尺骨茎状突起は手首の小指側にある骨性ランドマークです
尺骨茎状突起は、尺骨遠位端から突出する骨性ランドマークで、手首の小指側から触れます。触診では、目立ちやすい尺骨頭と混同せず、尺骨骨幹を遠位へたどって小さな突出を確認することが重要です。この記事では、新人PT・OT向けに、尺骨茎状突起の位置、触診手順、橈骨茎状突起との違い、尺側手関節痛を確認するときの注意点、記録例までを実務に使える形で整理します。
この記事でわかること
- 尺骨茎状突起の位置
- 尺骨頭と見分ける触診手順
- 橈骨茎状突起との違い
- 尺側手関節痛で確認するポイント
- 再評価に使える記録方法
尺骨茎状突起はどこにある?
尺骨茎状突起は、尺骨遠位端の尺側から突出し、手首の小指側で触れられる小さな骨性隆起です。
手関節周囲では、尺骨頭、遠位橈尺関節、TFCCなどに近接しています。手首の小指側にある骨の出っ張りをすべて尺骨茎状突起と考えるのではなく、周囲の位置関係を確かめながら触れることが大切です。

位置を探すときの3つの目印
- 手首の小指側にある
- 前腕の尺骨を遠位へたどった先にある
- 尺骨頭の近くにある小さな骨性突出として触れる
尺骨頭と尺骨茎状突起の違い
触診で最も混同しやすいのは、丸みのある尺骨頭を尺骨茎状突起と判断することです。
尺骨頭は尺骨遠位端の比較的大きく丸みのある部分です。一方、尺骨茎状突起は尺骨頭の近くにある、より小さく限局した骨性突出です。

| 確認する部位 | 触れ方 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 尺骨頭 | 比較的大きく、丸みのある骨性部として触れる | 前腕の回内外に伴う位置関係の変化を確認しやすい |
| 尺骨茎状突起 | 尺骨頭の近くにある小さく限局した突出として触れる | 指腹で周囲をなぞり、突出の輪郭を確認する |
最初から一点を探すよりも、尺骨骨幹から遠位端へたどり、尺骨頭と茎状突起の両方を確認すると位置関係を整理しやすくなります。
尺骨茎状突起の触診方法
尺骨茎状突起は、前腕を安定させ、尺骨骨幹を遠位へたどると再現性高く確認できます。
STEP1:前腕を中間位から軽度回内位にする
対象者を座位または背臥位とし、前腕と手を支持します。前腕は中間位から軽度回内位とし、手関節を力ませないようにします。
肢位によって尺骨遠位端の見え方や触れ方が変わるため、左右を比べるときは同じ肢位にそろえます。
STEP2:前腕の小指側で尺骨を確認する
前腕の小指側に指腹を当て、硬い尺骨の輪郭を確認します。手首だけを探すのではなく、触れやすい尺骨骨幹を基準にすることがポイントです。
STEP3:尺骨を遠位へたどる
尺骨の輪郭を手関節方向へゆっくりたどります。遠位端に近づくと、丸みのある尺骨頭と、その近くにある小さな骨性突出を確認できます。
STEP4:小さな突出の輪郭を確かめる
指腹を軽く動かして、周囲より硬く限局した突出を確認します。この突出が尺骨茎状突起です。
強く押し込む必要はありません。まず軽い圧で骨の輪郭を確認し、圧痛を調べる場合も対象者に痛みの程度を確認しながら行います。
STEP5:前腕回内外と左右差を確認する
触れた位置を保ちながら、可能であれば前腕をゆっくり回内・回外してもらいます。尺骨頭、茎状突起、周囲の腱や軟部組織の触れ方の違いを確認します。
反対側も同じ肢位・同じ圧で触れ、突出の形、圧痛、腫脹、動作時痛の左右差を比べます。
30秒で確認する触診フロー
- 前腕を中間位から軽度回内位にする
- 前腕の小指側で尺骨骨幹を触れる
- 尺骨を遠位へたどる
- 尺骨頭の近くにある小さな突出を確認する
- 同じ条件で左右差を比較する
触診できたか判断するポイント
触診は「硬い場所に触れた」だけで終わらせず、位置・輪郭・周囲構造との関係をそろえて判断します。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 位置 | 手首の小指側で、尺骨遠位端にあるか |
| 硬さ | 軟部組織ではなく、明確な骨性の硬さがあるか |
| 輪郭 | 尺骨頭とは異なる、小さく限局した突出を確認できるか |
| 肢位 | 左右で前腕と手関節の肢位をそろえているか |
| 左右差 | 突出、圧痛、腫脹の違いがないか |
| 症状 | 圧迫や回内外、尺屈、荷重で痛みが再現されるか |
橈骨茎状突起との違い
尺骨茎状突起は小指側、橈骨茎状突起は親指側にあるため、手関節の左右方向を基準にすると見分けやすくなります。
| 比較項目 | 尺骨茎状突起 | 橈骨茎状突起 |
|---|---|---|
| 位置 | 手首の小指側 | 手首の親指側 |
| 骨 | 尺骨遠位端 | 橈骨遠位端 |
| 近接する主な構造 | 尺骨頭、TFCC、遠位橈尺関節 | 第1背側コンパートメント、舟状骨 |
| 臨床での主な使い道 | 尺側手関節痛、外傷後、遠位橈尺関節周囲の位置確認 | 橈側手関節痛、ドケルバン病周囲、橈側構造の位置確認 |
橈骨側のランドマークもあわせて練習する場合は、橈骨茎状突起の位置と触診方法で確認できます。
尺骨茎状突起が触れないときの原因
尺骨茎状突起が分からない場合は、手首だけを探すのではなく、基準点と触れる条件を見直します。
手背側を広く探している
手背全体を探すと、手根骨や腱との区別がつきにくくなります。まず前腕の小指側で尺骨骨幹を確認し、そのまま遠位へたどります。
尺骨頭を尺骨茎状突起と判断している
大きく丸い骨性部だけを触れている場合は、尺骨頭を触れている可能性があります。その周囲を指腹でなぞり、より小さく限局した突出を探します。
指先で強く押しすぎている
指先で一点を強く押すと、輪郭が分かりにくくなり、痛みも誘発しやすくなります。最初は指腹を広く当て、軽い圧で骨の縁を確認します。
前腕の肢位が左右で異なる
前腕の回内外によって尺骨遠位端の見え方や触れ方が変わります。左右比較では、肘関節、前腕、手関節の肢位をそろえます。
腫脹や軟部組織の影響がある
外傷後の腫脹、皮下組織の厚さ、疼痛による防御収縮などで触れにくいことがあります。強く押して探さず、視診、左右差、受傷機転、画像所見なども含めて判断します。
臨床で尺骨茎状突起を確認する場面
臨床では、尺骨茎状突起を診断名に直結させるのではなく、尺側手関節の所見を表現する基準点として使います。
尺側手関節痛の部位確認
手首の小指側が痛む場合は、痛みが尺骨茎状突起上にあるのか、その遠位・掌側・背側にあるのかを整理します。
「手首の小指側が痛い」だけでなく、「尺骨茎状突起の遠位掌側」「尺骨茎状突起背側」など、ランドマークを基準に表現すると申し送りや再評価がしやすくなります。
TFCC周囲の評価
TFCCは尺側手関節と遠位橈尺関節の安定性に関係する複合組織です。尺骨茎状突起は周辺構造の位置関係を整理する目印になります。
ただし、尺骨茎状突起周囲の圧痛だけでTFCC損傷とは判断できません。疼痛部位に加えて、回内外、尺屈、握り動作、手をつく動作など、症状が再現される条件を確認します。
遠位橈尺関節周囲の確認
遠位橈尺関節は前腕の回内外に関係します。尺骨頭と尺骨茎状突起の位置を確認すると、回内外時の突出感、疼痛、クリック感などの部位を表現しやすくなります。
不安定性が疑われる場合は、左右差だけで断定せず、受傷歴、疼痛、可動域、画像所見、医師の診断を含めて判断します。
外傷後の観察
転倒や手関節外傷後には、尺骨茎状突起周囲の圧痛、腫脹、皮下出血、変形、回内外制限を確認します。
強い骨性圧痛、著明な腫脹や変形、外傷後の運動制限がある場合は、触診を繰り返して痛みを増やさず、画像検査や医師の評価につなげます。
装具やスプリントの適合確認
手関節装具やスプリントでは、尺骨茎状突起のような骨突出部に圧が集中しやすくなります。
装着直後だけでなく、一定時間使用した後の発赤、圧痕、痛み、しびれも確認し、必要に応じて除圧や形状調整を行います。
尺骨茎状突起を使った記録例
記録では、部位、確認条件、左右差、症状の再現条件を簡潔に残します。
記録例1:圧痛がない場合
右尺骨茎状突起を触知。局所圧痛・腫脹なし。前腕回内外時の疼痛なし。左側と明らかな差を認めない。
記録例2:尺側手関節痛がある場合
右尺骨茎状突起遠位背側に限局した圧痛あり。前腕回外および手関節尺屈で疼痛が再現。安静時痛なし。左側では同症状を認めない。
記録例3:外傷後の場合
転倒後、左尺骨茎状突起周囲に腫脹と骨性圧痛を認める。前腕回内外は疼痛により制限。強い触診は行わず、医師へ報告した。
「TFCC痛あり」のように組織名を断定するより、まずランドマークを基準に、実際に確認できた部位と誘発条件を記録する方が安全です。
新人が間違えやすいポイント
尺骨茎状突起の触診では、触れる場所だけでなく、所見の解釈にも注意が必要です。
- 大きく丸い尺骨頭を尺骨茎状突起と判断する
- 手首だけを探し、尺骨骨幹を基準にしていない
- 橈骨茎状突起と左右方向を混同する
- 指先で強く押し、輪郭を確認できていない
- 左右で前腕の肢位が異なるまま比較する
- 尺骨茎状突起周囲の痛みだけでTFCC損傷と断定する
- 痛む場所と痛みを誘発する動作を分けて記録していない
療養病棟では、拘縮や浮腫、意思疎通の難しさによって、標準的な肢位での触診や疼痛確認が難しいことがあります。その場合は無理に肢位をそろえず、可能な範囲で骨の位置、腫脹、表情変化、防御反応を確認し、再評価できる条件を記録しておくことが重要です。
関連して確認したいランドマーク
尺骨茎状突起は、近接するランドマークとセットで触れると位置関係が定着しやすくなります。
| ランドマーク | 位置 | 確認する目的 |
|---|---|---|
| 尺骨頭 | 尺骨遠位端の丸みのある部分 | 尺骨茎状突起との混同を防ぐ |
| 橈骨茎状突起 | 手首の親指側 | 橈側と尺側の位置関係を整理する |
| 豆状骨 | 手関節掌側・尺側 | 掌側尺側の圧痛部位を整理する |
| 三角骨周囲 | 近位手根列の尺側 | 尺骨遠位端と手根部を区別する |
| 遠位橈尺関節 | 橈骨遠位端と尺骨頭の間 | 回内外時の症状や位置関係を確認する |
FAQ
尺骨茎状突起はどこにありますか?
尺骨遠位端にある骨性突出で、手首の小指側から触れます。前腕の小指側で尺骨骨幹を確認し、遠位へたどると位置を探しやすくなります。
手首の小指側で一番出っ張っている部分が尺骨茎状突起ですか?
必ずしもそうとは限りません。目立って触れる丸みのある部分は尺骨頭である可能性があります。尺骨茎状突起は、その近くにある、より小さく限局した骨性突出として確認します。
尺骨茎状突起が触れにくいときはどうすればよいですか?
手首だけを探さず、前腕の小指側で尺骨骨幹を触れ、そのまま遠位へたどってください。指先で強く押すより、指腹を使って骨の輪郭をなぞる方が確認しやすくなります。
尺骨茎状突起の圧痛があればTFCC損傷ですか?
圧痛だけではTFCC損傷とは判断できません。圧痛の正確な位置、受傷機転、回内外・尺屈・荷重などでの症状再現、遠位橈尺関節の所見、画像検査などを組み合わせて判断します。
橈骨茎状突起との違いは何ですか?
尺骨茎状突起は手首の小指側にある尺骨の突出、橈骨茎状突起は親指側にある橈骨の突出です。左右方向と、それぞれの骨をたどって確認すると見分けやすくなります。
まとめ
尺骨茎状突起は、尺側手関節の位置や症状を整理するときの基準になる骨性ランドマークです。
- 尺骨遠位端にあり、手首の小指側から触れる
- 尺骨骨幹を遠位へたどると探しやすい
- 丸みのある尺骨頭と、小さな尺骨茎状突起を区別する
- 左右比較では前腕と手関節の肢位をそろえる
- 圧痛だけでTFCC損傷と断定しない
- 部位、左右差、誘発動作を記録に残す
新人PT・OTの方は、尺骨茎状突起だけを一点で覚えるのではなく、尺骨頭、橈骨茎状突起、遠位橈尺関節との位置関係をセットで触診してみてください。
次の一手
骨性ランドマーク全体の位置づけを整理する場合は、まず総論記事を確認し、その後に橈骨側の兄弟記事で左右の違いを比較すると理解しやすくなります。
参考文献
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著者情報
リハビリくん
理学療法士。療養病院での臨床を中心に、身体機能評価、褥瘡・創傷ケア、呼吸リハビリテーション、脳卒中リハビリテーションに携わっています。新人PT・OTが臨床で迷いやすい評価や触診について、現場で再現しやすい手順と記録方法を発信しています。
保有資格:脳卒中認定理学療法士、褥瘡・創傷ケア認定理学療法士、登録理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士、福祉住環境コーディネーター2級。

