele E, et al. Indirect calorimetry in nutritional therapy. A position paper by the ICALIC study group. Clin Nutr. 2017;36(3):651-662. doi: 10.1016/j.clnu.2016.06.010
- Frankenfield D, Hise M, Malone A, et al. Prediction of resting metabolic rate in critically ill adult patients: results of a systematic review. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2007;31(6):504-513. doi: 10.1177/0148607107031006504
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


