悪液質(カヘキシア)とは?慢性疾患を背景とした筋量低下の見分け方
悪液質(カヘキシア)は、慢性疾患と炎症・代謝異常を背景として、骨格筋量や体重、身体機能が進行性に低下する病態です。がんだけでなく、慢性心不全、COPD、慢性腎臓病などでも生じます。
単純な摂取不足や廃用だけでは説明しにくく、栄養を増やすだけ、運動量を増やすだけでは改善しにくい点が特徴です。理学療法士は、体重変化、BMI、握力、炎症反応、浮腫や活動量を組み合わせ、悪液質の可能性を早めに多職種へ共有する必要があります。
この記事では、悪液質の基本的な病態、Fearon、Evans、AWGC 2023の診断・評価の考え方、理学療法士が確認したい評価項目、運動療法を進める際の注意点を整理します。
先に押さえるポイント
- 慢性消耗性疾患を背景とした体重・筋量低下を確認する
- 体重だけでなく、握力・食欲・CRP・体液の影響を組み合わせる
- 運動、栄養、症状緩和、原疾患治療を多職種で進める
栄養スクリーニングからGLIM、初期介入までの運用手順もあわせて確認すると、低栄養と悪液質の評価を現場でつなげやすくなります。
悪液質の病態|炎症と代謝異常が筋量低下を進める
悪液質では、慢性疾患に伴う炎症と代謝異常によって、筋蛋白の分解が合成を上回りやすくなります。
炎症性サイトカインなどの影響により、筋蛋白分解の促進、食欲低下、インスリン抵抗性、エネルギー消費量の変化などが重なります。その結果、十分な栄養を摂取していても、筋量や体重が回復しにくくなる場合があります。
このように、栄養刺激や運動刺激に対する筋蛋白合成反応が低下した状態は、アナボリックレジスタンスとして説明されます。
臨床では、筋力や持久力の低下を「食べられていない」「安静期間が長かった」とだけ判断すると、炎症や原疾患の影響を見落とす可能性があります。摂取量、体重、筋力、炎症反応、疾患の経過を同じ時間軸で確認することが重要です。
悪液質・サルコペニア・飢餓の違い
悪液質は、炎症を伴う代謝異常が中心であり、加齢や活動低下を中心とするサルコペニア、摂取不足を中心とする飢餓とは病態が異なります。
| 比較項目 | 悪液質 | サルコペニア | 飢餓・単純な摂取不足 |
|---|---|---|---|
| 主な背景 | 慢性疾患と炎症・代謝異常 | 加齢、活動低下、疾患 | エネルギー・栄養素の摂取不足 |
| 筋量 | 進行性に低下しやすい | 低下する | 体脂肪の減少後に低下する場合がある |
| 炎症 | 関与しやすい | 必須ではない | 基本的には中心ではない |
| 栄養介入への反応 | 栄養だけでは回復しにくい | 運動と栄養で改善を目指せる | 適切な栄養補給で改善しやすい |
| 介入の中心 | 原疾患治療、症状緩和、栄養、運動 | 運動、栄養、活動量の確保 | 栄養摂取量の確保 |
実際には、悪液質とサルコペニア、低栄養が重複することもあります。名称を一つに決めることよりも、炎症、体重減少、筋量・筋力低下、摂取不足がどの程度関与しているかを整理することが重要です。
詳しい使い分けは、悪液質・サルコペニア・飢餓の違いと見分け方で整理しています。
悪液質の診断基準と評価の考え方
悪液質には対象疾患や地域に応じた複数の基準があり、すべての患者に一つの基準を機械的に当てはめるものではありません。
代表的なものとして、がん悪液質を対象としたFearonの国際コンセンサス、慢性疾患全般を対象としたEvansの定義、アジア人を対象としたAWGC 2023があります。
| 基準 | 主な対象 | 入口となる条件 | 追加評価 |
|---|---|---|---|
| Fearon 2011 | がん患者 | 6か月間の体重減少、BMI、筋量低下を組み合わせる | 食欲、筋力、炎症、身体機能など |
| Evans 2008 | 慢性疾患全般 | 浮腫の影響を除いた体重減少 | 筋力、倦怠感、食欲、除脂肪量、検査所見など |
| AWGC 2023 | アジア人の慢性消耗性疾患 | 低BMIまたは3〜6か月間の体重減少 | 食欲低下、握力低下、CRP高値 |
がん悪液質|Fearon 2011
Fearonらの国際コンセンサスでは、がん患者における体重減少、BMI、筋量低下を組み合わせて悪液質を判断します。
以下のいずれかに該当する場合が、がん悪液質の診断基準として示されています。
- 過去6か月間の体重減少が5%を超える
- BMIが20未満で、体重減少が2%を超える
- サルコペニアに相当する筋量低下があり、体重減少が2%を超える
食欲低下、倦怠感、筋力低下、炎症反応なども臨床像を把握するうえで重要です。もともとのBMIが低い患者や筋量が少ない患者では、体重減少率が比較的小さくても影響が大きい可能性があります。
慢性疾患の悪液質|Evans 2008
Evansらは、基礎疾患を背景とし、脂肪量の減少を伴う場合と伴わない場合がある筋量低下を特徴とする、複雑な代謝性症候群として悪液質を定義しています。
基本となるのは、12か月以内または基礎疾患に関連した5%以上の体重減少です。体重減少を確認したうえで、次のような項目を組み合わせます。
- 筋力低下
- 倦怠感
- 食欲低下
- 除脂肪量の低下
- 炎症、貧血、低アルブミン血症などの生化学的異常
心不全や腎疾患などで浮腫や体液貯留がある場合、体重減少が見えにくくなります。反対に、利尿薬の調整による体重減少を筋量低下と誤認する可能性もあるため、体重だけで判断しないことが重要です。
アジア人の悪液質|AWGC 2023
AWGC 2023は、アジア人の体格を踏まえ、慢性消耗性疾患を有する患者の悪液質を臨床で拾い上げるための基準です。
慢性消耗性疾患を背景として、次のいずれかを確認します。
- BMIが21未満
- 過去3〜6か月間の体重減少が2%を超える
さらに、次のうち一つ以上を組み合わせます。
- 食欲低下
- 握力低下
- CRPが0.5mg/dLを超える
AWGC 2023では、体重やBMIだけでなく、食欲、筋力、炎症を組み合わせて評価できるため、病棟や外来で悪液質を疑う入口として活用しやすい構成になっています。
悪液質を疑ったときの確認フロー
慢性消耗性疾患がある患者に体重・筋力・食欲の低下がみられたら、体液の影響を確認しながら多職種で評価を進めます。

図の流れは診断を確定するための単独の手順ではなく、理学療法士が異変に気づき、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師などへ共有するための確認手順です。
- 慢性消耗性疾患を確認する:がん、心不全、COPD、慢性腎臓病などの背景を確認します。
- 体重と体格を確認する:現在のBMIと、3〜6か月間の体重変化を確認します。
- 食欲・握力・CRPを確認する:体重減少に伴う食欲低下、筋力低下、炎症反応を組み合わせます。
- 体液の影響を確認する:浮腫、腹水、脱水、利尿薬の調整などが体重に影響していないか確認します。
- 多職種で方針をそろえる:原疾患治療、症状緩和、栄養、運動・活動量を同じ方向に調整します。
理学療法士が確認したい評価項目
リハビリテーションでは、体重・体格、炎症、筋機能、移動能力、症状を同じ時間軸で追跡します。
単回の数値だけではなく、化学療法、急性増悪、入退院、利尿薬の調整などの前後で、同じ条件の評価を繰り返すことが重要です。
| 領域 | 確認項目 | 記録のポイント | 再評価の考え方 |
|---|---|---|---|
| 体重・体格 | 体重、体重変化率、BMI、浮腫 | 測定時間、衣服、排泄、体液状態をそろえる | 週単位の変化と3〜6か月の変化を分けて追う |
| 炎症・栄養 | CRP、摂取量、食欲、必要に応じた血液検査 | 採血日と治療・増悪イベントを併記する | 採血や治療のタイミングに合わせる |
| 筋量・筋機能 | 握力、下腿周囲長、BIA、立ち上がり能力など | 測定姿勢、測定側、疼痛、浮腫の影響を残す | 同じ条件で週1回から隔週を目安に追う |
| 移動・持久力 | 歩行速度、TUG、6分間歩行、Borgスケールなど | 補助具、歩行路、休憩条件をそろえる | 治療コースや増悪の前後で比較する |
| 症状・活動 | 倦怠感、呼吸困難、悪心、疼痛、睡眠、日中活動量 | 運動を妨げる要因として記録する | リハ実施ごとに変化を確認する |
最初に固定したい評価セット
少なくとも「体重変化率・握力・CRP」を同じテンプレートで追跡します。体液貯留がある場合は、浮腫や利尿薬の調整も必ず併記します。
体重を読むときは浮腫・腹水・脱水に注意する
悪液質の評価では、体重減少が体液変動によって隠れたり、反対に過大評価されたりする可能性があります。
心不全、腎不全、肝疾患などでは、浮腫や腹水によって筋量が減少していても体重が維持・増加する場合があります。利尿薬の開始・増量後には体重が短期間で減少しますが、そのすべてが筋量や脂肪量の減少とは限りません。
体重を評価するときは、次の項目を一緒に記録します。
- 浮腫の有無と部位
- 腹水の有無
- 利尿薬の開始・変更
- 点滴や輸液量
- 脱水を疑う所見
- 可能であれば安定時の体重や目標体重
体重が変化していなくても、握力、歩行能力、活動量、食欲が低下している場合は、筋量や身体機能の低下が進んでいないか確認します。
悪液質に対する理学療法の考え方
悪液質に対する理学療法は、運動だけで完結させず、原疾患治療、症状緩和、栄養管理と組み合わせて進めます。
悪液質では体重や筋量が減少しているからといって、直ちに高負荷の筋力トレーニングを行うわけではありません。疾患の状態、治療内容、炎症、食欲、倦怠感、疼痛、呼吸困難などを確認し、その日に実施可能な負荷へ調整します。
レジスタンストレーニング
レジスタンストレーニングは、筋力と動作能力を維持する目的で、症状に応じた低負荷から開始します。
大きな筋群を中心に、少ない種目と反復回数から始めます。倦怠感が強い場合は、長時間の連続運動よりも、短時間の運動を複数回に分ける方法が適しています。
- 自重や軽い抵抗から開始する
- 起立、立位、移乗など生活動作を利用する
- 翌日まで残る疲労や症状悪化を確認する
- 実施量より継続可能性を優先する
有酸素運動と活動量
有酸素運動は、呼吸循環状態と症状を確認し、会話可能な低〜中等度の強度から進めます。
歩行、エルゴメーター、病棟内移動などから、患者が継続しやすい方法を選びます。治療直後や急性増悪時には、通常の運動時間を確保することより、離床や短時間の活動を安全に継続できるかを優先します。
運動と栄養を同じ計画で調整する
運動量を増やす場合は、同時に食事量や補食、食欲、消化器症状を確認します。
運動と栄養の具体的なタイミングは、患者の食欲、治療予定、腎機能、消化器症状、食事摂取状況などによって異なります。一律に時間を固定せず、医師や管理栄養士と相談し、食べやすく運動しやすい時間帯へ調整します。
運動負荷を下げる・中止を相談する場面
症状や全身状態が悪化している場合は、運動量を機械的に維持せず、負荷を下げるか医師へ相談します。
次のような変化がみられた場合は、原疾患の増悪、感染、脱水、治療副作用などを含めて再評価が必要です。
- 安静時の呼吸困難や呼吸状態の悪化
- 胸痛、動悸、めまい、失神前症状
- 発熱や炎症反応の急な上昇
- 強い倦怠感や意識状態の変化
- 疼痛、悪心、嘔吐、下痢などの増悪
- 摂取量の著しい低下
- 浮腫や腹水の急な増悪
- 前回より明らかな握力・歩行能力・ADLの低下
数値のカットオフだけで中止を決めるのではなく、基礎疾患、治療内容、安静時症状、前回からの変化を組み合わせて判断します。
多職種へ共有するときの伝え方
「悪液質かもしれない」とだけ伝えるのではなく、期間と変化量、機能低下、体液状態をセットで共有します。
共有例
「3か月間で体重が4%減少しています。浮腫はなく、食欲低下と握力低下があり、前回より病棟内の歩行量も減っています。CRP上昇もみられるため、悪液質を含めて栄養・治療方針の確認をお願いします。」
共有時には、次の情報をそろえると判断が進みやすくなります。
- 体重がいつから、何kg・何%変化したか
- BMIと体格
- 食欲・摂取量の変化
- 握力や移動能力の変化
- CRPなどの炎症所見
- 浮腫・腹水・利尿薬変更の有無
- 疼痛、悪心、呼吸困難などの症状
- 現在実施している運動量と患者の反応
悪液質評価でよくある失敗と対策
悪液質では、体重、栄養、運動のいずれか一つだけを見て判断すると、病態や介入効果を誤りやすくなります。
| よくある失敗 | 問題点 | 回避方法 | 記録する内容 |
|---|---|---|---|
| 体重だけで判断する | 浮腫や利尿による変化を区別できない | 握力、食欲、CRP、浮腫を組み合わせる | 体重変化率、測定条件、体液状態 |
| 栄養だけで対応する | 炎症や活動低下への対応が不足する | 症状緩和、原疾患治療、運動を組み合わせる | 摂取量、症状、運動量、治療経過 |
| 運動量だけを増やす | 摂取不足や症状悪化を招く可能性がある | 食事量と疲労を確認しながら小分けにする | 実施量、RPE、翌日の疲労、摂取状況 |
| 単回評価で終わる | 改善・悪化の方向を判断できない | 同じ指標と条件で再評価する | 評価日、治療イベント、条件差 |
よくある質問
各項目名をタップまたはクリックすると回答が開きます。
悪液質を疑ったとき、理学療法士が最初に確認する項目は何ですか?
最初に、背景となる慢性疾患、3〜6か月間の体重変化、BMI、食欲、握力、CRPを確認します。浮腫や腹水、利尿薬の調整がある場合は、体液変動の影響もあわせて記録します。
食べられているのに体重が減る場合も悪液質を疑いますか?
摂取量が保たれていても、炎症や代謝異常によって体重や筋量が減少する場合があります。体重推移だけでなく、CRP、握力、活動量、原疾患の状態を組み合わせて確認します。
浮腫がある患者では体重をどのように評価しますか?
体重だけで筋量や栄養状態を判断せず、浮腫の部位、腹水、利尿薬の変更、安定時の体重、握力、活動量などを併記します。利尿による短期間の体重減少を、すべて筋量低下と解釈しないことも重要です。
アルブミン値だけで悪液質を判断できますか?
アルブミンは炎症、肝機能、体液状態などの影響を受けるため、単独で悪液質を判断することはできません。体重変化、BMI、食欲、握力、筋量、CRP、疾患経過と組み合わせて解釈します。
悪液質が疑われる患者に筋力トレーニングを行ってもよいですか?
全身状態と症状が安定していれば、低負荷・短時間から実施を検討します。ただし、原疾患の増悪、強い倦怠感、呼吸困難、疼痛、摂取量の著しい低下などがある場合は、負荷を下げるか医師へ相談します。
悪液質の評価・介入記録シート
体重変化、BMI、握力、CRP、体液状態、運動・栄養の内容を同じ用紙で追跡できるA4記録シートです。
評価条件を固定し、治療や増悪の前後で同じ項目を比較することで、多職種への共有や再評価に活用できます。
悪液質(カヘキシア)評価・介入記録シート
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まとめ
悪液質は、慢性疾患と炎症・代謝異常を背景として、体重、筋量、筋力、身体機能が進行性に低下する病態です。
- がんだけでなく、心不全、COPD、慢性腎臓病などでも起こる
- 単純な低栄養やサルコペニアとは病態と介入方針が異なる
- Fearon、Evans、AWGC 2023では対象と評価条件が異なる
- 体重だけでなく、BMI、食欲、握力、CRP、体液状態を組み合わせる
- 理学療法は、原疾患治療、症状緩和、栄養管理と連携して進める
- 治療や増悪の前後で同じ条件の評価を繰り返す
理学療法士は悪液質を確定診断する立場ではありませんが、体重・筋力・活動量の変化を継続的に観察できる職種です。廃用や加齢だけでは説明しにくい低下を認めた場合は、評価結果を具体的な数値と期間で多職種へ共有してください。
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参考文献
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