身体拘束の当日記録は「公式上の記録事項」と「解除・再評価まで追う項目」を分けて書く
身体的拘束を実施した当日は、まず「態様及び時間」「患者の心身の状況」「緊急やむを得ない理由」を診療録等へ記録します。そのうえで、代替策と結果、実施中の観察、再評価、解除検討、共有まで残しておくと、次担当者が「なぜ実施したか」「現在も必要か」「次に何を確認するか」を追いやすくなります。
この記事では、病院で身体的拘束を実施した日の記録について、公式資料で確認すべき記録事項と、解除・再評価までつなげる実務上の追加項目を分けて整理します。記載例に加え、編集できるExcelと印刷用PDFの「身体拘束 当日記録・再評価シート A4 v4」も掲載しています。
制度全体を確認したい方へ:身体拘束最小化【2026改定】の体制基準・実績等基準を確認する
身体拘束を行う場合にまず記録する内容
令和8年度診療報酬改定でも、入院料通則における身体的拘束最小化の体制に係る基準として、身体的拘束を行う場合は、その態様及び時間、患者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することが示されています。
実務では、この公式文言を「態様」「時間」「患者の心身の状況」「緊急やむを得ない理由」の4つの確認点に分けると、記録漏れを確認しやすくなります。
| 確認点 | 記録する内容 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 態様 | どのような身体的拘束を行ったか | 用具名だけでなく、部位や具体的な実施方法まで追える形にする |
| 時間 | いつ実施したか | 開始だけでなく、解除・終了まで経過を追えるようにする |
| 患者の心身の状況 | 実施時の行動、認知・意識、苦痛、体動など | 「不穏」などの抽象語だけで終わらず、実際に観察した状態を書く |
| 緊急やむを得ない理由 | なぜ身体的拘束が必要だったか | 患者の生命・身体への危険と、身体的拘束を必要と判断した理由を具体化する |

ここで重要なのは、「身体拘束を実施した」という事実だけでは記録が完結しないことです。「不穏のため」「転倒リスクあり」といった表現だけでは、その時点の患者の状態や緊急性を後から十分に追えません。
一方、本記事で後述する「代替策と結果」「解除条件」「次回評価時刻」「共有・申し送り」などは、上記の公式文言と同列の全国一律の記録項目として示すものではありません。身体的拘束を漫然と継続せず、解除・再評価へつなぐための実務上の追加項目として整理しています。
当日記録は「必要性→代替策→実施→再評価→共有」で追う
当日の経過を追いやすくするには、公式上の記録事項を押さえたうえで、必要性の確認 → 代替策 → 実施 → 再評価・解除検討 → 共有の流れで整理します。
| 段階 | 確認すること | 記録する内容の例 |
|---|---|---|
| 1.必要性の確認 | 何が起きており、なぜ安全確保が必要か | 具体的な行動、心身の状況、緊急やむを得ない理由 |
| 2.代替策 | 身体的拘束以外の方法を検討・実施したか | 環境調整、見守り、声かけ、不快や排泄などの要因確認と、その結果 |
| 3.実施 | どのような方法で、いつ実施したか | 態様、部位、用具、開始時刻、実施中の観察 |
| 4.再評価・解除検討 | 現在も必要か、代替策へ変更・解除できないか | 再評価時刻、所見、判断根拠、解除条件、解除トライ、次回評価 |
| 5.共有 | 誰に何を引き継ぐか | 医師・看護師等の多職種、患者・家族、次勤務者への共有内容 |
この5段階は、診療報酬上の新たな必須記録項目を定めるものではありません。公式上の記録事項を押さえたうえで、代替策や解除検討を途切れさせないためにrehabilikunblogで整理した実務上の型です。
なお、身体的拘束最小化推進体制加算では、対象となる医療機関に対し、実施の必要性等のアセスメント、患者家族への説明と同意、具体的行為や実施時間等の記録、二次的な身体障害の予防、代替策を含む解除に向けた検討などが示されています。実際の対応では、自施設が算定する加算・入院料と院内の身体的拘束最小化指針を確認してください。
身体拘束 当日記録・再評価シート A4 v4|PDF・Excel
当日記録を1枚で整理できるように、「身体拘束 当日記録・再評価シート A4 v4」を作成しました。公式上の基本記録と、代替策・観察・再評価・解除検討・共有などの実務補助項目を分けています。
PDF版は印刷・閲覧用、Excel版は自施設の書式や運用に合わせて編集したい場合に使用できます。
v4では、旧版の「開始時刻」だけでなく、解除・終了時刻も記録できるようにしました。また、観察頻度を「30分ごと」などに固定せず、院内指針、身体的拘束の態様、患者の状態に応じて設定できる構成としています。
| 区分 | 主な記録欄 |
|---|---|
| 基本記録 | 態様・部位・用具、開始時刻、解除・終了時刻、患者の心身の状況、緊急やむを得ない理由 |
| 必要性・代替策 | 危険行動・具体的状況、検討・実施した代替策と結果 |
| 実施中の観察 | 表情・苦痛、体動・拒否、皮膚・循環、呼吸状態、観察頻度・タイミング |
| 再評価・解除検討 | 再評価時刻、継続・解除・解除トライ、判断根拠、解除条件、解除トライ結果、次回評価 |
| 説明・共有 | 患者・家族への説明等、共有先、共有内容、次担当への申し送り |
本シートは、身体的拘束に関する記録と再評価を整理するための補助様式です。診療報酬上の指定様式ではなく、法令・通知、各入院料・加算の要件、院内指針や既存の正式書式を置き換えるものではありません。自施設に定められた運用がある場合は、その手順を優先してください。
そのまま使える身体拘束の当日記録テンプレ
文章で記録する場合も、長文を書くこと自体が目的ではありません。何が起きたか、なぜ必要だったか、身体的拘束以外に何を検討したか、いつ実施・再評価したか、その後どう判断したかが追えることを優先します。
1)必要性・心身の状況
__の行動を認める。心身の状況:__。__の危険があり、緊急やむを得ない理由:__。
2)代替策・実施
__を検討・実施したが、__のため安全確保が困難。__時__分、__を開始。態様/部位/用具:__。
3)再評価・解除検討
__時__分再評価。所見:__。判断:継続/解除/解除トライ。解除条件・解除トライ結果:__。次回評価:__。
4)共有
__へ、実施理由・現在の所見・解除検討・次回評価について共有。
「不穏」「危険」「落ち着かない」などの言葉だけで終わらせず、実際に観察できた行動・状態へ置き換えると、後から判断根拠を確認しやすくなります。
身体拘束の記載例|抽象語ではなく行動と判断根拠を書く
以下は書き方を確認するための架空例です。特定の患者へそのまま当てはめるのではなく、実際に観察した状況と自施設の運用に合わせて記録してください。
| 記録欄 | 記載例 |
|---|---|
| 危険行動・具体的状況 | 離床を繰り返し、点滴ルートへ手を伸ばす行動を認めた |
| 患者の心身の状況 | 見当識低下あり。声かけで一時的に動作を止めるが、その後再び離床を試みる |
| 緊急やむを得ない理由 | 転倒およびルート自己抜去による身体への危険があり、代替策のみでは安全確保が困難と判断 |
| 代替策と結果 | 環境調整、排泄確認、声かけ、見守り強化を実施したが、離床およびルート接触が継続 |
| 態様・時間 | 16:20、両手にミトンを開始 |
| 実施中の観察 | 院内指針および患者状態に応じて、表情・苦痛、体動、皮膚・循環状態等を確認 |
| 再評価 | 17:00再評価。離床行動は減少したが、点滴ルートへ手を伸ばす行動を認める |
| 解除検討 | 見守り下で解除トライを実施。再びルートへ接触する行動を認めたため、代替策と解除可能性を再検討 |
| 共有 | 次勤務者へ、実施理由、代替策、現在の所見、解除検討状況、次回評価について申し送り |
この例で重要なのは、「ミトンを使用した」という結果だけを残すのではなく、実施前の状況 → 代替策 → 実施理由 → 再評価 → 解除検討まで経過をつなげることです。
身体拘束記録の書き方|「不穏」「継続」だけで終わらせない
記録が短いこと自体が問題なのではありません。避けたいのは、後から読んだ職員が、患者の状態や判断根拠を追えない記録です。
| 場面 | 抽象的な書き方 | 具体化する書き方 |
|---|---|---|
| 心身の状況 | 不穏あり | ベッドからの離床を繰り返し、点滴ルートへ手を伸ばす行動を認める |
| 必要性 | 危険なため拘束 | 離床時のふらつきとルート接触があり、転倒・自己抜去による身体への危険がある |
| 代替策 | 対応したが改善なし | 排泄確認、環境調整、声かけ、見守り強化を実施したが、離床・ルート接触が継続 |
| 再評価 | 継続 | 17:00再評価。離床は減少したがルート接触が残存しており、代替策と解除可能性を引き続き検討する |
| 共有 | 申し送り済み | 次勤務者へ実施理由、現在の所見、解除検討状況、次回評価について共有 |
観察頻度は「30分ごと」などに全国一律で固定しない
身体的拘束実施中の観察は重要ですが、本記事では「30分ごと」など特定の間隔を全国一律の基準として示しません。観察頻度・タイミングは、自施設の身体的拘束最小化指針、拘束の態様、患者の全身状態、二次的な身体障害のリスクなどに応じて設定します。
「定期的に観察」の一文だけで済ませるのではなく、自施設で定めた方法に沿って、必要な状態変化を追えるようにします。
- 表情、苦痛、不快感
- 体動、拒否、興奮などの変化
- 皮膚状態、圧迫、循環障害の有無
- 呼吸状態や全身状態
- 身体的拘束を継続する必要性が残っているか
状態が変化した場合は、予定した次回評価時刻だけにとらわれず、必要に応じて再評価し、解除・代替策や多職種への相談につなげます。
再評価では「継続」だけでなく解除に向けた判断を残す
身体的拘束は、実施した時点の判断だけで終わらせず、現在も必要か、身体的拘束以外の方法へ変更できないか、解除できないかを継続して検討することが重要です。
再評価では、次担当者が現在の判断を追えるよう、少なくとも以下を整理しておくと実務上使いやすくなります。
- 再評価した時刻
- 患者の状態がどう変化したか
- 継続・解除・解除トライのどれを判断したか
- その判断根拠
- 解除トライを行った場合の反応
- 次に評価するタイミング
「解除条件」は入院料通則で示された記録文言そのものではありませんが、次担当者が解除可能性を再検討するための実務情報として役立ちます。
たとえば、「落ち着いたら解除」だけではなく、「ルートへ手を伸ばす行動がみられず、見守りや声かけで安全を確保できる状態であれば解除を再検討する」のように、観察できる状態へ置き換えると判断を共有しやすくなります。
身体拘束の当日記録|最後に確認する8項目
記録を書き終えたら、文章量ではなく、実施理由から解除・再評価まで経過を追えるかを確認します。
- 態様が具体的に記録されている
- 開始から解除・終了まで時間を追える
- 患者の心身の状況が抽象語だけになっていない
- 緊急やむを得ない理由が記録されている
- 身体的拘束以外に検討・実施した方法と結果を追える
- 実施中の観察と安全確認を追える
- 再評価結果と継続・解除に向けた判断を追える
- 次担当者へ必要な情報が共有されている
次の一手
この記事では、身体的拘束を実施した当日に何を記録し、解除・再評価までどう追うかに範囲を絞りました。2026年度の身体的拘束最小化基準や減算、認知症ケア加算での身体的拘束実施日の扱いは、それぞれ別記事で確認してください。
- 制度全体を確認する:身体拘束最小化【2026改定】|体制基準・実績等基準と減算
- 認知症ケア加算の算定を確認する:認知症ケア加算|身体的拘束実施日の20%算定と記録
参考文献・公式資料
- 厚生労働省.令和8年度診療報酬改定 III-1-1 身体的拘束の最小化の推進-①.2026.公式PDF
- 厚生労働省.医科診療報酬点数表に関する事項.A235 身体的拘束最小化推進体制加算.2026.公式PDF
※診療報酬、施設基準、通知、疑義解釈等は改定により取扱いが変更される場合があります。実際の運用では、対象時点の厚生労働省資料、地方厚生局の案内、自施設の身体的拘束最小化指針・手順書をあわせて確認してください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

