この記事でわかること
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PT キャリアの全体像を 5 分で見る嚥下訓練は「直接(食べ物を使う)」と「間接(食べ物を使わない)」に分けて整理すると、現場の判断が速くなります。迷いの正体はだいたい 2 つで、いま安全に“食べさせて良い”のか、それとも先に“食べられる土台”を作るべきか、です。
この記事では、両者の違いを目的・適応・進め方・併用の順番まで早見表で整理し、さらに中止・中断の目安と記録の型までまとめます。チームでブレない摂食機能療法の“型”が作れます。
違いの結論:嚥下を「実際に起こすか」
直接嚥下訓練は、食物や水分(ボーラス)を用いて実際の嚥下運動を行う訓練です。嚥下の運動学習に直結しやすい一方で、誤嚥・窒息・疲労などのリスク管理が必須になります。
間接嚥下訓練は、嚥下そのものを起こさずに、嚥下に必要な要素(姿勢、口腔運動、呼吸、筋力、感覚など)を整える訓練です。安全に開始できる範囲が広く、直接訓練の前段階として機能します。
| 観点 | 直接嚥下訓練 | 間接嚥下訓練 |
|---|---|---|
| 食べ物 | 使う(ボーラスあり) | 使わない(ボーラスなし) |
| 主目的 | 嚥下の安全性・効率を「条件調整」で上げる | 嚥下に必要な機能(姿勢・呼吸・口腔など)を整える |
| 代表メニュー | 段階的経口摂取、嚥下手技、姿勢・頭位調整を伴う摂取 | 姿勢調整、口腔器官運動、呼吸・咳嗽、筋力系、感覚入力 |
| リスク | 誤嚥・窒息・呼吸苦・疲労、バイタル変動 | 過負荷・疼痛・疲労(直接より低リスクになりやすい) |
| 評価の要点 | むせ、湿性嗄声、 SpO2 、呼吸数、疲労、残留、摂取効率 | 姿勢保持、口腔運動、呼吸機能、随意咳、耐久性 |
| 組み立ての軸 | 食形態・一口量・姿勢・ペース(変更は 1 つだけ) | 目的 → 所見 → メニュー → 負荷設定(変更は 1 つだけ) |
選び方のフロー:迷ったら「安全域」を先に作る
迷ったら、次の順で判断すると事故が減ります。ポイントは、直接をやるかどうかより先に、直接を“安全に観察できる条件”があるかを見にいくことです。
| 最初に見ること | 該当しやすい所見 | まずやる | 次の 1 手 |
|---|---|---|---|
| 口腔内が整っている | 乾燥・食残・痰が少ない | 直接(少量で安全域を作る) | 条件固定で回数 → 量 → 形態の順に段階づけ |
| 痰が多い / 喀出が弱い | 湿性嗄声が出やすい、咳で出せない | 間接(呼吸・咳嗽の土台) | 声・呼吸が安定したら少量の直接へ |
| 姿勢が崩れる | 座位が保てない、頸部が不安定 | 間接(支持・環境調整) | 姿勢が安定してから直接で条件作り |
| 疲労が強い | 後半でむせ・声の濁りが増える | 間接(短時間 × 複数回) | ペースを整えた直接を少量で試す |
併用の順番:間接 → 直接だけではなく「往復」で強くなる
併用は「間接 → 直接」が基本になりやすいですが、いつもそうとは限りません。現場で強いのは、直接で安全域を“見える化”して、間接で土台を補強するという往復です。
| パターン | 向いている状況 | やること | 狙い |
|---|---|---|---|
| 間接 → 直接 | 痰多い、口腔内不良、姿勢不安定 | 土台を整える → 少量の直接で安全域を作る | 事故を減らし、直接の成功率を上げる |
| 直接 → 間接 | 少量なら安全に観察できる | 直接で「何が詰まるか」を特定 → 間接で補強 | 目的がズレない間接を選べる |
| 直接 ↔ 間接(往復) | 日内変動が大きい、疲労で崩れる | その日の安全域に合わせて比率を調整 | 続けられる負荷で積み上げる |
安全管理:中止・中断の目安を「先に」決める
直接嚥下訓練は、途中で「やめる判断」を迷うと危険側に寄りやすくなります。コツは、観察ポイントを固定して、まず調整 → それでも難しければ中断の順番をチームで共有することです。
下表は“枠組み”として使える整理です。施設ルールや対象者の背景に合わせて、どの項目を重視するかを決めておくと運用が安定します。
| 観察 | 出たら注意 | まず行う調整( 1 つだけ) | 継続が難しければ |
|---|---|---|---|
| むせ・咳嗽 | 頻回、咳が弱い、痰が増える | 一口量を下げる / ペースを落とす / 姿勢を見直す | 当日の直接は中断し、間接と環境調整へ |
| 湿性嗄声 | 摂取後に増悪、声が濁る | いったん休憩 / 口腔内を整える / 条件を戻す | 当日は中止し、次回は条件から再設計 |
| 呼吸状態 | 呼吸数増加、呼吸苦、 SpO2 低下 | 休憩を挟む / 姿勢調整 / 負荷を下げる | 中止し、必要なら医療的評価へ共有 |
| 疲労・注意 | 集中低下、覚醒低下 | 回数を減らす / 短時間で成功条件に戻す | その日の直接は終了(間接の短時間へ切替) |
現場の詰まりどころ:よくある失敗と回避策
詰まりどころは、「直接が怖くて間接ばかり」か、「間接を飛ばして直接で崩れる」の 2 極に寄ることです。どちらも“安全域”が曖昧なまま進むのが原因なので、まずは判断を固定します。
| よくある NG | なぜ起きる | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 間接が「とりあえず体操」になる | 目的と所見がつながっていない | 目的 → 所見 → メニューを 1 行で書いてから実施 | 狙い、回数・負荷、達成度、次回の進行条件 |
| 直接で形態・量・姿勢を同時に変える | 原因が追えず、成功条件が残らない | 変更は 1 つだけ。形態固定 → 量 → 形態の順 | 使用形態・量、反応、次回は何を 1 つ変えるか |
| むせを「気合い」で押す | 安全域の設計がない | 一口量かペースを先に戻し、成功条件を固定する | むせ、湿性嗄声、 SpO2 、疲労の変化 |
| 筋力系の間接が過負荷で続かない | 負荷設定と頻度が合っていない | 回数・セットを下げ、週単位で漸増(疼痛・疲労を監視) | 負荷、疼痛、疲労、実施率、次回の増減 |
記録の型:摂食機能療法で「書ける」メニューにする
算定やチーム共有で重要なのは、「直接/間接」のラベルよりも、狙い(どの機能を変える)と、実施内容(何を、どの条件で、どれだけ)と、反応(何がどう変わった)が一続きで書けることです。ここが揃うと、次回の計画が自然に出ます。
共通ルールは 1 つで、変更点は 1 つだけです。直接と間接を併用するほど、このルールが効きます。
| 項目 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 目的 | 今日「何を変える日」か | 「少量の直接で安全域を作る」 |
| 実施(間接) | メニュー、回数・セット、姿勢、負荷、達成度 | 「呼吸 2 分、随意咳 5 回、座位保持 10 分」 |
| 実施(直接) | 食形態、一口量、ペース、姿勢・頭位、手技、介助量 | 「ゼリー少量、休息を挟む、姿勢を固定」 |
| 反応 | むせ、湿性嗄声、 SpO2 、疲労、残留、成功条件 | 「湿性嗄声なし。後半で疲労が増える」 |
| 次回 1 手 | 変えるのは 1 つだけ(戻す / 進める) | 「回数は固定で、休息のみ増やす」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 直接と間接、どちらを先にやるべきですか?
A. まずは「直接を安全に観察できる条件があるか」で決めます。口腔内が整い、姿勢が安定し、呼吸が破綻しないなら少量の直接で安全域を作れます。痰が多い、姿勢が崩れる、疲労が強い場合は間接で土台を作ってから直接へつなぐ方が安定します。
Q2. 間接訓練が長くなって、直接に移れません
A. 間接のゴールを「直接を少量で試せる状態」と定義しておくと迷いが減ります。声・呼吸・姿勢・疲労の指標が揃ったら、少量の直接で安全域を見える化し、うまくいかない要素だけ間接で補強する往復が有効です。
Q3. 直接訓練は、何を変えるのが優先ですか?
A. 食形態・一口量・姿勢・ペースの 4 つですが、まずは「成功しやすい条件を固定」してから調整します。変更は 1 つだけにして、何が効いたかを残すと引き継ぎが強くなります。
Q4. 中止・中断の目安は、どう共有すれば良いですか?
A. 観察ポイント(むせ、湿性嗄声、呼吸、疲労など)を固定し、「まず調整 → それでも難しければ中断」の順番をチームで揃えるのがコツです。個々の数値よりも、どの兆候を重視するか、どの調整を最初に行うかを先に決めると運用が安定します。
次の一手
運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検まで一気に進めたい方は、こちらも一緒にどうぞ。
参考文献
- American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia (Practice Portal). ASHA
- Logemann JA. Approaches to management of disordered swallowing. Bailliere’s Clin Gastroenterol. 1991;5(2):269-280. PubMed
- Logemann JA, Rademaker AW, Pauloski BR, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24(4):403-411. doi:10.1007/s00455-009-9217-0. PubMed
- Park JS, Hwang NK. Chin tuck against resistance exercise for dysphagia rehabilitation: A systematic review. J Oral Rehabil. 2021;48(8):968-977. doi:10.1111/joor.13181. PubMed
- Royal College of Speech and Language Therapists. Eating, drinking and swallowing guidance. RCSLT
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


