10MWTとTUGの違い【比較】|使い分け・順番・次の一手
10MWT と TUG は、どちらも短時間で取りやすい歩行・移動系の評価ですが、見ているものは同じではありません。10MWT は歩行速度を m/s で定量化し、介入前後の変化や歩行能力の層別化に向いています。一方の TUG は、起立 → 歩行 → 方向転換 → 着座を 1 セットでみるため、移動全体の安全性や実用性を捉えやすい評価です。
現場で迷いやすいのは、「どちらが優れているか」ではなく、どちらを先に使うか、何を見たい場面で選ぶか、結果のあとに何を追加するかです。歩行・バランス評価の全体像は 歩行・バランス評価ガイド で整理できますが、本記事では比較検索に絞って、10MWT と TUG の違い・使い分け・順番・次の一手を実務目線でまとめます。
10MWT と TUG の違いは「歩行速度」か「移動全体」かです
10MWT と TUG のいちばん大きな違いは、どちらもタイムを扱う評価であっても、課題の中身と意味が違うことです。10MWT は一定距離を歩いた時間から歩行速度を算出するため、速度の変化を追いやすく、経時変化やアウトカム評価に向いています。速度という 1 つの軸で見られるぶん、介入前後の比較に使いやすいのが特徴です。
一方の TUG は、椅子から立ち上がり、歩き、方向転換し、戻って座るまでを計時するため、歩行だけでなく起立・方向転換・着座まで含めた移動全体を見やすい評価です。つまり、10MWT は「速度寄り」、TUG は「移動全体寄り」と整理すると、選び方がかなり楽になります。
まず比較表|10MWT と TUG の違いを 1 分で整理
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 10MWT | TUG |
|---|---|---|
| 主な目的 | 歩行速度の定量化 | 移動全体の安全性・実用性の把握 |
| 課題 | 一定距離を歩いて速度を算出する | 起立 → 3 m 歩行 → 方向転換 → 着座 |
| 主指標 | 歩行速度(m/s) | 所要時間(秒) |
| 見やすい所見 | 速度低下、歩幅低下、補助具込みの歩行能力 | 立ち上がり、方向転換、着座を含む移動の破綻場面 |
| 向いている場面 | 介入前後の変化を定量的に追いたいとき | 初回に移動全体を手早く見たいとき |
| 実務上の位置づけ | 速度の主役評価 | 移動全体の主役評価 |
| 次の一手 | 耐久・バランス・生活移動評価へ広げる | 歩行速度や静的バランスの追加評価を決める |
この表で大事なのは、同じ「歩行・移動系」でも、10MWT と TUG は役割が違うことです。10MWT は速度という単一指標に強く、TUG は起居移動を含めた実用場面に強い、という違いがあります。比較記事では、どちらが上かではなく、「今知りたいことに対して主役がどちらか」を決めることが価値になります。
10MWT が向いている場面|歩行速度を主役で見たいとき
10MWT が向いているのは、歩行速度を主役にして定量評価したい場面です。たとえば、歩行能力の層別化、退院前の歩行能力把握、介入前後の変化確認、外来フォローでの改善 / 悪化の見える化などでは、m/s で残せる 10MWT が使いやすいです。数字として比較しやすいため、同一患者の再評価やチーム共有にも向いています。
また、10MWT は「速く歩けるか」だけでなく、生活場面でどの程度の移動能力があるかを考える入口にもなります。歩行速度は歩行アウトカムの代表指標なので、持久性や方向転換の課題と切り分けながら考えたいときに便利です。速度そのものを追いたい場面では、TUG より 10MWT のほうが目的に合いやすいです。
TUG が向いている場面|起立・歩行・方向転換・着座をまとめて見たいとき
TUG が向いているのは、初回に移動全体を短時間で見たい場面です。起立・歩行・方向転換・着座まで 1 セットで見られるため、歩行速度だけでは拾いにくい「どこで危ないか」を把握しやすいです。特に、方向転換でふらつく、着座で勢いが強い、立ち上がりで時間がかかるといった所見は、TUG のほうが見つけやすくなります。
そのため TUG は、転倒不安がある人、移動自立の見立てを急ぎたい人、病棟や外来の初回評価と相性がよいです。時間だけを見るのではなく、どの場面で破綻したかを一緒に残すと、次に何を追加評価すべきかが決めやすくなります。
先にやる順番|迷ったら TUG → 10MWT でそろえると判断が安定します
順番に迷ったら、基本は TUG → 10MWT でそろえると判断が安定します。先に TUG を行うと、移動全体のどこで課題があるかを短時間で把握できるため、そのあとに「速度を詳しく見たいから 10MWT を足す」「方向転換が怪しいから別のバランス評価を足す」といった追加評価が決めやすくなります。
この順番の利点は、いきなり速度だけで判断しないことです。10MWT は速度の把握には強いですが、立ち上がりや着座、方向転換の情報は薄くなります。初回に全体像を見たい場面では、まず TUG、そのあと必要に応じて 10MWT で速度を定量化する流れのほうが実務では回しやすいです。
どこで使い分けるか|速度・転倒・生活移動で整理する
速度を定量化して経時変化を追いたいなら、10MWT が向いています。m/s で残せるため、歩行練習の前後比較、退院前後の追跡、外来での介入効果確認など、変化を見る場面で価値が出やすいです。
転倒リスクや移動全体の不安定さをざっくり層別化したいなら、TUG が向いています。起立・歩行・方向転換・着座をまとめて見られるため、「どこが危ないか」を短時間で拾いやすくなります。速度だけ速くても方向転換や着座で不安定な場合は、TUG のほうが実際の移動場面に近い情報を出しやすいです。
生活移動の実用性を考えたいときも、まず TUG が使いやすいです。一方で、屋内外移動や外出レベルの見立てを速度の軸で整理したいなら、10MWT を追加すると解釈しやすくなります。整理すると、初回の主役は TUG、速度の定量化や経時変化の主役は 10MWT です。
よくある失敗|タイムだけで選ばない
スマホでは表を横スクロールできます。
| 場面 | NG | OK | 理由 |
|---|---|---|---|
| 結果の解釈 | どちらもタイム評価だから同じ意味で扱う | 速度を見る検査と移動全体を見る検査を分ける | 10MWT と TUG は課題の中身が違うため |
| 初回評価 | 最初から 10MWT だけで全体を決め切る | 迷ったら TUG で全体を見てから追加評価を決める | 速度だけでは方向転換や着座の問題を拾いにくいため |
| 条件固定 | 距離、合図、補助具条件が毎回違う | コース、合図, 補助具、試行条件をそろえる | 再評価とスタッフ間共有の精度が上がるため |
| 記録 | 数値だけ残して質的所見を書かない | ふらつき、方向転換、歩幅、着座などを 1 行で残す | 次の一手が決まりやすくなるため |
現場で多いのは、タイムだけを見て「速い・遅い」で終えることです。実際には、10MWT なら速度の変化、TUG なら破綻した場面まで一緒に見たほうが次の介入につながります。比較記事では、数字の暗記よりも役割の違いを共有言語にすることが大切です。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
TUG があれば 10MWT は不要ですか?
不要とは言い切れません。TUG は移動全体を見るのに向いていますが、歩行速度を m/s で定量化して経時変化を追うには 10MWT のほうが使いやすいです。TUG で全体像を見たあとに、速度を詳しく見たいときに 10MWT を足す流れが実務では組みやすいです。
10MWT を先にやってはいけませんか?
もちろん場面によっては先でも大丈夫です。速度の変化を主目的にしているときや、歩行アウトカムを主役で追いたいときは 10MWT を先に置くのが自然です。ただ、初回に全体像を見たい場面では TUG を先にしたほうが追加評価を決めやすくなります。
カットオフはどちらを優先して覚えればいいですか?
まずは用途と一緒に覚えるのがおすすめです。TUG は移動全体の層別化、10MWT は歩行速度の解釈に使うので、同じ「タイム」でも意味が違います。数字だけ暗記するより、「何を見た数値か」とセットで覚えたほうが臨床では使いやすいです。
初回の最小セットはどう組めばいいですか?
臨床で回しやすいのは、まず TUG で全体像を見て、必要に応じて 10MWT や静的バランスを追加する形です。速度を主役にしたいケースでは 10MWT を前に置いてもよいですが、迷ったら「全体 → 速度」の順にすると整理しやすくなります。
次の一手|単体記事と総論につないで運用を固める
比較で役割の違いがつかめたら、次は単体手順と全体フローをつなぐと理解が定着します。まず全体像を 1 本で整理したい場合は 運動機能(歩行・バランス)評価ハブ、評価の選び方と条件固定を見直したい場合は 歩行・バランス評価ガイド が入口になります。
そのうえで、10MWT の測り方や解釈をそろえたいときは 10m歩行テスト(10MWT)のやり方、移動全体の評価として TUG を整理したいときは TUG テストのやり方、歩行速度と歩行耐久の違いまで広げたいときは 10MWT と 6MWT の違い を続けて読むのがおすすめです。
参考文献
- Collen FM, Wade DT, Bradshaw CM. Mobility after stroke: reliability of measures of impairment and disability. Int Disabil Stud. 1990;12(1):6-9. / PubMed
- Fritz S, Lusardi M. White paper: “walking speed: the sixth vital sign”. J Geriatr Phys Ther. 2009;32(2):46-49. doi: 10.1519/00139143-200932020-00002 / PubMed
- Middleton A, Fritz SL, Lusardi M. Walking speed: the functional vital sign. J Aging Phys Act. 2015;23(2):314-322. doi: 10.1123/japa.2013-0236 / PubMed
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x / PubMed
- Centers for Disease Control and Prevention. Timed Up and Go (TUG). STEADI Clinical Resources. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

