上肢機能評価の使い分け:迷ったら「目的→最小セット→比較表」で決める
上肢の評価は、スケールの数が多く「結局どれを使えばいいの?」で迷いがちです。本記事では、①目的から選ぶ→②最小セットで回す→③比較表で微調整するの順に整理し、現場で迷わない導線を作ります。
「評価の全体像(ハブ)」を先に押さえたい場合は、評価ハブから全体の地図を確認できます。
臨床を続ける不安があるなら、まず「選択肢」を増やしておく
評価や記録が回らない原因が「教育体制」「人員不足」「相談相手がいない」こともあります。いざという時に動けるよう、情報だけ先に揃えておくのも 1 つの手です。
PT キャリアガイドを見る(無料)結論:上肢評価は「何を知りたいか」で決める
上肢評価は、ざっくり言うと①運動麻痺の回復(機能)を見たいのか、②物品操作や課題遂行(活動)を見たいのか、③手指の巧緻性(スピード/精度)を見たいのかで選定が変わります。
迷ったら、まずは「機能」+「活動」の 2 軸を押さえ、必要に応じて巧緻性テストを追加します。最初から全部は測らず、目的に合う最小セットで回す方が継続しやすいです。
まずはこれ:上肢評価の最小セット(臨床で回る組み合わせ)
時間が限られる現場では、「全体像を外さないセット」を決めておくとブレが減ります。下の表は、回復期〜生活期でも回しやすい代表例です(施設の運用に合わせて調整してください)。
| セット | 目的 | 組み合わせ例 | こんな時に | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| A(全体+活動) | 回復の全体像と課題遂行 | FMA-UE + ARAT | 片麻痺の上肢を「回復」も「使える」も押さえたい | まず迷ったらこの型 |
| B(巧緻性の深掘り) | 手指のスピード/精度 | BBT + 9HPT | 書字、ボタン、箸、職場復帰など細かな操作が主訴 | 上肢機能が一定以上で有効 |
| C(機能+時間要素) | 課題の遂行と所要時間 | WMFT(時間+機能) | 「できる/できない」だけでなく変化を追いたい | 疲労や代償も観察する |
※ スケールの詳細記事がある場合は、上のセットを起点に「該当スケールの記事」へリンクしておくと、院内教育にも使いやすくなります。
【比較表】FMA-UE/ARAT/WMFT/BBT/9HPT の使い分け
「どれを採用するか」を 1 分で決めたい人向けに、特徴を表にまとめます。“迷ったら”の一言だけでも頭に入れておくと、選定が速くなります。
| スケール | 何がわかる | 向いている場面 | 所要時間の目安 | 迷ったら | 次に読む |
|---|---|---|---|---|---|
| FMA-UE | 運動麻痺の回復(機能)を系統的に捉える | 急性期〜回復期の経過、重症例の変化の把握 | 中 | 「回復の全体像」を外したくない | FMA-UE の解説 |
| ARAT | 物品操作を中心とした課題遂行(活動) | 回復期〜生活期、上肢を“使う”場面の評価 | 中 | 「実用性」に寄せて追いたい | ARAT の解説 |
| WMFT | 課題の遂行と所要時間、動作の質 | 変化量の追跡、訓練効果の可視化 | 中〜長 | 「時間」も含めて改善を見たい | WMFT の解説 |
| BBT | 粗大な手指操作のパフォーマンス | 短時間でのスクリーニング、外来・通所 | 短 | とにかく短時間で“操作力”を見たい | BBT の解説 |
| 9HPT | 巧緻性(スピード/正確性) | 手指の細かな課題、職場復帰、利き手差の把握 | 短 | 「細かい操作」で困っている | 9HPT の解説 |
症状・場面別:おすすめの選び方(迷いが減る)
同じ「上肢の評価」でも、困りごとが違うと優先する軸が変わります。下の早見をベースに、施設の評価フローに落とし込みましょう。
| 困りごと | 優先する軸 | おすすめ | 追加するなら |
|---|---|---|---|
| 片麻痺で「回復が進んでいるか」を追いたい | 機能(回復の段階) | FMA-UE | 活動も見るなら ARAT |
| 生活動作で「使えるか」を見たい | 活動(課題遂行) | ARAT | 変化量を追うなら WMFT |
| 手指の細かな操作が主訴(ボタン/箸/書字) | 巧緻性(速度・精度) | 9HPT | 粗大操作も見るなら BBT |
| 訓練効果を「時間」も含めて見せたい | パフォーマンス+時間 | WMFT | 機能面は FMA-UE |
再評価のタイミングと記録のコツ(よくある失敗を潰す)
上肢は「その日の調子」に左右されやすいため、評価の信頼性は実施条件の揃え方で大きく変わります。院内で最低限揃えるポイントは、次の 3 つです。
- 姿勢・支持:座位条件(椅子/ベッド端座位)、体幹の支持、テーブル高さ
- 指示:声かけの量、デモの有無、練習回数
- 環境:疲労(前後の訓練)、疼痛、注意・覚醒、利き手
| NG(起きがち) | なぜ問題? | OK(対策) | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|
| 姿勢や支持が毎回違う | 変化が「回復」なのか「条件差」なのか分からなくなる | 座位条件と支持を固定(写真で共有も有効) | 「座位:背もたれあり、前腕支持あり、机高○○」 |
| 声かけが増減する | 課題遂行が“誘導”で変わりやすい | 合図・声かけのルールを決める | 「口頭指示は開始時のみ、途中介入なし」 |
| 疲労が強いタイミングで実施 | 所要時間や失敗が増え、評価が低く出やすい | 評価の時間帯を固定、直前負荷を揃える | 「評価前:訓練なし/歩行 10 分後」 |
| 代償動作を見落とす | 点数は上がっても“実用性”が上がらないことがある | 代償(体幹、肩甲帯、把持)をメモする | 「体幹側屈で到達、把持は二点つまみ困難」 |
現場の詰まりどころ:評価が「回らない」典型パターン
上肢評価が定着しない原因は、スケールそのものより運用の詰まり(人・時間・教育)であることが多いです。特に「新人がどれを使えばいいか分からない」「評価物品の場所が決まっていない」「記録がバラバラ」は、回遊・教育のコストを増やします。
まずは最小セットを院内で決め、物品と手順を固定していくのがおすすめです。面談準備のチェックなど「手元の型」を揃える資料が必要なら、無料ダウンロードも使えます。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
どれか 1 つだけ選ぶなら、最初は何が無難ですか?
迷いが大きい施設では、まずは機能の全体像を外しにくいスケールを起点にし、次に活動面を補う流れが安定します。時間が許すなら「機能+活動」の 2 軸で最小セットを作ると、評価の目的が共有しやすいです。
再評価はどのくらいの頻度でやると良いですか?
上肢は変化が小さい時期もあるため、頻度は「目的」に合わせます。回復期で効果判定をしたい場合は条件を揃えて定期的に、生活期でセルフマネジメントが主なら節目(方針変更時)で十分なこともあります。重要なのは、頻度より実施条件の固定です。
手指の巧緻性テストは、いつ追加すべきですか?
「日常の困りごとが手指の操作に集中している」「復職など細かな課題が主目的」の場合は、早めに追加する価値があります。逆に、重症でまずは運動麻痺の回復段階を追うフェーズでは、巧緻性よりも機能・活動の軸を優先すると整理しやすいです。
点数だけでなく、何を記録すると次に活きますか?
点数に加えて、代償動作(体幹・肩甲帯・把持の工夫)、疲労や疼痛、声かけの有無を短くメモすると、次回の比較が一気に楽になります。表の「記録の一言例」を院内テンプレにするのもおすすめです。
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参考文献
- Fugl-Meyer AR, et al. The post-stroke hemiplegic patient. 1. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13-31. PubMed
- Lyle RC. A performance test for assessment of upper limb function in physical rehabilitation treatment and research. Int J Rehabil Res. 1981;4(4):483-492. PubMed
- Wolf SL, et al. The Wolf Motor Function Test as a measure of upper extremity function in stroke. PubMed(関連検索)
- Mathiowetz V, et al. Adult norms for the Box and Block Test of manual dexterity. Am J Occup Ther. 1985;39(6):386-391. PubMed
- Mathiowetz V, et al. Norms for the Nine Hole Peg Test of finger dexterity. Occup Ther J Res. 1985. PubMed(関連検索)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


