筋肉の収縮様式とは?求心性・遠心性・等尺性の違いと使い分け

臨床手技・プロトコル
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筋肉の収縮様式の基本

臨床×情報発信を両立させるコツ(PTキャリアガイド)

筋トレの成果は重量や回数だけでなく、収縮様式(求心性・遠心性・等尺性/等速性)の理解と使い分けで大きく左右されます。本稿は、トレーニングを行う側・指導する側の双方が現場で迷わず実践できるよう、定義・特徴・目的別の使いどころを新人の方にも分かる言葉で整理しました。

要点は次の 3 つです。① 求心性:筋が短くなりながら力を出す(押す・持ち上げる)② 遠心性:伸ばされながらブレーキをかける(下ろす・減速する)③ 等尺性:長さを変えずに力を保つ(止める・支える)。等速性は「角速度一定」という機器条件下での評価・訓練です。

求心・遠心・等尺・等速の特徴と使い分け

先に全体像を把握できるよう、簡単な比較表を載せます。続く各セクションで、新人向けの具体例・声かけ・つまずきやすい点も解説します。

収縮様式の比較と臨床での狙い(成人一般の目安)
収縮様式 定義 主な狙い テンポ例 注意点
求心性(Concentric) 筋長を短縮しながら力発揮 フォーム習得、筋力・筋肥大の基盤 2–0–2(上げ2・停止0・下げ2) 反動を抑え、可動域とアライメントを優先
遠心性(Eccentric) 伸張に抗して制動(ブレーキ) 制動能力向上、筋肥大促進 1–0–3(下げ長め) 筋痛が出やすい。量は少なめ→漸増
等尺性(Isometric) 長さを変えず緊張を維持 疼痛下でも出力維持、姿勢・安定化 保持 3–10 秒 × 3–5 回 息こらえ回避(血圧上昇対策として呼吸キュー)
等速性(Isokinetic) 角速度一定(機器条件) 評価・左右差把握、速度特異性の訓練 機器設定に依存 装置の安全域を順守し事前説明を徹底

求心性(Concentric)を新人向けに

  • 一言で:「押す・持ち上げる」フェーズ。筋が縮みながら力を出します。
  • 身近な例:スクワットの立ち上がり、階段の昇段、チューブを引き寄せる動作。
  • コーチングキュー:「背すじは長く」「足裏は母趾球・小趾球・踵で均等」「動作は一定の速さ」。
  • 新人のつまずき:反動を使う/膝が内側へ入る/つま先荷重過多 → テンポ2–0–2で反動抑制、膝はつま先と同方向。
  • 導入の目安:RPE 5–6、10回×2–3セット、休息60–90秒。可動域は痛みの無い範囲から。

遠心性(Eccentric)を新人向けに

  • 一言で:「ブレーキ」フェーズ。伸ばされながら耐える・減速する力。
  • 身近な例:スクワットの下降、坂道の下り、階段の降段(膝・大腿前面の制動)。
  • コーチングキュー:下ろしは3カウント」「勝手に落ちない」「足裏は床を“押し続ける”意識」。
  • 新人のつまずき:下降で体幹が丸まる/膝が前へ出すぎる/着地でドスン → 股関節から“座る”意識、胸骨は前に長く。
  • 導入の目安:RPE 6–7、6–10回×2–3セット、1–0–3筋肉痛が出やすいためボリューム少量→漸増。

等尺性(Isometric)を新人向けに

  • 一言で:「止める・支える」。長さを変えずに力を保つ局面。
  • 身近な例:ウォールシット、プランク、ブリッジ保持、姿勢保持(座位・立位)。
  • コーチングキュー:呼吸は続ける(5秒吸う/5秒吐く)」「力は対象部位に集める」。
  • 新人のつまずき:息こらえ(血圧上昇)/代償で別部位が固まる → 「声を出して数える」「力を入れる場所を言語化」。
  • 導入の目安:保持3–10秒×3–5回、RPE 4–6、休息30–60秒。疼痛が強いときの第一歩として有用。

等速性(Isokinetic)を新人向けに

  • 一言で:角速度一定の条件で収縮を評価・訓練(例:等速性筋力測定装置)。
  • 現場の使い方:術後やスポーツ復帰時の出力評価、左右差の把握、速度特異性の確認など。
  • 注意:装置の有無に依存します。多くは評価目的で導入されており、リハ計画では求心・遠心・等尺で十分なことが多いです。必要に応じて提携施設で評価する運用もあります。

目的別プログラミング(回数・テンポ・RPE)

「何回×何セット」だけでなく、狙い(筋力・肥大・持久)と収縮様式・テンポの整合性が重要です。さらに、その日の体調や部位差を考慮してRPE を目安に微調整すると安全に継続しやすくなります。実施の流れは、臨床場面での評価・目標設定・振り返りをセットで考えると整理しやすくなります。

目的別の処方目安(健康成人・初心〜中級の一例)
目的 主軸の収縮様式 セット × 回数 テンポ RPE 目安 休息
最大筋力 求心+等尺(姿勢安定) 3–5 × 3–6回 2–0–2 7–9 2–3 分
筋肥大 遠心を強調(制動) 3–5 × 6–12回 1–0–3(遠心長め) 6–8 60–120 秒
筋持久・健康維持 求心中心(フォーム安定) 2–4 × 12–20回 2–0–2 4–6 30–60 秒

安全管理:禁忌・中止基準

収縮様式に関わらず、安全対策は共通です。以下のいずれかに該当する場合は中止し状態を確認してください。

禁忌・中止基準(成人一般/例)
カテゴリ 中止の目安 備考
疼痛 鋭い痛み/放散痛/関節の不安定感 フォーム再確認。必要に応じて等尺へ切替
循環器 胸痛・強い息切れ・動悸・めまい 息こらえ回避(会話テストを併用)
神経・その他 しびれ増悪・脱力・冷汗・顔面蒼白 休息・水分補給。必要時は医療者へ連絡

現場の詰まりどころ

  • 等尺性と等張性の混同:「動かない=等尺」「動く=等張」とだけ覚えると、求心・遠心との関係が曖昧になります。まずは「筋長が変わるか/変わらないか」を軸に整理し、教科書用語より臨床での使い方を優先して説明すると伝わりやすくなります。
  • 負荷とフォームの優先順位:遠心性で「とにかく重く・ゆっくり」にすると、体幹や膝のアライメント破綻を招きやすくなります。新人には「フォームが保てる範囲での RPE 6–7」を上限とし、動画撮影や鏡を使ったフィードバックを併用すると安全です。
  • 筋肉痛と有害な痛みの区別:遠心性導入直後の筋肉痛と、関節由来の鋭い痛みが混同されがちです。部位・タイミング・性状を言葉で整理し、「動かして楽になる痛みか」「荷重で悪化する痛みか」を毎回確認するルーチンを持つと判断しやすくなります。
  • 収縮様式の“使い分け”ができない:単に 3 種類を覚えるだけでは、どの患者に何を選ぶかがイメージしにくいです。「疼痛が強い→等尺」「制動が必要→遠心」「ADL・歩行を意識→求心+遠心の連続」といったシンプルなマッチングから始めると、臨床での迷いが減ります。

RPE の活用と早見シート

RPE(主観的運動強度)は、日ごとの体調や部位・種目で感じ方が変わります。固定重量ではなくRPE を目安に負荷を微調整する運用が実践的です。院内掲示や配布に使える A4 の早見表をご用意しました。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

遠心性トレーニングは毎回取り入れるべき?

遠心性は制動能力や筋肥大に役立つ一方、筋肉痛が出やすい特性があります。週 1–2 回・少量から開始し、反応をみて漸増する方法が安全です。フォームが崩れる時は求心性中心に戻します。

痛みがある人にはどの様式から始める?

疼痛が強い局面では、疼痛の出ない角度域での等尺性保持(3–10 秒 × 3–5 回)から開始し、求心性の低負荷反復へ移行します。呼吸キューで息こらえを避けます。

RPE と %1RM はどちらを使えば良い?

併用が現実的です。日内変動が大きい/経験が浅い局面では RPE を主とし、テスト可能な場面で %1RM を補助指標として活用します。

等速性は一般病院以外でも使える?

装置の有無に依存します。多くは評価目的で導入されており、リハ計画では求心・遠心・等尺で十分なことが多いです。必要に応じて提携施設で評価する運用もあります。

おわりに

筋肉の収縮様式を整理しておくと、「評価→目的設定→求心・遠心・等尺の組み合わせ→安全確認→再評価」というリハビリの流れが組み立てやすくなり、筋トレ指導も「なんとなく回数をこなす」段階から一歩抜け出せますので、こうした運動療法や安全管理を丁寧に実践できる職場環境を選びたいと感じたときは、面談準備チェックリストと職場評価シートをまとめたマイナビコメディカルの特集記事(こちら)も併せて活用してみてください。

参考文献

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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