心不全・ COPD の ADL 評価| NYHA・ mMRC・ SAS・ 6 MWT の使い分け

評価
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心不全・呼吸器の「症状 × ADL」評価| NYHA・ mMRC・ SAS・ 6 MWT を 1 枚の設計図に

結論:心不全や COPD の ADL は、介助量( BI / FIM )だけでは読み切れません。症状( NYHA / mMRC )+ 症状が出る強度( SAS )+ 実動作の耐容能( 6 MWT + Borg )を同じ枠でそろえると、「できる/できない」ではなく続けられる生活としてゴール設計しやすくなります。

本ページは、病棟・外来・心肺リハの現場で“迷いどころ”になりやすいポイント(点数は高いのに生活が伸びない/主観評価がブレる/運動量の落とし込みが曖昧)を、5 分ミニプロトコル → 典型シナリオ → 目標設計の順で整理します。

評価は「順番」を固定すると、共有と再評価が一気に安定します。 評価 → 介入 → 再評価の型を 3 分で復習する( PT 実務ガイド)

なぜ「症状を加味した ADL」が必要か

心不全や COPD をはじめとする呼吸器疾患・心疾患では、同じ ADL が「できる」人でも、息切れ・胸部不快・動悸などの症状負荷が大きく異なります。BI や FIM の点数だけを見て自立に見えても、「入浴は週 1 回しかできない」「階段は症状が気になって避けている」ような “生活が細る” 状態は珍しくありません。

ここで必要なのは、介助量だけでなく、症状が出る条件実動作の耐容能を同じ枠で見て、生活の優先順位とゴールを決めることです。評価を“結果の報告”で終わらせず、次の一手(どの ADL を、どの強度で、どう増やすか)に変換するための設計図が「症状 × ADL」評価です。

評価ツールのラインナップと役割(何を測っている?)

  • NYHA:日常活動での自覚症状から、心不全の機能的重症度を 4 段階で分類
  • mMRC:日常生活場面での息切れ重症度を 0–4 で評価(呼吸器疾患全般)
  • SAS( Specific Activity Scale ):日常活動の METs と症状出現を照合し、不可になった最小 METs で活動能力を推定
  • 6 MWT:6 分間歩行で機能的運動耐容能を定量(距離)し、Borg で労作時の息切れ・脚疲労を併記
「症状 × ADL」評価での役割分担(最短で迷いを減らす並べ方)
ツール 主に見るもの 強み ブレやすい点
NYHA / mMRC 症状の重さ(生活場面の自覚) 速い/共有しやすい 場面の想起が曖昧だと評価者間差が出やすい
SAS 症状が出る強度( METs 閾値 ) 運動処方・活動指導に直結 問診スクリプトがないと再現性が下がる
6 MWT + Borg 実動作の耐容能(距離)+ 自覚負荷 客観性が高い/経時変化を追いやすい コース条件や声かけで結果が揺れやすい
BI / FIM 介助量(できる/要介助の程度) 退院支援・介護負担の説明に強い “できるけど苦しい” を拾いにくい

5 分で回すミニプロトコル(病棟/外来の入口)

「まず全体像をそろえる」ための最短手順です。施設で使うなら、この順番を固定するだけで記録と共有が整います。

  1. BI(または FIM )で介助量を確認(入浴・階段・歩行など、生活の要所だけで可)
  2. NYHA(呼吸器疾患では mMRC )で症状の層別化(“どの場面で” を具体化)
  3. SASで症状出現 METs を推定(最小 METs を 1 つ決めて記録)
  4. 6 MWT(標準プロトコル)+ Borgで実動作の耐容能を確認
  5. 介助量 × 症状 × 耐容能の 3 軸で、ADL ゴールと在宅像を 1 行で要約

この 3 軸がそろうと、「BI は高値だが 3–4 METs で息切れ」「NYHA は Ⅱ だが 6 MWD が低い」といった齟齬を言語化できます。齟齬こそが、介入の優先順位(ペーシング/動作分割/運動量の設計/環境調整)に直結します。

解釈のコア(点数を“次の一手”に変換する)

解釈のポイントは 1 つだけです。介助量が同じでも、症状と耐容能が違えば「続けられる生活」は変わるという前提を共有することです。

典型シナリオで読む「症状 × ADL」
所見の組み合わせ(例) 読み取り(要約) 最初の介入の方向性
BI 高値/ NYHA Ⅱ / SAS 3–4 METs/ 6 MWD 250–350 m 介助は不要だが、中等度以上の活動で症状が前面に出る 家事・入浴の分割、休息の挿入、ペース配分を先に整える
FIM 自立/ mMRC 2–3/ 6 MWT 終了時 Borg ≥ 5 頑張りすぎで負荷が上振れしやすい(不安・呼吸パターンの影響を含む) 呼吸訓練、主観負荷の合わせ方、段階化(速さより“続け方”)
NYHA Ⅲ / SAS 2–3 METs/ 6 MWD < 200 m 症状と耐容能の両面から ADL が制限されている 低強度からの漸増、日中動線の再設計、休息タイミングの固定

目標設定:活動量と「許容範囲」のデザイン

ゴール設計は、症状が出る強度( METs )と、実動作の耐容能( 6 MWD と Borg )を基準に「増やし方」を決めます。短期は症状が出る METs の閾値を 0.5–1 METs 上げる、中期は週あたりの活動量( Ex )を段階的に増やす、が分かりやすい目安です。

運動強度は “話しながら続けられる” 程度を基準にしつつ、日内変動や前日の疲労で調整します。悪化サインが出たときは、いったん量を落として戻すというルールを先に共有しておくと、本人の自己調整がしやすくなります。

現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 直し方)

「症状 × ADL」評価が回らない原因と対策
よくある失敗 なぜ起きる? 対策(記録ポイント)
NYHA / mMRC が人によってブレる “どの場面” を具体化せず、曖昧な想起で答えている 距離・段数・作業時間など、生活の具体例で同じ場面を想起させる
SAS が毎回違う METs になる 問診の順番・言い回しが固定されていない 施設で活動例を固定し、「不可になった最小 METs」を 1 行で記録
6 MWT の結果が揺れる コース条件・声かけ・練習回数が一定でない コース長と声かけを固定し、必要なら 2 回目の値も併記して比較
BI / FIM は高いのに生活が伸びない 介助量だけで“自立”と判断し、症状負荷を設計に入れていない 「息切れが出る場面」を 2 つだけ特定し、分割・休息・ペース配分を先に整える

関連:面談準備チェック(A4)と職場評価シート(A4)をまとめて使えるページは こちら に置いています(見学前の整理用)。

SAS(身体活動能力指数)のクイック参照( METs の目安)

SAS は「健康な同年代と同じペースでその活動ができるか」を問診し、不可になった最小 METs を記録します。現場で迷いにくいように、よく使う活動例を先に決めておくのがおすすめです。

SAS で使いやすい活動例(施設で“例”を固定すると再現性が上がる)
活動例 目安 METs 問診のコツ
トイレ歩行/室内歩行 2 METs 前後 距離(例:病棟 1 往復)と休息の有無をセットで確認
普通歩行(屋内〜近所) 3–4 METs 速さ(ゆっくり/普通)と坂・荷物の有無をそろえる
入浴(洗体・洗髪まで) 4–5 METs 浴室までの移動・脱衣も含めて「一連」で想起させる
階段( 2 階分 ) 5–6 METs 段数(何段)と途中休憩の有無を固定して聞く

疾患別 ADL スケールとの位置づけ(いつ追加する?)

COPD や慢性呼吸不全では、息切れによる ADL 制限に特化した質問票(例: ADL-D )や、拡大 ADL(例: NEADL、FAI )なども選択肢になります。これらは、症状や QOL をより詳しく追う際に有用です。

ただし、日常の実務ではBI / FIM に、NYHA・ mMRC・ SAS・ 6 MWT を掛け合わせるだけでも、退院支援や在宅生活の実現性を判断するうえで十分な情報が揃います。まずは本ページの枠で “読める状態” を作り、必要に応じて疾患別尺度を追加していくのが現実的です。

症状 × ADL 評価シート(A4)

本ページの要点を 1 枚にまとめた「症状 × ADL 評価シート(A4)」を用意しています。BI / FIM の要点、NYHA・ mMRC、SAS、6 MWT のキーメモを 1 シートで確認できる構成です。病棟カンファレンスや退院調整カンファでの共有にも使いやすくなります。

症状 × ADL 評価シート(A4)を開く

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

NYHA と mMRC は両方やるべきですか?

心不全を主に扱うなら NYHA、呼吸器疾患なら mMRC を軸にします。ただし併存(心不全+ COPD など)があると、どちらか一方だけでは解釈が粗くなることがあります。入口は片方で層別化し、必要に応じてもう片方で補足すると、チームでの説明が揃いやすくなります。

SAS の問診がうまく進まず、毎回 METs が変わります。

活動例の想起が患者さんによって変わるのが主因です。施設で「よく使う活動例(距離・段数・作業時間)」を 3–5 個だけ固定し、その中で「不可になった最小 METs」を決めて記録すると再現性が上がります。

BI / FIM は高いのに、生活が伸びません。

“できる” と “続けられる” の間に、症状負荷が挟まっていることがあります。NYHA / mMRC で「息切れが出る場面」を 2 つだけ特定し、SAS( METs )と 6 MWT( Borg )で条件をそろえると、分割・休息・ペース配分のどこを優先するかが決めやすくなります。

6 MWT が実施できないとき、何を残せばいいですか?

急性期や環境要因で 6 MWT が難しい場合は、まずは NYHA / mMRC と SAS で「症状の層」と「症状が出る強度( METs )」をそろえ、BI / FIM と合わせて 3 軸を作ります。歩行を客観化できる状況になったら、6 MWT を追加して耐容能を上書きしていく流れが運用しやすいです。

次の一手(関連ページ)

参考文献

  1. Goldman L, Hashimoto B, Cook EF, Loscalzo A. Comparative reproducibility and validity of systems for assessing cardiovascular functional class: advantages of a new specific activity scale. Circulation. 1981;64(6):1227-1234. doi: 10.1161/01.CIR.64.6.1227 / PubMed: 7296795
  2. Yap J, Lim FY, Gao F. Correlation of the New York Heart Association Classification and the 6-Minute Walk Distance: A Systematic Review. Clin Cardiol. 2015;38(10). doi: 10.1002/clc.22468 / PubMed: 26442458
  3. Myhre PL, Berge K, Ørn S, et al. Changes in 6-min walk test is an independent predictor of death in chronic heart failure with reduced ejection fraction. Eur J Heart Fail. 2024. doi: 10.1002/ejhf.3391 / PubMed: 39058228
  4. Hlatky MA, Boineau RE, Higginbotham MB, et al. A brief self-administered questionnaire to determine functional capacity (the Duke Activity Status Index). Am J Cardiol. 1989;64(10):651-654. doi: 10.1016/0002-9149(89)90496-7 / PubMed: 2782256
  5. 日本循環器学会. 心筋症診療ガイドライン 2018( SAS の表を含む). PDF
  6. 三重県. 身体活動能力質問表( SAS )資料. PDF
  7. American Thoracic Society. Dyspnea instruments( mMRC など). Web

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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