経過表・グラフで “伝わる” こと
症例発表で一番もったいないのは、良い介入をしているのに結果が 5 秒で伝わらないことです。経過は文章で説明するより、前・中・後で区切った経過表と、読み取りやすいグラフ 1 つにまとめるだけで、聞き手の理解が一気に揃います。
この記事は、症例発表の経過を 1 枚で見える化するための「列設計(経過表テンプレ)」「グラフの型」「指標別テンプレ」をまとめます。症例発表の全体像(総論)は 症例発表の作り方まとめで先に押さえると、表とグラフの役割がブレません。
アウトカムは 2〜 3 個に絞る
経過表・グラフが読めない原因の多くは、デザインではなく指標が多すぎることです。基本は主アウトカム 1 個に、介入の狙いを裏づける補助アウトカム 1〜 2 個までに絞ります。
迷ったら、①主アウトカム=患者のゴールに直結(例:歩行、 ADL 、食事)を選び、②補助アウトカム=主アウトカムが変わる理由(例:耐久性、疼痛、呼吸困難、嚥下安全性)を 1 つ足します。指標を増やすより、測定条件(体位・補助具・介助量)を揃えるほうが発表の説得力が上がります。
経過表テンプレ|列設計の型(前・中・後)
経過表は「いつ・何を・どれくらい」で読み手の視線を誘導します。列は増やさず、前・中・後の 3 点を固定して、差分が見える形にします。
スマホでは横スクロールで確認してください。
| 項目 | 前(介入開始) | 中(方針変更 / 節目) | 後(退院前 / 終了時) | 測定条件(固定) |
|---|---|---|---|---|
| 主アウトカム | 例: 10 m 歩行 18.2 秒 | 例: 10 m 歩行 14.0 秒 | 例: 10 m 歩行 11.6 秒 | 例:杖あり / 介助なし / 靴あり |
| 補助アウトカム 1 | 例: TUG 24.0 秒 | 例: TUG 19.5 秒 | 例: TUG 16.0 秒 | 例:同一椅子高 / 起立介助なし |
| 補助アウトカム 2 | 例:疼痛 NRS 6 | 例:疼痛 NRS 4 | 例:疼痛 NRS 2 | 例:歩行直後 / 安静時など条件を明記 |
| 介助量(臨床的意味) | 例:移乗 中等度介助 | 例:移乗 軽介助 | 例:移乗 見守り | 例:同一場面(ベッド→車いす)で判定 |
| メモ(介入の節目) | 例:疼痛で負荷上げられず | 例:負荷設定を変更 | 例:自己練習へ移行 | 例:節目は 1 行だけ |
グラフ化の型|折れ線・棒・スコア推移
グラフは「良さそう」を演出するためではなく、変化の方向と大きさを一目で伝えるために使います。経過表が読めていれば、グラフは 1 つで十分です。
| 型 | 向いている指標 | 良い見せ方 | 避けたいこと |
|---|---|---|---|
| 折れ線(推移) | 歩行速度、歩行距離、呼吸困難、疼痛など | 前・中・後の 3 点だけでも OK | 点が多すぎて「日誌」になる |
| 棒( Before / After ) | FIM 、 BI 、簡易スコア、回数など | 差分が強調され、 5 秒で伝わる | 中間点を無理に入れて棒が増える |
| スコア推移(段階) | 食形態レベル、介助量(自立度)など | 段階が上がった事実を明確にする | 尺度の意味説明がなく数値だけ並ぶ |
指標別テンプレ(歩行/ ADL /嚥下 など)
ここでは、よく使う 3 パターンの「主+補助」の組み合わせ例を提示します。あなたの症例に近いものを選び、経過表テンプレに当てはめるだけで形になります。
| 領域 | 主アウトカム(例) | 補助アウトカム(例) | 結果の言い方( 1 行例) |
|---|---|---|---|
| 歩行・バランス | 10 m 歩行 / 6 分間歩行 | TUG /転倒リスク所見( 1 つ ) | 歩行の速さ(または距離)が上がり、移動の介助量が減った |
| ADL | FIM / BI (合計より関連項目) | 移乗・更衣など核心 1〜 2 項目 | ADL の自立度が上がり、退院後の介助負担が減った |
| 嚥下(食事) | 食形態レベル(施設の運用指標) | 誤嚥リスク所見(例:むせ・湿性嗄声) | 食形態が上がり、誤嚥リスク所見が減って食事が安定した |
変化の解釈は “要因 2 点” まで
経過表とグラフが揃うと、「なぜ変わったか」を言いたくなります。ここで要因を増やすと、聞き手は逆に迷います。解釈は要因 2 点までに絞ると、発表が締まります。
おすすめは、①最も効いた要因(核の介入)と、②それを支えた要因(環境・負荷設定・頻度など)の 2 つです。最後に限界 1 点(症例の条件依存)を添えると、質疑で崩れにくくなります。
よくある失敗(表が読めない/指標が多すぎる)
見える化がうまくいかない原因は、グラフのセンスではなく「ルールがないこと」です。下の表で、ありがちな失敗を先に潰しておくと再現性が上がります。
| 失敗 | 起きる理由 | 直し方(最小) | チェック |
|---|---|---|---|
| 指標が 6 個以上 | 測ったものを全部載せたくなる | 主 1+補助 1〜 2 に固定 | 5 秒で「何が変わったか」言えるか |
| 前・中・後が曖昧 | 日付の羅列になる | 節目を 3 点に決める(開始 / 変更 / 終了) | 中の点は「方針変更の前後」になっているか |
| 測定条件が書いてない | 数値だけで伝わると思う | 補助具・介助量・体位を 1 列で固定 | 同じ条件で比較できるか |
| 文章で経過説明 | 表にするのが面倒 | 経過表 1 枚+グラフ 1 つにする | 視線の動きが「表→グラフ→まとめ」になっているか |
| グラフが 3 つ以上 | 全部グラフ化したくなる | 主アウトカムだけをグラフ化 | グラフは 1 つで結論が言えるか |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
「中(中間)」は必ず必要ですか?
必須ではありませんが、方針変更や節目がある症例では強い武器になります。「中」は日付の真ん中ではなく、介入の狙いが変わった前後に置くと、結果の説得力が上がります。節目がない場合は前・後の 2 点でも成立します。
表とグラフ、どっちを優先すべきですか?
基本は経過表が先です。表で「いつ・何が・どれくらい」を揃えると、グラフは 1 つで済みます。グラフだけだと測定条件や介助量などの情報が落ちやすいので、表で支えるのが安全です。
FIM や BI は合計点を出したほうがいいですか?
合計点より、症例のストーリーに直結する関連項目( 1〜 3 項目 )を優先すると伝わりやすいです。合計点は変化が小さく見えることがあるため、介助量が変わった項目を主役にすると、臨床的意味が出ます。
グラフの点を増やすと良く見えますか?
増やしすぎると「経過日誌」になって読み手が疲れます。基本は前・中・後の 3 点で十分です。どうしても増やすなら、測定タイミングを「週 1」などに固定して、点の意味が揃うようにします。
次の一手
見える化ができたら、次は「スライドの見出し(章タイトル)」を固定すると、発表全体が一気に安定します。
- 症例発表の全体像(総論):症例発表の作り方まとめ
- 章タイトルで迷わない(子 1):症例発表スライド 10 枚の見出しテンプレ
- 題名( 1 行 )を型で作る:学会抄録タイトルの付け方|題名テンプレ
参考文献
- Gagnier JJ, et al. The CARE guidelines: consensus-based clinical case reporting guideline development. J Clin Epidemiol. 2014;67(1):46-51. PubMed
- Riley DS, et al. CARE guidelines for case reports: explanation and elaboration document. J Clin Epidemiol. 2017;89:218-235. PubMed
- Alley M. The Craft of Scientific Presentations. 2nd ed. Springer; 2013. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


