Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)|原因・評価・リハの要点

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Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)とは?起床後の下垂手を最短で整理する

「評価の順番」を固定すると、脳卒中との鑑別や説明が一気にラクになります。 評価と介入の流れをまとめて確認する

Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)は、睡眠中などに上腕部(橈骨神経)へ長時間の圧迫がかかり、起床後に「下垂手(wrist drop)」を生じる状態です。典型例は、飲酒後に椅子の肘掛けへ腕を掛けたまま眠る、腕を枕の下に入れて眠る、などです。

症状が「突然の手の麻痺」に見えるため、脳卒中や頚椎疾患と紛らわしいのが臨床の詰まりどころです。本記事は、病歴→最短チェック→評価→リハ(装具・運動療法)→経過観察を、PT/OTが再現しやすい形にまとめます。

最短チェック:まずは「病歴 2 問」と「所見 3 点」

結論から言うと、Saturday night palsyは病歴(圧迫エピソード)下垂手+感覚症状のパターンでかなり絞れます。逆に、この入口が曖昧だと「とりあえず頭部画像」「とりあえず頚椎」と遠回りしがちです。

Saturday night palsy を疑う最短チェック(成人・臨床)
チェック 見ること 典型 ズレるときに疑う
病歴 1 睡眠姿勢・長時間の圧迫(椅子の肘掛け、腕枕、同伴者の腕の下など) あり(本人が気づかないことも多い) 外傷、手術、腫瘤、頚椎由来
病歴 2 飲酒・睡眠薬などで体位修正ができなかった あり得る 労作性・反復動作(絞扼)、中枢症状
所見 1 手関節背屈(wrist extension) 低下~不能(下垂手) 背屈が保たれるなら PIN 等
所見 2 指の MP 伸展 低下(下垂指を伴うことも) 「下垂指のみ」なら PIN を強く疑う
所見 3 感覚(手背橈側~ 1~3 指背側) しびれ/感覚低下を伴うことが多い 感覚が完全に保たれるなら PIN も鑑別

病歴聴取:本人が言わない情報を「こちらから聞く」

圧迫性ニューロパチーは、患者さんが「原因」と認識していないことが多いのが特徴です。起床後に気づく→原因が思い当たらないという流れになりやすく、誘導質問が重要です。

Saturday night palsy の病歴で聞くこと(成人・臨床)
聞くこと 具体例(言い換え) 狙い 記録例
睡眠姿勢 椅子で寝落ち/腕を肘掛けに掛けたまま/腕枕 圧迫エピソードを拾う 「椅子で 3 時間、右上腕圧迫」
飲酒・鎮静 飲酒量、睡眠薬、疲労で爆睡 体位修正不能の背景 「飲酒後に寝落ち」
外傷・骨折 転倒、打撲、骨折、ギプス 構造的損傷の除外 「外傷なし」など
医療機器・圧迫 松葉杖、血圧計カフ、締め付けの強い衣類 反復/医原性の可能性 「松葉杖使用あり」
経過 発症時刻、改善の有無、しびれの変化 予後推定と再評価計画 「改善なし/あり、日数」

見落としたくない所見:中枢・頚椎・別疾患を疑う目安

Saturday night palsyは予後が良いケースが多い一方で、「手が動かない」を中枢症状として捉えるべき状況もあります。臨床では、末梢っぽいと決め打ちしてしまうのが最大の落とし穴です。

「圧迫性だけで説明しにくい」ときの目安(成人・臨床)
状況 示唆 現場対応 記録ポイント
顔面・構音・視野・下肢など他部位の症状 中枢病変の可能性 医師へ即共有(評価は安全範囲) 発症時刻、随伴症状
強い頚部痛、放散痛、複数根領域のしびれ 頚椎由来/神経根症 頚部負荷を上げず共有 誘発動作、痛みの分布
進行性に悪化、安静時痛・夜間痛が強い 別疾患の除外が必要 負荷を下げ、原因検索へ 悪化速度、夜間の有無
骨折/術後など構造イベント後に出現 損傷/絞扼の可能性 固定・装具と連携、整形へ共有 出現タイミング

評価:MMT は「3 筋」と感覚で十分(最小セット)

評価で重要なのは、細かくやり過ぎることよりも、毎回同じ項目を同条件で追えることです。Saturday night palsyの入口では、次の「最小セット」を固定すると迷いが減ります。

Saturday night palsy の最小評価セット(成人・PT/OT向け)
項目 やり方(要点) 見方 示唆
手関節背屈(ECRL/ECRB) 背屈「できる/できない」だけでなく橈屈偏位も確認 角度+偏位の有無 PIN・肘周囲の鑑別に効く
指 MP 伸展(ED) 手関節を軽く背屈位で保持し評価 どの指が落ちるか 下垂指が主なら PIN を強く疑う
母指伸展(EPL/EPB) 「開く」「つまむ」の動作で確認 つまみ開きの破綻 機能訓練の課題設定に直結
感覚(手背橈側) 左右比較(軽擦・痛覚)で十分 範囲を短文で固定 感覚温存なら PIN も鑑別

鑑別の実務:下垂手 vs 下垂指、そして中枢

臨床で混乱が起きるのは「下垂手っぽい」で止まることです。ここで下垂指(finger drop)を意識すると、PIN(後骨間神経)や肘周囲の絞扼の可能性を自然に拾えます。

続けて読む:下垂手と下垂指の違い【比較・使い分け】

Saturday night palsy 周辺の鑑別:実務の早見(成人)
候補 目立つ所見 感覚 ヒント
圧迫性橈骨神経麻痺(上腕部) 下垂手+指伸展低下 しびれを伴うことが多い 睡眠姿勢・圧迫エピソード
PIN 障害(後骨間神経) 下垂指が目立つ/背屈は残ることがある 保たれやすい 肘周囲の痛み・絞扼
中枢(脳卒中など) 随伴症状(顔面・構音・下肢など) 分布が末梢神経に一致しないことがある 発症時刻・他徴候の有無

リハの基本:①守る(装具)→②固めない(ROM)→③回す(課題)

Saturday night palsyでは、回復を待つ期間に手関節・MP が屈曲位で固まるのが最大の損失です。まずは「守る」介入を先に置くと、その後の回復がつながりやすくなります。

Saturday night palsy のリハ優先順位(成人・例)
優先 目的 具体策 失敗しやすい点
過伸張・機能低下を防ぐ コックアップ等で手関節背屈位を保持(生活条件に合わせて) 無装具で反復して屈筋優位が固定化
拘縮予防 手関節背屈・指伸展の他動/自動介助を短時間で毎日 痛みや不安で回避→拘縮が進む
機能の再学習 「つかむ→離す」を課題化(更衣・食事・入力など) 訓練室でできても生活につながらない

自主練の出し方:3 分×複数回で「反復量」を確保する

長時間の練習は疲労と痛みで続きません。おすすめは、短時間を分割して、総反復量を稼ぐ形です。

自主練の例:短時間分割(成人・例)
メニュー 回数/時間 狙い 注意点
手関節背屈の自動介助 10 回 × 3 セット 関節の固さを作らない 痛みが出ない範囲
指 MP 伸展の自動介助 10 回 × 3 セット 下垂指の改善に向けた準備 手関節を軽く背屈位で
生活課題(つかむ→離す) 3 分 × 2~3 回/日 汎化(実生活で使う) 装具や環境調整で成立させる

経過の見方:多くは数週で改善傾向、変化がなければ再評価へ

文献では、圧迫性橈骨神経麻痺は予後が良いとされ、症状の改善が比較的早期に始まるケースが報告されています。たとえば、睡眠姿勢による圧迫性橈骨神経麻痺の報告では、主観的な改善が平均 2.4 週で始まったとされています。

一方で、改善が乏しい場合は、病態(圧迫だけではない/別部位/構造要因)を再検討する方が合理的です。PT/OTとしては、同条件での再評価を先に固定すると、共有がスムーズです。

経過観察と再評価の目安(成人・例)
時期 やること 見たい変化 共有ポイント
初回 最小セット(背屈・MP伸展・母指伸展・感覚)を記録 ベースライン固定 発症状況(圧迫エピソード)
2 週前後 同条件で再評価、装具・自主練の継続可否を調整 主観症状/筋出力の変化 改善の有無、痛みやしびれの推移
数週~ 改善が乏しければ原因の再検討(部位/構造/鑑別) 停滞の理由 「何が変わらないか」を具体化

現場の詰まりどころ:よくある失敗 5 つ

Saturday night palsy でよくある失敗(成人・臨床)
失敗 起こること 対策 記録の型
病歴を聞き切らない 原因不明のまま迷走 睡眠姿勢・飲酒・圧迫を誘導質問 「圧迫エピソード」を 1 行で
下垂手で止まる 部位推定と介入がズレる 下垂指(MP伸展)と感覚で鑑別を進める 背屈/MP/感覚の 3 点セット
装具導入が遅い 拘縮・代償が固定化 まず「守る」装具、短時間でも導入 装着時間と皮膚所見
自主練が長すぎる 痛み・疲労で中断 3 分×複数回で分割 実施回数(できた日数)
中枢の兆候を見落とす 対応が遅れる 随伴症状(顔面・構音・下肢)を必ず確認 発症時刻と随伴症状

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. Saturday night palsy はどれくらいで良くなりますか?

多くは予後が良いとされ、報告では主観的な改善が平均 2.4 週で始まったとされています。ただし、回復速度は圧迫の強さや時間、病態(圧迫以外の要因)で変わります。変化が乏しいときは、同条件での再評価と原因の再検討が重要です。

Q2. 感覚が保たれているのに下垂指が強いです

その場合は PIN(後骨間神経)など、より末梢の運動枝優位の障害も鑑別に入ります。手関節背屈の方向(橈屈偏位)や肘周囲の痛みなども合わせて整理し、必要に応じて共有します。

Q3. 装具は必ず必要ですか?

生活課題を回すために有効なことが多いです。特に、回復を待つ期間に手関節・MP が屈曲位で固まるのを防ぐ意味で、短時間でも「守る」装具が役立ちます。皮膚トラブルが出る場合は、装着時間やフィットを調整します。

Q4. どんなときに追加検査が必要になりますか?

病歴と所見が典型であれば臨床的に進められることもありますが、改善が乏しい場合や鑑別が必要な場合は、筋電図/神経伝導検査で部位の同定や鑑別に役立つとされています。

まとめ:病歴→背屈/MP/感覚→守る→回す→再評価の順で迷いが減る

Saturday night palsy(圧迫性橈骨神経麻痺)は、睡眠姿勢などの圧迫エピソード下垂手(背屈低下)を軸に、指MP伸展と感覚で整理するとブレにくくなります。介入は、装具で守る→ROMで固めない→課題で回すの順が安定です。

「同じ項目を同条件で記録し、経時変化で判断する」だけでも、チーム共有が速くなります。迷ったときは、最短チェックに戻って情報を整え直すのが近道です。

参考文献

  • Han BR, Cho YJ, Yang JS, Kang SH, Choi HJ. Clinical features of wrist drop caused by compressive radial neuropathy and its anatomical considerations. J Korean Neurosurg Soc. 2014;55(3):148-154. doi: 10.3340/jkns.2014.55.3.148 / PubMed: 24851150
  • Ansari FH, et al. Compressive Radial Mononeuropathy. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025-. NCBI Bookshelf
  • Gragossian A, et al. Radial Nerve Injury. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023-. NCBI Bookshelf
  • Bumbasirevic M, Palibrk T, Lesic A, Atkinson HDE. Radial nerve palsy. EFORT Open Rev. 2016;1(8):286-294. doi: 10.1302/2058-5241.1.000028 / PubMed: 28461960
  • Gentle D. Radial Nerve Mononeuropathy. PM&R KnowledgeNow. Web

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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