内転筋結節は、大腿骨遠位部の内側にある小さな骨性隆起です。大内転筋腱の付着部として知られていますが、大腿骨内側顆や内側上顆、後方にある腓腹筋結節と位置を混同しやすいため、隆起だけを探す触診では誤認する可能性があります。
触診では、膝関節裂隙から大腿骨内側顆、内側上顆へ順にたどり、その近位にある内転筋結節を確認します。この記事では、内転筋結節の位置、大内転筋腱との関係、触診手順、周囲の骨指標との見分け方、安全上の注意点を整理します。骨指標を使った触診の全体像は、理学療法士が押さえる骨性ランドマークから確認できます。
内転筋結節は大腿骨内側上顆の近位にある
内転筋結節は、大腿骨遠位部の内側にあり、大腿骨内側上顆の近位側に位置する小さな骨性隆起です。大内転筋の腱性部が付着し、膝内側の解剖学的位置を確認する基準になります。
最初に押さえたい位置関係は、次の4点です。
- 内転筋結節は大腿骨にある
- 膝関節裂隙より近位にある
- 大腿骨内側上顆より近位側にある
- 大内転筋腱を近位へたどると位置を推定しやすい
| 確認項目 | 内転筋結節の位置 | 触診での確認点 |
|---|---|---|
| 所属する骨 | 大腿骨 | 脛骨側ではなく膝関節裂隙より近位にある |
| 内側上顆との関係 | 内側上顆の近位側 | 内側上顆を起点に上方へたどる |
| 内側顆との関係 | 内側顆の近位にある小隆起 | 広い内側顆と点状の隆起を区別する |
| 腓腹筋結節との関係 | 腓腹筋結節より近位・前方寄り | 後方の隆起だけで内転筋結節と判断しない |
| 付着構造 | 大内転筋腱の付着部 | 大腿内側から続く腱性構造との位置関係を確認する |

「膝内側で最も触れやすい隆起」を内転筋結節と判断すると、内側上顆や腓腹筋結節を触れている可能性があります。最初に膝関節裂隙を確認し、大腿骨側を近位へたどることが重要です。
内転筋結節と大内転筋腱の解剖学的関係
内転筋結節は、大腿骨粗線の内側唇から続く内側顆上線の遠位端に位置する骨性ランドマークです。大内転筋の腱性部が付着し、大腿内側と膝内側の境界を確認するときの基準になります。
大内転筋は、広い範囲から起始して大腿骨へ付着する大きな筋です。そのすべてが内転筋結節へ集中するわけではなく、筋性部は大腿骨粗線などへ広く付着し、遠位の腱性部が内転筋結節へ達します。
したがって、内転筋結節を「大内転筋全体の一点の付着部」と捉えるのではなく、大内転筋の遠位腱性部を確認する代表的な骨指標として理解します。
膝内側には、内転筋結節のほかに内側上顆、腓腹筋結節、内側側副靱帯や後斜靱帯の付着領域などが近接しています。圧痛や触診所見だけで、どの組織が症状の原因かを確定することはできません。
内転筋結節の触診方法
内転筋結節は、膝内側の隆起を直接探すより、膝関節裂隙から大腿骨内側上顆へ順にたどる方が位置を整理しやすくなります。大内転筋腱は、骨指標を確認した後の補助情報として使います。
準備する肢位
背臥位または椅子座位で、股関節と膝関節の力を抜いてもらいます。膝関節は、内側の骨指標を確認しやすく、対象者が無理なく保持できる軽度屈曲位とします。
衣服の上から一点を決めず、可能な範囲で大腿骨遠位内側から膝関節裂隙を直接確認します。疼痛、腫脹、皮膚障害、術創がある場合は、触診の必要性と圧の強さを先に判断してください。
触診の5ステップ
- 膝関節裂隙を確認する:大腿骨内側顆と脛骨内側顆の間を指腹で確認します。必要に応じて、痛みのない範囲で膝を軽く屈伸して骨の動きを照合します。
- 大腿骨内側顆をたどる:関節裂隙から近位へ指を移動し、丸みのある広い大腿骨内側顆を確認します。
- 大腿骨内側上顆を確認する:内側顆の近位側にある骨性隆起を指腹で捉えます。尖った一点だけでなく、周囲の骨面との境界を確認します。
- 内転筋結節へ移動する:内側上顆から大腿骨の長軸方向へ近位に移動し、小さな骨性隆起を探します。
- 大内転筋腱との関係を照合する:大腿内側を近位方向へたどり、索状に触れる腱性構造が内転筋結節方向へ続くかを確認します。
触診では、隆起を1点だけで決めないことが重要です。「関節裂隙より近位にある」「内側上顆より近位にある」「大内転筋腱の走行とつながる」という複数の情報を組み合わせます。
大内転筋腱は補助的に確認する
大内転筋腱の緊張変化は、内転筋結節の位置を確認する補助になります。ただし、大内転筋は複数の線維方向を持ち、股関節内転で触れる緊張がすべて内転筋結節へ続くとは限りません。
筋収縮だけで内転筋結節を確定せず、膝関節裂隙、内側顆、内側上顆との骨性の位置関係を優先してください。
内転筋結節と内側上顆・腓腹筋結節を見分ける
内転筋結節と混同しやすいのは、大腿骨内側顆、内側上顆、腓腹筋結節です。いずれも大腿骨遠位内側にありますが、骨面の広さ、前後方向、近位・遠位の位置が異なります。
| ランドマーク | 主な位置 | 形状の捉え方 | 触診での確認点 |
|---|---|---|---|
| 内転筋結節 | 大腿骨内側上顆の近位側 | 比較的小さな隆起 | 大内転筋腱との連続を照合する |
| 大腿骨内側顆 | 膝関節裂隙の近位 | 丸みのある広い骨領域 | 一点ではなく関節面を含む広い範囲として捉える |
| 大腿骨内側上顆 | 内側顆の近位側 | 膝内側で比較的確認しやすい隆起 | 内転筋結節より遠位にある |
| 腓腹筋結節 | 内転筋結節より後方・やや遠位 | 形状や明瞭さに個人差のある隆起 | 後方の隆起を内転筋結節と決めつけない |
| 膝関節裂隙 | 大腿骨内側顆と脛骨内側顆の間 | 骨ではなく関節の間隙 | 膝を軽く屈伸して大腿骨側と脛骨側を分ける |
大腿骨内側顆との違い
大腿骨内側顆は、膝関節を構成する丸みのある広い骨領域です。内転筋結節は、その近位側にある小さな隆起です。
内側顆を一点の骨指標として探すのではなく、膝関節裂隙に接する広い骨面として確認すると、内転筋結節との違いを整理しやすくなります。
大腿骨内側上顆との違い
大腿骨内側上顆は、内側顆の近位にある骨性隆起です。内転筋結節は、内側上顆よりさらに近位側に位置します。
臨床では、最初に触れた大きな隆起を内転筋結節と判断せず、内側上顆を起点に近位へ移動してください。内側上顆と内転筋結節の間隔や突出の程度には個人差があります。
腓腹筋結節との違い
腓腹筋結節は、内転筋結節より後方かつやや遠位に位置する骨性隆起として報告されています。内側腓腹筋腱の付着部と関連しますが、形状や触れやすさには個人差があります。
膝内側後方で触れた隆起を内転筋結節と判断すると、腓腹筋結節を取り違える可能性があります。前後方向を確認し、大内転筋腱と内側腓腹筋の位置関係を分けて考えます。
膝関節裂隙との違い
膝関節裂隙は、大腿骨と脛骨の間にあります。内転筋結節は大腿骨側にあり、関節裂隙からみると明らかに近位です。
触れている場所が大腿骨側か脛骨側か分からない場合は、痛みのない範囲で膝を軽く屈伸し、大腿骨と脛骨の相対的な動きを確認します。
内転筋結節を触診する臨床上の目的
内転筋結節の触診は、それだけで疾患や原因組織を診断するための手技ではありません。膝内側の位置関係を整理し、評価部位や症状の場所を再現可能な形で共有するために使います。
- 大腿骨遠位内側の骨性ランドマークを確認する
- 大内転筋腱の遠位付着部を推定する
- 膝内側の圧痛部位を骨指標との関係で記録する
- 内側上顆や腓腹筋結節との位置を区別する
- 画像所見や術後情報と身体所見を照合する
内転筋結節は、人工膝関節再置換術などで関節裂隙の位置を推定する骨指標として研究されています。ただし、これらは主に画像計測や手術中の評価を対象とした知見です。研究で示された比率や距離を、そのまま体表触診の固定基準として扱うことはできません。
また、「内転筋結節付近に圧痛がある」という所見だけでは、大内転筋腱の障害、内側側副靱帯損傷、関節内病変などを区別できません。疼痛の発症経過、再現動作、関節可動域、腫脹、筋力、歩行や荷重時の症状と統合して解釈します。
触れにくい場合は強く押し込まない
内転筋結節は小さく、皮下組織、筋緊張、腫脹、骨形状の個人差によって触れやすさが異なります。位置が分からないときに圧を強くしても、同定の精度が上がるとは限りません。
触れにくい場合は、圧を強める前に、体位、膝関節裂隙、内側上顆、大内転筋腱、反対側との位置関係を確認し直します。それでも明確でない場合は、「触知困難」と記録し、無理に一点へ決めないことが大切です。
以下の場合は、通常の触診をそのまま実施せず、必要性と安全性を確認します。
- 骨折・脱臼などの急性外傷が疑われる
- 術後で接触や関節運動に制限がある
- 著明な腫脹、熱感、発赤がある
- 創部、皮膚損傷、感染が疑われる部位がある
- 強い安静時痛や急激な症状変化がある
- 軽い接触でも強い疼痛や防御性収縮が生じる
触診中に痛みが増悪した場合は圧迫を中止し、症状の部位と誘発条件を確認します。疼痛を再現すること自体を目的に、繰り返し強く圧迫しないでください。
内転筋結節の触診で起こりやすい間違い
膝内側で最初に触れた隆起を内転筋結節と判断する
膝内側で触れやすい大きな隆起は、大腿骨内側上顆である可能性があります。内転筋結節は、その近位側に位置する小さな隆起です。
膝関節裂隙を確認せずに探し始める
起点がないまま小さな隆起を探すと、内側上顆や腓腹筋結節との位置関係が曖昧になります。まず膝関節裂隙で大腿骨側と脛骨側を分けます。
後方の隆起を内転筋結節と決めつける
内転筋結節の後方・やや遠位には、腓腹筋結節が存在する場合があります。前後方向と付着する腱性構造を確認せず、骨の突出だけで判断しないでください。
大内転筋の収縮だけで位置を決める
股関節内転では複数の内転筋が活動します。触れた緊張が大内転筋腱であるとは限らないため、筋収縮は骨性ランドマークを確認した後の補助情報として使います。
触れないときに指先で深く押し込む
指先で一点を強く押すと、対象者の疼痛や防御性収縮が強まり、かえって骨面を確認しにくくなります。指腹で広く触れ、周囲から位置関係を作ります。
圧痛だけで原因組織を決める
圧痛は症状の局在を示す情報ですが、特定の腱・靱帯・関節病変を確定する所見ではありません。問診、動作、関節所見、筋力、必要な画像情報と統合します。
記録は骨指標と触診条件を残す
「膝内側に圧痛あり」だけでは、再評価時に同じ場所を確認できません。内転筋結節、内側上顆、膝関節裂隙など、再現可能な骨指標との位置関係を記録します。
| 項目 | 記録する内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 側 | 右・左 | 右膝 |
| 肢位 | 背臥位、座位、膝角度など | 背臥位、膝軽度屈曲位 |
| 確認方法 | 触診の起点と順序 | 関節裂隙から内側上顆を経て確認 |
| 部位 | 骨指標との位置関係 | 右内転筋結節直上 |
| 所見 | 圧痛、腫脹、熱感など | 軽度圧で限局性圧痛あり |
| 再現条件 | 動作、荷重、筋収縮との関係 | 股関節内転抵抗時に同部位の疼痛あり |
| 触知の確実性 | 明瞭、不明瞭、触知困難 | 腫脹のため境界不明瞭 |
記録例は次のようになります。
右膝、背臥位・膝軽度屈曲位。内側関節裂隙から大腿骨内側顆、内側上顆をたどり、その近位に内転筋結節を確認。軽度圧で限局性圧痛あり。腫脹・熱感なし。圧痛所見のみで原因組織は確定せず、荷重動作と股関節内転時の症状を追加評価する。
明確に触れなかった場合は、推測した位置を確定所見として書かず、「内側上顆は確認可能、内転筋結節は境界不明瞭」のように、確認できた範囲を分けて記録します。
内転筋結節についてよくある質問
内転筋結節と大腿骨内側上顆は同じですか?
同じではありません。内側上顆は大腿骨遠位内側の比較的大きな骨性隆起で、内転筋結節はその近位側にある小さな隆起です。触診では内側上顆を起点に近位へたどります。
内転筋結節には何が付着しますか?
大内転筋の遠位にある腱性部が付着します。ただし、大内転筋は大腿骨粗線などにも広く付着しており、筋全体が内転筋結節の一点だけへ付着するわけではありません。
内転筋結節と腓腹筋結節はどう見分けますか?
腓腹筋結節は、内転筋結節より後方かつやや遠位に位置する骨性隆起として報告されています。内転筋結節は大内転筋腱、腓腹筋結節は内側腓腹筋腱との位置関係を照合します。突出の程度には個人差があるため、隆起の大きさだけでは判断しません。
内転筋結節は誰でも明確に触れますか?
骨性ランドマークとして確認できますが、骨形状、皮下組織、筋緊張、疼痛、腫脹などによって触れやすさは異なります。明確でない場合は強く押し込まず、反対側や周囲の骨指標と比較します。
内転筋結節の圧痛で疾患を診断できますか?
圧痛だけでは診断できません。圧痛は症状の場所を示す情報の一つです。発症経過、疼痛を再現する動作、関節所見、筋力、腫脹、必要な画像所見と組み合わせて判断します。
まとめ
内転筋結節は、大腿骨遠位内側にあり、大腿骨内側上顆の近位側に位置する小さな骨性隆起です。大内転筋の腱性部が付着し、膝内側の位置関係を整理する骨指標になります。
- 内転筋結節は大腿骨にある
- 膝関節裂隙と大腿骨内側上顆より近位にある
- 触診は関節裂隙から内側顆、内側上顆、内転筋結節の順に進める
- 大内転筋腱との連続は補助情報として使う
- 後方の腓腹筋結節と取り違えない
- 触れにくい場合は強く押し込まず、触知困難と記録する
- 圧痛だけで原因組織や疾患を断定しない
触診結果は、骨指標、肢位、圧の強さ、触知の確実性、症状の再現条件まで残すと、再評価や多職種間で共有しやすくなります。膝以外の骨指標も含めて確認する場合は、解剖ランドマーク辞典を活用してください。
参考文献
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著者情報
この記事は、脳卒中認定理学療法士、褥瘡・創傷ケア認定理学療法士、登録理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士の資格を持つ現役理学療法士が、解剖学的研究と臨床での触診・評価経験をもとに作成しています。
解剖学的な位置関係や触診所見だけで、個別患者の疾患や疼痛原因を診断することはできません。急性外傷、強い疼痛、著明な腫脹、熱感、急激な症状変化などがある場合は、医師の診察や必要な検査につなげてください。

