脳卒中の歩行練習は「用量」で伸ばす|時間・反復・頻度の決め方と記録テンプレ
歩行練習は「やったつもり」になりやすく、伸び悩みの原因が量(用量)が積めていないことも少なくありません。本ページでは、脳卒中リハで迷いやすい歩行練習の用量(時間・反復・頻度)を、現場でそのまま回せる形に整理します。
結論はシンプルで、強度(どれくらいキツいか)× 反復(何歩・何回か)× 時間(何分か)を、同じ指標で積み上げて「比較できる記録」にすることです。読み終えたら、当日から記録 → 進行(増量) → 再評価まで一気に揃います。
臨床スキルは「型」を持つと伸びます。評価 → 介入 → 再評価の流れも一緒に整えておきましょう。 PT キャリアガイドで「伸ばし方」を確認する(準備〜流れ) ※ 内部リンク(同一タブ)
歩行が伸びない原因は「用量が見えない」ことが多い
歩行は筋力やバランスだけでなく、課題特異性(歩く練習で歩く)が効きます。近年は、歩行練習を中等度〜高強度で実施し、十分な反復( stepping )を確保することが、歩行速度・歩行耐久の改善につながるという臨床ガイドラインの整理もあります。
一方で、臨床では「何分やったか」だけが残り、どれくらい歩いたか/どれくらいキツかったかが記録されず、増量の根拠が作れません。まずは用量を 3 つの軸(強度・反復・時間)で見える化して、伸びる形に寄せます。
用量は「強度・反復・時間・頻度」をセットで決める
歩行練習の用量は、FITT( Frequency / Intensity / Time / Type )で考えるとブレません。本記事では Type(内容)は「歩行関連課題」として固定し、強度・反復・時間・頻度を揃えます。
関連:ガイドライン改訂点と PT 実務の全体像は 脳卒中リハ:ガイドライン 2025 アップデートまとめ に整理しています(ここを親として、用量設計は本記事で深掘りします)。
| 要素 | 現場での定義 | おすすめの記録指標 |
|---|---|---|
| 強度 | どれくらいキツいか(心拍・息切れ・主観) | 心拍(%HRR / %HRmax)+ RPE( Borg ) |
| 反復 | 何歩・何回の stepping を積んだか | 歩数/歩行距離/歩行区間の本数 |
| 時間 | 歩行に費やした時間(休憩を除く) | 実働分(歩行分数)+ 休憩分 |
| 頻度 | 週に何回、どれくらい継続するか | 週回数(病期で上限が変わる) |
強度の決め方:心拍が難しければ「 RPE 」で揃える
強度は心拍(%HRR や %HRmax )で管理できると明確ですが、臨床では測れない場面もあります。その場合は、同じ尺度で比較できる指標として RPE( Borg )を併用すると、増量の根拠が残ります。
研究では、高強度の歩行練習を 70–80% HRR などで実施する介入も報告されており、「キツさ」を伴う課題特異的な練習が歩行機能に寄与しうることが示されています(実施条件は対象の病期・合併症・施設体制で調整が必要です)。
| 状況 | 第一選択 | 代替(最低限そろえる) |
|---|---|---|
| 心拍が測れる | %HRR / %HRmax(同じ式で) | RPE( Borg )を併記してズレを確認 |
| 心拍が測れない | RPE( Borg )を主指標に固定 | 息切れ(会話のしやすさ)+ 休憩回数 |
反復と時間:歩数( stepping )を「積む」ほど比較がラクになる
反復は「歩数」が最もわかりやすく、環境(平地/トレッドミル/段差)をまたいでも比較しやすい指標です。入院リハで focused stepping を増やした報告では、日々の歩数が増え、歩行耐久( 6MWT )やバランス( BBS )と関連していました。
また、回復期の実装研究では、通常ケアと比べて高強度 stepping の導入により、平均歩数が増え、歩行速度や 6MWT の改善が大きいことが示されています。まずは「歩数(または歩行区間の本数)」を毎回残すところから始めるのが近道です。
頻度:週の設計は「疲労が抜けるか」と「継続できるか」で決める
頻度は、増やしすぎると疲労が抜けず、フォームや質が崩れて逆効果になります。逆に少なすぎると、用量が積めず、歩行の底上げが起きません。目安としては、週単位で用量(歩数・歩行分数)が右肩上がりになっているかで判断します。
まずは「週で何回できたか」より、 1 回あたりの実働歩行分数と合計歩数が増えているかを見てください。増やすときは「頻度」より先に「 1 回あたりの実働(反復・時間)」を伸ばす方が、記録の比較がしやすくなります。
増量(進行)のルール:上げるのは 1 つずつ
増量の基本は、強度/反復/時間/難易度を同時に上げないことです。上げるのは 1 つだけにして、翌回も同条件で再現できるかを確認します。
おすすめは「強度( RPE )を固定 → 反復(歩数)を増やす → 実働時間を伸ばす → 難易度(速度・環境)を上げる」の順番です。目標が「速度」でも「耐久」でも、まずは反復が積める形に寄せるとブレません。
| チェック項目 | OK の目安 | 次に上げる候補 |
|---|---|---|
| 強度 | 狙いの RPE に収まる(過度に上がらない) | 歩数(区間本数)を + 1–2 本 |
| 質(フォーム) | 代償が暴れない/転倒リスクが増えない | 実働歩行分数を + 2–5 分 |
| 回復 | 翌日に疲労が残りすぎない | 速度 or 環境(段差・方向転換)を 1 段階 |
記録テンプレ:これだけ残せば「増量」が迷わない
記録は長文にしなくて大丈夫です。最低限、強度( RPE )/反復(歩数)/実働時間(歩行分)/休憩が残れば、翌回の処方が決まります。可能なら「難易度(速度・環境)」も 1 語で添えます。
| 項目 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 強度 | RPE( Borg ) | RPE 13 |
| 反復 | 歩数 or 区間本数 | 800 歩( 20 m × 10 本相当) |
| 時間 | 実働歩行分(休憩除く) | 18 分 |
| 休憩 | 回数+合計 | 3 回/ 6 分 |
| 難易度 | 速度・環境を 1 語 | 平地+方向転換 |
テンプレ( 1 行):RPE( )/歩数( )/実働( )分/休憩( 回・合計 分)/環境( )
よくある失敗:用量は増えたのに伸びないパターン
用量設計で詰まりやすいのは「増えたのに、良くならない」パターンです。多くは、上げる要素が多すぎるか、記録が揃っていないことで原因が追えなくなっています。
| NG | 起きやすいこと | OK(対策) |
|---|---|---|
| 強度・反復・難易度を同時に上げる | 翌回に再現できず、比較不能になる | 上げるのは 1 つだけ(歩数 → 時間 → 難易度) |
| 「実施した」だけで歩数が残らない | 増量の根拠が作れない | 最低限、RPE/歩数/実働分/休憩を 1 行で残す |
| 休憩が長く、実働が伸びない | 時間は使っているのに刺激が入らない | 実働分を主指標にし、休憩を「回数・合計」で管理 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 歩数が測れない環境では、何を「反復」として残せばいいですか?
歩数が取れない場合は、歩行区間の本数で代用できます。例えば「 20 m × 10 本」のように、区間長と本数を固定すると比較が容易です。区間が取れないときは「トレッドミル実働分(分)」を主指標にし、強度( RPE )を必ず併記してください。
Q2. まず増やすのは、時間と歩数のどちらが良いですか?
おすすめは歩数(反復)→ 実働時間の順です。歩数は「課題特異性の量」を直接表しやすく、同じ強度( RPE )で歩数が伸びれば、次の増量が迷いません。歩数が伸びにくい日は、環境(方向転換など)を下げてでも、反復を確保する方が設計が安定します。
Q3. 強度が上がりすぎる(息切れが強い)ときはどう調整しますか?
調整は「速度を落とす」だけでなく、休憩を短くして回数を増やす、区間を短くして本数を増やすなど、反復を確保しながら強度を整える方法があります。上げる要素は 1 つに絞り、翌回も再現できる形にしてください。
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参考文献
- Hornby TG, et al. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. J Neurol Phys Ther. 2020;44(1):49-100. doi: 10.1097/NPT.0000000000000303. DOI / PubMed
- Hornby TG, et al. Feasibility of Focused Stepping Practice During Inpatient Rehabilitation Poststroke and Potential Contributions to Mobility Outcomes. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29(10):923-932. doi: 10.1177/1545968315572390. DOI / PubMed
- Moore JL, et al. Implementation of High-Intensity Stepping Training During Inpatient Stroke Rehabilitation Improves Functional Outcomes. Stroke. 2020. doi: 10.1161/STROKEAHA.119.027450. DOI / PubMed
- Thompson ED, et al. Increasing Activity After Stroke: A Randomized Controlled Trial of High-Intensity Walking and Step Activity Intervention. Stroke. 2024. doi: 10.1161/STROKEAHA.123.044596. DOI / PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

