PICSの評価は身体・認知・精神の3領域をICU退室後も追うことが重要です
PICS(post-intensive care syndrome:集中治療後症候群)は、重症疾患や集中治療を経験した患者に生じる、または悪化する身体機能・認知機能・精神機能の障害を指します。ICU退室時に歩行できるようになっていても、記憶力の低下、集中困難、不安、不眠、疲労などが残り、退院後の生活や社会復帰に影響することがあります。
人工呼吸器から離脱できたことやICUを退室できたことは、回復の重要な節目です。しかし、それだけで集中治療後の機能障害が解消したとは判断できません。
本記事では、成人のICU退室後から一般病棟・回復期・生活期に至る患者を対象に、PICSの評価領域、評価尺度の選択、介入方針、多職種連携、再評価、退院後フォローアップを整理します。ICU内での離床開始基準やMRC-SSなどの詳細な採点方法は既存記事に譲り、退室後の判断と引き継ぎに焦点を当てます。
この記事の結論
PICSを疑う患者では、①ICU入室前の生活機能を把握する、②退室時に身体・認知・精神の3領域を確認する、③症状に合った評価と介入・専門職への相談を選ぶ、④退院時に未解決の問題と再評価計画を引き継ぐ、という流れが重要です。筋力や歩行能力だけでPICSの全体像を判断しないでください。

この図版は臨床での情報整理を目的とした独自の概念図であり、公式の診断・治療アルゴリズムではありません。実際の評価や介入は患者の病態、医学的安全性、施設の体制に応じて判断します。
ICU退室後のPICS評価・対応早見表
| 領域 | 気づきたい変化 | 評価の方向性 | 次の対応 |
|---|---|---|---|
| 身体機能 | 筋力低下、息切れ、疲労、歩行・ADL低下 | 筋力、移動能力、活動耐容能、ADL | 個別の運動・ADL支援と医学的評価 |
| 認知機能 | 記憶力低下、注意障害、段取りの悪化 | 覚醒・せん妄の状態を確認し、認知機能を評価 | 生活場面での支援、専門評価へ相談 |
| 精神機能 | 不安、抑うつ、悪夢、フラッシュバック、不眠 | 症状の聴取、適切な尺度によるスクリーニング | 医師・心理職などへの相談と継続支援 |
| 生活機能・社会参加 | 家事困難、復職困難、外出減少、介護負担 | ADL・IADL、役割、生活環境、支援体制 | 退院支援・地域資源・復職支援へ接続 |
| 家族の状態 | 家族の不安、睡眠障害、強い心理的負担 | 家族の訴え、生活・介護負担の把握 | 家族支援や専門相談窓口につなぐ |
身体・認知・精神の3領域はPICSの中心的な構成要素です。生活機能や家族の状態は、それらの影響を実際の支援へつなぐために追加して確認します。家族自身に生じる精神的・心理的問題はPICS-Fとして区別されます[1]。
PICSとは|ICU-AWや廃用症候群との違い
日本集中治療医学会はPICSを、ICU在室中あるいはICU退室後に生じる身体機能障害・認知機能障害・精神機能障害として説明しています[1]。
ポイントは、単にICUに入室したことがある患者のすべての症状をPICSとみなさないことです。集中治療前からあった障害や原疾患による症状も考慮し、新たに生じた問題、あるいは悪化した問題を確認します。
ICU-AWはPICSの身体機能障害に関係する状態の一つ
ICU-AW(ICU-acquired weakness)は、重症疾患の経過中に新たに生じる全身性の筋力低下を指します。PICSの身体機能障害にはICU-AWが関係することがありますが、PICSには認知機能障害や精神機能障害も含まれます。
| 項目 | 主な意味 | 評価で重視すること |
|---|---|---|
| PICS | 重症疾患・集中治療後の身体・認知・精神面の障害 | 3領域と生活機能への影響 |
| ICU-AW | 重症疾患に伴う全身性筋力低下 | 筋力、分布、協力可能性、他疾患との鑑別 |
| 廃用症候群 | 不活動などに関連して生じる心身機能低下 | 不活動の経過、身体機能、活動・生活能力 |
ICU-AWが疑われる場合のMRC-SS、測定可能条件、鑑別については、ICU-AWの評価とMRC-SSで詳しく整理しています。
PICS-Fは家族に生じる心理的問題
PICS-F(PICS-Family)は、重症患者の家族に生じる不安、抑うつ、心的外傷後ストレス症状などの問題を指します。患者が回復しても、家族の心理的負担が残る場合があります。また、患者が亡くなった場合にも家族への支援が必要になることがあります[1]。
家族の負担を「介護に慣れれば解決するもの」と決めつけず、本人の希望を確認しながら相談先を共有することが重要です。
PICSはいつ評価する?ICU退室から退院後までの流れ
PICSはICU退室時に一度評価して終わりではありません。一般病棟への移行時、病院退院前、退院後など、生活環境が変化する節目で確認します。
J-ReCIP 2023では、ICU退室後の重症患者に対する強化リハビリテーションが弱く推奨されています。ただし根拠の確実性は非常に低く、全患者に同じ介入量やフォローアップ間隔を適用する根拠ではありません[2]。
| 時期 | 確認したい内容 | 次の一手 |
|---|---|---|
| ICU退室前後 | 入室前機能、現在の身体・認知・精神面、医療機器、介助量 | 一般病棟へリスクと評価条件を引き継ぐ |
| 一般病棟・回復期 | 離床・ADL、認知・心理症状、睡眠、疲労、栄養 | 活動計画と多職種への相談内容を調整 |
| 病院退院前 | 生活機能、家族負担、未解決の症状、支援先 | 退院後の評価・診療・生活支援へつなぐ |
| 退院後 | 身体・認知・精神症状、生活参加、回復経過 | 必要な専門評価や継続リハを再検討 |
退院後2〜3か月のフォローアップは一律の国内基準ではない
英国NICEのガイドラインCG83では、リハビリテーションの必要性がある患者に対して、ICU退室後2〜3か月で健康・生活機能を再評価することが推奨されています[5]。
これは英国の医療提供体制を前提とした推奨であり、日本のすべての施設に義務づけられたフォローアップ日程ではありません。実際には、症状の程度、退院先、受診可能性、地域の医療資源に合わせて計画します。
また、ICU退室後から病院退院までの期間には個人差があります。記録するときは「ICU退室後何日」「病院退院後何日」など、どの時点を基準としているか明確にします。
フォローアップが必要な患者を見落とさない
長期の人工呼吸管理、強い身体機能低下、せん妄、記憶や注意の変化、心理的症状、社会参加の困難などがある患者では、退院後の支援が必要になる可能性があります。
ICU滞在日数だけで支援対象を決めるのではなく、現在の症状と入室前機能からの変化を確認します。ICU滞在が短い患者でも、新たな障害があれば支援対象となり得ます。
PICSの3領域を評価する|身体・認知・精神機能
評価尺度は、すべての患者に一式を機械的に実施するものではありません。覚醒、意思疎通、身体能力、心理的負担、評価の目的を確認したうえで、適切な尺度を選択します。
日本集中治療医学会の委員会による2023年のスコーピングレビューと修正Delphi研究では、身体機能、認知機能、精神機能、ADL、QOL、睡眠、疼痛、家族の状態などに対応する評価尺度が提案されました[4]。
| 領域 | 評価例 | 主に把握すること | 実施上の注意 |
|---|---|---|---|
| 身体機能 | MRC-SS、握力、6分間歩行試験 | 筋力、運動耐容能、身体機能の変化 | 覚醒、歩行可能性、呼吸循環の安全性を確認 |
| 認知機能 | MoCA、MMSEなど | 記憶、注意、見当識、認知機能 | せん妄、感覚障害、言語障害、評価条件を考慮 |
| 精神機能 | HADS、PHQ-9、IES-Rなど | 不安、抑うつ、心的外傷後ストレス症状 | スクリーニング結果だけで診断しない |
| ADL・IADL | BI、FIM、IADL評価 | 日常生活で必要な介助・支援 | 入室前の生活機能と現在の差を確認 |
| QOL | EQ-5D、SF-12、SF-36など | 健康関連QOL | 回答可能性と尺度の使用条件を確認 |
| 家族 | 面接、必要に応じた心理的スクリーニング | 家族の心理的負担と生活上の困難 | 同意とプライバシーに配慮 |
上表は代表例です。尺度によって適用対象、使用許諾、実施方法、解釈が異なります。目的に合う原版・正式手順を確認し、異なる評価尺度の点数を直接換算しないでください。
① 身体機能:筋力だけでなく活動耐容能とADLを確認する
身体機能では、筋力低下に加えて、歩行時の息切れ、易疲労性、立ち上がり・移乗の介助量、生活動作の持続などを確認します。
たとえば、MRC-SSが改善していても、短距離歩行で強い疲労が生じ、食事や更衣後に長時間の休息が必要な場合があります。筋力改善と生活機能回復は同じではありません。
基本動作の課題別能力を把握したい場合は、FSS-ICUの評価と記録方法も参照してください。ただし、FSS-ICUはICUの機能的動作を評価する尺度であり、退院後の生活参加や心理面まで評価するものではありません。
② 認知機能:せん妄の残存と長期的な認知機能障害を区別する
ICU退室直後の注意障害や見当識障害には、せん妄、薬剤、睡眠障害、感染、代謝異常などが関係する場合があります。急性の意識・注意変化がある場合は、まず医学的評価やせん妄評価を優先します。
覚醒と状態が安定した後も、記憶、注意、段取り、判断力などの低下が残っていないかを確認します。評価尺度の得点だけでなく、服薬管理、予定の理解、金銭管理、移動時の安全行動など、生活場面での影響を把握します。
③ 精神機能:不安・抑うつ・心的外傷後ストレス症状を見逃さない
重症疾患や集中治療の経験後に、不安、抑うつ、悪夢、侵入的な記憶、集中治療を思い出す場面での強い苦痛などがみられることがあります。
精神面の評価では、患者の話を否定せず、無理に体験を詳しく語らせないことが重要です。症状が日常生活に影響する場合は、医師や精神保健・心理の専門職へ相談します。
自傷の危険、著しい精神状態の変化、強い苦痛などが疑われる場合は、通常のリハビリ評価より安全確保と緊急度に応じた医学的対応を優先します。
ICU入室前の機能を確認しないと回復の程度を判断しにくくなります
PICSの評価では「現在の能力」だけでなく、「重症化する前に何ができていたか」を確認します。ICU入室前から歩行障害や認知機能低下があった患者と、入室前は自立していた患者では、同じ現在のADLでも解釈が異なります。
| 項目 | 入室前 | 退室時・退院前 | 解釈のポイント |
|---|---|---|---|
| 移動能力 | 歩行距離、補助具、外出 | 歩行能力、介助量、疲労 | どの生活範囲が失われたか |
| ADL | 食事、更衣、排泄、入浴 | 各動作の介助量 | 新たに必要になった支援は何か |
| 認知機能 | 記憶、予定管理、日常的な判断 | 注意、記憶、指示理解、生活上の失敗 | 急性期の影響や既存の障害を区別 |
| 心理・睡眠 | 不安、抑うつ、睡眠状況 | 新しい症状、既存症状の悪化 | 必要な心理的支援を検討 |
| 社会参加 | 就労、家事、趣味、家庭内役割 | 復帰できない活動と障壁 | 退院後の具体的な目標につなぐ |
入室前機能が本人から確認できない場合は、家族、以前の診療記録、介護サービスの情報などを参考にします。ただし、推定情報を実測値として記録しないようにします。
評価所見別に介入・専門相談の優先順位を決めます
PICSへの対応では、身体機能低下に対して運動療法を行うだけでは不十分な場合があります。患者の主要な困りごとと安全性を確認し、身体・認知・精神・生活支援を組み合わせます。
| 主な問題 | 介入の方向性 | 連携・相談先 |
|---|---|---|
| 筋力低下・基本動作の低下 | 個別の運動、基本動作・移乗・歩行練習 | PT・OT・医師 |
| 息切れ・著しい疲労 | 呼吸循環状態の確認、活動量と休息の調整 | 医師・看護職・PT |
| 注意・記憶・遂行機能の低下 | 生活場面の評価、環境調整、代償手段 | 医師・OT・ST・必要な専門職 |
| 不安・抑うつ・悪夢 | 症状の把握、安心できる環境、専門相談 | 医師・心理職など |
| 摂食・嚥下や栄養の問題 | 嚥下評価、栄養管理、食事場面の支援 | 医師・ST・管理栄養士・看護職 |
| 復職・家事・社会参加の困難 | 実生活課題の評価、目標調整、社会資源の確認 | OT・医療ソーシャルワーカー・地域支援者 |
| 家族の心理的負担 | 希望を聞き、相談先や支援資源を共有 | 医師・看護職・心理職・相談支援職 |
身体機能低下には「現在の負荷耐容性」に応じて進める
ICU退室後に運動療法を進める場合も、呼吸・循環の安定性、筋力、症状、回復時間を確認します。歩行距離や運動量を一律に設定するのではなく、前回の活動反応とその日の全身状態に応じて調整します。
人工呼吸器離脱前後の呼吸評価については、人工呼吸器離脱の理学療法も参照してください。
認知・精神面の問題が主な場合は運動量だけを増やさない
身体機能が改善しても、強い不安や注意障害によって活動や退院準備が進まないことがあります。その場合、運動量の増加だけでは主要な問題が解決しない可能性があります。
生活場面の認知評価、環境調整、休息、心理的支援、家族への説明などを組み合わせ、必要な専門職への相談を優先します。
栄養・嚥下の問題があれば回復目標と合わせて確認する
重症疾患後には食欲低下、嚥下障害、低栄養などが併存する場合があります。身体機能を改善するための活動計画と、栄養・水分管理、食事の安全性を切り離さず評価します。
嚥下や栄養に関する評価の全体像は、栄養・嚥下ハブで確認できます。
症例で考える|PICS評価とフォローアップの判断3例
以下は臨床判断を説明するための架空症例です。実在患者の経過ではなく、介入の効果を保証するものではありません。
症例A:筋力は改善したが、疲労が強くADLが回復しない
状態:重症肺炎で人工呼吸管理を受けた患者。ICU退室後、四肢筋力は徐々に改善したが、短距離歩行後の疲労が強く、更衣やトイレ動作にも休息が必要である。
評価:筋力に加え、歩行、移乗、ADL、呼吸・循環反応、活動後の回復、睡眠、栄養状態を確認します。
判断:筋力低下だけを主要問題と決めず、活動耐容能と生活動作の制限を明確にします。医学的に安定していれば、休息を組み込んだ段階的な活動を検討します。
再評価:同程度の活動に要する介助量、疲労、回復、ADLの変化を比較します。
判断のポイント:筋力の点数が上がっていても、生活機能の回復が追いついているとは限りません。
症例B:歩行は自立しているが、記憶と注意の問題が残る
状態:敗血症による集中治療後の患者。一般病棟では独歩可能だが、予定を忘れる、説明を保持できない、服薬の手順を間違えるなどの変化がみられる。
評価:現在の覚醒・せん妄・医学的状態を確認したうえで、入室前の認知機能、記憶・注意、服薬管理などの生活課題を評価します。
判断:歩行自立だけで退院後の生活が安全と判断せず、医師・OT・STなどと認知機能評価や生活支援の必要性を検討します。
再評価:記憶・注意の所見に加え、実際の生活課題で必要な支援を比較します。
判断のポイント:身体機能と認知機能は別の領域として評価し、生活上の安全性につなげます。
症例C:身体機能は回復したが、不安と悪夢で生活参加が進まない
状態:長期ICU管理後、移動能力はほぼ入室前まで回復した患者。ICUでの体験を思い出すと強い不安があり、睡眠障害と外出へのためらいが続く。
評価:患者の希望を確認し、睡眠、不安、気分、日常生活への影響を把握します。必要に応じて適切な心理的スクリーニングを検討します。
判断:身体機能の改善だけで支援終了とせず、医師や心理職などへの相談につなぎます。本人に体験の詳細を無理に語らせることは避けます。
再評価:症状の変化だけでなく、睡眠、外出、家族との生活、社会参加の状態を確認します。
判断のポイント:歩行能力が回復していても、精神面の問題が生活の制限因子になる場合があります。
ICUから一般病棟・退院先への申し送りで必要な情報
PICSの継続支援では、評価尺度の合計点だけでなく、「入室前と比べて何が変わったか」「何を継続して確認する必要があるか」を引き継ぐことが重要です。
| 項目 | 引き継ぐ内容 |
|---|---|
| 集中治療の経過 | 主な病態、人工呼吸管理などの治療経過、重要な合併症 |
| 入室前機能 | 歩行・ADL・認知・生活役割などの基準となる状態 |
| 身体機能 | 筋力、基本動作、活動耐容能、疲労、介助量 |
| 認知機能 | せん妄の経過、現在の注意・記憶、評価可否と生活上の影響 |
| 精神機能 | 不安、気分、睡眠、本人の訴え、相談状況 |
| 栄養・嚥下 | 摂取方法、栄養管理、嚥下評価の必要性 |
| 生活・家族 | 退院先、支援者、社会参加、家族の相談ニーズ |
| 次回評価 | 未解決の問題、評価担当、再評価時期、受診・相談先 |
診療記録例:ICU退室後のPICS関連評価
以下は架空の診療記録例です。測定していない尺度や確認していない症状を補って記載しないでください。
ICU退室後のリハビリ評価を実施。入室前は屋内外歩行自立、日常生活は概ね自立していたと家族より聴取。現在は起き上がり・移乗に介助を要し、端座位活動後に疲労が増強する。呼吸・循環の反応を確認しながら活動量を調整した。会話は成立するが、直前の説明を繰り返し確認する場面あり。睡眠状況や不安の有無についても継続確認が必要と考え、看護師・OTへ所見を共有した。次回は同条件で基本動作の介助量と疲労、生活場面での注意・記憶を再評価する。
記録では、PICSという診断名だけを書くのではなく、観察された所見、入室前との差、評価可能な条件、共有先、次の判断を明確にします。
PICSフォローアップの根拠と限界
重症患者の長期的な機能障害を評価し、継続支援へつなぐ重要性は複数の資料で示されています。一方、フォローアップの方法や介入量による効果は、対象集団や研究デザインによって異なります。
| 資料 | 主な内容 | 適用上の注意 |
|---|---|---|
| 日本集中治療医学会[1] | PICSの身体・認知・精神の3領域と家族への影響 | 概念の整理であり、個別診断を確定する基準ではない |
| J-ReCIP 2023[2] | ICU退室後の強化リハビリを弱く推奨 | 根拠の確実性は非常に低い |
| J-SSCG 2024[3] | 敗血症患者へのICU退室後フォローアップと退院後リハを弱く推奨 | 敗血症患者が対象であり、全ICU患者への直接適用には注意 |
| 評価尺度の修正Delphi研究[4] | PICSの複数領域に対応する評価尺度を提案 | 尺度の推奨と介入効果の証明は別の問い |
| NICE CG83[5] | 退室・病棟・退院後の継続評価とリハビリテーション経路 | 英国の医療体制を前提とする |
J-SSCG 2024では、敗血症患者についてICU退室後フォローアップをGRADE 2D、病院退院後のリハビリテーションをGRADE 2Cで弱く推奨しています[3]。いずれも「すべての患者に同じ方法で実施すれば確実に改善する」という意味ではありません。
臨床では、患者に残る問題を把握し、必要な支援を継続できる体制をつくることが重要です。
よくある質問|PICS評価とフォローアップ
Q1.ICU退室後は全員にすべての評価尺度を実施しますか?
一律にすべての尺度を実施する必要はありません。身体・認知・精神の3領域を確認したうえで、症状、評価可能性、支援方針に合わせて尺度を選びます。合計点を増やすより、どの問題に次の対応が必要かを明らかにすることが重要です。
Q2.筋力と歩行能力が回復していればPICSは問題ありませんか?
身体機能が改善していても、記憶・注意の低下、不安、抑うつ、睡眠障害、社会参加の困難が残る場合があります。歩行能力だけでPICS全体の回復を判断せず、生活上の困りごとを確認します。
Q3.退院後のフォローアップは必ず2〜3か月後ですか?
必ずしもそうではありません。NICEはICU退室後2〜3か月の再評価を推奨していますが、これは日本の全施設に共通する義務的な日程ではありません。症状の重症度、生活環境、地域の医療資源、医師の方針に応じて設定します。
Q4.PTが不安や抑うつの症状に気づいた場合はどうしますか?
まず患者の訴えと生活への影響を把握し、必要に応じて医師や心理職などへ共有します。適切な尺度によるスクリーニングを行っても、PTがその結果だけで精神疾患を確定診断することはありません。安全上の危険が疑われる場合は緊急度に応じた対応を優先します。
まとめ|PICSはICU退室後の生活まで見据えて評価します
PICSは、重症疾患や集中治療の後に生じる身体・認知・精神面の障害を含みます。筋力・歩行能力が改善していても、注意・記憶、不安、疲労、社会参加の問題が残ることがあります。
評価ではICU入室前の生活機能を確認し、退室時・一般病棟・退院前・退院後の各時点で、残存する問題と必要な支援を整理します。すべての尺度を一律に実施するのではなく、患者の症状と評価目的に合う方法を選びます。
「入室前機能の把握→3領域の評価→介入・専門相談→退院支援→再評価」を一連の流れとして共有し、患者の生活機能と社会参加の回復につなげることが重要です。
次の一手
まずは担当患者について、ICU入室前と現在の「移動・ADL」「記憶・注意」「睡眠・気分」を比較し、退院先で継続評価が必要な項目を1つ以上明確にしてみてください。評価の具体的な選択では、ICU-AWの評価やFSS-ICUの使い方など、既存の個別記事も活用できます。
参考文献・一次情報
- 日本集中治療医学会.PICS 集中治療後症候群.学会公式ページ.
- Unoki T, et al. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). Journal of Intensive Care. 2023;11:47. 原著.
- The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024. Journal of Intensive Care. 2025. 原著.
- Nakanishi N, et al. Instruments to assess post-intensive care syndrome assessment: a scoping review and modified Delphi method study. Critical Care. 2023. 原著.
- National Institute for Health and Care Excellence(NICE). Rehabilitation after critical illness in adults. Clinical guideline CG83. 推奨事項.
情報確認日:2026年10月21日。本記事は医療従事者向けの情報提供を目的としています。PICSの評価と介入は、原疾患、既存障害、医学的安全性、患者の希望、施設の体制を踏まえて個別に判断してください。心理的・認知的問題の確定診断や治療は、適切な専門職による評価を優先します。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
2022年にrehabilikun blogを開設。急性期・回復期・療養病棟、介護施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションなどを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

