肩甲骨内側縁の触診ポイント【結論】
肩甲骨内側縁の触診は、単に「背中の内側の骨を触れたか」を確認するための手技ではありません。肩甲骨のどこに圧痛があるのか、肩甲骨内側縁そのもの、肩甲棘、上角、下角、あるいはその周囲筋のどこに問題が近いのかを整理するための起点として使うと、評価の迷いが減ります。
特に新人のうちは、肩甲骨内側の痛みや違和感を「背中の内側が痛い」で終わらせやすいです。肩甲骨内側縁を基準に位置関係を取れるようになると、そのあとに肩甲棘、上角、下角、肩甲骨の傾きや内外転へと評価をつなげやすくなります。肩甲骨後面のランドマークを先に整理したい場合は、肩甲棘の触診ポイントもあわせて読むと流れがつかみやすいです。
評価がばらつくときほど、最初に「骨性ランドマーク」を固定すると進めやすいです。
臨床の見方や評価の組み立てをまとめて確認したい方は、PT 向けの総合ガイドもあわせてどうぞ。
肩甲骨内側縁とはどこか
肩甲骨内側縁は、肩甲骨の脊柱側を縦方向に走る骨性ランドマークです。上では上角、中央では肩甲棘の内側端と交わり、下では下角へ続きます。触診では「背骨にいちばん近い肩甲骨の縦の線」として捉えると理解しやすくなります。
触診で大切なのは、「肩甲骨の内側の硬い所を何となく押す」ことではありません。肩甲棘が横方向の線、肩甲骨内側縁が縦方向の線、下角がその終点という位置関係を立体的にイメージしておくことが、現場での再現性につながります。
なぜ肩甲骨内側縁を触診するのか
肩甲骨内側縁を触診する意義は、肩甲骨周囲の症状を整理しやすい点にあります。肩甲骨内側の痛みでは、内側縁そのものの圧痛、菱形筋群や肩甲挙筋周囲の違和感、肩甲棘方向の症状、下角方向の張り感が混ざることがあります。そのとき、肩甲骨内側縁を基準にして「ここが一番痛いのか」「少し上の上角寄りなのか」「少し下の下角寄りなのか」を見ていくと、次にみる評価が決まりやすくなります。
ただし、肩甲骨内側縁の圧痛だけで診断を決めることはできません。肩甲骨内側の症状は筋由来、姿勢要因、肩甲胸郭機能の問題、頸部からの関連痛などが重なることがあるため、触診は断定ではなく、他の所見へつなぐための入口として使うのが基本です。
触診前に整えること
基本肢位は座位が行いやすく、上肢は体側で軽く下垂させます。肩に余計な力が入っていると僧帽筋や菱形筋群の緊張が強くなり、肩甲骨内側縁の輪郭が分かりにくくなります。患者に「肩の力を抜いてください」と一言かけるだけでも、骨の縦の線を追いやすくなります。
また、いきなり圧痛部位を押しに行くより、左右ともに肩甲棘の内側端から下方へ、あるいは下角から上方へと連続してたどる方が精度は上がります。肩甲骨内側縁は肩甲骨全体の向きをみる基準線になるため、最初にここを丁寧に取っておくと、そのあとの触診が安定しやすいです。
肩甲骨内側縁の触診手順
触診は「肩甲棘の内側端を先に確認する」「そこから下方へ縦の線をたどる」「上角・下角とのつながりを再確認する」の順で進めると迷いにくいです。肩甲骨内側縁は「肩甲棘から下角へ続く縦方向の骨の線」として捉えると、再現性が上がります。
1.肩甲棘の内側端を先に確認する
最初に肩甲棘を内側へたどり、その内側端を確認します。肩甲棘は比較的触れやすい横方向の骨の線なので、ここを起点にすると肩甲骨内側縁の位置を取りやすくなります。いきなり縦方向の線だけを探すより、まず分かりやすい交点を取る方が迷いにくいです。
2.そこから下方へ縦の線をたどる
肩甲棘の内側端を取ったら、そこから下方へゆっくり指を進めて、縦に走る骨の線を追います。この線が肩甲骨内側縁です。表層の筋を押しているだけだと面でしか感じにくいですが、骨の縁では比較的限局した稜線として感じやすくなります。
3.上角・下角とのつながりを再確認する
肩甲骨内側縁を疑う位置に触れたら、上方では上角方向、下方では下角方向へ軽くたどって、どこまで続いているかを確認します。肩甲骨内側縁が「どこからどこまでの線なのか」を整理できると、肩甲骨全体のランドマークがかなり安定します。もちろん 1 回で決め打ちせず、左右差と再現性を必ず見ます。
触れたあとに確認したいポイント
触れたら終わりではなく、その所見が症状と本当に関係しているかを確認します。具体的には、「内側縁そのものが一点で痛いのか」「少し表層の筋の張りとして痛いのか」「上角や下角方向まで広がるのか」を見ます。圧痛があるだけでは関連所見にすぎないことも多く、位置関係のズレを見分ける方が実践的です。
また、肩の挙上や肩甲骨の内外転、上方回旋・下方回旋で痛みがどう変わるかも重要です。内側縁そのものの圧痛なのか、周辺筋や肩甲骨運動の問題に近いのかを動きと合わせて読むと、触診で得た情報を次の評価へつなげやすくなります。
よくある失敗
肩甲骨内側縁の触診でつまずく原因の多くは、「背中の内側の硬い所をそのまま肩甲骨内側縁と決める」ことです。内側は脊柱起立筋群や僧帽筋、菱形筋群とも近いため、「縦に走る骨の線」として整理しないと迷いやすくなります。
| よくある失敗 | 実際に起きていること | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 背中の内側の痛い所をそのまま押している | 局在把握なしに圧痛だけを見ている | 先に肩甲棘の内側端を取り、そこから下方へ骨の線をたどる |
| 肩甲棘と混同する | 横方向の骨を触っている | 肩甲棘は横方向、内側縁は縦方向という向きの違いを意識する |
| 脊柱近くの筋を骨だと思っている | 脊柱起立筋群や菱形筋群の緊張を拾っている | 表層から徐々に深さを合わせ、限局した骨の縁を感じる |
| 下角と線の途中を分けていない | 点のランドマークだけを触っている | 上角・下角へつながる線として確認する |
| 1 回で決め打ちする | 再現性が低く、別部位を触っていても気づきにくい | 上下の位置関係を軽く追い、左右差もみる |
肩甲骨内側縁周囲の痛みをどう読むか
肩甲骨内側縁周囲の圧痛は、肩甲骨周囲の局在を整理するきっかけになります。特に内側縁に沿った限局圧痛があるときは、その骨周囲や付着筋の問題を考えやすくなります。一方で、より広い範囲の張りや重だるさでは、僧帽筋・菱形筋群・肩甲挙筋や姿勢要因も鑑別に入ります。
そのため、肩甲骨内側縁で痛みが再現されたら、次は肩甲棘方向の圧痛、上角・下角方向の圧痛、肩の挙上での症状変化、肩甲骨運動の左右差などをあわせて確認します。必要に応じて頸部や胸郭の動きも組み合わせて読む視点が大切です。
次にみる評価
肩甲骨内側縁を触診したあとに、そのまま評価を広げる流れを持っておくと実践的です。まず確認しやすいのは、肩関節の自動・他動 ROM、肩甲骨の内外転、上方回旋や下方回旋、上角・下角方向の圧痛です。さらに、肩甲骨全体の位置や左右差もみておくと、局所所見と全体所見がつながりやすくなります。
また、肩甲骨周囲の症状では肩甲棘、肩甲骨内側縁、下角の位置関係が重要です。点で見るより「どこに近いか」で整理すると、評価の再現性が上がります。
現場の詰まりどころ
肩甲骨内側縁はイメージしやすそうで、実際には筋を骨だと思ってしまいやすい部位です。痩せ型では比較的触れやすい一方で押しすぎやすく、筋量が多い症例や疼痛が強い症例では表層の緊張に引っ張られやすくなります。触れたこと自体よりも、「そこから肩甲棘と下角へ分けられるか」を意識する方が上達しやすいです。
もう 1 つの詰まりどころは、内側縁を短い一部分でしか覚えないことです。肩甲棘から下角へ続く線として覚える方が、実際の触診ではぶれにくくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
肩甲骨内側縁がどうしても分からないときはどうしますか?
いきなり背中の内側を探るのではなく、まず肩甲棘の内側端を確認し、そこから下方へたどると内側縁を捉えやすくなります。交点から縦の線へ移る意識がコツです。
肩甲骨内側縁と肩甲棘はどう見分けますか?
肩甲棘は横方向の線、肩甲骨内側縁は縦方向の線として触れやすいです。交わる位置を先に取ると、向きの違いで見分けやすくなります。
肩甲骨内側縁の圧痛があれば筋の問題ですか?
筋由来のことは多いですが、圧痛だけで断定はできません。骨周囲の圧痛、肩甲骨運動、頸部や胸郭の動きもあわせてみる方が実践的です。
新人は何とセットで覚えるとよいですか?
肩甲棘、下角、肩甲骨全体の位置関係とセットで覚えると整理しやすいです。肩甲骨後面を「肩甲棘 → 内側縁 → 下角」と流れで覚えると、触診の再現性が上がります。
次の一手
この記事を読んだあとに現場で試すなら、まずは健側で「肩甲棘の内側端を取る → そこから下方へたどる → 下角方向まで再確認する」の流れを 3 回ほど繰り返してみてください。肩甲骨内側縁を線として捉えられるようになると、肩甲棘や下角との見分けも安定しやすくなります。
肩甲骨まわりの触診を連続で整理したい方は、肩甲棘の触診ポイントや、次に読む候補としての下角の記事もつながりやすいです。評価の全体像を戻り先として持っておきたい方は、評価ハブも起点にしてみてください。
参考文献
- Miniato MA, Varacallo M. Anatomy, Thorax, Scapula. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023-. NCBI Bookshelf
- Cowan PT, et al. Anatomy, Back, Scapula. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023-. NCBI Bookshelf
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- Woodward TW, Best TM. The Painful Shoulder: Part I. Clinical Evaluation. Am Fam Physician. 2000;61(10):3079-3088. AAFP
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


